人喰い鳥 ◆mtws1YvfHQ
「時代の流れか」
真庭鳳凰は呟いた。
真庭忍軍の実質的な頭にして真庭忍軍十二頭領の一人。
十二頭領。
元々は頭領など一人しかいなかった。
しかしある時期、頭領を十二人に増やそうと言い、実行した。
その時期、その時代、敵対関係にあった相生忍軍との戦いに勝つため、実行した。
結果は大成功だったと言える。
個々の突出した能力を最大限に活かす事ができ、そして生き残った。
勝ち残ったと言っても良い。
「これもまた」
しかしそれが今ではどうだろう。
半日も経たずに参加している四人の真庭忍軍頭領の半分が死亡。
個々の能力が傑出しているからこその十二頭領。
それが脆くも半壊状態。
化け物だらけだから仕方がない、などと言う言い訳が立つわけがない。
卑怯卑劣を売りとしている忍者が力に圧倒されて負けたなど、笑い話にもなりはしない。ましてや、実質的な頭と言われている真庭鳳凰がそれではなおの事。
こんな現状で生き残れるのか。
勝ち残れるのか。
「思い上がっていたつもりなど、なかったのだが……」
神の鳳凰。
真庭忍軍で唯一、実在しない動物の名を冠する忍び。
なのに。
「このままでは犬で終わるな」
さも可笑しそうに笑い、空を見上げた。
竹の葉ばかりの空を。
しかし何処か力がないように見受けられる。
それに、普段は鋭い眼光も何処か鈍く見える。
そのまま左腕を掲げ、
「負け犬、噛ませ犬ではまったく――笑えぬ」
振り下ろす。
そして己の右腕を。
あたかもやり慣れているかの調子で。
斬り落とした。
回想――それは少し前の事だった。
真庭鳳凰は竹林の中を歩いていた。
ただ北へ。
ただ踊山の頂上へ向けて。
「……しかし、踊山の麓に竹林などなかった筈だが」
首を傾げながら。
相も変わらず色々と考えながら。
無意味に思い悩みながら。
竹林の中をブツブツと。
「む?」
不意に足を止める。
竹林の中にある不自然な光景。
薙ぎ倒された竹。
それも一本や二本ではない。
嵐でも通り過ぎたかのように大量の竹が中途から薙ぎ倒され、辺りに散乱していた。
耳を澄ませ、音を聞く。
気配もなく草を踏み締める音一つしない。
鼻を動かし、
「ふむ」
とだけ呟き、また歩き始める。
血の臭いの濃い方向へ。
気配を殺し、念のために炎刀を構えながら。
意外に早くそれは見付かった。
胸元から血を流し尽くした、しかしどこか満足げな顔をした娘。
遠目に見てもこれと言った持ち物は見当たらない。
顔色からして死んでいるようではあるが。
「………………」
一応の警戒をしながらにじり寄る。
警戒するまでもなく、完全に死んでいた。
しかしそれでも周囲を見渡し、やっと警戒を解いた。
一先ず近くで軽く観察をし、左腕を伸ばし、娘の致命傷となったであろう傷口に触れた。
そして発動した。
「ん――――」
娘の、いや、
匂宮出夢の服に触れ、忍法記憶巡りが発動した。
巡る。
服の記憶を巡る。
放送の終わった頃へ。
放送の始まった頃へ。
ただ倒れたままの時を。
「――なっ!」
そして見る。
殺した、顔に紋様の刻まれた小さな少年を。
その少年と話をし、共に何処かへと去っていく、
「鑢七実!」
更に巡る。
竹林を歩き、途中で妙な娘と男と出会い、竹林に入り、雪上を歩み、かまくらで出会い、七実と共に歩いてきたこの娘。
おおまかにであっても把握した。
異常であると。
化物であると。
そして理解した。
やはり七実はそれ以上の天災であると。
「妙な者が……いや、妙な化物がやはり多いか」
そして、それらにむざむざ殺されないようにするためにはどうするか。
簡単だ。
――回想、終了。
「――堕ちればいい」
