縛られぬもの




「おおっ!な、なんだこりゃ!!」
神崎と呼ばれた男からデイパックを受け取った次の瞬間、光に包まれ重力を失う。
狼狽している内に光が晴れると、立花藤兵衛は夜の闇の中に降り立った。
「今のは瞬間移動か……そうだのんびりしてる場合じゃねぇ!」
すぐに気持ちを切り替え地図に名簿、支給武器を改める。
名簿には風見志郎や城茂といった戦友達の名前を確認できる。
そして死んだはずの仲間や敵の名前も――
「岬ユリ子だと?!ユリ子はドクターケイトとの戦いで死んだはずだ!!
それに滅んだはずのデストロンやデルザー軍団の奴までいるじゃないか?!」
岬ユリ子なら同姓同名の別人の可能性もあるが、
ヨロイ元帥やらジェネラルシャドウやらの同じ名前の者が他にいるとは考え難い。
「とりあえず名簿の事は置いとくか…っとこいつは支給武器だな」
デイパックの中から一振りの剣を取り出し、荷物をまとめて移動を開始する。
「丈二ならこの首輪を外せるかもしれないな
ようし、じっとしてたってしょうがないし町の方から捜してみるか」
藤兵衛に殺し合いに乗るつもりは無い。
この馬鹿げたゲームに参加させられた者を一人でも多く脱出させる為、
一刻も早く仲間と合流すべく、人が集まるであろう市街地に向かった。

藤兵衛は不意をつかれた様な気持ちになった。
出発してから2分程で誰かを見付けた事もあるが、それ以上にそいつが人間では無かった為だ。
(なんだあいつは?改造人間か?それとも奇械人か?)
その生物が人間のシルエットでありながら、全く異質な姿を持つ事から
藤兵衛はデストロンやブラックサタンの怪人を連想する。
生物の背後から、15m程離れた木の陰に隠れ様子を窺う。
肩からデイパックを下げ、片手に(支給武器と思われる)マシンガンを持っているが、何故か首輪をしていない。
(あいつは参加者じゃ無いのか?……人間じゃないみたいだし、あいつとは接触しないでおくか…)

カツン

(!!?)
突如足下に金属音が鳴り、そちらを見やる。
持っていた剣と足下の岩が接触している。どうやらぶつけたらしい。
(しまった……でも大した音じゃなかったし、この森の中じゃ気付かないだろ)
鬱蒼とした樹海の中、10m以上離れた背後の物音に気付くはずが無い、そう判断し再び生物の方を見やる。

生物は体ごとこちらを向いていた。

生物の腹部から藤兵衛が隠れていた木に向かって青白い光線が放たれ、火花を上げて爆発したのは
藤兵衛が斜め後ろの木陰に飛び込んだのとほぼ同時だった。
(冗談じゃねえ!あんなもんが直撃したら死んじまう!!)
生物がいるのと逆方向に駆け出すが藤兵衛のすぐ横で地面に小さな穴が幾つか開き、砂煙が舞う。
(あいつの持ってたマシンガンか………ぐはあっ!!!)
動きの止まった藤兵衛に、生物の右前腕部だけが飛来して打ち込まれる。
その場に蹲った藤兵衛と落とされた剣とデイパックを拾い上げた生物は、森の奥の方へと入っていった。
生物が最初に接触した地点から100m近く離れた所までくると、藤兵衛は乱暴に地面に投げ捨てられた。
蹲る藤兵衛の顔の前で、生物は剣で地面を削る。
(…こいつ字を書いてるのか……『名前は?』だと?…)
藤兵衛が答えあぐねていると、生物は剣で片耳を切り落とす。
「ぐわあぁぁぁぁぁ!!!」
絶叫する藤兵衛の口元を尻尾で押さえ、生物は地面に文章を書く。
『静かに 素早く質問に答えて。でないと君の体をバラバラにするよ』
「ぐぅ……た、立花藤兵衛だ」
声を落としてしかしはっきりとした発音で答えると生物は次の質問に移る。
『持っている荷物を全部教えて』

