コイスルオトメ ◆0UUfE9LPAQ
000
恋するあなたには私だけなの。
恋する私にはあなただけなの。
001
ぢょきん。
ばさり。
ちょきん。
ばらり。
ちょき。
はらり。
「……こんなとこかしら」
足下に散らばった50cm程の長さの私の髪だったものを見下ろす。
一度切り離してしまえばもう『私の』髪ではないから感慨など抱くはずもなくまとめてゴミ箱に放り込む。
中学生になるよりも前から慣れ親しんでいたこの髪型にこんな形で別れを告げることになるとは思わなかったけれど。
それでも。
阿良々木君を生き返らせるためならこれくらいのことは喜んでするわ。
どうして私がこの殺し合いの場でこんなことをしているのかは。
どうして私が今、こんな場所――阿良々木家にいるかの理由は。
後々説明するとして。
では。
お風呂にしましょうか。
002
かぽーん。
そんな擬音が似合いそうな空間。
何よこれ、普通は温泉で使うものじゃないの。
どうして一般家庭の風呂場がこんなに広いのよ。
広いといってもバスタブは通常サイズだし、というかこの形状のバスタブ今の日本家庭にあるのかしら。
私のアパートは外から丸見えにしておいてやってくれるじゃないのアニメスタッフ。
……いけない、話を逸らしてしまったわ。
湯船に浸かりながらここまでに至った経緯を説明するとしましょう。
――以下、回想。
立ち止まるつもりはないけれど、武器どころか身を守るものすらない今の状態では例え殺して回る気がなくても不利すぎる。
それに、足の状態も確認しておきたかった。
そのために武器として使えそうなものの調達と身を休める場所を探して地図の一戸建てに向かうことにした。
箱庭学園は禁止エリアになっていて入ることすら許されないし阿良々木君との思い出のあの廃墟は身を休めることはできても物を調達するにはとてもじゃないけれど向いていない。
それに、なぜわざわざ施設ですらない一戸建てなんて建物が地図に表示されているのかも気になったから。
最短距離を歩くと引き返すことになるからちょっと遠回りすることになってクラッシュクラシックに寄ることができなかったのは残念だったけれど。
そして辿り着いて見た表札は『阿良々木』の四文字。
正直驚きを禁じ得なかったわ。
わかっていたら人吉君に聞かれたときにここを答えて――いや、彼も聞くまでもなかったでしょうね。
まあ、わからなかったおかげで
黒神めだかに出会えたのだからわからなくて正解だったのでしょうけれど。
土足で上がるには若干抵抗があったけれど我が儘を言っていられるわけもなく。
まずは私より前に来訪者がいたのかの確認。
2階の、よりによって阿良々木君の部屋に画鋲が撒かれていたのを見つけただけでそれ以外に戦闘の跡は無し。
……当然だけど誰だったのかを特定するのはほぼ不可能ね。
画鋲を跳び越して阿良々木君の机に向かう。
欲しかったものはすぐに見つかった。
鉛筆、、コンパス、三色ボールペン、シャープペンシル、油性マジック、修正液、定規、カッター、ホッチキス、etc……
重さをなくしていた2年間、身を守るために、時には武器として使っていた文房具。
さすがにアロンアルファ、万年筆や彫刻刀はなかったみたいね。
あれくらい持っておきなさいよ。
銃や刀といった人を襲うためのものに比べたら劣るけれど、使い慣れたという点では私にぴったりなもの。
それでも、致命傷は与えられないから包丁もいただいておいた方がよさそうね。
ノートを一冊拝借して画鋲を部屋の隅に寄せる。
あら、結構勉強してるじゃない、意外ね。
テストのとき面倒見てあげたんだしやっていなかったら怒るけれど。
さて、一人分の文房具じゃ心許ないし、妹さんの部屋も見せてもらうとしましょうか。
今度は跳び越えることなく部屋を出た。
003
回想終わり。
髪を切った理由と風呂に入った理由が説明されていないって?
