シンジ「なにがBRだよ!」
『第十弐話「なにがBRだよ」/EPISODE 12』
- Eccentric boy saw "Attack on Titan".-
広大な原生林。シダや苔、緑の木々が生い茂り、川のせせらぐ樹林の中で少年は隠れていた。
しげみの中で身を隠す小動物を体現するように、小さく縮み込む少年。
人は「緊張」という大きな壁を目前とした際、落ち着きがなくなる習性を持つ。
少年は頭に爪をたて必死に搔きむしった。震え続ける歯は、舌のその柔い弾力をかみ続けた。装着したイヤホンから最大音量のミュージックを耳に流し込んだ。
彼は今まさに、恐れを前に冷静さを無くしていたのだった。
「これは夢だ…これは夢だ…これは夢だ…これは夢だ…これは夢だ…これは夢だ…これは夢だ…これは夢だ…これは夢だ…………………!」
止まらぬ全身の震え。その口は、助けを欲しがるかのように同じフレーズをくり返し発している。
頭を掻いたあの行動はもしかしたら痛覚で夢から覚まそうとした意図があるのかもしれない。
碇シンジは、目をぎょろつかせて、必死に現実逃避を行っていた。
「夢なら覚めろ…覚めろ覚めろ覚めろ…………っ」
…急にこんなことになっていて、訳が分からなかった。
アスカや綾波、ミサトさんの他に、見たことのない老若男女様々な人間が沢山いたあの宮殿内。まるでパーティに招待されたかのようだった。
只でさえ把握に困る現状であるのに、ここからの出来事の連発は荒唐無稽の極みで「夢を見てるのかな…?」と思うのも無理はなかった。
しゃべる巨大なペンペンとカタツムリ、モニターの男が発した「殺し合い<ファイナル・ウォーズ>宣言」。
まるで虫のようにあっさりと殺されていく参戦者<みせしめ>たち…。
赤。紅。どす黒い赤。血血血血血チチチチチチチ。爆。
「覚めろ覚めろ覚めろ……覚めろォオッ!!」
ふざけた虚構の夢か、狂いきった現実なのかも判断がつかぬリアル。
いや、シンジは本当はこれが現実と分かっていた。頭では理解した上で「もしかしたら夢なのかもしれない」という一筋の希望にすがっているのだ。
要はこのリアルから逃げているのである。
頭を握り拳で打ち続けるシンジ。覚めろ、覚めろ、と鼓動が激しくなり止まぬなか自傷は止まらなかった。
「……………覚めてくれ、よ…………っ……」
だけど――
手に入れたのは鈍い痛みと涙のみ。自分を殴ることをやめた時、シンジは現実を前にただ絶望する他はなかった。
「みんな消えろ…消えろ…消えろ…消えろ…消えろ消えろ消えろ消えろ………」
うわ言のように発せられた次の言葉は「消えろ」。
握り拳を開いたシンジは顔をその手で覆いかぶせると、壊れたオモチャのように延々と呟き続けた。
無論、消えたいのはシンジ自身である。限界までに透明になって、自分のいた痕跡を後かともなく消し、この狂った世界から抜け出したい。
その言葉の反面、彼の精神はどす黒い物に飲み込まれていく。それでも、なんでもいいからここから逃げ出したかった。
だが、消えることなどなくその「音」は近くから現れた。
ぼそぼそっと男の話し声が聞こえたのだ。
「っっ……――――!!」
声に気が付いたシンジは慌てて口をふさぐ。
前か、後ろか見当はつかぬが自分の近くに確実にいる第三者。
奴はブツブツと唱える自分に気づいているのだろうか。奴は殺意を持っているのだろうか。
恐れのあまり震えが止まらない。声を殺して必死でじっとしたが、心臓は響き渡るようにそのやかましい高鳴りを辞さなかった。
(ぁあ――あ…ぁあぁぁぁああああああああ! 消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ!!!!!!!)
