「へっくちっ!」
「なんだなんだ。裸王、風邪か?」
「ちょっと夜寝ぼけて能力使っちゃて余りの寒さに……って陸、あんた何言わすのよ! それに裸王は止めて」
「裸王が勝手に言ったんだ。あ、半径5m以内に近づくなよ。風邪をうつすなよ」
「ふんだっ。私だって近寄りたくないからちょうどいいわよ」
俺はしっしと手で追い払う動作をしながらパンを齧る。
うむ。学校の昼休みに屋上で食べる、この揚げパンのカリッとした触感は最高だ。
「それで、パンも買ってきたし、もう行っていい? 」
露骨に冷たい視線を向けてくる裸王。それも俺にとってはそよ風のような物。
パンを食べながらあっさり頷く。
ほっとした表情を一瞬見せ、踵を返した少女はあっという間に視界から消えていった。
その鮮やかな逃げっぷりに俺は思わず苦笑する。
「まったく、嫌われたもんだなぁ」
その言葉自体はただの独り言。しかしその声に答える声があった。
『あいかわらずね、"ピーターパン"?』
「なんだ、聞いてたのか」
『定時連絡の時間。忘れてる?』
「ああ、そうだった」
そう俺は頷き、懐にある通信機を見る。
定時を知らせる青のLEDが光っていることを確認。
「あー、あー。こちら特に進展なし」
とりあえず適当なことを言う。
『あら、そう? 最近弛んでるわよ。年とって諜報稼業も飽きたのかしらね』
「さあな。そもそも俺に
フェイヴ・オブ・グールの捜索まで回すなよ。
俺の昼の能力『ピーターパン』と夜の能力『ディスガイズ』、どちらも戦闘には向かん。
見つかったら即殺されるぞ。そんなもんバ課に任せておけよ。
こっちは本命の仕事だけで忙しいんだからな」
俺の自分の能力名をあえて言いながら通信相手に文句を向ける。
その通信相手はしれっとしたもので、
『あたいに言っても意味ないわよ。それにフェイヴ・オブ・グールの方は
別に主目的じゃないし。それで、本命の方も進展なし?』
「あー、まあ進展ありっていえばありだ」
『へぇー、どんな?』
「囮に使えそうな人材を確保した」
『……民間人に危害がでると色々後が大変よ?』
イヤホンから呆れたような声が聞こえる。しかし俺は笑って無視する。
「大丈夫だ。あんな能力持ちならなんも問題ないさ」
『へぇ? どんなすごい能力? もしかして本部の監視が必要なほど?』
「いや、そういう意味じゃない」
『……?』
疑問の声が聞こえる。俺はあえて一拍置いて、答えることにする。
きっと驚くだろうと思うと自然と笑みがこぼれた。
「一瞬で裸になる能力」
『……それは、性別どっち?』
「女。高校生。ってか今は同級生だ。たまたま能力発動した所に出くわしたが、
まだまだ幼さの残る顔立ちのくせに体は大人。出るとこ出てひっこむ所は引っ込んでいる。
それが、恥ずかしさのあまり全身真っ赤にしてるんだ。
正直、この俺で持ってしても性欲を持て余す。どうだ、今回の囮役としては最適だろう?」
『こっ、この変態!!』
ぶつっという音とともに通信が途切れた。
最後の怒鳴り声で耳が変な感じになるのを感じながら、俺も通信機を切る。
「……うーむ、怒らせてしまったか。話術には自信があったんだが、何がいけなかったんだ?」
よくわからないが考えてもしょうがないので、次の計画について考えるとするか。
「さて、今回の仕事もそろそろ終わりかねぇ。楽しめるといいがなぁ」
口元の笑みを止めようともせず、俺は昼休みの間、作戦を練った。
「くっくっく……夜が楽しみだなぁ」
登場キャラクター
最終更新:2010年06月15日 22:11