真昼の大学正門前にて。厄介なのに捕まった。
「はっはっは、冴姫、あんたに拒否権は無いからな」
げんなりする俺の顔を見て呵々大笑するこいつは蜜木優見。同じ大学、同じ学部、同じ学科、つまり同期生。そして友人、という間柄。
知り合ってからまだ数カ月と経ってないのに、こいつはずいぶん俺に親しげに接する。いや、この言い方だと彼女をうざったく思っているように聞こえるな。まあ実際うざいんだが、今、リアルタイムで。
「なんで、お前と友人になったんだろうか」
「うわっ、何か失礼なこと言われてる!」
とりあえず本気で考えてみる。まず、初めて会ったのは新入生歓迎会の時。このときはお互い自己紹介だけで終わった。
初めて内容のある話をしたのはたしか必修の講義の時。
「ねぇ、ごめん、テキストの購読ってどこからどこまで?」
「んぁ、ああ。ここんところから、この章の最後まで。レジュメ担当は平居と舟橋」
「ありがと。助かったよ」
ふむ、この段階ではまだ事務的な会話しかしていないな。その次、というと……。
「むむ、気付いたらこうやって話すようになってたな」
優見はきょとん、としている。
「ねー冴姫、何考えてんのー?」
「いや、お前と仲良くなったのっていつからかなー、と」
優見は呆れたような顔をした。
「何、あの劇的な事件を忘れたと言うの? そう、あれは二週間前。冴姫のバイト先の執事喫茶での出来事であった……」
ああ、そういえばそんなこともあったな。すっかり忘れていた。むしろ忘れていたかった。
「せっかく二度と思いださないように記憶の奥底に封じておいたというのに、余計なまねを」
「はっはっは。そも今日こうして会う約束もあの事件に起因するじゃないの」
ああ、そういえばそうだ。どうりで。いや、すっかり忘れていた。今この場に居るのは偶然なんだが。今日は午後の講義もバイトも無い、久しぶりに暇な日だから本屋にでも行って立ち読みでもしようと思っていたのだが。ああ、忘れていた約束を無意識に守るとは俺はなんて律儀な奴だ。
「ああ、そうだったな。じゃあ俺今からバイトなんで。グッバイ」
俺は素早くその場から離脱! ふふ、この自然な別れ方、すばらしい。相手は別れたという事実すら認識できまい。
「そうはいくかい」
「ぐえ」
優見におもいっきり襟元を引っ張られた。失敗だったらしい。
「あんた今日はバイト無いって言ってたでしょ」
「仕方ない。今からシフト入れるから待ってろ」
そう言って俺はバイト先へ電話をかけようとしたが、残念ながら優見に携帯をとられてしまった。
優見は俺の携帯を鞄にしまうと、襟首を捕まえたまま駅へと歩き出した。
「ちょ、おま、離せ!」
「やーよ。冴姫どうせ逃げるでしょ」
優見は俺をずるずると引きずりながら歩く。いくら俺が軽いからってこの状態は酷い。
「じゃあせめて携帯返せ!」
「やーよ。冴姫どうせ助け呼ぶでしょ」
俺のもくろみはあっさりと見抜かれていたようで、もう逃げようがなかった。
「はっはっは、冴姫、あんたに拒否権は無いからな」
げんなりする俺の顔を見て呵々大笑するこいつは蜜木優見。同じ大学、同じ学部、同じ学科、つまり同期生。そして友人、という間柄。
知り合ってからまだ数カ月と経ってないのに、こいつはずいぶん俺に親しげに接する。いや、この言い方だと彼女をうざったく思っているように聞こえるな。まあ実際うざいんだが、今、リアルタイムで。
「なんで、お前と友人になったんだろうか」
