『香織ちゃんにつけた発信機の反応が消失したわ』
通信機から伝わる意味に俺は一人ほくそ笑む。
「OK。予定通りだな。作戦通りにいくぞ」
『……本当に大丈夫なの? 彼女……』
どうやら通信相手は囮にした彼女を心配しているらしい。
だが俺は鼻で笑ってそれを無視。いまさら中途半端に心配したところでどうなるわけでもない。
「それじゃ、行くか、[[ゴースト]]の今のアジトにな」
『……気をつけてね。あんたに死なれると給料なくなるから』
「心配すんな。アジトに罠なんてないさ。
あいつがいるとアジトの位置すら判別できないから、罠を設置する意味もないしな」
『……そう』
「一旦通信を切る」
『わかった。なにかあればすぐにコールして。後、突入は夜になってからよ。
あたいがフォローできるのは夜だけだからね』
「分っている」
『そう、じゃ、任せたわよ』
俺は通信を切ると地図を開く。
「さて、今度はうまく行くか……」
今回の目的をもう位置を頭の中で確認する。
今回の仕事の目的はゴーストが運んでいる、ドグマを代表する各種組織の情報の奪取。
ゴーストの本来の仕事はフリーの運び屋であり、今も様々な組織の物を運んでいる。
奴の昼の能力は『薄っぺらな世界』文字通り奴を中心とした半径100mにもう一つの世界を作り、
任意の人や物を取り込む能力。その世界に取り込まれた人や物は元の世界から文字通り消える。
夜になれば能力が消え、無事に戻ってくる。ただ、取り込む為の能力
そして、夜の能力は『ステルス』。あらゆる探査から任意の人や物を見つからなくする能力を持っている。
その能力を使うことで中々尻尾を掴むことができない相手だが、今回はなんとかなりそうだった。
今回の隙をつけることができた理由は奴のポリシーによるもの。
奴いわく『僕はチンピラだから』とのことだ。
奴は、どんな重要な用事があっても目先の金を諦めることはしない。
裸王たちに嘘の情報を掴ませ、あいつが張っている場所に誘導、捕まえさせることで
確実にアジトに戻らない状態を作り出す。そうすれば、重要書類をステルスで隠される心配もなくなる。
ここまではうまく行っている。後は奴が運んでいる情報を入手するだけだった。
「さて、行くか……。裸王の方は……ま、大丈夫だろう」
さて、集中しないとな。ここまでやってヘマしたら意味がない。
* * *
「……こんなところか」
ざっとゴーストのアジトを漁る。
所詮1Rの狭い部屋だ。5分もかからず探索は終了する。
それなりに収集終了。ゴーストといえど外部の運び屋なので、そう重要な情報はないだろうが、
機関に売るにはちょうどいいだろう。これで数カ月分の給料は払えるはずだ。
「まったく。総従業員2名の零細企業はつらいな。いつも金策を考えなければならん」
ぼやきもたまにはいいだろう。
一通り探し終わり、ふっと一息つくと、すぐに移動を開始する。
万が一奴に戻られると面倒だ。
「さて、なかなかの成果だったしさっさと帰るか」
扉を開け、外に出る。
中々の解放感とともに一歩を踏み出し――
横にスライドするように体を投げ出す。
目の端に銀の軌跡のみが写りこむ。後一瞬でもそこに留まっていれば首が飛んでいただろう。
「やっばいな。もう戻ってきたのか――よ!」
数回転してそのまま立ち上がる。
一瞬前まで俺がいた場所には覆面をした男が一人立っていた。
その男は能力『ステルス』の使用を止め、口元は笑みを形作っている。
「さすがだなぁ。"ミラージュ" 見事な罠だったよ」
「お前じゃなきゃあんな罠には引っかからんさ。
それにな、"ゴースト"。そんな古くて恥ずかしいコードネーム言うな」
「照れるなよ。僕と君の仲だろう?」
「ただの敵対関係ってだけだろうが」
「だが、もう8年にはなるさ。この関係もな」
あー確かにそれくらいにはなるか。
俺が受ける依頼の内容は"ゴースト"と関わることが多い。
潜入捜索が基本の仕事になるため、多くは敵対し、時には協力することもあったか……。
だが、今は敵であることには変わりはない。
