少年は闇に踊る




悪夢だ。
つい昨日まで普段どおりの生活を送っていたのに。気がついたら訳の分からない殺し合いの場に身を置いている。
何が何だか分からない。常識では理解できないような出来事が立て続けに起こっていた。
目の前で人が死に、今も誰かが死んでいっているのかもしれない。
考えられない。考えたくもない。
漫画やゲームの中とは違う本当の死。身体が震える。
吐き気と頭痛を抑えられない。
…そして何よりも夢だと思いたかった。

僕、安達明日夢は下町の学校に通う高校生です。
極々普通の高校生だけど…ヒビキさんに出会ってから何かが変わってきました。
人々を守る為に戦い続けてきた鬼の存在。ヒビキさんは一見普通の人間にしか見えないのですが、
その正体は響鬼。猛士という組織の元で戦う鬼だったのです。
法事で行った屋久島でヒビキさんとは出会いました。
強くて優しくて頼れるヒビキさんは僕の憧れであり、目標でもあります。

でも、ヒビキさんでも今の状況は打破出来ないようです。
何度頭の中でヒビキさんを呼んでも来てくれない。
何度「助けて!」と願っても来てはくれない。

僕の中で何かが変わりました。

僕はヒビキさんのように戦う力なんて無い。
でも生きて帰る為には戦わなければならないこと。立ち上がらなければならないこと。
ヒビキさんの言っていた強さの意味、分かった気がします。
そしてあの男が言った言葉。
「全員皆殺しにしろ」
そう。あらゆる手段を使ってでも生き残らなければならない。
そうしなければ僕が助かる術なんて無いから。
―…皆、殺す。
僕を助けてくれなかったヒビキさんだって…殺す。

バッグの中には拳銃が入っていた。手に伝わってくる鉛の感触。
間違いなく本物だろう。
勿論、使ったことなんて無いし触るのだって初めてだ。正直巧く扱える自信も無い。
でも贅沢なんて言ってられない。これは撃てば相手に致命的なダメージを与えることが出来る武器だ。
上手く狙えれば簡単に人を殺めることが出来るだろう。
特別な力を持たない自分にはこれ以上無いぐらいのアタリ。
僕の殺意を高揚させるのに充分だ。グリップを握りなおし、改めて決意が固まる。

他にも名簿やコンパス、食料に水、そして見慣れない物が入っていた。
なんだこれ。レバー?
色々と試してみたが何も起こらなかった。使い方が分からない以上は仕方ない。
取り敢えず戻しておいた。

よし、荷物の確認も済んだ。目先の行き先として、地図に有った市街地を目指すことにする。
何か使える物が有るかもしれない。

これが1時間前。
今、僕は一人の女の人と共に居る。名前は岬ユリ子さん。
住宅地を目指す間の茂みで偶然出遭った。
不安そうにする僕を必死に勇気付けようとする典型的なお節介人間だ。
ある意味ではヒビキさんに近い人なのかもしれない。
―…でも殺す。

ある時、岬さんは一人の男について語った。
名前を城茂。
勇敢で頼もしい正義のヒーローなんだそうだ。
彼ならこの状況を何とかしてくれると、心からそう願うような顔で告げる。
何とも可笑しな話だった。
だった彼女は死ぬのだ。僕に、城茂と合流する前に。
あと幾らかの時が経てば彼女は死ぬ。ヒーローが登場する前に。
そう思うと哀れで仕方なかった。いや、滑稽と形容すべきか。