そう頭の中でリフレインし続けた。
幸運にもシンジの必死の願いが通じたのか、その第三者は茂みに気づかぬ様子でアクションを取ることは無かった。
話し声は続いたが、それでもシンジに近づく様子はなし。
(………………………。)
身動き取らずじっとした為、心にわずかばかりの平静が訪れたのだろうか。
シンジは、そっと草の隙間から、声の元を覗き込んだ。
落ち着いてないときは、普段なら見えて当然の物が視野から外れることがある。
シンジは頭を向けるまで気づかなかった。その第三者が、対面するもう一人の参戦者に向かって話していたことに。
視界に映ったのは、がっしりとした体つきの男が二人。
一方の第三者は、なにやら引きつった様子で声を荒げる様子。
もう一方の男は、黙りつつも、切り裂くような鋭い目つきで話を聞いていた。
次の瞬間だった。
シンジの網膜にしっかりと焼き付けられたのは、血飛沫。
「あ――あ、あ」
男の首が放物線を描いて緩やかに飛んでいく。
発酵しきったワインのように勢いよく噴き出す鮮血の噴水と、支えを無くし崩れ落ちるマリオネットの胴体。
瞬時にして草原は真っ赤な水溜まりで濡れ果て、平穏さを消し去られる。
人はこうまでもあっけなく殺されるものなのか。
まるでスラッシャー映画のような残虐シーンがそこにはあった。
「ぁ………っああああ………!」
シンジは目撃者──として、まるで夢心地の「狂気の世界」に入り込んでしまうのである。
◆ ◆ ◆
「どういうことなんだ……? ワケが分からない………」
ベルトルト・フーバーは自分の両手を信じられないといった目でただ眺めていた。
手から流れる血潮、震えるように高鳴る心臓、そして自然と荒くなっていく呼吸。
前触れもなく参加させられた命の奪い合いゲームもさることながら、ベルトルトは今「自分は何故生きているのか」に頭を懊悩させていたのだ。
彼は何故、自身の生存に疑問を抱いていたのか?
(僕は確かに食われたはずだ…………、アルミンにッ……………。)
追憶。
あれはシガンシナ区での
エレン・イェーガー奪還作戦の時だった。
闘いに敗れ、捕らわれた自分は金髪の巨人──恐らくアルミンに捕食され死んだはずだったのだ。
巨人の口内でのあの水滴したたる生暖かい吐息。
奥歯に自分の頭を置かれ、今にも降ろされそうな上あごを見た時の絶望感。断頭前の死刑囚の気持ちが嫌と言うほど痛感させられる。
そして迎える、死。
あの時の「死」の感触は確かなものだった。
なのに自分は今生きている。先ほどまでの決戦はすべて夢だったのだろうか?
