シン・海より深い父の愛
――なんでこんなコトになっちまったんだっ…?
「オラアッ!!」
イライラが頂点に達した俺は、矛先を身近にあった自販機にぶちまける。
蹴りを三発、四発、五発。
破片は散乱しガラスも粉々、自販機は完全大破。
「マジでどうなってんだよ!訳わっかんねぇし!この畜生がっっ!!」
クソッ…まだ収まりつかねぇ…。
なにが殺し合いだ?なんでこの俺がそんなくっだらねェもんやらなきゃいけねぇんだ。
本当に理解できねぇ。
あぁ…あぁああ……
あああああああああああぁぁっっ!本当に意味わかんねぇしムカつくんだよ!!
「死ねやゴラアアアッ!!!」
俺はもう一発自販機だった物にお見舞いしてやった。
チッ、ざまあみろクソッタレ。
…ハァ、ハァ…。
俺は自分に対し偉そうな顔をしやがるやつが大嫌いだった。
小学校時代、もめた同級生にエンピツをぶっ刺して失明させてやった。
中学時代、威張ってばかりの無能な先輩にフルスイングをかまして不具にさせた。
高校時代は肩をぶつけてきやがったみみっちい男の目の前で彼女を犯して土に埋めてやった。
そして、俺は成人式を終えた後、酔った勢いで2人の女をまわしてぶち殺した。
だから、殺しなんて今更躊躇なんてないはずだった。
だけどよ…。
「俺は勝ち残れるのか?この殺し合いで…」
なんなんだこの体の震えは…。
不安を感じてるのか俺は…。おいおいっ。
…チクショウ…チクショウ、チクショウ!!
畜生ッ!!ああああああああぁああ!!!
…あぁ、やってやる。
やってやるよ、俺様がよぉ!
急いで全員ぶち殺して、俺一人だけが勝ってやる…ッ。
「あっ…そういや武器がどうとか言ってやがったな…」
いつの間にか背負わされてるディパック。
クックク…、
割と重みがあるから結構なモンが支給されてるだろうぜ。胸が高鳴るっつーの。
俺はさっそく中身を探り求めた。…って、これは…。
「お、おいおい…マジかよ…」
…は…はははっ、ははぁっ!
本物のチャカ?しかもこれ絶対組で使うようなもんじゃねぇか。
一応俺も組織の一員だが、一回も触らせてもらえなかったんだよな、銃。
他の参加者共がナイフだのチンケな物貰ってる中、当たり武器引いたとなりゃテンション上がるぜっ。
さっきまでの不安は吹き飛んじまった。
銃を持つと気分が変わるな!
「俺は最強…!延人爆走伝説!…ふふ、ふふふっ…」
俺こそが優勝者だ!ひっひひ…。
…んああっ?なんだこの紙は?
―
――
あー…、他にはこいつらが殺し合いしてますよー、って一覧表か。
どれどれ見知った名前は……。『鳥栖鉄雄』…。
聞いたことあるような~…まいっか、こんなゴミ野郎。
…『窪』。
あの糞野郎か。態度には出してねぇが奴は絶対俺を蔑ろに思ってやがる。
チャカを持たせてくれなかったのが一番の証拠だ。
こいつにはたっぷりお礼参りしてやるぜ。
…えー、でまぁこんなもんか。案外知り合いいねぇってのな。
『マイルス・モラレル』に、『牧瀬…読めねぇっ!』、で俺様の名前『麻取延人』と。
………ん?
あぁっ!!?なんでコイツまで…
―――その時、経験したことのないような痛みが後頭部に響いた。
「ぐんぎゃあげへっ!!!」
痛ぇええあああ…っ!ぐああっ!
ク、クソっ…!襲撃かあっ…?!
クソッタレ名簿に夢中で背後に気が付かなかったんだ…。頭が痛ェッ……!
後頭部がジメリと濡れていく。
頭の血管が鼓動と連想してブチ破れそうなくらい脈を打つ。
「あっ…うっ…あぁ…」
ひゃっ…!嫌だっ…!
…ヤバい!!ヤバい!!ヤバい………!!ヤバ……い!!絶対ヤバ…い絶、対ヤ…バい…………!!
痛い痛い痛…い痛………い、いぎぎぃぃ…、死にたくないっ………!
こ、こんな…。
こんな、くだらねぇ………っ所で、今始まった『最強延人伝説』を終わらせたく、………ねェェん、だよ、おぉぉ…
――また、再び、鈍器は振り下ろされた。
―――その一撃で俺の頭蓋骨が粉々に砕け、脳みそは陥没し、視界は闇に包まれる。
――――最後の瞬間、俺の脳内は怒りと恐怖で、その外見通りグチャグチャにおかしくなっていた。
◆◆◆
僕自身に殺しの経験はない。
奪った命はあれどそれはアゴで使ってる組のゴロツキ共に指示してのことだ。
直接の経験はない。
だからこのファイナルウォーズに巻き込まれたときは正直、激しい混乱に包まれた。
――――コノ時、僕ハ錯乱シテテ分カラナカッタンダ―――
「はぁ…はぁ……。」
目の前には男が出血をして倒れている。
…あぁ、僕が殺したのだ。
「申し訳ない、許してくれ。はぁ…はぁ…でも仕方ないだろう…?」
そう、しょうがなかったんだ。
僕だって本当は殺し合いなんて乗りたくなかった。
でも、あの紙を見たとき。あの『名前』を見つけたとき。
―…父親なら誰だって同じ行動をするはずだ。
なるべく死体を見ないように、僕は男の荷物を回収する。
そして、その場を離れた。
―――マサカ、自分ノ息子ヲ。愛シテイタ息子ヲ。―――
「待ってろよ、延人…」
はぁはぁ…。
「父さんが絶対に助けてやるからな」
今度こそ守ってやるから、父親として。延人を―。
―――自分ノ手ニカケテシマッタダナンテ、―――
―――最低ダ、俺ッテ………―――
【麻取延人@マイホームヒーロー 死亡確認】
【残り82人】
【D6/繁華街/1日目/深夜】
【麻取義辰@マイホームヒーロー】
[状態]:精神異常、疲労
[装備]:ブルックリンのバット@ONE OUTS
[道具]:食料一式x2(未確認)
[思考]基本:麻取延人を優勝させる。
1:ほかの参加者を見つけ次第殺す。
※
参戦時期は死にかけの恭一から電話をもらう前あたりです。
※気が動転して正常な判断ができていません。
※そのため、撲殺した男が延人であることに気づいてません。
最終更新:2023年10月21日 23:56