「首に繋ぎ目があるんじゃないかと思うの。普段はちゃんと繋がってるし、境なんて見えないんだけど、一旦気にしだすとその境目は開き始めるの。ぶちぶちぶちっていう音を立てて、開くのよ。左の、鎖骨の辺り。テスト期間とか、ちょっとくたびれた時に首をかしげるともうアウトね」
そこまで一気に話すと、彼女は出された水を飲み干した。
ぷは―。
彼女は誰に言っているんだろう。まさか俺?店内にはマスターと俺しかいない。彼女は入ってきて早々(弾丸のように飛び込んできた)俺のいるカウンター席に真っ直ぐ来て、3人分の席を挟んで座った。二人に対しての発言と捉えて良いんだろうか。目前の手紙を書く手を一旦止める。最近ごく穏やかな日常で、特にネタはなかったけれど今ちょっとした事件が起きた。彼女はポシェットからタオルを出して汗を拭った。俺も最近ちょっと歩くとすぐへばるし、汗はかかない体質だが何となく不快にはなる。コップに手を伸ばしたけれど、氷が溶けきったジュースに飲む気が失せる。マスターはそんな俺をチラッと見て「早く飲まないからだ」とでも言いたげな顔をする。
彼女は自分の発言に反応がないことを一切気にしていないようだった。誰かに聞いて欲しいだけだったのかもしれない。にしてもかなり衝撃的な発言だった。
ふと彼女と目があった。ぎょっとしたように目を見開き、次の瞬間さっと目線を反らしてからは複雑な表情を浮かべていた。
俺は何もしてないし、彼女とは初対面だ。
訂正しよう、これは大事件である。
そこまで一気に話すと、彼女は出された水を飲み干した。
ぷは―。
彼女は誰に言っているんだろう。まさか俺?店内にはマスターと俺しかいない。彼女は入ってきて早々(弾丸のように飛び込んできた)俺のいるカウンター席に真っ直ぐ来て、3人分の席を挟んで座った。二人に対しての発言と捉えて良いんだろうか。目前の手紙を書く手を一旦止める。最近ごく穏やかな日常で、特にネタはなかったけれど今ちょっとした事件が起きた。彼女はポシェットからタオルを出して汗を拭った。俺も最近ちょっと歩くとすぐへばるし、汗はかかない体質だが何となく不快にはなる。コップに手を伸ばしたけれど、氷が溶けきったジュースに飲む気が失せる。マスターはそんな俺をチラッと見て「早く飲まないからだ」とでも言いたげな顔をする。
彼女は自分の発言に反応がないことを一切気にしていないようだった。誰かに聞いて欲しいだけだったのかもしれない。にしてもかなり衝撃的な発言だった。
ふと彼女と目があった。ぎょっとしたように目を見開き、次の瞬間さっと目線を反らしてからは複雑な表情を浮かべていた。
俺は何もしてないし、彼女とは初対面だ。
訂正しよう、これは大事件である。
最近暑くなってきた。
バイトの研修がある時に限ってフルコマだったり、スポーツ科目があったりする。やたら多い荷物を抱えながら走り汗だくになっている。
でも今日は何もない。
至って幸せだ。好きな格好をして好きなものだけ持って好きなペースで歩いて好きな所へ行ける。これはなかなかの幸せだと、最近気付いた。たぶん高校生の頃はそんなこと考えられなかった。
たわいも無いことを考えながらさっさか歩く。私は自分のペースで歩くのがすきなので、誰かのペースに合わせたりするのが結構苦手だ。行き先が同じなら一緒に出発してもいつの間にかおいっていってしまう。
これも高校時代の話。今は多分そんなこと無い。自分の世界が広がったからだろうか、色々成長したと思う。小ぶりで目立たないネックレスなんかもしているし、見た目も多少変わったかな。そうそう、見た目といえば、大学デビューというわけではないけれども化粧も少ししている。ぱっと見には分からない程度に。他の子みたいに思いっきりはしたくない。なんというか、「化粧してその程度か」と思われるのが怖い。それよりは、「化粧したらいいのに」とか言われて「いやーそんな」とか何とか適当に言ったほうが楽だ。