いや、それともこの殺し合いが幻かなにかなのだろうか。
104期訓練兵団の同期の中でも英明果敢で、名誉マーレ人としても戦士候補生の名を上げた頭脳優秀なベルトルトでも現状把握は困難を期していた。
「……考えたところで結論なんか出そうにないな…。とりあえず僕はやるべきことをやるまでだ」
だがこの夢か現実かもわからないデスゲームを解決する方法は分かっている。いや、答えは既に用意されてるというべきか。
簡単だ。今は主催者の命令通り、八十人もの人間を全員始末すればいいだけなのである。
ベルトルトにはこの殺し合いで最後のイスまで座れる絶対的自信があった。
彼は支給品である小型ナイフをじっと見つめ呟く。
「…ライナー、今、僕も故郷に帰るよ………!」
自身が保有する「超大型巨人化」の力で暴れ荒らす。一刻もかからず皆殺しは余裕であろう。
ベルトルト・フーバーは人殺しが何よりも嫌いな男だ。
現に、パラディ島を侵攻し、大勢の生命を踏み躙った時の全身を包み込むような罪悪感と自責の念は、自殺なんかじゃ拭えないほどの苦悶に苛まれた。
それでも彼はこのファイナル・ウォーズにて優勝に向かって進み続けなくてはならない。
なにせ、「仕方がない」のだから。
ベルトルトはナイフの刃を掌に置くと、ゆったりと横へスライドさせ──、
「──よせよベルトルト、無駄だ」
突然だった。暗くて野太い男の発声。
自分の名前を呼ばれ、ベルトルトは慌てて背後を振り向く。
「…だ、誰だッ?」
光量乏しき闇夜の森がゆえにその姿は上手く確認できない。
ベルトルトは目を凝らしつつ、呼名したその人物に向かって歩みを始めた。
草原を踏み進める最中、ベルトルトは考える。
その声は聞き覚えのない掠れ切った声であったため、自分の知り合いではないのだろう。
だが、奴は自分の後ろ姿だけを見てはっきりと「ベルトルト」と呼んだ。
つまり目の前の男の正体は、間違いなく自分と同郷の人間。もしかしたらマーレの人間なのではないか、と。
心弛びで警戒心を解きつつ近づくベルトルトであったが、男の明確な姿を見た時安堵感で心の底から解放させた。
彼の考察は的中。男はマーレの軍服を着て、しかも腕章をつけた自分と同じ名誉マーレ人であった為である。
「あぁ、よかった…。あの、すみません。正直理解できないんですがこれ一体何が起こっているんですか?」
ベルトルトは無警戒で目の前のマーレ兵に自身の疑問を問い質した。
黒一色の森の中、風が吹いて草木がざわめきだす。
男はベルトルトの問いかけにフッ、と嘲笑したかと思うと、以降は衣服をただ風になびかせるのみで押し黙っていた。
無精ひげと長くて不潔なボサボサ髪を伸ばし、よく見ればところどころ酷く汚れがつく軍服を着る、まるで路上生活者のようなくたびれた格好の男。
自分の問いかけの何に笑う要素があるのだろうか。男のスルーで訪れる沈黙に、ベルトルトは怪訝な表情を隠しきれずいた。
「…あの、すみません? 僕、死んだかと思ったら殺し合い宣言をさせられて解せないんです。だからあなたも何か情報を教えてくれま…」
「おいっ、お前俺を誰だと勘違いしてんだ? 随分とまあおめでてぇ口調で話しかけるじゃねぇか、ベルトルト」
「………え?」
暗くて重たい男の声で紡がれた言葉に、ベルトルトは呆気にとられる。
誰だと勘違いしてる、と言われてもこのような薄汚れたマーレ兵なんて会ったことも見たこともない。
だが、男は明らかに自分を認知している。というより親しい関係かのような口ぶりで話しかけている。
ベルトルトは困惑しつつも取り敢えずで当てずっぽうをすることにした。
「……あっーーー、もしかして貴方はライナーの叔父さ──…
「ったくやれやれだな。まっ、仕方ねェか。この成りだし、何より俺らには【時間軸の差】があるんだからそら分かんねェよな」
男はベルトルトの言葉を心底うんざりした様子で遮った。
呆れたと言うように頬を指先で掻く仕草を取る。
間を置いて、男は口を開いた。
絶望の淵の底から響き渡るような重苦しい声の、発せられた「言葉」。