「茂と合流するまで何とかやり過ごしましょう。きっと茂は助けに来てくれるわ。」
もうそろそろ終りにしたかった。
彼女の話も聞き飽きた。こういうタイプの人間なら幾らでも手は有る。
そう、ましてやこんな状況なら尚更だ。
もっとも簡単に、そして確実に殺す方法。
それは…
「み、岬さん!あそこに今誰かが…!!」
慌てて茂みの向こうを指差す。勿論、何も居はしない。真っ赤な嘘。
しかし今の状況なら簡単に騙す事が出来る。
常に誰かから狙われていてもおかしくないのだから。
予想通り、いとも簡単に岬さんは騙されてくれた。
慌てて何も居ない茂みの向こうに視線をやる。
「誰!?」
無防備に僕の方へ背中を向けてきた。
外さない。
辺りを見回している岬さんの後頭部に照準を合わせる。
―…手が汗ばんでいるのに気が付いた。
緊張と慣れない感覚に震える。
やがて指を指した先に何も居ないと判断した岬さんが此方を向こうとした。

「明日夢君、何も居な パンッ
側頭部に弾丸は撃ち込まれた。そして岬ユリ子であった物体が、そのまま垂直に倒れこんだ。
血溜まりが辺りに広がり、地面の土が吸っていく。
乾いた音が耳に残っている。
死んだ。
息が荒い。

殺してしまった。僕が、この手で。
何故か不思議と笑みが浮かんでくる。
越えた。大きな一歩で元の世界を。
もう戻れはしない。僕はたった今から殺人者になったのだから。
ふと気が付き慌てて岬さんの荷物に手を掛ける。
今の銃声を聞いて誰かが来るかもしれない。
急いで此処から離れなければ。
二つのバッグを肩に掛け踵を返して目的地であった市街地を目指すことにする。
そして勢い良く振り返った先に居たのは…


「どこへ行く?」
見知らぬ男が立っていた。
致命的なミス。―…見られた!
いや、或いは銃声を聞きつけて来たのかもしれない。
だが今は考えてる暇は無い。何とかこの場をやり過ごさねば…!
「あ、あの」
「お前と問答をする暇は無い。アンデット―…俺はお前を許さん!」
岬さんの死体に一度視線をやった後に此方を強く睨み付けてきた。
どうやら言い訳は聞かないらしい。だが聞きなれない言葉が耳に飛び込んできた。
アンデット?
何の事かは分からないが、僕をそう思っているらしい。
兎も角、此方の言い分を聞く気が無いなら仕方ない。
右手に握られていた銃を相手に向けて真っ直ぐ構える。
間髪入れずに撃つ!
しかし予想とは裏腹に僕の手から銃が零れ落ちた。
激痛と共に。
男は何か投げたようだった。石…?
「そんな動きは簡単に見切れる。舐めるな!!」
どうやら本当に石を投げたようだった。男の手には複数の石が握られている。
まさか、そんな馬鹿な!
銃は足元に転がっているが取る前に再度石が放たれるだろう。
痛い、痛い、痛い!糞!糞!!糞ッ!!!
打つ手無し。―…ならば、
「誰か助けて!誰か!!」
そう力一杯叫びながら駆け出した。
僕にはこうするしか手は残ってないのだから。
上手く逃げれるだろうか。いや、今は何も考えずに走りぬく!
絶対に逃げる。今は体制を立て直して…
「―…変身」
微かに聞こえた。変身?
―…まさか!
後ろを振り向く。しかし何も居ない。
聞き間違えか?いや、兎に角逃げられたのだから良しとしよう。
走るのを止めて安堵の笑みが滲んだ。
助かった。何とかなったみたいだ…。

「逃げられると思っているのか?」
「―…!!!」
思わず心臓が跳ね上がる。
気が付けば横に男は居た。しかしそれは先程の姿ではない。
―…鬼。ヒビキさんと同じ鬼。
普通じゃない反射神経、運動能力。
全てに合点がいった。
そして悟る。僕は殺される。
もはや逃げることは不可能だ。
死ぬ。
岬さんのように。
魂の抜けた、ただの安達明日夢だった物体に。
嫌だ!!

拍子抜けだった。この少年はアンデットでは無いのか?
一般人並の運動能力。そして無様に怯えている様。
一向に変身する気配が無い。
だが、殺した。
躊躇い無く名も知らぬ女性を。
最早アンデットであろうが、無かろうがどうでも良い。
剣崎も睦月も、この少年を信じるだろう。
あいつらはお人好しだから。きっと信じる。
だが俺はこれ以上悲劇が生まれるのを見たくは無い。
小夜子のように、もう誰かが死ぬのは見たくは無い!
大切な仲間達にも被害が及ぶなら…俺は容赦しない!!

