Sheryl Nome ~シェリル・ノーム~@Wiki

シェリルのFLY AWAY

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―――忘れてしまっていた過去の記憶と 夢が交じり合った幻のような時の間で―――

―――少女の沈みゆく魂に灯がともった瞬間 それを成した二人の男の話―――


…さめざめとしたコンクリートの裏路地、視界は宵闇と豪雨の為にほとんど無い。
―――あぁ、またこの夢…?―――
シェリルは夢の中の自分を、夢と自覚する。
ぼろ布同然の着衣、何も掴み取れない矮小な手、水溜まりに影射す絶望した顔は、
これが過去の追体験である事を、シェリル自身に教えていた。
ここは、ギャラクシーのスラム街だ。
水溜まりに映る少女はみすぼらしく、顔にも少しも輝きは無かった。
間違っても銀河の妖精には見えない、醜い石ころ、若しくはドブネズミといった有様だ。
―――あぁ、なら…今夜をやり過ごさなきゃ―――
あの時は、そうやって生きてきた。食べられる物を拾い、寝床を探し、それが無ければ空腹を抱え、震えて眠った。
カビたパンを投げてよこすパン屋に、媚びた笑みを返した。
スラムを同じく徘徊する浮浪者たちの、下卑た視線に怯えながら歩いた。
軒先を借りて眠り、蹴られて起こされる事などしょっちゅうだ。
―――あぁ、でも、生きなきゃ…生きなきゃ…!―――

いつもなら、この夢は朝が来れば覚める。だから夢の中でも寝床を探し、ゴミを漁る。
やり過ごす、朝が来るまで、何処かの神様が助けてくれるまで。
―――あぁ、神様、助けて、助けて!―――
神様はいない、将来など無い、ただこの一晩をやり過ごす。
今夜も又、それを繰り返す…そう思っていた。
今夜の夢は、何かが違った。
路地を挟んだ向こう、ひょろりとした上背の浮浪者が腰を落としている。
暗闇の中でも逆立てた髪とギラつく目玉が主張して、シェリルは少し怯えた。
「…何だよ嬢ちゃん、ジロジロ見てよ」
まさか話しかけられると思わず、シェリルはビクッと身を震わす

「あ、あの…あの、何か、食べ物を…」
「ンなモン、ねぇ」
「な、なら、どこか寝床はご存じ…」
「それもモチロン、ねぇ」
「あ、あぁ…その、その…」
泣きそうになる、なぜ話しているだけなのにこんなに威圧的なのか…!
ギラついた二つの目玉が、横柄な口振と合わせて、少女を打ちのめす。
「ついでに言っとくと、カネもねぇ」
「あぁ…」
ついに涙があふれ出す、情けない事に止まらない。少女の体に似つかわしい勢いで嗚咽と涙が流出する。
「あぁぁ…!な、何よ!何なのよ貴方は…!」
「あぁ…?オイオイ、話してただけだろうが、何でいきなり泣き出しやがる…」
「こ、ここは…私の夢でしょう…!?やっと、助けてくれると…!神様が来てくれたと、思ったのに…!
 貴方、私とおんなじじゃない!何にもない、くだらない、ただの…」
石ころじゃないか、そういう前に、浮浪者の手がシェリルの頭に伸びていた。

殴られる…と、身を縮めようとした時、ふわりと、手が頭の上に載せられたのを知る。
「ワケのわからねぇ事言うガキだなぁ…お前」
浮浪者の掌はとても温かくて、シェリルは、体を強張らせていた力が抜けてゆくのを感じた。
「あ…」
…よく見れば、男は壮年にも満たない、若い男だった。
今まで目玉だと思っていたのは実は丸眼鏡で、その奥には切れ長ではあるが、優しい光があった。
「それにな、俺は何にも持ってねぇワケじゃねぇ」
「え…?」
確かに、男は左手に何か荷物を掴んでいる。
それは売っても幾らかの値もつかなそうな、古ぼけたアコースティックギターだ。
そんな物が何になるというのか…その感情が、顔に出てしまったのか。
男は口を鉤裂きのようにニンマリとし、ギターを構えた。
「お前に教えてやるゼ、食いモンも、家も、カネも無くても…山を動かす事は出来るってなぁ…!」
男は雨の中に駆け出して、路地の片隅にうず高く積まれたタイヤの山を駆け上がり…頂上に立った。
そこは、即席のステージだ。
男の五指が、張り詰めた弦を叩く…!
「俺の歌を聴けェ…!!」