「うわっ、何か失礼なこと言われてる!」
とりあえず本気で考えてみる。まず、初めて会ったのは新入生歓迎会の時。このときはお互い自己紹介だけで終わった。
初めて内容のある話をしたのはたしか必修の講義の時。
「ねぇ、ごめん、テキストの購読ってどこからどこまで?」
「んぁ、ああ。ここんところから、この章の最後まで。レジュメ担当は平居と舟橋」
「ありがと。助かったよ」
ふむ、この段階ではまだ事務的な会話しかしていないな。その次、というと……。
「むむ、気付いたらこうやって話すようになってたな」
優見はきょとん、としている。
「ねー冴姫、何考えてんのー?」
「いや、お前と仲良くなったのっていつからかなー、と」
優見は呆れたような顔をした。
「何、あの劇的な事件を忘れたと言うの? そう、あれは二週間前。冴姫のバイト先の執事喫茶での出来事であった……」
ああ、そういえばそんなこともあったな。すっかり忘れていた。むしろ忘れていたかった。
「せっかく二度と思いださないように記憶の奥底に封じておいたというのに、余計なまねを」
「はっはっは。そも今日こうして会う約束もあの事件に起因するじゃないの」
ああ、そういえばそうだ。どうりで。いや、すっかり忘れていた。今この場に居るのは偶然なんだが。今日は午後の講義もバイトも無い、久しぶりに暇な日だから本屋にでも行って立ち読みでもしようと思っていたのだが。ああ、忘れていた約束を無意識に守るとは俺はなんて律儀な奴だ。
「ああ、そうだったな。じゃあ俺今からバイトなんで。グッバイ」
俺は素早くその場から離脱! ふふ、この自然な別れ方、すばらしい。相手は別れたという事実すら認識できまい。
「そうはいくかい」
「ぐえ」
優見におもいっきり襟元を引っ張られた。失敗だったらしい。
「あんた今日はバイト無いって言ってたでしょ」
「仕方ない。今からシフト入れるから待ってろ」
そう言って俺はバイト先へ電話をかけようとしたが、残念ながら優見に携帯をとられてしまった。
優見は俺の携帯を鞄にしまうと、襟首を捕まえたまま駅へと歩き出した。
「ちょ、おま、離せ!」
「やーよ。冴姫どうせ逃げるでしょ」
優見は俺をずるずると引きずりながら歩く。いくら俺が軽いからってこの状態は酷い。
「じゃあせめて携帯返せ!」
「やーよ。冴姫どうせ助け呼ぶでしょ」
俺のもくろみはあっさりと見抜かれていたようで、もう逃げようがなかった。
俺達イン秋葉原。そう、オタク街として名をはせるあの秋葉原。正直、まだ電気街って印象も強いと思うんだけど。
稼ぎ時であるはずの土日に閉店する珍しい電気屋の角を曲がり、さらに二つ目の角を曲がった先に目的地があった。目的地と言っても優見の目的地であって決して俺の目的地ではない。俺の目的はいかにして此処から離れるかだ。
「何だ……これは……」
メイド喫茶。そう、メイド喫茶。何度見てもメイド喫茶。何度愚痴ってもメイド喫茶。大事なことだから四回も確認してしまうくらいメイド喫茶だった。あ、今ので五回目か。
「おかしいな、俺の記憶が正しければこんなところに来るはずは……いや約束忘れてたくらいだから記憶なんて曖昧なんだが」
たしか優見は、「友人がバイトしている喫茶店がオープンしたばかりで人手が足りないから給仕のヘルプに入ってほしい」と言っていたはずだ。
「お前、友人は男だって言ってなかったか?」
メイド喫茶に男がいるのか? まさか男の娘か?
