俺の名は岬 月下。
俺の能力は万物創造(リ・イマジネーション)。万物を創造する力。
もうひとつの能力は叛神罰当(ゴッド・リベリオン)。神に叛く力。
この力は世界の有り様を変えてしまう、恐るべき力。
だが、俺は使うことに躊躇いはない。
「月よ。お前も感じているか……。あの夜と同じだと」
俺は片手を月へと向ける。静かに、冷たく輝く白き光に不思議な高揚感を感じている。
静かに集中する。俺が持つに相応しい得物を召喚する。
純白の輝きを持つ魔剣。敵対する化物共を屠ってきた相棒の名を告げる。
「……魔剣…レイディッシュ。いくぞ。組織がやってくる」
言葉と共に俺は静かに振り返る。敵と対峙するために。
そして――
「ちょっと! そこの君、あぶないよ!!」
――少し高い声が耳朶を打つと共に純白の布が目の前にあった。
その声を上げた、推定少女は俺の両肩に手を掛け、跳びあがっていた。
モンスターボックスを普通に飛び越える要領で俺を飛び越えた少女は、柔らかく着地をし、
その勢いのまま半回転すると俺へと向き直る。
服はなんてことはない、ごく普通の白のセーラー服。
膝上15cmくらいに短くしたスカートを翻して向き直った、おそらく自分と同程度の年齢だろう少女の顔を視認する。
身長は自分と同じくらいか。活発そうな釣り目がちな瞳はどこか狼を連想させた。
健康そうな肌は走ってきたからだろうか、月の光を反射し、少し光を放っている。
黒の中に茶色の混じった癖のあるボリュームを持つ髪を、肩下まで伸ばし、その髪は息使いに合わせて上下していた。
俺からみてもその少女は文句なしの美少女だった。
同級生ならきっと歓声上げて群がるだろうなと思いつつ俺はその少女を見る。
一瞬ほど間が開き、目の前の少女が口を開いた。
「君、なんでここにいるの? 今の時間帯はここは危険なのよ。ああ、もう、見周りは何やってたのよ」
「……組織の手の者じゃなかったのか?」
「組織? ……へぇ、良く分かったわね」
「やはり組織の手の者か!!」
「ん? ……あ、そーゆー意味か。違う違う。断じてウチは君が考えてるような悪の組織じゃないわよ」
ウチ?……ああ、彼女の一人称か。手を左右に振り、否の返答をする少女に対し、俺は警戒自体は解かず、その少女に相対する。
今の所、敵意の類は感じない。しかし、彼女は何かを知っている。
俺の勘を信じて彼女に言葉をだそうとする。
しかし、その言葉は彼女によって止められた。視線の先が俺ではなくその後ろを見ている。
「あー、君、今すぐ逃げなさい。奴がきちゃったじゃない」
……奴? どういうことだ?
――瞬間、サッと影がさした
「危ない!!」
少女の声を聞きながら、俺はとっさにしゃがみ込んだ。というか動こうと思って思いっきり滑った。
シャっと、音を知覚し、瞬間的に影が伸びることを知覚する。
見上げると、そこには俺がさっきまでいた場所で二つのことが起こっていた。
一つは異様なまでに長く伸びた金属光を放つ物体が貫いていたこと。
もう一つはさっきまで話していた少女がその金属を手甲のような物で受け止めていたこと。
とっさに振りかえるとそこには大学生位の優男が立っていた。
その男は伸ばした金属を一瞬にして短くする。
その形状はなんてこともない普通のステーキを切る時に使うようなナイフだった。
男は嫌な笑みを浮かべている。
「いい加減切られちゃってよ。美少女たん。ああ、早く君の肉を切る感触を楽しみたいな!」
「ここに変態がいるぞ!!」
俺はその男の発言につい言葉を出してしまった。
失敗だ。そんな事をする前に魔剣レイディッシュで殴っておけば良かった。
「あ゛あ゛。なんだ、餓鬼が。俺を変態呼ばわりとはいい度胸だ」
その男は悪鬼の表情になると俺へと顔を向ける。やぱいな。男の敵意がこっちにきた。
手に持ったナイフが無造作に俺へと向けられる。
――まずい、来る!