―――朝焼け広がる空に  一羽の鳥が唄う―――

その時、空が震えて、雨が止むのをシェリルは感じた。

―――何処までも往くが良い  お前を遮るモノは―――

―――何も無い…!―――

震えたビルの陰から、浮浪者達が湧いて来る。
リンチでもされるのか、と考えたシェリルは、それぞれの手に楽器を持っているのを見る。
またあのアンチャンか、しようがねぇなぁ、全くしょうがねぇ、と愚痴りながら、皆口元は笑顔で、思い思いに男の楽曲に合わせて演奏を始める。
中には、眠る家族を起こさぬよう、そぅっとブラスを持って来た者もいる。
中にはペンキ缶を束ねて、ドラムをでっち上げた者もいる。
スラムに観客はシェリルのみの、即席の大楽団が完成した。

―――戦い続ける空に  夢失う瞳  もう泣かなくて良い―――

―――お前を奪えるモノは  何も無い―――

…横隔膜の奥から震わされる、大気に染み入るような声だった。
楽しく遊ぶ子供のように、何かを解ってくれと叫ぶように、あるいはここに居ない遠くの誰かに届けるように、彼は歌っていた。
シェリルの胸の中に火が付く、それは悪夢の外のシェリル、銀河の妖精と呼ばれるシェリルだ。
その熱い塊は、喜んでいる。
腹を震わす音楽に反応して、胸の奥にライオンの声が響くのを感じる。

―――鏡に映った空に  惑わされる瞳  さぁ旅立つが良い  心の中の―――

―――ホントの空へ  ホントの空へ―――

お前もこっちへ来い、と男が眼で誘う。
小さなシェリルは迷う、自分には無理ではと思う。
こんな惨めな私が、そっち側へ行って良いのか、と。
でもそんな怖じけるシェリルの体を、胸のライオンが勝手に蹴りだしていた。
「わ、私の…」

―――命輝く空へ…!―――

ステージから見た向こう側は、いつの間にか眠りから覚めたスラムの住人が群れを成していた。
口には笑みを、眼にはワクワクした気持を湛えて、ステージ上のニューカマーに期待の光を浴びせた。
あぁ、スポットライトのようだ…そうシェリルは思って、それから息を吸って…
銀河の妖精は叫んだ。
「私の歌を、聴けぇっ…!」

―――FLY AWAY!   FLY AWAY!  溢れる愛のせて…!―――

―――FLY AWAY!   FLY AWAY!  限りない自由へ…!―――

ステージに立ったシェリルは、もう石ころでは無かった。
ギターの男のメロディーに合わせるたび、胸の中の、銀河の妖精が喜びを得るのを感じていた。
体を苛んでいた飢えも、震えも、孤独さえも、全てが溶けて歌声の響きに代わる。
男とシェリルは旋律の中で、つがいの鳥も同然に解りあい、一つに溶け合っていた。

―――FLY AWAY!   FLY AWAY!  涙を抱き締めて…―――

―――FLY AWAY!   FLY AWAY!―――

最高のボルテージ、ハイライトを前にシェリルは思う。
あぁ、この人が、この人が私の、ずっと恋をしていた…

―――陽はまた昇るだろう…!―――


―――巡る季節と希望に  胸熱くなる限り―――

―――ただそれだけで良い  それが全てさ―――

―――ホントの空へ  ホントの空へ―――

―――命輝く空へ…!―――

―――FLY AWAY!   FLY AWAY!  溢れる愛のせて…!―――

―――FLY AWAY!   FLY AWAY!  限りない自由へ…!―――

―――FLY AWAY!   FLY AWAY!  涙を抱き締めて…―――

―――FLY AWAY!   FLY AWAY!  陽はまた昇るだろう…!!―――




夜を徹して皆で歌い通して、夢の中でシェリルが眼を醒ましたのは、ギターの男の背中だった。
どうやらおんぶをされているらしく、歩行のリズムが快く、眠気を招く。
朝日に向かって歩く男の背中で、シェリルは小さく身じろいだ。
「おぅ、起きたかチビスケ」
「…もう朝…?まだ夢の中に、居る…?」
「バァーカ、ばっちり眼ぇさましてんじゃねぇかお前」
「うぅん、えぇとね…」
自分の夢の事を、どう説明しようか迷ったが、面倒だったので言わない事にした。
説明するのは、あまりに野暮だとも思ったし、ただの夢とも思いたくなかったからだ。
「…いぃの、何でも無い」
「やっぱヘンなガキだな、オマエ…」
「ガキじゃないわ、私はシェリル、銀河の妖精シェリル・ノームなのよ」
そういって、男の首元に顔を埋めた。
ライブの熱が程良く残った男の肌は、シェリルにとって心地よい温もりがあった。

