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Paradigm change! > 序章


 「序章」

 世界は、混迷を極めていた。
 世界情勢は不変のものではなく、常に流動する。それは科学面でも経済面でも同じであり、栄えた国がいつかは枯れるように、決して止まることはない。
 西暦2000年2月21日 正午。
 地球に突如隕石が襲来。世界各地に降り注いだそれは、大気摩擦で高温に熱せられた大量破壊兵器と化した。世界の人口は一気に減った。しかし、それだけではなかった。
 最初に発見したのは誰かも分からぬ、その異変。
 科学者でも哲学者でもきっと予想もしなかったであろうその異変は、全人類、赤ちゃんからお年寄りまで隔たり無く与えられ、世界情勢を大きく変貌させる引き金となった。
 なんと人類は、その一人一人が昼と夜で違う『超能力』を授けられたのだ。
 ESPとPKの他にも分類できないほど、千差万別の能力が人々に宿った。ある人は重力を遮断して空を飛び、ある人は水を自在に操り、ある人は壁を破壊することなく通過し、またある人は無から有を創造することさえ出来た。
 曰く、これは黙示録の始まりである。
 曰く、これは神の力である。
 曰く、我々の世界を侵略しようとたくらんだものがいるのだ。
 科学では『こうであろう』と予想をつけること以外にできぬその強大な力は、瞬く間に世界中で大混乱の渦を巻き起こした。
 隕石の余波に乗じて国家の独立を宣言するもの、新しい宗教を立ち上げ欧州暗黒時代を再現するもの、能力を利用して商売をするもの……。
 世界各地に、国家の主権が及ばぬ『避地』が誕生し、テロリスト達は嬉々として能力を使って国家の存続を危ぶめた。もちろん国家も能力を利用して平穏を目指すが、人類一人一人が爆弾を抱えたに等しい状況では焼け石に水であった。
 世界各国は連携して、対能力者対策集団を組織。実体の解明と、新たな法律の制定を目指し、その結果世界は徐々に平穏を取り戻しつつあった。
 しかし『避地』は能力者の力を利用して力を増しており、世界各地に豆を撒いたように点在した『爆弾』となってあり続けた。
 ――これが、現在の世界である。



 わいわい賑わう場所にボロ布をローブ風に仕立てた二人組みの男女が立って、涼空の中、いつ途切れるとも知れぬ行列に並び続けている。
 一人は金髪の男性。無精ひげと、疲労をどっぷり主張する眼の下のクマが、男を中年であると暗に言う。
 もう一人は女性。黒髪に端整な顔立ちで、中肉中背低すぎず高すぎずの身長で、肩に筒のようなものを担いでいる。
 行列は、針葉樹林を思わせる刺々しさでそびえる塔の群れとビルで構成された、その場所の手前に作られた建物の中に続いている。ラフな格好の警備員が棒を振って人を誘導している。
 二人の男女がこれより赴くはただの場所などではない。
 ――『避地』。
 力ある能力者が作った無法地帯、避地。世界の異変の象徴的な場所であり、国家に属さない独立した空間。軍事力を持ち、また行使することも躊躇わない魔都。
 難民を多く受け入れていることから、この場所にはこんな名前がついている。
 『天国のような避難所(ヘヴンズヘイヴン)』と。
 二人の男女は行列に並び、そして入国審査所の中に入ると、難民として「入国」する審査を受け無事に入ることが出来た。





 ヘイヴンは他の国と比べた場合、著しく犯罪率が高い。
 国ではないため、法律も緩く、難民が流れ込んだ影響か窃盗は日常茶飯事であり能力を使ったストリートファイトは風物詩のようなものだ。発展して殺し合いになるのも珍しく無い。
 では律するのは何かと言ったら、最新技術を余すことなく投入した実働軍と上層部である。普通の国家が持つ法と違って能力や超法規的な手段により「自治」しているのである。
 もし捕まった場合、法が機能しないヘイヴンでは死亡しても文句は言えない。その意味で彼ら実働軍は死神と呼ばれているようだ――。
 ここまではとある機関が事前に調べておいた情報である。
 そして先に描写した男女二人組みはただの難民では無い。国家に所属しない点においてはヘイヴンの住民と大差無いが、彼らは生活しにきたのでも覇権をとりに来たのでもない。情報を集めに来たのだ。
 彼らが所属する組織は古くは十七世紀にあった秘密結社に端を発する。
 異能や魔術の類を研究し、精神的な面における神秘等についてせっせせっせと調べていた。その後科学が発展してもあり続け、隕石が落下したことにより本格的な組織になった。神秘が存在することが分かったからだ。
 彼ら『超越機関』は現時点では能力とは何かを考え調べる組織である。彼らがヘイヴンに入り込んだのも調査が目的であり、難民というのも仮初の身分なのだ。
 彼らはこの街を調査するに当たって必要なものがあった。それは最初に戦うことであった。