「ま、邂逅を喜ぶのもここまでにして……じゃあ久しぶりに遊ぶか?」
左手に軍事用ナイフ、右にリボルバー式の拳銃を持った"ゴースト"は、一歩、詰めてきた。
俺もそれに応じる。右手に軍事用ナイフを持ち、左手にはリボルバー式の拳銃。
お互い能力は使わない……いや、使う暇がない。
一歩、全速力の踏み出す。お互いナイフの距離――
瞬間、数度の金属の擦れる甲高い音が響く。
銀閃が通り、ぶつかり、火花を知らせる。
ナイフを振り切った瞬間、ゴーストの銃口が向く。
一瞬の判断――銃を離しゴーストの手首を掴む。
――発砲
逸らした銃口は俺を捉えず、銃弾が顔スレスレを通り抜ける。
銃には意識を置かない。ただ掴んだ勢いのまま捻り上げ――投げる
「っと、危ないな」
しかし、ゴーストも自ら回転し、足から着地、同時に腕を捻り俺の手を引き離した。
その瞬間に、俺は落下途中の銃を引き離された手でキャッチしゴーストへと向ける。
――発砲
今度は同時だった。
両者の銃弾がぶつかり合い、明後日の方向に飛び散る。
――連射
だが、お互いが傷つくことはない。全て銃弾同士がぶつかり逸れていった。
お互い弾薬が空になり、ようやく銃口を向け合いつつ動きが止まる。
「ひゅう。相変わらずやるねぇ」
「相手がお前だからだ。戦闘用の能力者相手じゃこの程度ではあっさり負けるさ」
「まったく、違いない。お互いになー」
その言葉と同時に――お互い銃口を降ろした。
「ちぇー。今回は僕の負けだねぇ」
ゴーストの笑みは消えない。ただ自身の負けを認める。
「まー、僕はチンピラだからね。重要な情報なんて持っちゃいないから取られても別にいいさ」
「そんな事はわかってる。だからこそ俺みたいな零細企業に回ってくるんだよ。こんなどうでもいい仕事がな」
「そっちの本部はでっかいからねぇ。孫請け会社はつらいねぇ」
「まったくだ。――だが[[フェイヴ・オブ・グール]]の捜索までこっちにくるのはどういうことだ?」
フェイヴ・オブ・グールはバ課の管轄のはず。零細企業のこっちに回ってくるなど通常では考えられない。
こいつは曲がりなりにも運び屋だ。場合によっては知っていることもあるだろう。
「さぁ? 僕はチンピラだからそんなことは知ったことじゃないね。……ただ」
「ただ?」
少し間をおくゴーストに、俺は疑問を向ける。ゴーストは静かに笑みを深くした。
「機関が相当焦ってるって情報は聞いたことがあるぜ。
何か重大なヘマしたんじゃないか? ドグマもそれに関わっているらしい」
「……なるほどな」
それなら納得できる。だがドグマか。できればそんな危険な組織を相手するつもりはないのだが……
この状況では探すふりくらいはした方がいいのかもしれないな。機関は上得意様だしな。
そう思っているとゴーストは首をこきこき鳴らしながら再び俺に目を向ける。
「さて、僕は失敗したことをクライアントに伝えないといけない。ここでバイバイだね。今日は楽しかったよ」
「そうだな。俺もそれなりに楽しかった」
お互い背を向けて歩き出す。が、ゴーストは足を止めると気軽に声だけよこしてきた。
「そういえば囮の方は助けんでいいのか? 発信機は壊しといたよ」
「これから行くさ。すでに相棒が追ってるはずだ。……ま、その必要はないかもしれんがな」
「なるほど。一人は僕にすぐ気付いた位だし、中々楽しそうな子だねぇ。うん、気に入ったよ」
「止めとけ。あれはお前に扱える奴じゃないさ」
「そーかい、残念だなあ。ま、そのうちな」
その言葉を最後に再び歩きだしたゴースト。
俺も背を向けたまま手だけ振って歩きだす。
さて、これで運び屋が持つ情報の奪取は成功。
この辺で起こっている女子高生連続誘拐の件もこれで少しは減るだろう。
後は少女たちの買い主をどうにかするだけだ。
もっとも最近様々な組織による能力を目的とした誘拐が多い。
誘拐事件自体が止まることはないだろうが。
「さて、こっちの任務は終了。後は裸王の方だけか」
さて、あっちがどうなっているか、楽しみだ。
露骨に続く。
登場キャラクター
最終更新:2010年07月07日 00:29