最期に見た夢 ◆7.egbPFHBY



たゆたう水の流れの中に強い意志の力を宿し、小津麗はマスク越しに眼前の敵を睨みすえる。
鮮やかな蒼に彩られたスーツに身を包み、麗は水色の魔法使い―マジブルーとしての自分を解き放った。
「なぁ~るほどねぇ~…てめぇも“変身”するわけだ…」
対峙する黒い甲冑の男―<クエスター・ガイ>は僅かに唇を歪め余裕の表情で彼女と向き合った。
両者の視線が僅かに交錯する。沈黙が生れる。お互いが一歩も動かない硬直状態。
それを破ったのは戦いの本能に突き動かされたアシュだった。
グレイブラスターの照準にマジブルーを捉え、躊躇うことなく引き金を引く。
―だが。
「なんじゃこりゃ!?」
引き金を引いても銃は何の反応も示さない。引き金の乾いた音が鳴り響くだけだ。
男の動揺を見逃さず一瞬の隙を突いてマジブルーが叫ぶ。

「ジー・マジカ!」

突き出したスティックから水の柱がガイを襲う。
魔法により生成される水は物質としての物理法則に支配されない。
ゆえにその勢いは閃光のように早く鋭く、一本の矢のごとく対象へ襲い掛かる。
「グハァツ!!」
自らの中枢器官であるゴードムエンジンを咄嗟に交差した腕で庇ったものの、水流の凄まじさに
ガイは背後へ吹き飛ばされた。木々をなぎ倒し、地面へと無様に突っ込む。
「…わたしと貴方が戦う理由なんてないわ。わたしはあの子が心配なの!
あなたみたいに殺し合いを楽しんでいる連中が他にもいてあの子を狙うかもしれない。
ここは見逃すから、私たちのことはかまわないで!!」
マジスティックを構えたまま、麗は叫んだ。
もしも再び立ち上がってくるようなら今度こそこの男を殺さねばならないだろう。
それは出来れば避けたかった。

「なぁ~るほどねぇ…能力には制限があるのかぁ~~~…ロンとかいう野郎、俺たちに教えてないルールがまだまだあるってことかね~…むかつくぜぇ~~!」

ぶっ倒れたままの格好で独り言のようにガイは呟いた。
まるで麗の言葉が聞こえていないかのように。
ゆらり、と幽鬼のようにガイは立ち上がってきた。
クエスターの武器に弾切れもジャムもありえない。それでも武器が使えないのはなんらかの外的要因により、その性能が制限されているからだ。
恐らくは首につけられたこの枷の影響だろう。同じく今はアシュとしての術も使えないはずだ。
右腕の装甲は今の攻撃で粉々にくだけてしまっている。
しかし、彼はそんなことをまるで気に留めていなかった。
戦いはアシュの本能だからだ。
「くっ! ジー・マジカ!!」
再び攻撃魔法を唱え今度は小規模な津波を発生させる。
攻撃よりも押し流すことを麗は選択した。近づきたくない、というのが理由だった。
「しつこいんだよぉ!」
ガイは機能不全に陥った二丁の拳銃を投げ捨て、素早く支給品のクエイクハンマーを取り出した。
やおら金剛力をふるってハンマーを地面へ振り下ろす。
「ウォラァッ!!」
地響きを引き起こすほどの力場を発生させるツールの性能を引き出し、襲い掛かる水の柱を真っ二つに引き裂く。
左右になぎ倒される水の障壁を破り、その先で驚愕する麗とバイザー越しに視線が交わった。
「――!!」
刹那、その人間を大きく上回る獣の敏捷性でガイがマジブルーへと肉薄する。
「ジ・ジーマ…―」
慌てて回避のための呪文を唱えようとスティックをかざす。しかし。
「遅いんだよぉ!!」
砕けた腕でマジブルーの喉笛を締め上げ、空中へ持ち上げる。
そのまま急直下で地面へとしたたかに叩きつけた。
次いで逃れられぬようにその首を足蹴にし、何度も何度も踏みつける。
「か・ハぁ―…」
魔法は通常、呪文の詠唱により機能する。呼吸の制限を受けた状態では魔法は起動しない。
「どうした! どうしたぁ!?さっきみてぇにでっけー水柱を出してみろよ!!」
嬲ることに快感を覚えるアシュの本性をさらけ出し、ガイは高らかに叫んだ。
相手を恐怖と暴力で支配し、破壊する。それこそがアシュの本能だ。
『マー…ジ…」
しかし。時として人は恐怖を乗り越える力を発揮する。
しばしば発揮されるその強い意思の発露は“勇気”と呼ばれた。
魔法は勇気の具現だ。この極限状況にあって尚、麗が想うのは家族のこと。
「……マジ…―…マジ……―」
そして、一人無力なまま走り去った少年のことだった。
「そろそろ止めといくかぁ?」
全ての能力を封殺されてもガイにはその身に生来備わった悪魔の身体能力がある。
個人の運動能力は制限に値しない。
このままマジブルーの首の骨を力任せにへし折れば戦いは終わる。
「…マ・ジー…ロォ!!」
まばゆい閃光が辺りの景色を極彩色に染め上げる。
「な・なんだぁ!?」
網膜に再び光を取り戻したとき、そこに立っていたのは先ほどまでのマジブルーではなかった。

