1スレ目321


ジリリリリリリ――

目覚まし時計の音で目覚め、ゆっくり体を起こす。

「眠い~」

でも高校行かないと……
でも行きたくないな……

ぼーっとした頭でそんなことを考えながら、布団から起き出した。
お母さんが作った朝食を食べる。
朝ごはんは一日の基本。食べない友達も多いけど不健康だと思う。

ご飯を食べ終わって歯磨きして、ぱじゃまから制服に着替える。
腰まで来てる髪を一本の三つ編みに結わいて、黄色いリボンで止める。
姿見で自分の姿を確認。
うん、大丈夫。ちゃんとしてる。紺のセーラー服はごく普通の物でどこもおかしくないし。

「――昨日のことはきっと夢、夢に違いないわ」

はっきり声にだして自分に言い聞かせる。
昨日路上で起こったことは全て夢。

「いってきまーす!」

お母さんに挨拶して学校へと向かう。

でも、一つ目の坂を曲がったところで、昨日のことが事実だったことを思い知る。

「よう! 裸王! なんだ。今日は普通じゃないか」
「だれが裸王よ! 桜 香織って名前よ!」

目の前には見たくなかった男子生徒――確か加藤陸って名前の男子が立っていた。
絶対待ち構えてたわよね。ごく普通の容姿のごく普通の男子。特に印象はない男子。
しかし、これが昨日の唯一の目撃者。
そして唯一の目撃者は最低な奴だった――



「よう! 裸王! なんだ。今日は普通じゃないか」
「だれが裸王よ! 私には桜 香織って名前があるのよ!」

開口一番なんてことを言ってくれるのよ。思わず詰め寄る陸の方は澄まし顔だった。

「道端であんなことをしてる時点で裸王で十分だ。まったく可愛い顔して……」
「あ、あれは事故! 事故なのよ!!」
「ま、そう言うことにしてやるよ」

意味ありげに笑う陸に思わず殴りたい衝動に駆られるけど我慢。
実際昨日の事故は事実なので、なにも言えない。

その事故を思わず思い出す。私の昨日開花してしまった夜の能力。
その感覚がよくわからず帰り道の道端で発動してしまった能力。
それは『皮膚に触れた物を瞬時に落とす能力』のこと

「ま、『瞬時に脱ぐ能力』なんて持ってるなんて誰が聞いても裸王だと思うぞ」

茶化すように言う陸の言葉に、私は顔が蒸気するのを止められない。
神様、なんで私にこんな酷い能力を授けたのですか? これは何かの試練ですか?
心の中で祈りながら陸を無視して歩く。

でも、陸の方はそう思ってないようで、その私の後をついてくる。

「……何よ」
「まだ、口止め料もらってないんだけどなー」

幸いと言っていいのか悪いのか、能力を使った所を見られたのは陸一人。
だけど、こいつの性根が問題で、当然のごとく口止め料を請求してきた。
もちろん学生の私に払えるわけもない。

「そんなの無理に決まってるわよ!」
「その能力の事、言いふらしてもいいのかなー」
「それは止めて! ……どうすればいいのよ?」
「それならときどき俺の用事に付き合ってくれ。とりあえずはそれでいい」

にんまりと笑う陸の顔を見て、私は諦めに似た気持ちになった。
頷いてから深いため息をつく。

「神様、これも何かの試練ですか?」

思わず口に出す私の言葉に陸は笑った。……うう、やっぱり腹が立つ。

「そーなんじゃないか。ま、よろしくな。裸王?」
「それは止めて!!」

……うう、こんな能力なんて大嫌いだー!
二度と、絶対、能力なんて、使わないわよー!

私はそう心に誓いながら学校に向かった。
ああ、平穏な日常が恋しいな……

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  • ◆W20/vpg05I
  • 桜香織
  • 加藤陸
最終更新:2010年06月15日 21:44
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