 ヘイヴン、その辺境にある倉庫が多く立つ場所。
 乗用車とトラックが重力を無視して持ち上がるや、女に向けて降り注ぐ。
 女は腰のサーベルを抜剣、回避行動どころかトラックの方に切っ先を向け、一振りした。トラックは一撃で両断され左右に分かれて女の後ろに勢いを殺さず飛んでいった。乗用車は女のすぐ隣に落ちた。
 女は、サーベルを高く掲げて乗用車に振り下ろした。バターに熱いナイフを差し込むように、そよ風すら起こさず、乗用車が上から下まで切断された。切断面は、研磨されたように滑らかに。
 車の一枚がごろんと転がり、もう一枚も転がる。
 女は雫が落ちる様な涼しい声で言った。

 「無駄です。貴方の能力では、私を倒すことは出来ません」
 「へへへ……それはどうかな!?」

 対するは男。
 不潔な衣服に、口から酒の匂いを漂わすオヤジ。にやにや笑いを浮かべている辺り、気絶させて弄ぼうなどと淫らなことを考えているのだろうか。
 倉庫が並ぶその場所で、二人は対峙し。
 男が両手を掲げた刹那、倉庫にあった鉄骨がのろのろと持ち上がり、更にガラクタまでもが持ち上がって、女に殺到した。しかし、どれもそれほど速いわけではなく。

 「やれやれ……」

 女はサーベルを握りなおし、溜息をついた。
 次の瞬間、鉄骨はその構成素材が水であるかのように、何本も重ねて斬られ、ガラクタも同時に斬り、ハリウッド顔負けのアクロバットにて回避して一回転後着地。
 焦った男はそこらかしこのゴミや斬られて転がった物体を次々に能力で投げ始めた。
 轟、と迫るそれらに当てられれば一般の人間であればたちまちの内に病院送りにならざるを得ない傷を負うであろうというのに、女は眉一つ動かさなかった。

 「ナニ……どうなってる!」
 「ナニって、能力じゃないですか」

 女が駆ける。ローブをはためかせ、コンクリートで舗装されているのにあちこちに凹凸がある地面を、サーベル構えたままで男に肉薄する。黒色の髪が獣毛のように揺れた。
 男はじりじりと後ずさった。
 何故か。それは、能力という力を手に入れて油断していたからに他ならない。男はトラック程度なら持ち上げることが出来る念動力を持っていたが、女はそれらを全て『切断』して迫っているのだから、焦るのも無理は無い。
 男が鉄骨の破片を能力で投げつける――――サーベルが鉄骨に触れ、女が振るだけで斬られる。
 男が鉄板を投げつける――女は体をしならせ回避するついでにサーベルで切り捨てる。二枚の鉄板は地面に転がり滑って止まる。
 女が、跳んだ。それは男がテレビの廃品を投げつけたとほぼ同時。女は足を強引に持ち上げると、テレビに引っ掛け方向を変えて後ろに流した。哀れなテレビは地面に落ちた。
 距離、既に5m。

 「ひっ、くるんじゃねぇーッ!!」

 男は尻尾巻いて逃げ出した。短い足を振り、そこらかしこのものを動かし、女の進行通路と思しき地点に配置しつつ、であったが、見ていないだけに障害物になり得ぬ杜撰さであった。
 小石やコンクリートの破片が地面に転がっているだけで、足を止める人間はそうそう居ない。
 跳躍、進行方向を変更して男が配置した障害を左に見えるように追跡する。
 どたどたという走音と、たたたという軽快な音が、錆びついた倉庫の隙間にある道に響く。
 男は明らかな太りすぎで大して早くなく、女が筋肉を働かせたたった数秒間で距離は数mに埋まった。女は飛び上がると、男の不細工な後頭部に美しい跳び蹴りを食らわした。
 女のローブとローブの生地が風に揺られ叩き合い。

 「ぐぁああっ」

 豚のような悲鳴を上げて男の図体が地面に転がった。後頭部にはきっちり蹴りの痕跡である血液が滲んでいる。
 頭を抱えようとしたが、突然男の髪の毛が鷲掴みにされて、えびぞりになる形で強引に持ち上げられる。男の顔が歪み、苦悶の声が昼間なのにひんやり冷たい大気に漏れた。
 キンッ。
 片手でサーベルを鞘に戻した女は、男の髪の毛を離さず更に持ち上げると、力を込めて地面に叩きつけてやった。男の意識は鼻血と共に消し飛んだ。地面に血が流れ始めた。
 女は懐からビニール製のロープを取り出し、男の両手足をがっちり拘束、オマケに蹴って横にした。
 どうやら、治安が致命的に悪いというのは情報だけではなく、本当のことだったらしい。
 ちょっと街を出歩いて、怪しい雰囲気のある倉庫街に入るや酔っ払いに殺されかける。
 馬鹿に刃物を持たせるのは狂気の沙汰だが、隕石というはた迷惑な馬鹿がやってしまったのだから、どうしようもない。
 実働軍に連絡を入れるべく携帯電話を取り出すと、質問されるのが面倒なのでその場から立ち去った。後には気絶した男だけが残った。


         次回に続く。

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最終更新:2010年07月08日 03:19
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