―――朝焼け広がる空に  一羽の鳥が唄う―――

―――神様に恋をしてた頃は  こんな別れが―――

「シェリルかぁ、ヘヘッ、良い名前じゃねぇか!」
「ふふふっ…ありがと」
「昔知りあった女が、似たような名前だったけな…最もあっちは人間じゃ無かったし、今銀河の何処にいるかもわかんねぇけど」
ガリガリ、と男が頭を引っ掻く。
「…好きだった?その人のこと」
「わかんねぇ、でも、俺の歌を、ずっと聴いててくれた…多分今も、銀河のどっかで」
「ふぅ~ん…ふふっ」
「ンだよその顔は…ガキのくせに妙な詮索すんじゃねぇ!」
男がプイっと顔を背ける。シェリルは何だか嬉しくなってしまって、笑いが止まらなかった。
彼が自分と同じように、恋や挫折を知っている事が、ただただ嬉しかった。
「ぷぷぷ…クスクスクスクス…」
「…ケッ!勝手に笑ってやがれ!…」

―――何処までも行くが良い  お前の信じる道へ―――

―――来るとは思ってなかったよ―――

「さっきパーカスやってたヤツが、この先でピザ屋やってんだってよ。奢ってくれるっていうから、まずは腹ごしらえして、俺達の事を考えようぜ」
「俺…達…?」
「良い歌だったぜ、お前の歌!…お前さえ、もし良ければの話だけどよ」
「ホントに?…ありがとう…でも、」
穏やかな眠りが、頭を埋め尽くすのを感じる。
別れが、近い事を自覚した。

―――もう二度と触れられないなら  せめて最後に―――  

「ハハッ、だからピザ食ってからで良いって…ガキはゆっくり寝てろ」
「ガキじゃないって…何度言ったら…」
あぁ、もう駄目だ、もう終わる。
この夢のような夢の時間も。
幸せな背中、この温もりも。
やさしい、アナタノオトも。
もう二度と、触れられなくなる前に…
その前に、これだけは言わなくちゃ。
「そういや自己紹介もまだか、俺の名前は…」
「いい」
「…はぁ?」

―――もう一度だけ  抱きしめてほしかったよ…!―――  

「いいの、言わなくて…ただ、これだけは、ちゃんと聞いて?」
耳におもいっきり近付いて、キスをするように囁く。
思いきりの感謝、そして十年以上積み重なった憧れを込めて…
「かみさま、私の大好きな神様…ありがとう、私を助けてくれて」
意識が落ちる。
くずおれた体が、彼の背中に優しく受け止められるのを感じる
彼が顔を赤くしていれば良いな、そう思いながら、シェリルは幸せの中、夢を終了させた。