男が発した言葉は決して自分の名を名乗ったものではない。だが、その言葉一つでベルトルトはやっと目の前の男の正体に気付かされた。
理解した途端、ベルトルトは血の気を失い、全身が硬直した感触に襲われる。
ベルトルトは何故自分は奴に気付かなかったのだろうか、と自答する。
こんなにも刃のような鋭い眼光を有し、自分に対しての殺気のオーラを放っているというのに。
「お、お前………………………まさか…………」
────この時ベルトルトは思い出した。時は1年前の大樹の上にて。
────ヤツから発せられた恐怖を覚えるような恨み言を。
────鳥籠の中に囚わせていたヤツの、屈辱感に対する激しい怒りの籠った声を。
「『ベルトルト、お前ができるだけ苦しんで死ぬよう努力するよ。』」
あの時と同じトーンで、目の前の男──
「エ…エレン………………………………ッ?……!」
──
エレン・イェーガーは自己紹介代わりにその呪言を吐いた。
ベルトルトは安堵感から一転、戦慄が走らされる。
目の前の邪悪は明らかに古くからの激しい殺意を抱いており、地の底から震えるような恐怖で固まりきっていた。
滲み出る汗。ベルトルトの心は恐ろしさで一杯だったが、一方で思考回路は次から次へと湧き出る疑問で十分なくらい満たされて行く。
思えば自分はここに来てから不可解が常につき纏っている。ベルトルトは呻き声を漏らすように、エレンに疑問を投げかけた。
「………エレン……な、なんで………そんな老け込んでる……んだ…………?」
「お前が最初に聞きたいのはそんなことか?」
「……………………っ」
震えつつもやっとの思いで質問を紡いでいくベルトルトに対し、エレンは表情変えずドライに回答を切り落とす。
友好関係を結ぼうなど全く考えていない、簡単にそう捉えれる冷たい返し。
ベルトルトは分かっていた。エレンが何を聞かれたいのかを、更にそれに対してどう答えてくるのかも予見しきっていた。
息苦しさで詰まってしまいそうなこの一対一の空間にて、ベルトルトは絶望的答えを訊く為に震える口を必死で動かした。
「……何しに………」
「………」
「僕に………話しかけてきた……………」
「お前と同じだよ」
エレンはまたも即答で返す。
ベルトルトの質問に満足したかのように笑ったようだった。
何せエレンからしたらこのやり取りは再演、デジャヴ。ベルトルトの型にはまったようなセリフに滑稽さを覚え嘲笑していた様子だ。
ベルトルトにとっては邪悪な顔に笑みという名の表情を貼り付けただけという印象だが。
「お前と同じなんだよ、「仕方がない」ってやつだ。何せ殺し合い、なんだからよ」
淡々と語られ続ける。仕方ないという言葉。
もはや全身の震えは止まることを知らず制御が効かなくなっていた。
何もベルトルトは目の前の悪なるエレンに恐れを為している訳ではない。ベルトルトが一番怖かったのは自分に間もなく起こる「死」であった。
死というものは人生で一度しか起きぬ概念。
その死という凄惨な体験はもう二度と体験したくなかった。
「にしても殺し合い、なぁ……。考え方によっちゃ抗うこともできるんだろうが……、多分生まれた時からこうなんだろうな俺は」
その死を回避する選択肢はあるか否か。
答えは勿論死にたくなきゃ殺せば良いだけである。
自信の手に握るナイフが震えを振動し、刃先が小刻みに揺れ動く。
「場所も時も関係ない、俺は進み続けるだけなんだ。ベルトルト」
もう、あの巨人に頭を噛み潰された時のような真っ暗な闇は迎えたくなかった。
体の震えに必死で抗い、ベルトルトは刃先を左手の掌へと向ける。
仕方ない?そうだ。この残酷な世界では殺さなくてはいけないのだから。
エレンの言葉が今告げられる。それは開戦の合図でもあった。
「敵を、参戦者を全員駆逐するまで──────っ」
「うわぁぁああああああわぁああっーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
ベルトルトは自信を鼓舞する雄たけびをあげると、勢いのままにナイフを左手に突き刺した。
