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Paradigm change! > 二話 叛逆者と便利屋と(前)


 「二話 叛逆者と便利屋と(前)」


 人間、理解できない展開に遭遇すると、思考能力が著しく低下するらしい。
 女の体になった相棒が気を失い、初めて目にする青年が大根を武器に反抗してくるという、カオス極まりない状況下に置かれた為に、網走鋭利の頭には多くの空白領域が蔓延っていた。
 なぜ、大根なのだろうか。
 例えば内部に爆弾が仕込んであるとしよう。投げつければ威力は絶大であるが、この状況では爆弾をそのまま投げつけた方がよほど強いことは明白である。大根など不要なのだ。
 もし青年が、酒場で戦闘した少女と同じような能力者だったら、そんなことは簡単なのかもしれない。もしかすると大根一撃で命を奪えるのかもしれないではないか。
 世の中には千差万別、十人十色、無数の能力があり、大根を必殺武器にする能力があってもなんら不思議ではない。神とやらは大根が大好きだったとこの際解釈しておこう。
 では、何故。
 何故、ギルバートが半裸で青年に守られることになっているのだろう。
 ここはむしろ逆で、ギルバートを誘拐してこちらを脅迫して……。

 「誰だって言ってんだろお前!」
 「………」

 大根振りまわしてギルバートを背後に庇う青年は、口角泡を飛ばす勢いでこちらに大声張り上げている。
 もうなんでもいい。
 そういえば大根っておでんにいれてあると美味しいよね。ダシがしみ込んでるのを食べるのはとても良いことだ。
 網走は両手の武器を降ろし両手を胸元に挙げた。

 「説明すべきですね。私は網走。しがないエージェントです」
 「エージェント……明らかな嘘だろ。この子を追いかけてきた刺客かなんかだって方が説得力ある。武器持ってるやつは珍しかないが、動きが手慣れてる」
 「技術も資格も学もない女性が稼ぐためにはこういったことが必要なんですよ、体を売るなら別として」

 あえて本当のことを言っておき、疑わせることで真実を隠蔽する。誰もがよく使う手で誤魔化して、とりあえず部屋に入る。
 ちなみに名前だが、元の名前は捨てて現在の名前を本名としているので、いくら名乗ろうが情報の漏洩は考慮しなくていい。網走もギルバートも存在なしの幽霊のようなものなのだ。
 その間大根を最終兵器であるかのような面持ちで構え続ける青年の後ろで、ギルバートの手がぴくんと閉じた。
 網走は大きく息を吸い込むと、手を下げずに言の葉を組み。

 「我々は難民でして。能力のせいで放浪の旅をしていたところ、このヘイヴンにたどりついた、たんなる一労働者に過ぎません。その子とは親友の仲です」
 「本当だろうな、嘘だったら俺の魔剣で成敗してやる」
 「……大根ですが?」
 「ラディッシュだよ魔剣ラディッシュ!」

 ヴィヴァ魔剣と叫びつつ 大 根 を天高く掲げる青年。
 こいつバカじゃないかという、相手の神経を逆なでする目つきをわざと作っておき、部屋の椅子を引き寄せて座ると足を組み腕を組み。そしてギルバートを指さす。



 「彼……彼女の名前は、………えー……ギル、といいます。起こしてくださいますか?」
 「ギルちゃんか。分かった」

 しかし青年はいやな顔一つせず、ギルバートの名前を呼びながら揺り起こし始めた。彼もしくは彼女は青年の手により目を覚ました。
 ウーン、と喉からうめき声を出してもぞもぞと口を動かすと手で自分の頬を掻く。
 最初は爪楊枝より細く瞳が開く。ぐっと息を吸い込むことで、危ういところで外からは見えない胸の隆起が、膨張した。服の皺が伸びて形のよさを主張する。
 動きの一つ一つが全て女性の仕草であり、女性の網走から見てもギルバートは完全に女性だった。これは天性の才能というやつで、彼は幼児から老人までを、完全に“演じる”。外見と中身を完全に真似ることができる彼は諜報員には打ってつけなのだ。
 “彼”が目を覚ましたのを確認した青年は、胸元を見ないように細心の注意を払って尋ねる。なお、大根は握ったまま。

 「起こしちゃって悪い。アイツは君の知り合いか?」

 言いつつ網走を指さすと、ギルバートは庇護欲を誘われる弱々しい表情を浮かべて頷いた。
 網走は口をへの字に曲げて、その横顔を観察する。肌に色素があり黄色に近い。瞳は黒もしくは茶色。アジア系なのだろうか。だとすると網走の同郷の者であるかもしれない。
 最も、日本は隕石の直撃を受けて半分壊滅したが。