トリガーに力が入る。許せ、少年。

しかし林の静寂を切り裂いたのは銃声ではなかった。
何者かの怒声。気が付けば少年の更に向こう側に姿があった。
「何してるんだ!子供相手にッ!!」
そう叫びながら全力で此方へ駆けてくる。
何者だ、こいつは!
「銃を降ろせ!自分が何をやってるのか分かってんのか!!」
「その子供は人を殺してるんだぞ!そこをどけ!!」
「ふざけるな!嘘を吐くならもっとマシな嘘を吐け!」
一人の男と一人の鬼。怒声交じりで口論を始めた。
都合の良い展開だ。これなら混乱に乗じて逃げられるかもしれない。


「大丈夫、絶対に助けるからな。」
そう耳元で囁かれた次の瞬間、男が何かを地面に叩き付けた。
一瞬にして辺りを煙幕が包む。煙球というやつだろうか。
戸惑っていた矢先に手を引っ張られ、駆け出していく。
やがて煙の無いところまで走り抜けると割って入った男の柔らかな笑顔が目に入った。
もう鬼の姿は無い。今度は本当に逃げ切れたようだった。

ラッキーだ。こうなればこの男を利用しつくして殺してやる。
女より役に立つだろう。今は何も持っていないし、状況を整理しなければ。


―…もう弟のような犠牲者は出したくない。

―…仲間を傷つける奴を許さない。

―…生きて帰りたい。

交錯する3つの思いを裏腹に一人の少年は笑う。
人間ってやっぱり面白いねー。
直ぐに皆殺しに出来るけど、暫くは様子を見させて貰うよ。
だって面白いんだもん。


【岬ユリ子 死亡】
残り50人



【安達明日夢@仮面ライダー響鬼】
【1日目 現時刻:深夜】
【現在地:市街地E-7】
[時間軸]:番組前期終了辺り。
[状態]:右手に痛み。小石だったので骨折には至らず。
[装備]:無し。
[道具]:ポケットに入れていたハイパーゼクター@仮面ライダーカブト のみ。
[思考・状況]
1:生きて帰る。
2:利用できる者は全て利用する。
3:例外無く全員皆殺し。

【加賀美新@仮面ライダーカブト】
【1日目 現時刻:深夜】
【現在地:市街地E-7】
[時間軸]:ハイパーゼクター登場辺り。
[状態]:健康。
[装備]:ガタックゼクター
[道具]:煙幕球、残り2個。
[思考・状況]
1:戦いを止める。
2:弟のような犠牲は出さない。
3:少年を守る。
4:天道達との合流。

【橘朔也@仮面ライダー剣】
【1日目 現時刻:深夜】
【現在地:樹海C-7】
[時間軸]:Jフォーム登場辺り。
[状態]:健康。煙幕に驚き。
[装備]:ギャレンバックル。
[道具]:Gトレーラーの鍵。
[思考・状況]
1:神崎を倒す。
2:剣崎達との合流。
3:仲間を傷つける奴を許さない。

キング@仮面ライダー剣】
【1日目 現時刻:深夜】
【現在地:樹海C-7エリアの木の上】
[時間軸]:キングフォーム登場時ぐらい。
[状態]:健康。
[装備]:無し。
[道具]:携帯電話。
[思考・状況]
1:戦いに勝つ。
2:橘、加賀美のどちらかを追う
3:今は戦うつもりは無い。
※キングは橘さんが明日夢に銃を向けている写真を撮りました。
※明日夢の荷物とユリ子の荷物、銃はB-8に放置されています。
※明日夢は橘さんを鬼と、橘さんは明日夢をアンデットと思っています。

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最終更新:2018年03月22日 23:47