――――――IT's LONG LONG GOODBYE…――――

――――――FLY AWAY…――――





「ん…?」
「お、起こしちまったか…?悪い、寝顔を眺めてた」
…夢から覚めて、シェリルはベッドの中で、アルトの腕の中にいた。
「…!!」
ハッ、とシーツの中をまさぐる。
…ちゃんと着ていた。
…ちゃんと、履いていた。
「オマエ、俺の事ケダモノか何かと勘違いしてるだろ…?」
信用ねぇなぁ、とアルトが嘆息する。
ベッドに忍び込まれて、襲わなかった事を責められていると思わないあたり、女心を解っていないアルトらしかった。
それを可愛い、と感じて、また笑いが込み上げてくる。
「ふふふ…クスクスクスクス…」
「な、何だよ…何か可笑しな事言ったか?」
「別にぃ?ふふふ…ねぇアルト、ひょっとして、ずっと抱きしめててくれたの…?」
「あぁ、カギ開けたら真っ暗で、もう寝てるなら帰ろうと思ったけど…うなされてたから、少しでも落ち着いたら良いと思ってな…」
「そう、じゃあ、貴方のおかげでもあるんだ…ありがとう…」
アルトの温もりが、彼を呼んでくれたのだろう。そう思ったら、感謝は自然に口を突いてきた。
「何だ…?ホントに変だなお前、悪態の一つも覚悟してたのに」
「そうよ、ふふふ…シェリルの感謝を受けられるなんてめったにないんだから…ありがたく思いなさいよね…フフフッ」
「感謝した事を感謝しろ、か…?ははは、おかしいだろそれ、ハハハハ…!」
「ふふふ、ふふ…」
「はははは、はは…!」
こみ上げる笑いを押し留めずに、二人で笑い合う。
シェリルは理解している。あぁ、これは可笑しいんじゃなくて、幸せがあふれだしてるんだな、と。
ひとしきり笑い合った後に、アルトから切り出した。
「…途中から、すごくいい夢見てたろ?」
「えぇ…!ヤダ、顔に出てた…?やだもう、ホントに…」
カァッっと顔が赤くなるのがわかる。どうしよう…彼は背中を向いていたから良かったけれど…
あの時の自分の顔は、とんでもなくだらしない顔をしていたのでは無いだろうか…?
「出てた、笑ってたよ」
「あぁぁ、もう…最低じゃない…!」
「いや…何か、その、すごく安らかな顔をしててさ…あり得ないくらいに綺麗な顔で…その…ずっと見てたかったんだ…」
「~~…っっ!!!…バカアルトッ…!」
逆方向からの強烈なインターセプトだった。暗がりとはいえ、気づかれかねないほどに顔が赤いのはわかったので、シーツを手繰って顔を隠した。
「…夢、誰が出て来たんだ?お母さんとかか?」
「…気になる?」
「…べ、別に!」
「自分かと思った…?ちょっと自意識過剰すぎない~?」
「うるせぇなぁ…」
ゴメンゴメン、と前置きして、シェリルは答える。
「初恋の人…うぅん…ちょっと違うかな…?あった事も無かったし、勝手に憧れていただけだったから…神様みたいな人、かな…?」
「…あった事も無いのに、良くわかったな…」
「うん、顔以外は、良く知っていたから…あの人のした事も、あの人の歌も…アルトとは、正反対だったかなぁ…見た目はチンピラみたいな人」
「…でも、優しかった…?」
「うん、とっても…貴方のおかげ、ありがとうね」
「…俺は何もしてないよ」
「…ねぇ、アルトも、会いたい人、いる?」
「何だよ急に…」
「良いから…来なさいっ!」
アルトの体をぎゅうっと抱きしめる。
「お、おいおい…」
「ふっふーん、どう?安心するでしょ?」
「安心って…お前…!」
アルトにとってはたまったモノではない。こちとら必死で我慢しているというのだ。
アルトの頬に強烈な主張を叩き付けてくる二つの弾力は、理性を削ぎ落とし、本能よ起きろと呼びかけてたまらんのだ…!!
「おいシェリル…!これ以上は本当に…!」
責任持たんからな!とアルトがシェリルの体を組み敷こうとした時。
彼は見た、シェリルの頬に、涙が光っていたのを。
「シェリル…お前…?」
「アルト…嬉しいね…?もういないかもしれない人でも、自分の中に生きてるって事…こんなにも、嬉しいんだね…」
「シェリル…」
シェリルの嗚咽を聴きながら彼が思ったのは、亡き母の事だ。
死別して何年もたつ自分の中に、母親は生きていてくれているだろうか…?
「シェリル、俺は…」
「ありがと…ありがとうね、アルト…」
彼女の温もりの中、アルトは眠りに落ちていく自分を自覚する。
「アルトも、会えると良いね…大事な人に」
シェリルの胸の中、アルトは安堵に埋まっていった…
シェリルはアルトを抱きしめる。彼がシェリルに温もりを与えてくれたように、自分もそうありたい、と。
シェリルはアルトを抱きしめ続ける。彼に安らぎが訪れる事を願って。
願い続ける。
願い続ける…

―――さよなら さよなら 愛しい人  貴方が居たから 歩いてこれた―――

―――一人なんかじゃ無かったよね…?  今答えが欲しい…!―――

―――燃えるような流星捕まえて 火を灯して―――

―――愛していたい 愛されてたい…!―――

―――冷えたカラダ一つで世界は どうなるの…?―――

―――張り続けてた 虚勢が溶けていく LONG FOR―――



本作品の登場人物一覧


  • シェリル・ノーム

  • 早乙女 アルト
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