 「うん。あの子は網走。私の親友で、姉妹みたいなもんかな」
 「そうか。……えーっと、網走さんだっけ。悪かった、俺の勘違いだったわ」

 ギルバートの言葉に青年の誤解が解かれた。
 青年は両手をぱむと合わせ、網走に対して謝罪をした。その動きはやはり日本人特有のもので、ほかにも通話しながらお辞儀などをしたら間違いなく日本人である。
 網走は溜息をつくと、さっきまで着用していたローブをギルバートに投げてよこした。

 「構いませんよ。そんなことより、彼女が半裸になっている理由と貴方がここに来るまでの経緯をみっちりと語って頂きましょうか」


 ▲ ▼ ▲ ▼ ▲


 「つまりこうですか? 情報を探していたら偶然チンピラ集団に取り囲まれているギルに遭遇して、これはいけないと乱入してボコボコにして救出したら、他の連中まで寄ってきたと」
 「そんな感じだ。あのままいってたら百パーセントあんなことやこんなことになった挙句、奴隷とか、臓器売買されてたぜ」
 「なるほど、私からも礼を言います」

 青年が話してくれたことを総合して考えるに、助けて家に送ったということらしい。それにしても大根で勝利をもぎ取るとは、油断ならない青年であると網走は思った。
 ギルバートと網走は椅子に座り、青年はソファーでリラックスして座っている。
 網走が青年に頭を下げると、ギルバートは儚げな美しい笑顔を見せ一礼。青年も二人に対して頭を下げる。

 「ありがとうございましたっ。本当にどうしようっ、って。怖かったんですよ」
 「今度から気をつけろよな?」
 「はいっ」

 などとしゃあしゃあ演じるギルバート。男性心を擽る仕草。目をきらきらさせ、頬を赤らめることすら演技の範疇なのだというから、恐ろしい。
 そこに人が居るならどんな奴だってなりきってみせると豪語する男は、違和感を一片も挟ませずにやってのける。
 網走はギルバートに指で合図をすると、青年が知らないであろう言語で会話しようとする。

 『……それで? チンピラに絡まれてたってのは?』

 ギルバートは咳払いをし、手のひらに顎を乗せて支え。

 『怖がったフリしてチンピラ一人になりきってやろうと思ってたらコイツが乱入してきてな、スパイス眼潰しとか、大根フルスイングとか、よくもまぁ食材だけで切り抜けるもんだ』
 『なるほど。それでどうします?』
 『そりゃアイツに聞いてくれ』

 ギルバートと網走は、目の前で未知の言語で会話し始めために一人置き去りになり、目を点にしている青年を見た。様子から察するに知らなかったのだろう。また、ギルバートの姿が仮の姿であることも知らないはずだ。
 網走が言った。

 「そういえば名前を聞いていませんでしたね。名前は?」

 青年は立ち上がると、大根という名前の大根を掲げた。

 「俺の名前は岬月下! 神の創りし理に叛く男だ!」
 「そうですか。ではこれから月下と呼びましょう」
 「月下君、覚えました」



 神の~以降は完全にスルー。
 痛々しい青年というか、中二病の真っ最中であるようだが、二人はそこに一切触れずに話を進めることにしたらしい。
 能力が原因で生じる病気、能力症候群(チェンジリングシンドローム)の中二病にかかっていようがいまいが、二人には一切かかわりの無いことだし、本質はいい人っぽい訳なのだから。
 岬青年は恥ずかしがることもなく聖剣(大根)を一振りし、満足した顔でソファーに座った。
 まず網走が話を切り出した。

 「貴方の追っていた情報とは何か教えて頂きませんか? 嫌ならいいんですが」
 「それはできねぇよ。だって俺、何でも屋でそれが仕事なんだし」
 「何でも屋ですか……」

 岬月下、提案を拒否。
 何でも屋とは、雑業から雑業までを生業とする業者のことである。
 だがこのヘイヴンで何でも屋と言うと、時に裏の仕事もこなす危険な仕事であり、それを考慮すればなるほど青年の戦い方も納得がいくというものだ。
 網走は何かを考え込み、ギルバートにちらりと目配せをした。ギルバートは微笑をスパイスに効かせ岬月下に口を開いた。

 「月下君……その何でも屋って人手は必要なの……で、ですか?」
 「ん~~~~……必要っちゃ必要………まさか」

 これまた、わざと敬語を崩しかけたフリをしてみせるギルバート。
 意図に感づいた月下に対し、網走が身を乗り出した。

 「これも何かの縁ですから、私たちに仕事を手伝わせてください。……あっ、そうだ。今はこの街の事を知りたいのが第一なので給料は格安でいいですから」



              【続く】

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最終更新:2010年07月10日 10:34
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