Sheryl Nome ~シェリル・ノーム~@Wiki

やさしいおとな

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~やさしいおとな~   Presented by 46-424


この物語は、マクロス正史のパラレルワールドです。
十分承知の上、ご覧下さい。




 『 熱気バサラに隠し子疑惑。 相手は同バンドのミレーヌか?! 』

 銀スポの一面を飾ったそれに、ミレーヌは呆れたように溜息をついた。
 この手のものは何度かあったが、今回は事態が事態だ。 どうしたものやら……。
 膝の上で眠る幼子を起こさないように銀スポとにらめっこをして、それをテーブルの上に置くと心底バサラに対して馬鹿ー!と叫ばずにはいられなかった。
 ……無論、心の中での話である。


 事態は銀スポは発行される一週間前に遡る。


 インターフォンが部屋に鳴りベースのチューニングをしていたミレーヌが部屋を空けると泥だらけになった男と、その後ろで彼にしがみ付く幼女の姿があったのである。


「どーしたのこの子」
「拾った」
「拾った、って……どこで?」
「どこでもいいだろ、そんなもん」

 つーことで、何か飯作っておいてくれ。
 泥まみれの少女と、泥まみれのバサラの唐突の来訪に迎え入れたミレーヌは呆気に取られた。
 久しぶりにふらりと帰ってきたと思ったら、子連れ?! 相手は?! そう怒りたい気持ちがあったのだが。
 ……確かに、そこにあったのだが。
 バサラにしがみ付いたままの少女は自分をじい、と見つめているものだから、怒るに怒れなくなった。
 しかも、俺の子供、とかではなく「拾った」という。 意味が分からず混乱するミレーヌに対してバサラは「ちょっくら歌ってくる」といって街中に飛び出して行ってしまう。
 ミレーヌの部屋に二人残され、困惑している少女を目にして、ミレーヌはどうしたものか、と頬に手を当て彼女をじい、と観察した。
 ―― 何とか! どうにか話をしなくては!


「え、っと……お名前は?」
「……」
「あ、そっか、自分から言わなきゃ駄目か。 私はミレーヌ、こっちはグババね」

 肩に乗っていたグババがぴょんと跳ねて少女に挨拶をするかのようにお辞儀をした。
 きぃ、と鳴るグババが珍しいのか、少女は目を大きくさせてグババとにらめっこを始める。
 まるで昔の自分を見ているような心地がして、どこかミレーヌはほほえましく思えた。
 揺れるピンクゴールドの淡い髪は泥だらけで穢れており、梳かされてもいない。 まぁ、バサラだからそんなもの期待したところで無駄ということだろう。

「で、あなたのお名前は?」
「……しぇりる」
「そっか、シェリル、うん、いい名前だね」

 よろしくね、シェリル。 ぎゅうと、その小さな手を両手で包み込んでミレーヌは笑うと、シェリルは狼狽した。 大人というものは「酷い」というイメージがついてしまったからだろう。 びくりと肩が震えたのをミレーヌは見逃さない。
 抱き上げてみれば、シェリルは予想以上に軽くて驚いた。
 ……何を食べて、今まで過ごしていたのだろう。 想像するだけで、背筋がぞっとする。
 そして、シェリルの服装が襤褸切れのような格好であること。 彼女の顔だけではなく全身が泥だらけ、髪も油でしなっていて、異臭がしていることに改めて気づく。
 女の子相手にこの格好は酷い。 同じ女としてミレーヌは目をちょっと吊り上げたが、それに関しては一緒に連れてきたバサラに対してなのでシェリルに非はない。
 出来るだけシェリルに向かって優しい言葉をかけるように深呼吸を一つし、彼女をもう一度抱き上げた。

「シェリル、じゃあまずはお風呂、入ろっか」
「……おふ、ろ?」
「そう、お風呂」


 抱き上げたまま、ミレーヌは彼女を風呂場に連れて行き丹念に体を流し、髪を洗ってやった。
 襤褸切れのような服なんて女の子に着せるものではないため、ミレーヌのピチTを着せてみると、それすらもダボダボという事態に陥るが、取りあえずはそれでひと段落。
 ふわふわとした髪、ぱっちりとした瞳。 汚れていた姿とはまるで違う可愛らしい姿。 まるで人形のようだ。
 そんなシェリルを椅子に座らせ、グババに相手をしてもらい自分はチャーハンを作っているとやがてバサラが帰ってきた。
 バサラもバサラで酷い格好をしていたが、まぁバサラはいつものことなのでいいとしよう。
 がっつくように食べるシェリルの横でミレーヌはバサラから大まか……一般的に言われる大まかの枠を更に飛び越えた大まかな説明を聞いて、溜息をついた。

「そっか。 ……で、どうするの?」
「どーするって?」
「この後」
「……あー」

 考えてなかった。 あっさり言い切ったバサラに頭をミレーヌは痛めたが、シェリルはバサラの前だとニコニコと笑い、彼のそばから離れない。
 そして、バサラもそれが嫌ではないらしい。

「養子にしちゃうとかは?」
「そーだな、そうするか。じゃあ手続きよろしくな、言いだしっぺ」
「ちょっと!それぐらい自分でやりなさいよー!」
「熱気バサラ、だからNだな、よし、お前は今日からシェリル・N・ノームな」
「バサラー!人の話聞きなさいよー!」

 ぷんすか怒ったところで意味は全く持ってない。
 ミレーヌは愚痴りながらも、シェリルの服購入と市役所に手続きのため部屋を出て行った。
 残されたシェリルは「シェリル・N・ノーム」という言葉が気に入ったのか、何度も繰り返してバサラの膝の上で笑う。 そして、彼もまたシェリルのために歌を歌ってやっていた。
 しかし、その結果、まさか銀スポにかぎつけられるとはミレーヌもバサラも、そして当然シェリルも予想にしていなかった。
 ……振り返ってみたところで、事態は変わらない。


 膝の上で眠るシェリルのあどけない表情にささくれた心を癒しながら、ミレーヌは本日何度目か分からぬ溜息を零した。
 けれど溜息ばかりついているわけにもいかないので、半ばやけっぱちで歌を歌う。 ワンフレーズ、ミレーヌが歌えば今まで寝ていたのが嘘のようにシェリルは瞳を開いて、ミレーヌをまじまじと見ている。
 もっと歌ってほしい、ということなのだろう。
 ミレーヌも「歌手」だ。 よし、と言うとベースをひっぱりだし、その弦を弾きながら歌えば、あわせるようにシェリルも歌う。
 ……これが、ミレーヌとシェリルの初めてのセッションとなった。
 後々、シェリルはそのことを振り返り、その頃からミレーヌに憧れていたのだと告白し、バサラに「全力でやめておけ」と即答されたのは言うまでも無い。

 それが、ミレーヌとシェリルの最初。 また、隠し子疑惑が一面に出た銀スポに関しては正式にシェリルがバサラの養子になったため、自然に沈下していったという。



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