原始の魔法により、その身をさらに昇華させたレジェンドフォームへと変貌を遂げたマジブルーの姿だった。
その手には古代のマージフォン<ダイヤルロッド>が握られている。
威風堂々たる風格は先ほどまでとは別次元の強さを備えていることを如実に指し示していた。

「…生意気なんだよォ!」
獣の猛々しさで襲い掛かるガイの姿は人間に無意識での恐怖を与え硬直させる。
しかし。レジェンドマジブルーは全くそれを意に介さずに魔法聖杖を構え、叫ぶ。

「マジ・マジ・ゴジカ!」


獅子の意匠を持つ杖が光り輝き、水流を螺旋状に練成した衝角が敵を四方から襲う。
まるで衝角の一本一本が意思を持つ龍が如く、黒い獣を貫いた。
「ゲハァッ!…こ・これは!?」
全身の装甲を穿たれ、砕かれ、盛大に破片をばら撒きながらガイの身体は宙を舞った。
既に手負いの状態でガイに次の攻撃をよけきる体力は残されていない。
ガイは知らなかったが、目の前の相手もまた異能の力を持つ種族と人間との混血であったのだ。

怒りの鬼神は息も絶え絶えに泥水にまみれて自由の効かない身体を震わせていた。
ゴードムエンジンがガイの生命力の減退を反映し、その勢いを弱めていく。
既に風前の灯のガイを見下ろし、レジェンドマジブルーはその最後の審判を下さんと
聖なる杖を高々と頭上に掲げた。

「マージ・ゴル…―」

その時だった。
長きに渡り監視者の追撃をかわし肉体が滅びて尚、人に災いをもたらす悪の権化に三度、悪徳の女神が微笑んだのは。
今にも冷酷な判決を下さんとしていたレジェンドマジブルーの身体が粒子に包まれ、その身を
消失させたのだ。
「え…?」
腕にはダイヤルロッドを握った感覚が残ったまま。麗は青いジャケット姿へとその姿を還元されていた。
麗の戸惑いの表情に、今にも消えかけていたガイの瞳に金色の輝きが蘇り刹那の内に熾烈な死闘の幕は下りた。
「…時間切れだぜぇ…―ざぁ~んねんでしたぁ!!!」
麗は自らの身に何が起こったか、しばらく理解できないでいた。
深々と胸を刺し貫くガイの右腕が次第に逃れようのない現実を突きつける。酷く、残酷な真実を。
「え…? ア…アァ……う…嘘……―」
噴水のように噴出す鮮血がガイの傷ついた装甲に浴びせかけられていく。
勝利の歓喜に打ち震えながら、ガイは右腕を引き抜いた。
麗の身体が力なく崩れ去る。そして、自らの鮮血が生んだ血の池へとその身を沈めていった。

光を失った瞳に自らを祝福する兄や姉、弟たちの姿がよぎる。
暖かく柔らかなまなざしで見つめる両親。その大きな目を潤ませ微笑むランプの精。
そして―
「ヒカル…せん…せい…-―」
愛する者の顔だけが浮かばない。
「どう…して…思い出せないよぉ…―」
逆光の恋人は笑っているのか、悲しんでいるのか。それすら今の麗にはつかめない。
全て儚い幻と化して消えていく。
そして、全てが暗闇に閉ざされた。




【名前】小津麗@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage47 結婚式の途中
[死亡場所]:B-4森林 1日目 黎明
[状態]:死亡。ガイの渾身の一撃に胸を貫かれ失血死。
[装備]:マージフォン@魔法戦隊マジレンジャー
[道具]:操獣刀@獣拳戦隊ゲキレンジャー 、何かの鍵、支給品一式
[末期の言葉]「どう…して…思い出せないよぉ…―」

【クエスター ガイ@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task.23以降
[現在地]:B-4森林 1日目 黎明
[状態]:全身に裂傷。かなりの重症のため時間制限に関わらず戦闘不能。要回復アイテム。
    ただし、精神的には高揚感あり。戦いを心底楽しんでいます。
[装備]:グレイブラスター@轟轟戦隊ボウケンジャー、釵一本@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[道具]:クエイクハンマー@忍風戦隊ハリケンジャー、支給品一式(麗のものは全て搾取済み)
[思考]
基本方針:ロンやボウケンジャーを倒すついでにゲームに乗る
第一行動方針:気に入らない奴を殺す。一人殺しました。
参考:1本目のペットボトルを半分消費しました。



【小津麗 死亡】
残り38名

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最終更新:2018年02月11日 08:48