異国の宗教にもある、天国から地獄に堕ちた天の使いのように。
十二の刀の一本を得て最強の座から自ら堕ちた堕剣士のように。
神などと呼ばれている今から。
「同じ化物にでも」
右腕を伸ばし、手近な竹を握る。
竹の握った部分は手の中で屑になり、上の部分はただ倒れる。
「――やはり付けてすぐでは制御が効き難い。が」
倒れた竹を無視し、そう言いながら手を握ったり開いたりと。
匂宮出夢の腕の具合を試し始めていた。
先ほど真庭鳳凰が自身の腕を斬り落としたのは周知の事実だろう。
そしてくっ付けた。
出夢の腕を死体から切り離して。
忍法命結び。
それを使って。
全力を出せば、
「それでも」
体を捻り、全身の力を込め、振るう。
片腕のない死体に。
人すらも喰い尽くす右腕を。
たったそれだけで、地面は抉れ、血肉が散る。
「十分な威力だ。なるほどこれが――《一喰い》か」
その光景に頷く。
予想通りの光景に頷く。
そして、首を振る。
「しかし、これではしばらくまともに物を持てぬな」
地面に落ちていた小石を摘まむ。
あっさり砕け散った。
思わず苦笑いが漏れる。
まだ力の制御がまるで利いていないことが難点ではあるが、それでも今の所は十分。
今後、更に化物の部品を結んで行けば良い。
優勝するにしろ、別の何かをするにしろ、どちらにしろ、どちらにしないにしろ。
強くなって損はない。
堕ちて行って損はない。
一先ず、何となく、支給品の中身を確認し、
「さて一先ず踊山を登ると――」
見付けた。
名簿を。
二枚目の名簿を。
「――ん? ん? あぁ、虚刀流に返し忘れていたか」
と言う事は放送でしかこの場にいる人間を把握できてない可能性がある。
その可能性しかないの間違いか。
見覚えのある名前のほか、知らない名前も多い。
だがそれでも見覚えのある名前が何人いるかだけでも知っておいて損はない、だろう。
「………………一応、探すとしよう」
片手で地図を広げる。
東に行くと言っておいたのだからまさか着いて来ているはずはない。
北は今しがたまで歩いていたが出会う事もなかった。
そして南は砂漠と海と行く意味を感じられない場所しかない。
そうなれば行っている可能性があるのは、
「西か――ついでに斜道郷壱郎研究施設とやらも見てみるか」
そうして、鋭い眼光をした真庭鳳凰は動き出す。
《人食い》の腕を得てどうなるのか。
それは誰にも分からない。
それでもその後には、胴を喰われた匂宮出夢の死体が残されていた、
【1日目/昼/E-8】
【真庭鳳凰@刀語】
[状態]健康、精神的疲労(小)
[装備]炎刀『銃』(弾薬装填済み)、匂宮出夢の右腕(命結びにより)
[道具]支給品一式×2(食料は片方なし)、名簿×2、懐中電灯、コンパス、時計、菓子類多数、輪ゴム(箱一つ分)、ランダム支給品2~8個、「骨董アパートで見つけた物」、首輪×1、真庭鳳凰の元右腕×1
[思考]
基本:優勝し、真庭の里を復興する
1:西へ向かう
2:本当に願いが叶えられるのかの迷い
3:今後どうしていくかの迷い
4:見付けたら虚刀流に名簿を渡す
[備考]
※時系列は死亡後です。
※首輪のおおよその構造は分かりましたが、それ以外(外す方法やどうやって爆発するかなど)はまるで分かっていません
※「」内の内容は後の書き手さんがたにお任せします。
※炎刀『銃』の残りの弾数は回転式:5発、自動式9発
※支給品の食料は乾パン×5、バームクーヘン×3、メロンパン×3です。
※右腕だけ《一食い》を習得しましたが、まだ右腕での力の細かい制御はできないようです
※E-8の匂宮出夢の死体は半壊状態になっています
最終更新:2012年12月25日 15:30