桜が咲き誇り、行き交う誰もが目を奪われるこの頃。
何かと環境が変わり、別れる寂しさがあれば出会いもある。
巷で流れる桜ソングをふと口ずさむ。
慣れた場所のはずでも、何かが違うと新しい光景として目に写る。
器は器でしかないのだから、中身が変わる事でのみ新しくなる。
中身はよく、変わりやすい。 新スタートの時は気もそぞろになる。リニューアルした自分に、どんなことが待っているだろうと自然にわくわくする。身を置いて、心だけが先に一人歩きするようなこの感覚。
春だ。
そんな季節に、私はカフェの片隅でお昼ご飯を食べていた。目の前のプレートにはあらかた食べ尽くされた残骸があり、ラスボスは苺のショートケーキだ。白と赤の眩しいコントラストで、私を誘惑してくる。
いざ食べようとした時、先輩を見かけた。
「先輩?」
「おお、こんにちは」
「お久しぶりです。あ、ケーキじゃないですか。同じの」
「本当だ」
「良かったら一緒にどうですか」
「ありがとう」
先輩は私の向かいにケーキを置いた。
呼び止めたは良いけど名前が思い出せない。誰だっけこの人。副専攻の授業で会ってたから、多分チュウコクの人。3年なんだよね確か。グループワークで一緒だった……。名前呼ばなくても支障なかったから。
誰だっけこの人。
「先輩苺は残す派ですか」
「先に食べるの?」
「はい、上に乗ってるし。大事なものはとっておくタイプだったりします?」
「そうかもしれないね」
この笑顔が印象的なんだ。
おだやかそうで。
優し気な、にこにこ顔。
「美味しかった」
会話が再開されたのは、ケーキを食べ終えた後だった。
「しばらく無言だったね」
やっぱり、にこにこ。
美味しいケーキを食べた後は誰でも幸せになると思う。先輩だけじゃなく、私もにこにこ。
なんといっても安いし。
「それうさぎ?可愛い」
先輩は私の財布につけられたキーホルダーを見ていた。
「うさぎに見えますか?このキャラ、うさぎでも犬でもないんですよ」
先輩は私に渡されたキーホルダーを引っくり返したりしていた。
「へえ。確かに言われれば犬にも見えるなあ」
「先輩がうさぎというならうさぎで」
「適当だな。まあ世の中確かな事の方が少ないってことでしょ」
「壮大ですね」
「もしかしたら君も人間じゃないかも知れないし」
「は?ああ―、なるほど」
私の正体?
「ごめん、気を悪くしないで。他意はないから君に限った事じゃなく、俺にも当てはまることだし」
「大丈夫ですよ」
面白い人だ。
ぬくぬくとした日溜まりで、私達は至極穏やかな会話を楽しんでいた。先輩は常に笑顔だし、私は完食したケーキに満足していた。
「先輩は怒ることあるんですか」
「あまりない。どんな時に怒っていいのかよく分からないよ」
「へえ。何ででしょう」
「一般的には、人への期待が裏切られたと思う時怒らない?俺は人にあんまり期待しないのかも」
「寂しくないですか?」
「こうして生きてきたからね。これ以外の生き方を知らないんだ。それに怒ったって良いことないさ。誰も幸せにならない」
「私だったら悲しいな」
「最低限、叱る事はするよ。それに全く期待しない訳じゃない。そりゃたまには笑ってられないときもあるよ。でもそれが悲しみなのかは分からない。残念だけどね」
「先輩は内面的戦士ですね」
「は?」
「あ―、自分自身と精神的に戦ってそうな人、という意味です」
「そうかな……皆そういう所あるんじゃない?」
「そうですね」
「恐らく君も」
「私は何にも戦ってませんよ。取り敢えず人と関わりたいだけで」
「見渡す視野に自分も入れられるといいね。自分はまず自分と関わらなきゃ」
器は器でしかないのだから。 いつしか陽当たりは隣のテーブルに移っていた。