「来い! サァイレント・シールドオォ!」
とっさに使用したのは俺が使うことのできる最強の盾。
巨大な蟹の甲殻が出現するのと奴が能力を使うのは同時だった。
硬い物同士が擦れあう嫌な音が響く。
俺は顔を顰める事を隠せないが、サァイレント・シールドオが奴の攻撃を完全に防ぐ事ができたことを確認する。
「おい、ちょっと待てカ二だと!! カ二ごときに俺の能力『アイアン・グロウ』が防がれるだと!!」
奴が驚きに硬直するのを尻目に、俺は奴を殴り倒すために魔剣レイディッシュを握り直す。
今がチャンスだ。走りだそうと足に力を込める。
「ぐっ……もういい、男に遊ぶほど俺はできちゃいねぇ。死ね!!」
奴はそう言うと、もう一本ナイフを取り出していた。
まずい。すでに走りだそうとして前傾姿勢になっている。硬直した体が思うように動いてくれない。
俺の状態を知っているのか、奴は薄笑いを浮かべると俺へとナイフの切っ先を向ける。
「サイ――」
「――落ちなさい」
俺は防御のためにもう一度盾を出そうとするが、その行動は止まった。
いつの間にか、その男のすぐ近くにあの少女がいたのが見えた。
「蓮華乱舞」
言葉と共に少女の体がぶれた。
男の体がくの字に曲がる。……あれはみぞおちに肘を入れたな。
次に落ちた体が真っすぐ伸びる。……顎に掌底。しかも二連撃か。
最後に左斜め下へと叩きつけられる。……軽く跳びながら弧を描く踵落としか。
なんとなく少女の動きを心の中で解説しながら、観察する。全てが急所に入っているようだ。
あれはもう奴動けないだろうな。あっさりナイフと全部取られて縛られてるし。
……ちょっとまて、あの縄はどこから出した?
その少女は、全部終わらせると俺の方に向かってきた。
俺も助けてくれた相手に警戒するするほど馬鹿じゃない。
ただ自然体で待っていると少女は一歩前まで来ると立ち止る。
そして、花の咲くような笑顔を向けてきた。
……一瞬ぽかんとしてしまったのは不覚だ。
「助かったわ。あいつが君に注意を向けたからあっさり近づけた。
あの『ナイフを伸縮する能力』のせいで中々近づけなくて困ってたのよ」
「そうか、それは良かったな」
「いやー、君って意外にできるわね。あの能力、かわそうと思って避けられるものじゃないわよ」
「……」
意外におしゃべりなのかもしれないな。そんな事を俺は思いつつ、その少女を見る。
彼女の両腕にはいつの間にか手甲があった。うん、あれで殴られたら痛そうだ。
「ウチの所に来たらきっと良い同僚になりそうだけど……」
「あいにくその手のスカウトには乗ることはない」
「そか、残念。それじゃウチはこれで帰還するけどその前に。
君はこのことは誰にも言わないこと。色々面倒臭くなるからね」
「ああ、分かった。それは当然だろうな。約束する」
「よろしくー」
彼女はそう言って、動かなくなった男を担ぎあげると歩き始め、2、3歩進んだ所で振りかえる。
「あ、そだ。せっかくだから君の名前くらい聞いておきたいな」
「岬 月下。神に叛いた男、そして、この世の理にも叛く男の名前だ。お前の名は?」
「
樹下楓。大地に根差し、風となりて人と世界を護る女の名前よ。今は世界EIYU協会に所属してるわ。
興味あったら探してみてね。君にならきっと探し出せるわ。……さようなら。月下君」
そして今度こそ彼女は歩き去る。
その事を認識し、俺はようやく脱力した。
「最近、因縁が強くなる一方だ。これは近いうちに大事が起こる前兆か。
いよいよ運命が動き出そうとしているのか……それまでに俺ももっと強くならないとな」
そう、俺は新たな誓いを立てつつ家に帰ることにした。
……ちくしょう。腹減ったな。
終わり
登場キャラクター
最終更新:2011年01月08日 10:27