詩歌藩国 @ wiki

名整備士

最終更新:

suzuhuji

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L:名整備士 = {
 t:名称 = 名整備士(職業)
 t:要点 = 帽子,部下
 t:周辺環境 = クレーン
 t:評価 = 体格0,筋力-1,耐久力0,外見0,敏捷-1,器用2,感覚1,知識2,幸運-1
 t:特殊 = {
  *名整備士の職業カテゴリ = 派生職業アイドレスとして扱う。
  *名整備士は整備行為ができ、この時、整備判定((器用+知識)÷2)を評価+3補正することを選択できる。補正を選択した場合は燃料1万tを消費する。
  *名整備士は戦闘前に任意の一機のI=Dの能力に評価+1できる。
 }
 t:→次のアイドレス = 整備の神様(職業),チューニングマスター(職業),ネリ・オマル(ACE)


/*/

-設定文-
長く続いてきた詩歌藩国の歴史の中でも、裏方である整備士が脚光を浴びたことはない。
音楽産業の勃興でにわかに人気が高まってきた吟遊詩人や、街の巡回警邏で人々からも親しまれている銃士隊などと比べ、工場で油にまみれて働く整備士は派手さにかけた。

それはまるで、長い冬の中にいるようだった。
工場で生産されはするものの、燃料と資源を大量に消費するI=Dが軍で運用されることはごく稀で、仕事の大半は保守と点検、その繰り返しだった。
だが彼らが作業を止めることはなかった。
吹雪が吹きすさぶ酷寒の冬であろうとも、異常気象でうだるような暑さの夏であろうとも。
それは一本の糸をよりあげるような日々だった。
緩むことも、たわむこともなく張り詰めた白糸。
そこには一切の妥協を許さない誇りがあった。
いざという時、海の向こうから襲ってくる敵を退けるのは、自分達の機体なのだという誇り。
親を、兄弟を、愛しい人を守るのは自分達なのだという誇り。
想いは整備士たちの心を支え、10ターンを越える長い時を闘い抜く原動力となったのだった。

そして、長く続く整備の日々は、そのまま彼らの経験となった。
莫大な時間に昇る整備作業を経て鍛え込まれたその腕は、職人と呼ぶにふさわしいものとなる。
ベテラン整備工、名整備士と呼ばれる熟練者の誕生だった。
たゆまぬ努力のその末に実った果実は、研鑽によって磨きぬかれた宝といえた。
擦り減ったスパナと使い込まれた保護用【帽子】が年期を感じさせる、昔かたぎの職人。
どこの整備工場にも一人はいる御意見番。
いつしか第一線を退くことになる彼らは、みずからの築いてきたすべてを次の世代へと受け渡すべく、後進の育成に熱心であることも特徴のひとつと言える。
仕事に疲れた後輩たちに、甘菓子の差し入れをする姿は微笑ましい。
それはまるで、息子や孫の家を訪ねてきた祖父のようにも見える。
また工場内に設置された橋型【クレーン】の操作をミスした【部下】をどやしつけるのも仕事のうち。
いつかは自分の後を継ぐ漢だからこそ、必ず全力で叱りつけるのだ。

それはまるで一本の糸のようだった。
切れることも、ほどけることもなく連綿と織られてゆく白糸。
そこには一切の妥協を許さない誇りがあった。

長く続いてきた詩歌藩国の歴史の中で、裏方である整備士が脚光を浴びたことはない。
それはまるで、長い冬の中にいるようだった。
だが新たに開発された水竜や、第五世界における人型兵器のの大動員など、時代は彼らを、整備士を必要としている。
彼らの春は、これから始まるのだ。



-SS- 
男は年をとっていた。研究都市で新米達に激を飛ばし、軍事基地でI=D整備の第一線で活躍していた。かつては武器を手に取り戦場を駆けたこともあったが、自身の老いを感じた次の日剣型銃ベイオネットと紋章エプロンを返上した。軍の教官として生きる道もあったが、彼は羽根のついた洒落た帽子ではなく無骨な水色の帽子を選んだ。それは他の誰よりもネジを締めオイルにまみれることだった。北国人の肌は透き通るように白い。けれど、彼の肌は違った。雪の下で硬くなった木の幹のようだった。屋内照明で焼けた肌に黒いオイルが染み入っていた。


 彼の姿は新人整備士たちの憧れだった。自分の手も彼のように硬い皮で覆われたいと思った。爪と皮の間に黒い油が染み入るほどになればきっと一人前になれると。その頃にはマメのつぶれた手でスパナを握らずに済むに違いないと。後輩を持つようになった整備士達は彼の指示こそ機械の声だと信じていた。今日まで自分達が整備不良でパイロットを殺さずに済んだのは彼が自分達を鍛え上げたからだと誰もが考えていた。自分達の努力がパイロットを救ったとは誰一人思っていない。


 水色のツナギに身を包み、男は部下達の前に立っている。頭には整備班長だけが被るのを許される水色の帽子があった。数十人の部下達は直立不動で彼への敬意を示した。その目には自信と勤労意欲が燃え上がっている。足元には工具箱が置かれている。どれも塗装インクは剥げていた。今この場に居ない部下は宿舎で泥に身を沈めるように眠っていた。

 部下達の後ろには大型のクレーンが等間隔で並んでいる。その間にI=Dがあった。装甲が外され太いケーブルがいくつも突き刺さっている。I=D本体だけでなく付属兵装の整備も行われている。


 「定刻だ、これより整備作業開始。」
 「「「はいっ!!」」」


 男の一喝に整備士達は一糸乱れぬ返事を返した。
 今日は昨日より連中に整備をまかせてみるかと考えた。若い奴らの動きを眺めるってのもむず痒くなるかもしれないが、たまにはいいかもしれない。どうしても我慢できなくなったらいつも通りに戻そう。


 静まり返っていたハンガーの中は一変した。バーナーが金属を焼く匂いがする。電動カッターが装甲を整形し火花が散った。道具を催促する整備士の声がそこかしこから聞こえる。高い天井に音は反響し忽ち耳を塞ぎたくなるような場所になった。けれど、男にとってそれは日常だった。


 あぁ、やはりいいな。私には鍔迫り合いの音よりもこっちのほうがいい。男はそう思った。





設定文:鈴藤 瑞樹
SS:士具馬 鶏鶴
イラスト:豊国 ミルメーク









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