巨人の継承者は、固い意志決意と共に手に自ら裂傷を与えると、巨人化することができる。
ベルトルトの「超大型巨人」は巨人化の際、核爆発のような熱風と発光で周囲一帯を焦土に吹き飛ばす能力がある。近距離にいるエレンなど一瞬で消し炭となるだろう。
エレンを吹き飛ばしたかった。参戦者全員も、この会場も何もかも吹き飛ばしたかった。ベルトルトは楽になりたかった。
左手から発する鋭い痛覚などもう慣れたものだった。とにかく、自分だけでも生き延びたい気持ち一心でベルトルトは巨人化を実行した。
「………………………………………はぁはぁ……、なんで…なんで…………だよ」
だが眼に映ったのは、ミニチュアのように小さな眼下の殺し合い会場でも、焦土と化した周囲でもなく、ただ血液のみをあふれ出す串刺しの掌のみ。
巨人化が、できなくなっていた。
鼓動が信じられないくらい激しくなってくる。もう痛みには慣れたはずなのに、顔は苦痛で歪んで効かなくなっていた。
「なんでっ…!!なんでなんだよおおっ!!」
「だから言っただろベルトルト、無駄なんだよ。【制限】掛けられちまってんだから巨人にはなれねぇんだよ、俺らは」
ベルトルトはエレンの言葉なんか耳を貸さず、血濡れのナイフを抜いてもう一度、掌の別の個所へ突き刺す。
それでも反応が無けりゃもう一度突き刺す。何度も何度も何度も血眼でナイフを刺し続けた。
手はどす黒い真っ赤に染まりボロキレのようにグズグズとなっても、現実を否定するようにもはやただの自傷行為をベルトルトは続ける。
「なんでだよっ!なんでだよなんでだよなんでっ!ああああああああああああああああっ!!!!!!!」
「まっ、このくらいの巨人の力は引き出せるようだがよ。有難いもんだな」
狂ったかのように穴だらけの肉の滅多刺しに集中を続けたベルトルトだったが、視界は突如として現れた発光によって遮らされた。
目がくらまされる一瞬。
ベルトルトは恐る恐る光源の先に視線を注ぐ。
「な、ぁ、ぁっ、な、なんだよそれっ………!!!」
光が発した先はエレンのすぐ足元の地面であった。
そこから、まるで植物の様に長く長い土の突起物が伸びていく。
突起の柄の先には直角の石のようなものが付いており、地面から伸びてきたこれを形容するなら戦鎚<ウォー・ハンマー>。
いわば打撃用武器が出現していた。エレンはそれを握り、軽々と構える。
「ここっこれって…………戦鎚じゃあないか…………、タイバーの…っ!! なんでエ、エレン…!……お前が戦鎚の巨人を持っているんだよおっ!!」
「戦鎚の巨人」。
ベルトルトが言った通り、この武器は戦鎚の巨人特有の能力である「地形を操り地面から武器を出現させる力」でできたものである。
エレンはマーレ襲撃時に、継承者ラーラ・タイバーを捕食したことによって戦鎚の巨人を手に入れたのだが、ベルトルトはそのことを知らない。
そもそもベルトルトはパラディ島に無垢の巨人が全滅したことも、同期のユミルが死亡したことも、故郷マーレの収容区が壊滅状態であることも、ジークが裏切ったことも知らない。
──自分とエレンとでかなりの「時間の差」があることさえも知らない。
この殺し合いの世界にて、ベルトルトには不可解が大きな足かせとなっていた。
ただ茫然と立ち尽くすベルトルトに、エレンは戦鎚を大きく振りかざす。
「あばよベルトルト。あっ、そうだ。一応言っとくがさっきの「苦しませて死なす」っての、忘れてくれ。んな怨念染みた凶行する気はさんさらねぇんからよ」
「……待て………待ってくれ…………はなっ、話をしよう………………なあ、本当に………………なんで、なんだよ……………」
不可解。そう、ベルトルトにとってはこの終始、端的に言えば説明不足という四文字で苦しまされていたのだ。
もしかしたらエレンに一夜を報いるどころか反撃をできたかもしれないが、理解不能な現状がそれを大きく妨げた。
そして、自分とエレンとで持つ情報量の差も著しく現れていた。俗にいう【時間軸のブレ】によるものである。
「じゃ、もうお終いにしようか。ベルトルト、お前はここで終わりだ」
