マイナスパイラル ◆0UUfE9LPAQ
◇ ◇ ◇
――ぐじゅり
◇ ◇ ◇
走る。
奔る。
趨る。
江迎怒江は駆け続ける。
持久力の無い体であるにも関わらず。
今や彼女には体力のことを考える余裕すら抜け落ちている。
足を動かすことをやめない、否、やめられない。
時折歩調を緩めては大きく肩で息をしながら呼吸を整え、ある程度経つと再び走り出す。
捩じ込んだ地図の記憶が抜け落ちた時点で周囲は大まかにしか確認していない。
元より、パニックになった状態で彼女の腐りきった視界には建物の細かな違いなど判別する余裕はない。
だから、小学生の矮躯でつかず離れず尾行している少女の存在に気付くこともなかった。
そして、エリアも変わり地面がアスファルトから土になってしばらく経った頃彼女はとある「もの」に躓いた。
「きゃっ……なに、これ?」
走っていたタイミングだったため躓いた勢いで転んでしまう。
しかし、彼女が躓いたのは「もの」ではなく。
「え…………人吉……君?」
◆ ◆ ◆
住宅街の中、当初の目的地であった学習塾跡の廃墟からどんどん離れ、エリアが変わる頃ツナギは
戯言遣いと
八九寺真宵のことを思考から切り捨てた。
心配をしていないわけではないが、例え引き返すにしてもここまで離れてしまった以上戻っても結果がどうであれ事は全て終わってしまっているだろうならば追跡に集中しようと切り替えたのだ。
「属性は「風」、種類は「反応」、顕現は「化学反応」ってとこかしら……でも魔方式も魔法陣も使った様子が無いのはおかしいわね」
建物の影を利用しながら追いかけるツナギは聞こえないように相手を分析する。
『魔法』使いにしろ『魔法使い』にしろ呪文を用いないで魔法を使うには魔法式か魔方陣のどちらかは必要不可欠なのだがツナギが追う女はどちらも使っているようには見えない。
そもそも傍目から見てもパニックに陥っている精神状態で魔法が十全に発動できるはずがないのだ。
それなのに休むことなく異臭を放ち続ける女はどう見ても「異常」だった。
魔力が枯渇しててもおかしくないのに目的もなく魔法を行使し続け、周囲を気にせず突き進む。
これを異常と言わずしてなんと言おう?
当てはまる言葉があるとするならば、それは――過負荷。
「このまま食べちゃった方が手っ取り早そうね……油断も何も隙だらけだし――あら?」
いつしか周囲の住宅がなくなり、身を隠すものが木だけになった頃、追跡を打ち切って行動に出ようと判断したとき。
ツナギが見つけた「それ」に向かって江迎怒江は突進して行った、ように見えた。
「周りのものが腐ってる……?これじゃまるで――違う魔法じゃない!」
今までとは全く別の現象が起こり、へたりこんで隙だらけの江迎にツナギは近づけないでいる。
相手の正体がわからない以上、隙だらけでも迂闊に近寄るわけにはいかない。
ここでさらに様子見に徹したことが失敗になるとは知る由もなかった。
◆ ◆ ◆
周りに広がる乾き切った血溜まり。
体温を感じない体。
生気を失った顔。
触れるまでもなく死んでいるとわかってしまった。
同時にここまで来るまでの間必死に考えていたことの一つがありありと浮かんでくる。
「死にたくない」と。
死んだらこうなってしまうという事実を敵とは言え知っている人間の身をもって突きつけられた。
ふいに気付く。
触っていないはずの善吉の服や靴が腐り始めていた。
「あれ、どうして……触っていないはずなのに……それに、人吉君は敵同士なんだから……」
どうして?と頭の中で声が響く。
そもそも箱庭学園で最初に手を差し伸べてくれたのは善吉だった。
それがどうして敵同士になっているかと言えば。
「あの男が『あんなつまらない男にひっかかっちゃ駄目だよ』と言ったからで――まさか」
かつては仲間だった男――
球磨川禊の言。
実際は今でも仲間で敵視しているのは江迎が暴走した結果に過ぎないのだが暴走した思考は極論を生み出す。
球磨川は人吉善吉と自分の仲を引き裂いた、と。
一旦気付いてしまえばどんどん進行していく。
ぐじゅり。
服が腐り、肌が露出する。
ぐじゅり。
肌が腐り、肉が露出する。
ぐじゅり。
肉が腐り、骨が露出する。
ぐじゅり。
骨が腐り、臓が露出する。
ぐじゅり。
臓が腐り、全てが消えた。
ああそうか、と一人納得する。
「私、もっと駄目(マイナス)になってるんだ」
いつしか「幸せになりたい」という願望は消え果てていた。
「死にたくない」のなら自分が殺される前に殺してしまえばいい。
そうすれば泥舟さんも有利になって「嫌われず」に済む。
ふと視線を感じ振り向くと100m程先にこちらの様子を伺う少女が見えた。
考えるまでもなく、見ていたのだろう。
それなりの時間座っていたことで体力も回復した。
「覗き見なんて卑怯だなあ。根性腐ってんじゃないですかあ?ふふ、まずはあなたからですね」
見つけた少女を第一の目標に定め、歩き出す。
その濁りきった目に、希望の光は見えない。
◆ ◆ ◆
しまった、とツナギは舌打ちする。
相手の魔法が規格外すぎて目を奪われるうち、自分の気配を隠すことを忘れてしまっていた。
向かってくる女を相手に選択肢は二つ。
迎撃するか逃走するか。
江迎の過負荷『荒廃した腐れ花』は手で触れたところから腐らせるため足や背後から襲えばツナギにも勝機はあった。
しかし、今では近寄るだけでも自身の肉体を腐らされる恐れがある。
かといって逃走すれば自分の身は安全だが
供犠創貴や
水倉りすかに危害が及ぶ恐れがより大きくなる。
ツナギはまだ動かない。
二人の距離の概算は、50m。
【一日目/昼/C‐3】
【江迎怒江@めだかボックス】
[状態]身体的疲労(大)、精神的疲労(中)、出血(中)、口元から頬に大傷(半分口裂け女状態)、ヤンデレ化
[装備]無し
[道具]無し
[思考]
基本:泥舟さん以外の人間は問答無用で殺す
0:覗いていた女(ツナギ)を殺す
1:顔の傷を治療する
2:球磨川さんを殺す
3:地図が欲しい
[備考]
※『荒廃する腐花 狂い咲きバージョン』使用できるようになりました。
※西東診療所か診療所のどちらかを目指しているつもりですが、てんで方向が定まっていません。
ですが、偶然辿りつける可能性は秘めています。
※人吉善吉の遺体を見たショックにより過負荷成長しました。
【ツナギ@りすかシリーズ】
[状態]健康、下半身裸
[装備]
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3)、お菓子多数
[思考]
基本:襲ってくる奴は食らう
0:戦うか逃げるか決める。
1:あの女(江迎怒江)はなんとかしたい。
2:危険人物であるが、勝機があれば食っておくのも手の一つかな。
3:いーさん……。真宵ちゃん……。
4:タカくんとりすかちゃんがいたらそっちとも合流する
5:なんか食欲が落ちてる気がする
[備考]
※九州ツアーの最中からの参加です
※魔法の制限に気づいています(どのくらいかは、これ以降の書き手さんにお任せします)
※処理能力の限度についてもこれ以降の書き手さんにお任せします
※C-3の人吉善吉の死体は全て腐りました。
最終更新:2013年03月24日 12:18