歩く先の横断歩道は珍しく空いていて、信号が青になり一人の青年が渡る。派手じゃなく、同じような雰囲気の彼女がいそうな森ボーイ。いかにもな好青年の存在を無視するかのように、赤いスポーツカーがかなりのスピードを出して曲がる。我が目を疑いたくなるけれど、やっぱり車は人を轢いた。あっという間で、青年が気付いていたかどうか見る隙もなく、事故が起きた。私を始めそこにいた人が足を止め、やがてパトカーが来て、救急車も来た。全ての人が注目する中事態が進むけれど、私の世界ではまだ事故のままだった。一人が渡る横断歩道に車が突っ込み、人がはねられてしまう、その瞬間だった。
なんだか変な気分。現実の空気を吸って、違う世界で生きている感じ。どこへ向かって歩いているのか、誰と会う約束があるのか、諸々が些末なことに思えて、再び歩き出したけれど目的は無かった。とりあえずどこかに行きたい。どこへ行ってもこの世界からは出られない気がしたけれど、じっとしていることにはとてもじゃないが耐えられない。一人でいたいけど、誰かに存在を認識してもらわないと生きていけない気分。ゆっくりと歩き始めたはずなのに、いつしか全速力で走っていた。どこへ行くかより、どこから遠ざかりたいか、が問題な気もした。走って走って、お気に入りの靴が悲鳴を上げるころ、喫茶店に入った。というかそこだけ私を受け入れてくれる気がして、駆け込んだ。
店内は独特の雰囲気と紫煙に包まれていて、カウンターに客が一人いた。
ここはきっと、現実じゃない。
バイトの研修がある時に限ってフルコマだったり、スポーツ科目があったりする。やたら多い荷物を抱えながら走り汗だくになっている。
でも今日は何もない。
至って幸せだ。好きな格好をして好きなものだけ持って好きなペースで歩いて好きな所へ行ける。これはなかなかの幸せだと、最近気付いた。たぶん高校生の頃はそんなこと考えられなかった。
たわいも無いことを考えながらさっさか歩く。私は自分のペースで歩くのがすきなので、誰かのペースに合わせたりするのが結構苦手だ。行き先が同じなら一緒に出発してもいつの間にかおいっていってしまう。
これも高校時代の話。今は多分そんなこと無い。自分の世界が広がったからだろうか、色々成長したと思う。小ぶりで目立たないネックレスなんかもしているし、見た目も多少変わったかな。そうそう、見た目といえば、大学デビューというわけではないけれども化粧も少ししている。ぱっと見には分からない程度に。他の子みたいに思いっきりはしたくない。なんというか、「化粧してその程度か」と思われるのが怖い。それよりは、「化粧したらいいのに」とか言われて「いやーそんな」とか何とか適当に言ったほうが楽だ。
歩く先の横断歩道は珍しく空いていて、信号が青になり一人の青年が渡る。派手じゃなく、同じような雰囲気の彼女がいそうな森ボーイ。いかにもな好青年の存在を無視するかのように、赤いスポーツカーがかなりのスピードを出して曲がる。我が目を疑いたくなるけれど、やっぱり車は人を轢いた。あっという間で、青年が気付いていたかどうか見る隙もなく、事故が起きた。私を始めそこにいた人が足を止め、やがてパトカーが来て、救急車も来た。全ての人が注目する中事態が進むけれど、私の世界ではまだ事故のままだった。一人が渡る横断歩道に車が突っ込み、人がはねられてしまう、その瞬間だった。
なんだか変な気分。現実の空気を吸って、違う世界で生きている感じ。どこへ向かって歩いているのか、誰と会う約束があるのか、諸々が些末なことに思えて、再び歩き出したけれど目的は無かった。とりあえずどこかに行きたい。どこへ行ってもこの世界からは出られない気がしたけれど、じっとしていることにはとてもじゃないが耐えられない。一人でいたいけど、誰かに存在を認識してもらわないと生きていけない気分。ゆっくりと歩き始めたはずなのに、いつしか全速力で走っていた。どこへ行くかより、どこから遠ざかりたいか、が問題な気もした。走って走って、お気に入りの靴が悲鳴を上げるころ、喫茶店に入った。というかそこだけ私を受け入れてくれる気がして、駆け込んだ。
店内は独特の雰囲気と紫煙に包まれていて、カウンターに客が一人いた。
ここはきっと、現実じゃない。