くどいわね。
しつこいと嫌われるわよ。
それについてはこちらについて説明した方がよさそうね。
私の最後の支給品――携帯電話。
わざわざ元々使っていたものと同じ型をよこすなんて癪だけど中身は別物。
外部の番号や阿良々木君の電話番号にかけてみたけど当然繋がるはずもなく、おそらく電話帳にある番号と同じように支給されている携帯電話ぐらいしか繋がらないのでしょうね。
電話帳に登録されていた施設は豪華客船、スーパーマーケット、薬局、レストラン、骨董アパートの5ヶ所。
地図の南東側、GとHにあたる部分。
そして、ランダム1とランダム2と登録されてはいるけれど電話番号は表示されない謎の登録先。
親切に説明がついていて、この会場のどれかの携帯電話に繋がって、以降は固定されるらしい。
つまりは、二人の参加者とやり取りできるかもしれないということ。
被ることは無いと思いたいけれど死体に繋がる可能性もあるし相手が出ない可能性だってある。
運良く相手が出たとしてもスタンス次第じゃ無駄以下になるかもしれない。
そう考えると安易にかけるのは危険、ということで手をつけられないでいるんだけれど。
そして、電話番号以外にも何かないかと探してアクセスして見つけたのが
掲示板。
これはいいものを見つけたと喜ぶ前に阿良々木君の家に辿り着いたときよりも大きな衝撃を受けた。
2:目撃情報スレ
2 名前:名無しさん 投稿日:1日目 午前 ID:MIZPL6Zm
黒髪で長髪の女性が返り血を浴びているのを見た
もしかしたら殺し合いに乗っているかもしれない
この書き込み、ほぼ間違いなく黒神めだかのことでしょうね。
私もあのとき人吉君がはき出した血を足に浴びてしまっているけれど、私はあれから誰にも会っていない。
だけど、時間が経った今人に出会えばあらぬ誤解を受けてしまわれかねない。
いや、確かに私も殺し合いには乗ったけれどもそう吹聴して回るのはどう考えても愚策。
私以外にも乗った人はいるんだし到底太刀打ちできないような強い人はそういう人に任せておけばいい。
最後に漁夫の利をかっ攫う形でもいいから優勝しなくてはいけないのだから。
なればこそ、この書き込みを利用させてもらいましょう。
血がついているだけでなく、阿良々木君の死臭も移っちゃっているでしょうからそれを落とすのと、長髪をやめる。
死臭であれ阿良々木君の匂いは落としたくなかったけれど、これも他人に怪しまれないため。
男物でちょっとだけ迷ったけどサイズがほぼ同じ阿良々木君の服を借りることができたのは助かったわ。
それに、ご丁寧に妹さんが使う髪用のハサミも洗面所に置いてあったし。
一度決意してしまえば躊躇うわけもなく、ばっさりとハサミを入れた。
004
これでおわかりいただけたかしら。
ふむ、髪が短いと乾かすのが早くて楽ね。
今は阿良々木君の服を着て阿良々木君のパーカーを羽織って阿良々木君のベッドの上に座っているのだけれど。
……かなり犯罪的な響きね、うっとりしちゃう。
というのは冗談。
あら、この男私を差し置いて他の女を寝かせたわね。
妹さん二人の他に更に二人……?
全く、生き返らせたらたっぷり教育してあげるんだから。
いけないいけない、ついつい話が逸れてしまうわね。
語り部としてちゃんと本分を全うしないと。
入浴シーンはどうしたのかって?なんのためにキング・クリムゾンさんがいると思ってるのよ。
……もちろん嘘よ。
長々と語らせるからその間に上がっただけ。
家に浴槽はないから長風呂したくなったけどさすがにそこまでする余裕はないし。
足ももう違和感はないし文房具も刃物も調達できたからここにいる理由はないんだけど一つやっておきたいことがある。
さっき見つけた掲示板。
あのときは自分の特徴を消すことに躍起になっていたけれど書き込むこともできるはずよね。
そして、私は『本当の』情報を持っている。
「恋人が殺された」なんてストレートに書いたら私のことを明かすに等しいから言葉を濁さなくてはならないけれど。
それでも、「黒神めだか」の名を書き込むだけで大きな効果はあるはず。
彼女を殺すのは私がしなければならないことだからその役割を他に譲るつもりは一切ない。
ただ、彼女の味方をする者が現れなければそれで十分。
放送まで時間もないしこのまま待った方が得策かしら。
掲示板に書き込む文面と平行してあの男をどうするかも考えた方がよさそうね。
あの男――貝木泥舟。
『奇病』を治してやると近づいてきた五人の詐欺師の最初の一人。
こんな場所で金儲けをやるとはとても思えないから私と同じように巻き込まれたと見た方がいいのだろうけれど。
そんな事情など関係なく貝木は殺さなければならない。
殺したところでお母さんが帰ってくるわけでもお金が戻ってくるわけでもない。
とっくにわかりきっているけれどこれは私個人がつけなければいけないけじめ。
でも、あの男は馬鹿じゃない。
むしろ狡猾。
状況が状況なら、私が我慢して手を組めないこともない。
もちろん、最後は確実に殺すけれど。
……どこにいるかもわからない状態じゃ仮定の話が関の山か。
いくら今冷静に考えたところで実際会ってしまえばどうなってしまうかもわからないしこれ以上考えても打ち止めね。
文面も固まったところだし入力するとしましょう。
携帯に手を伸ばし迷うことなく、ボタンを叩く。
五分もかからず送信した。
2:目撃情報スレ
3 名前:名無しさん 投稿日:1日目 昼 ID:xYATEZR1
>>2
その女の名前は黒神めだかよ
阿良々木暦という名の私の知り合いが殺されたわ
武器を持っているかはわからなかったけど体術にも秀でているから見つけ次第逃げることをオススメするわ
005
阿良々木君が生き返ったら私の髪型についてどう思うかしら。
驚くかもしれないし、最初は似合わないなんてほざくかもしれない。
それでも、私の全部が好きと言ってくれた阿良々木君ならきっと気に入ってくれると思うから。
【1日目/昼/B-1 一戸建て(阿良々木家)】
【
戦場ヶ原ひたぎ@物語シリーズ】
[状態]健康、強い罪悪感
[装備]
[道具]支給品一式、携帯電話@現実、文房具、包丁
[思考]
基本:優勝する、願いが叶わないならこんなことを考えた主催を殺して自分も死ぬ。
1:放送を待つ。
2:黒神めだかは自分が絶対に殺す。
3:貝木は状況次第では手を組む。無理そうなら殺す。
4:掲示板はこまめに覗くつもりだが、電話をかけるのは躊躇う。
5:使える人がいそうなのであれば仲間にしたい。
[備考]
※つばさキャット終了後からの参戦です。
※名簿にある程度の疑問を抱いています。
※善吉を殺した罪悪感を元に、優勝への思いをより強くしています。
※髪を切りました。偽物語以降の髪型になっています。
最終更新:2013年03月29日 13:09