荷物は身に着けている衣服と、生物が持っている支給品が全てで他には何も隠していない事。
ゲーム開始から生物との接触以外、取り立てて何も無かった事。
神崎と呼ばれた男に関して何も知らない事。
このゲームの存在も知らなかった事、巻き込まれる覚えも無い事。
生物の矢継ぎ早の質問に藤兵衛は次々と答えていく。
『麻生勝=仮面ライダーZOを知ってる?』
「(仮面ライダーだと?!)知らん」
『参加者で他に誰か知ってる?』
僅かな沈黙の後、視線を落として答える。
「…知ってる奴はいない」
生物は器用に藤兵衛の片目の眼球だけを突く。
悲鳴も上げずに片目を押さえて蹲る藤兵衛を尻目に、生物は再び地面を削る。
『嘘や黙秘は駄目だよ。死にたくなければちゃんと質問に答えて』
藤兵衛はドクトルG、ヨロイ元帥、ジェネラルシャドウ、マシーン大元帥の4人について話した。
志郎や茂達から聞いた容姿や能力について、聞かれるままに詳しく説明する。
『そいつらとの関係は?』
「同じくデストロンやデルザー軍団に所属する仲間だ」
『この世界からの脱出や首輪を外す方法に 心当たりは?
それらに関係ありそうなら 技術 人物等 どんな些細な事でもいい』
「心当たりは無い」
『質問の答えに嘘や まだ喋ってない情報はある?』
「無い」 
残った方の耳も切り落とされる。自分の呻き声も聞こえない藤兵衛に同じ質問があびせられる。
『質問の答えに嘘や まだ喋ってない情報はある?』
(何されたって、こんな危ない奴に志郎や茂達の事を言う訳にいくか!)
「何度聞かれたって、無いものは無ぇんだ!!」
剣を振り上げた生物は、藤兵衛の体を縦に切り裂くようにそのまま振り下ろした。


ドラスは自分の武器で藤兵衛の死体を解体する。
理由は二つ。
一つ目は自身の武器の威力を確かめる為。
藤兵衛が持っていた剣は、ドラスの知る如何なる金属をもってしてもあり得ない切れ味示す。
自身に支給された武器であるマシンガンも同様に、威力、命中精度共に既存のそれとは比べ物にならない高性能。
ドラスは自身の持つ能力の一部が制限されている為、武器に頼らざるを得ない状況であると認識していた。
(マリキュレイザーや腕を飛ばす事は問題無く出来るけど、空中浮遊や体の形状を変化させる事は出来ないみたいだ)
只の人間であろう藤兵衛に対して、目立つのを承知で能力や武器を惜しみなく使ったのも
能力がどれほど制限されているかを試す実験を兼ねた為だった。
二つ目は首輪の入手。
死体からならば首輪を外せるだろうと見込んでいたが確証は無い。
しかし首輪ではなく死体の首の周辺を、原型を留めない程解体すればどうか
案の定首輪を入手する事が出来た。
ドラスに首輪を解除する知識は無いが
それが可能な者にサンプルとして譲渡もしくは交渉の道具。あるいは単に爆弾として。
首輪の使い道を考えながら、それをデイパックに入れる。
(他の参加者が解除方法を解析出来ても、結局その情報を元に自分の手で解除しなきゃいけないんだけどね)
ドラスの首輪は人間の首にあたる部分には無く
胴体内部のネオ生命体のコアと言える部分に巻かれている。
(神崎も僕の弱点を良く知っているよ、首を爆破したって僕が死ぬはず無いもの)
解除するには相当な大手術が必要、とても他の者を信頼して任せられない。
(もっとも首輪は保険の為に持っているだけで、基本的な行動方針は他の参加者の皆殺しだけどね)
藤兵衛とはうまく質疑出来たが、この先同じ様な質疑応答が出来るとは考え難い。
そもそも首輪の解除の可能性のある者が参加者に居るとは限らない。
(名簿に望月博士とあったけどパパは遺伝子工学が専門だから、首輪の事はあてにならないか)
ネオ生命体を作り上げながら、自分を生命維持装置プールに縛り付けた望月博士を思い出す。
だがおそらく生命維持装置プールは、もう自分には必要無いだろう。
でなければ神崎がこの戦いに参加させるはずが無い。

ならば後は自分を縛るものは首輪とこの異世界だけだ。

最終目的ははっきりしている。
完全なる自由を得て神になる。
それを阻むものは何であれ排除する。
望月博士だろうと、他の参加者だろうと、神崎だろうと―――たった一人の例外を除いて

(今度こそ吸収してあげるよ。だから待ってて…お兄ちゃん……)

ドラスは次なる獲物を求め、闇の中へ駆けていった。

【立花藤兵衛 死亡】
残り47人



【ドラス@仮面ライダーZO】
【1日目 現時刻:深夜】
【現在地:樹海B-3エリア】
[時間軸]:仮面ライダーZOとの戦闘で敗北し死亡した直後
[状態]:健康
[装備]:怪魔稲妻剣@BLACKRX、GM-01改4式@アギト
[道具]:首輪、不明×2(自身に支給された物と立花藤兵衛に支給された物)
[思考・状況]1.首輪を外しこの世界を脱出する
      2.麻生勝=仮面ライダーZOを吸収する
      3.他の参加者は殺す
      4.可能ならこの戦いに関する情報を得る

※ドラスの首輪は胴体内部のネオ生命体本体に巻かれています。(盗聴機能は生きています)
※ドラスはドクトルG、ヨロイ元帥、ジェネラルシャドウ、マシーン大元帥の情報を得ました。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2018年03月22日 23:13