何かと環境が変わり、別れる寂しさがあれば出会いもある。
巷で流れる桜ソングをふと口ずさむ。
慣れた場所のはずでも、何かが違うと新しい光景として目に写る。
器は器でしかないのだから、中身が変わる事でのみ新しくなる。
中身はよく、変わりやすい。 新スタートの時は気もそぞろになる。リニューアルした自分に、どんなことが待っているだろうと自然にわくわくする。身を置いて、心だけが先に一人歩きするようなこの感覚。
春だ。
そんな季節に、私はカフェの片隅でお昼ご飯を食べていた。目の前のプレートにはあらかた食べ尽くされた残骸があり、ラスボスは苺のショートケーキだ。白と赤の眩しいコントラストで、私を誘惑してくる。
いざ食べようとした時、先輩を見かけた。
「先輩?」
「おお、こんにちは」
「お久しぶりです。あ、ケーキじゃないですか。同じの」
「本当だ」
「良かったら一緒にどうですか」
「ありがとう」
先輩は私の向かいにケーキを置いた。
呼び止めたは良いけど名前が思い出せない。誰だっけこの人。副専攻の授業で会ってたから、多分チュウコクの人。3年なんだよね確か。グループワークで一緒だった……。名前呼ばなくても支障なかったから。
誰だっけこの人。
「先輩苺は残す派ですか」
「先に食べるの?」
「はい、上に乗ってるし。大事なものはとっておくタイプだったりします?」
「そうかもしれないね」
この笑顔が印象的なんだ。
おだやかそうで。
優し気な、にこにこ顔。
「美味しかった」
会話が再開されたのは、ケーキを食べ終えた後だった。
「しばらく無言だったね」
やっぱり、にこにこ。
美味しいケーキを食べた後は誰でも幸せになると思う。先輩だけじゃなく、私もにこにこ。
なんといっても安いし。
「それうさぎ?可愛い」
先輩は私の財布につけられたキーホルダーを見ていた。
「うさぎに見えますか?このキャラ、うさぎでも犬でもないんですよ」
先輩は私に渡されたキーホルダーを引っくり返したりしていた。
「へえ。確かに言われれば犬にも見えるなあ」
「先輩がうさぎというならうさぎで」
「適当だな。まあ世の中確かな事の方が少ないってことでしょ」
「壮大ですね」
「もしかしたら君も人間じゃないかも知れないし」
「は?ああ―、なるほど」
私の正体?
「ごめん、気を悪くしないで。他意はないから君に限った事じゃなく、俺にも当てはまることだし」
「大丈夫ですよ」
面白い人だ。
ぬくぬくとした日溜まりで、私達は至極穏やかな会話を楽しんでいた。先輩は常に笑顔だし、私は完食したケーキに満足していた。
「先輩は怒ることあるんですか」
「あまりない。どんな時に怒っていいのかよく分からないよ」
「へえ。何ででしょう」
「一般的には、人への期待が裏切られたと思う時怒らない?俺は人にあんまり期待しないのかも」
「寂しくないですか?」
「こうして生きてきたからね。これ以外の生き方を知らないんだ。それに怒ったって良いことないさ。誰も幸せにならない」
「私だったら悲しいな」
「最低限、叱る事はするよ。それに全く期待しない訳じゃない。そりゃたまには笑ってられないときもあるよ。でもそれが悲しみなのかは分からない。残念だけどね」
「先輩は内面的戦士ですね」
「は?」
「あ―、自分自身と精神的に戦ってそうな人、という意味です」
「そうかな……皆そういう所あるんじゃない?」
「そうですね」
「恐らく君も」
「私は何にも戦ってませんよ。取り敢えず人と関わりたいだけで」
「見渡す視野に自分も入れられるといいね。自分はまず自分と関わらなきゃ」
器は器でしかないのだから。 いつしか陽当たりは隣のテーブルに移っていた。