•清々しいほどの朝の日差しを浴びながら、俺、井筒隆幸は西千葉駅へと降り立った。今日は月曜日。2限と3限しかない素晴らしい授業の配置だ、我ながら惚れ惚れする。
「そんなことを思わないとやってられないんだよな~月曜日って」
うだつが上がらないというかなんというか、適当に一人ごちていると駅の出口の階段で大きな荷物を持ったお婆ちゃんがどう運んだらいいもんかと考えている、そんな背中に俺は駆け寄っていって、よろしければお持ちしましょうか、と声をかけた。講義開始まであと十分だけど、気にしない。きっと間に合うんじゃね!
♦ そんな井筒を横目に見ながら無視してその場から立ち去っていく姿があった。井筒も所属している手芸部の部員の一人、倉田薫である。
「相変わらず偽善が好きな男ね、そういうところ反吐が出るほど大嫌い」
決して口に出すことなくその場を過ぎ去る。その後ろ姿は朝から気分の悪いものを見てしまった不愉快さと嫌悪が入り混じったものがありありと伝わってくるものがあった。
•「あちゃ~案の定間に合わなかったか……」
あの後、お婆ちゃんを手伝った後急いで文・法経学部棟に向かっては来たものの二十分の遅刻をしたため、現在講義室の前で立ち往生中である。どうしようかと悩んでいると、手芸部の課題をやっていないことを思い出した。そう思った俺は講義を……
「……どうせ遅れて入るのなら、欠席でいいや。部室行こう、と」
投げた。気持ちのいい剛速球だな、と我ながら感心してしまうほどだ。そして、一切の躊躇いもなく俺はサークル会館へと足を向けた。
部室へと足を踏み入れるとすでに先客がいた。一人で黙々と布を編んでいる姿はいやはや、普段俺に対する態度とは正反対で繊細で優しげな様子である。いつまでも入り口で突っ立ているわけにもいかないので、俺は挨拶を倉田に向けて口を開こうとしたら、
「喋らないで。空気が汚れちゃうでしょう」
取りつく島もないとはこのことだな……としみじみ思った。
♦ せっかくひとりの時間を満喫していると、なんか気持ち悪いものが私の視界に入ってきた。私が拒絶してやったら、そいつは項垂れてパイプ椅子に腰を掛けた。なに、こいつも課題やるの!? こいつと二人きりってこれ以上ないくらい不愉快極だわ……そんな憂鬱な気分を晴らしてくれるかのように部室のドアが開かれたが、そこには見慣れない人がおずおずと突っ立っていた。だけれどそれでいて芯の強い目がそこにはある。はあ、私の嫌いなタイプだわ。弱いくせに怖いくせに、自分をしっかりと持ち困難に立ち向かおうとしているやつ。そしてそういうやつがここに来るのは当然手芸部に入りたいわけじゃない。
「あの、」
そいつが喋りだした。ああ聞きたくない。見れば井筒は今までのふざけた顔を一新させ真剣な表情が貼り付けている。またか、こいつのお節介。トラブルに積極的に突っ込んでいき無理矢理解決してしまうから、大学に入って数か月で……トラブルスティッカーと呼ばれるほど有名になった。その所為か、こいつに相談すると悩みを解決してくれる、という噂をもとに相談してくるやつがたまに手芸部に来る。だから、私にはこの後の展開が手にとるようにわかってしまう。
「あの、わたし。い、井筒という方に相談があって……」
ほら、これだ。はあ、と人知れず溜息をつく。無論今まで私は顔も上げず手を止めてもいないので、私が井筒ではないことはわかるだろう。顔を上げることなくチラ、と井筒の方を見る。ああ、もう何度聞いたかわからないあのセリフをあいつは吐こうとしている。
「わかりました、俺に協力できることがあれば何でも言ってください」
こうしてまたあのバカはトラブルに首を突っ込んでいった。いつも通り依頼者と左手で握手をしながら……。