「ぁああぁ…………………っ!!!誰か、助けてくれ…………誰か誰かっ……!」
エレンは、長い長いハンマーを思考停止して嘆くばかりのベルトルトの首輪目掛けてスイングする。
戦鎚の疾い風を切る音が横から耳に入り込む。
「誰か………誰か……」
「僕はもう死にたくないよおぉおぉおおっ! ライナアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーッ、アニイイイイィイィィィイィイーーーーーーーーーーーーーーー──
──ボンッ、
ベルトルトは何も分からないまま二度目の死を迎えた。
◆ ◆ ◆
碇シンジは口を手で抑えて、必死に絶叫を飲み込み続けた。
網膜に、脳裏にもしっかり焼き付く。
あの死体、あの惨劇、あの処刑、あの殺人現場。全てシンジの目の前で行われたことだ。
眼球は激しく揺れ動き、心臓はやかましすぎるくらいのバウンドを全身に駆け巡らせる。
臨死体験を経たらこんな心理状態になるのか、とシンジはこれまで味わったことのない最大の恐怖にひたすら臆し続けた。
(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない)
シンジは必死に願い続ける。
ベルトルト同様、シンジも説明不足が故この殺し合いの現状をさっぱり分からずにいた。
だからこそ、シンジは何もわからぬまま死にたくはなかった。いや、理解したとしても死なんて求めていなかった。
シンジはひたすらに救いを求める。頭の中で助けをリフレインし続けた。
(アスカ…綾波…ミサトさん…加持さん…誰か誰か誰か誰か助けて…助けてえっ!!助けて助けて助けて助けて助けて助けて)
思考のページに綴られるはもはや「誰か助けて」の連発のみ。実質頭カラッポも同然になっていた。
シンジはそれほどまでにこの現実を拒み、救いを求めていたのだ。
体は動けずとも、心の中は乱れ躍り狂い波が大きく荒れまくる。
シンジは、もはや既に限界へと両足を踏み込みそうになっていた。
──そんな、シンジのヘルプが通じたのか。
まさに奇跡といえよう。茂みに隠れる彼に、救いの手が差し伸べられた。
「おい」
「おいクソガキ、面白い物を見せてやる。ついてこい」
「えっ………………!? いだあっ!!!」
突如シンジは髪を何者かに引っ張られ、乱雑に持ち上げられる。
そのまま引きずり回すようにどこかへと連れてかれそうになっていた。
突然の事のため状況が把握できない。シンジはパニック寸前になりながらも、自分を掴む人間の姿をゆったりと視界に入れた。
「参戦者は全員駆逐しきって、殺してやる。一匹残らずこの世から、な? クソガキ」
エレン・イェーガー。
無精髭で、身なりの汚い鬼畜。さっきまで殺人スナッフの主犯格が、そこにはいた。
「あ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」
【ベルトルト・フーバー@進撃の巨人 死亡確認】
【残り81人】
【B8/1日目/深夜】
【
エレン・イェーガー@進撃の巨人】
[状態]:健康
[装備]:未確認
[道具]:食料一式(未確認)
[思考]基本:皆殺し
1:ガキ(シンジ)を連れまわす
※
参戦時期はマーレ襲撃後です。
【碇シンジ@新世紀エヴァンゲリオン】
[状態]:精神崩壊
[装備]:未確認
[道具]:食料一式(未確認)、ウォークマン
[思考]基本:絶対に死にたくない
1:あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
2:あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
3:あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
※
参戦時期はトウジが入院する前(ミサトと
参戦時期はほぼ同じ)です。
※周辺にはベルトルトの首なし死体が放置されています。(原形は留めてあるので、キクラゲで生き返らせることが可能です)
最終更新:2023年10月27日 00:01