「うん、男。いや、厨房担当だから。何、冴姫、メイド喫茶が女性だけで回ってると思ってるの? そう都合のいいところばかりじゃないよ。『メイドさんの手作りオムライス』、とか手作ってるのはむっさい男っていう真実よ」
「謝れっ、夢を壊された世間の男性に謝れっ!」
俺自体は特にメイドさんに興味は無いが、男性を代表して言わせていただく。そりゃひどい、と。でもよく考えたら喫茶店の仕事って力仕事も多いよな、普通に。俺自身も喫茶店でバイトしているから分かるが、確かに女性だけでやっていくのは難しいかもしれない。いやそれでもせめて調理は女性にやってほしかったなぁ。
「そもそも給仕のヘルプってことは俺にメイドさんになれって言ってるのか!」
俺は男だ。いや、たしかに体は女だがそれでも俺は男だ。
「そうよ、冴姫は可愛いから、『女装』しても大丈夫でしょ」
あ、とりあえず優見は俺を『男』と認識してくれているようだ。そのうえで『女装』をさせる気らしい。女扱いされていない、男として見られていることに一瞬満足した俺がいた。危ない。
「それに冴姫、両声類だし、女装がばれることは無いでしょ」
「いや、俺の場合女装だってばれるのはかなり稀有だと思うんだが」
最悪、服を引っぺがされたって女性でしかないからな、この体は。
「じゃあ冴姫、覚悟はいい?」
あらためて聞いてくる優見。はぁ。溜息をついて頷く。
「今日だけだからな」
俺もつくづく甘い男である。
稼ぎ時であるはずの土日に閉店する珍しい電気屋の角を曲がり、さらに二つ目の角を曲がった先に目的地があった。目的地と言っても優見の目的地であって決して俺の目的地ではない。俺の目的はいかにして此処から離れるかだ。
「何だ……これは……」
メイド喫茶。そう、メイド喫茶。何度見てもメイド喫茶。何度愚痴ってもメイド喫茶。大事なことだから四回も確認してしまうくらいメイド喫茶だった。あ、今ので五回目か。
「おかしいな、俺の記憶が正しければこんなところに来るはずは……いや約束忘れてたくらいだから記憶なんて曖昧なんだが」
たしか優見は、「友人がバイトしている喫茶店がオープンしたばかりで人手が足りないから給仕のヘルプに入ってほしい」と言っていたはずだ。
「お前、友人は男だって言ってなかったか?」
メイド喫茶に男がいるのか? まさか男の娘か?
「うん、男。いや、厨房担当だから。何、冴姫、メイド喫茶が女性だけで回ってると思ってるの? そう都合のいいところばかりじゃないよ。『メイドさんの手作りオムライス』、とか手作ってるのはむっさい男っていう真実よ」
「謝れっ、夢を壊された世間の男性に謝れっ!」
俺自体は特にメイドさんに興味は無いが、男性を代表して言わせていただく。そりゃひどい、と。でもよく考えたら喫茶店の仕事って力仕事も多いよな、普通に。俺自身も喫茶店でバイトしているから分かるが、確かに女性だけでやっていくのは難しいかもしれない。いやそれでもせめて調理は女性にやってほしかったなぁ。
「そもそも給仕のヘルプってことは俺にメイドさんになれって言ってるのか!」
俺は男だ。いや、たしかに体は女だがそれでも俺は男だ。
「そうよ、冴姫は可愛いから、『女装』しても大丈夫でしょ」
あ、とりあえず優見は俺を『男』と認識してくれているようだ。そのうえで『女装』をさせる気らしい。女扱いされていない、男として見られていることに一瞬満足した俺がいた。危ない。
「それに冴姫、両声類だし、女装がばれることは無いでしょ」
「いや、俺の場合女装だってばれるのはかなり稀有だと思うんだが」
最悪、服を引っぺがされたって女性でしかないからな、この体は。
「じゃあ冴姫、覚悟はいい?」
あらためて聞いてくる優見。はぁ。溜息をついて頷く。
「今日だけだからな」
俺もつくづく甘い男である。
「おかえりなさいませ、ご主人様!」
「お嬢様、お飲物をお持ちいたしました!」
この日、このメイド喫茶はリターン客や延長客が多くて非常に盛況した、というのはまた別の話。
「お嬢様、お飲物をお持ちいたしました!」
この日、このメイド喫茶はリターン客や延長客が多くて非常に盛況した、というのはまた別の話。
此処から先もしばらく話は書いたんだけど、寝落ちした時にデータが飛んだ。未完成だがもうめんどくさいから載せておく。なんつーか、この話をかく直前に読んでたラノベの影響をそこそこ受けているのがなんだかなー。