阿良々木暦の人間サンドバック ◆1aw4LHSuEI


 月の綺麗な夜だった。
 「I love you」を訳すとき、日本人ならば「月が綺麗ですね」と言えばいい。
 そんなことをかの夏目漱石が言ったという伝承も、どこか納得出来るほどの満点の夜空だった。
 地面に横たわり、僕はそれを眺める。――――懐かしいな。
 それほど昔のことではないはずだけど、戦場ヶ原と初めてデートした時のことを思い出した。
 まだ素直でなかった頃の彼女。デレる前の、キャラとしては今以上にキレのあった彼女。
 ……初めてした、キスの味。
 戦場ヶ原が全てをさらけ出してくれた夜。
 感慨深いものがある。
 空に向かって手を伸ばす。あの時と同じように。
 戦場ヶ原。
 本当に、お前に逢えてよかったと思う。
 僕は、お前に逢えて初めて人を好きになった。
 誰のことも好きじゃなかった僕が、誰かを好きになれるんだと分かった。
 それは、本当に。……本当に、嬉しいことだったんだぜ、戦場ヶ原。
 ……ああ、もう時間があんまりないな。
 ごめん。すまない。許してくれ。
 人間強度の下がった僕では、大切な全員を想起するような時間はないみたいだ。
 ……悔いはある。けれど、その弱さを含めた全てが、戦場ヶ原が好きだと言ってくれた僕だから。
 だから、仕方ないよな。

 …………。

 あれ?
 ――忍が、隣に居た。……そっか、お前はいつだって僕と一緒なんだもんな。
 伸ばしていた手を、しゃがみ込んでいる忍の頭に乗せて撫でる。
 ごめんな、いつもいつもお前に付きあわせてさ。
 ……今まで、ありがとう。

 そして、僕の視界は、徐々に狭くなっていって。
 真っ暗に、なった。


  □  □  □


「――――お前、様?」
「なるほど。これは素晴らしいですね」
「冗談じゃろう……? なあ……」
「古賀さんの回復力すら凌駕し……体力の消耗もない。これほどの異常(アブノーマル)が存在したとは」
「我が、あるじ様……。のう、頼むから……返事、を。あんな、ただ心臓を貫かれただけで、お前様が……っ!」
「ところで」

 黒神めだかは。
 自らが心臓を貫いて殺した阿良々木暦に寄り添う吸血鬼を見下ろして。
 何の感慨も持たないような口調で尋ねた。

「あなたは、なんですか?」
「う、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 吠えた。
 周囲の空気そのものが震える程の絶叫。
 じじつをひていしきれないけれどげんじつをちょくしもできずふるえるこころどうようするきもちあふれだすかんじょう。
 そして、彼女が選んだのは正当な報復行為だった。

「よくも! よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくも我があるじを!
 殺し解し並べ備え晒し喰らい屠り裂き貫き潰し削ぎ契り剥ぎ捻り刈りそしてそしてそして死ね!」

 血の涙を零しながら。
 感情の全てを振り切った忍野忍に対して黒神めだかは。
 たったヒトコト呟いただけだった。
 それは。


       ヒザマズ キ ナ サ イ
      「 跪 き な さ い 」


「――――ッ、ガ……!?」

 それだけで、とても簡単に。
 忍野忍は地面に叩きつけられた。
 『言葉の重み』
 『完成』されたそれは、制限化にあるとすらいえ、伝説の吸血鬼を相手に通じるほどの効果を有していた。

「さきほどの彼……阿良々木暦さんと申しましたか? 彼が、回復能力を持ちながらあっさりと死んだことが不思議なのですね?」

 倒れこんだ忍に近寄って、平坦な口調でめだかは告げる。
 たった今自分を殺そうとしていたものに対して、授業の疑問点に答えてあげる優等生の様に。

「簡単なことです。『理不尽な重税』を使わせて頂きました。……と、言っても何のことだか分からないかも知れませんが。
 分り易く説明するならば、“相手の能力を奪うことが出来る能力”だと思っていただければいいでしょう」

 吸血鬼としての不死性としての回復力。
 それを、奪い去られたことで、心臓に到達した傷を治すことが出来ずに阿良々木暦は死亡した。
 かつて、都城王土が、古賀いたみに対してそうしたように。

「巫山、戯るなぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!
 こんなこんなこんなこんなこんなこんなこんなっこんな程度でぇぇえええええええええええ!!!」
「首輪がないということは参加者ではないのですね」

 めだかは事実を確認する。
 いつのまにか殺した少年の隣に居た少女を見て確認する。
 この殺し合いに置いて殺す必要はない者であると確認する。
 けれど。

「しかし、申し訳ありませんが」

 ドズッ。
 と、効果音が響いた。

「……あなたも、ここで終わりです」

 私が完成する前に、殺されては敵いませんので。
 そう呟いて、黒神めだかは忍野忍の心臓を貫いた。


  □  □  □


 腕を振って、付いた血を払う。それでも残った血液を舌でぺろりと舐めとった。
 制限によるものか。吸血鬼のスキルを十全に能力を発揮できる訳ではないようだ。
 今使用できるのは精精が回復力ぐらいなものだろうか。
 しかし、一人目にして大きな収穫。この調子で行けば遠からず自分という人間は完全に完成するだろう。
 そう、黒神めだかは、

「黒神めだかではありません。黒神めだか(改)です」

 失礼。
 そう、黒神めだか(改)は、思った。

「しかし、理事長も素晴らしいことを思いついたものです。私を完成させるのに、これほどふさわしい舞台はない」

 殺し合いだ。
 殺されそうになったなら、誰もが自分の持てる力全てを持って戦うだろう。
 それに触れることが出来るなら。それと戦うことが出来るなら。
 黒神めだか(改)は、どこまでもそれを『完成』させていくだろう。
 「殺し合いによる完全な人間の想像」
 その理念に至った理由の一つが、彼女の存在だと言ってもいいだろう。

「……それでは、黒神めだか(改)を始めましょう」

 ――――動き出した黒神めだか(改)は、止まらない。


【阿良々木暦@物語シリーズ 死亡】
【忍野忍@物語シリーズ 死亡】


【1日目/深夜/B-2】
【黒神めだか@めだかボックス】
[状態]健康、めだかちゃん(改)、吸血鬼の不死性を『完成』
[装備]
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(2~6)
[思考]
基本:自分という人間を完成させる
 1:色々な異能の持ち主と戦い、その能力を自分のものとする。
 2:ついでに殺しておく。
[備考]
 ※めだかちゃん(改)ですが、時系列的には「十三組の十三人」編の終了後です。
 ※吸血鬼のスキルは制限により不死性以外は使用不可








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最終更新:2012年10月02日 07:51