今、再び語られる物語 ◆T7dkcxUtJw
「――久しいな、虚刀流」
エリアにして、Eの3。
かつて叡考塾と呼ばれていた、しかし今は誰もその名で呼ぶ事は無い、学習塾跡の廃墟。
その廃墟に、おそらく後にも先にも、営業中も廃業後も訪れたことの無いだろう部類の二人の来訪者の姿があった。
一人は剣士で。
もう一人は忍者。
虚刀流七代目当主、鑢七花と。
真庭忍軍十二頭領がひとり、真庭鳳凰。
奇策士とがめによる、四季崎記紀の完成形変体刀を巡る旅の最中――殺し、殺された間柄だ。
「そう、おれは間違いなくあんたを八つ裂きにしたはずなんだが……なんで生きてるんだ?」
「そんなことは我が聞きたいな。我とて、たしかに一度死んだ我が何故こうして生きているのか、理解できていないのだから。
何らかの忍法によるものか、それとも大陸に伝わるといわれる死体を使役する秘術の類か……」
どちらにしても眉唾の域を出ないがな、と鳳凰は続ける。
その姿は、七花の知る真庭鳳凰とまったく同じもので。
鳳凰と親しい、たとえば真庭人鳥のような人間が見ればまた違った感想を抱くのかもしれないが、少なくとも七花が見る限りでは。
目の前の鳳凰は、偽者とか誰かの変装だとか、そんなチャチなものでは断じてなく――七花が殺した真庭鳳凰本人だった。
しかし、本人だとすれば、誰が、どうやって、何のために――。
「〝誰が〟は十中八九最初のあの声の主、もしくはその協力者であろうな。
〝どうやって〟は現時点ではなんとも言えないが――最後の〝何のために〟はほぼ見当がつく」
「何のためだ?」
「単純な理由としては、暗殺専門の忍者、真庭忍軍の頭領の一人という存在が殺し合いの参加者として適していたということ。
単純でない理由としては――虚刀流、おぬしは我がこうして生きているのを見てどう思った?」
「どう、と言われてもな……。さっき言ったことを繰り返させてもらうが『なんで生きてるんだ?』の一言に尽きるぜ」
「そう、それだ……最後の一人まで生き残った者への褒美は覚えているな?」
どんな願いでも叶える。
優勝者に対する特典として、主催者が挙げたものだ。
これを目的に、参加者が積極的に殺し合うことを主催者は期待したのだろうが。
素直に主催者の言を信じるような参加者ばかりとは限らないのだから、そうそううまくいくものではない。
どんな願いでもなんて嘘くさい。そう感じる参加者もいるだろう。とりあえず七花はそうだった。
だが。
そんな人間であっても、現実としてその力を目の当たりにすれば――揺らぐ。
信じないという、選択肢を失ってしまう。
死んだ人間が生き返る――そんな、常識では計り知れない事例を、まざまざと見せつけられてしまえば。
「……死んだ人間の蘇生、か」
「無論、死者蘇生が本当だからといって、どんな願いでも叶えられる証明になるわけでは無いがな。
それでも、何一つ証拠を見せないよりは、格段に信憑性が上がるはずだ。
我をわざわざ生き返らせたのにはそういう意図もあったのではないかと、我は思っている。こちらとしては好都合だがな」
「……好都合?」
「なにはともあれ、こうして復活できた。もとより二度も殺されてやるつもりも無かったが、願いが叶うというのならばなおさらだ。
――我は再び、我等の目的のために全力を尽くす」
目的。
我等の目的。
真庭鳳凰の――真庭忍軍の目的。
それはすなわち、困窮極まり滅亡の危機に瀕していた真庭の里を救うことだ。
しかし――救う対象はもはや存在すらしていない。
真庭は、もう。人も、里も、すべてがすべて、終わってしまっているのだから。
真庭鳳凰自らが。
終わらせてしまったのだから。
それでも、その目的を掲げ続けるということは、つまり――
「最後の一人になって……願うつもりなのか。真庭の里の、復興を」
「少しでも可能性があるのであれば、我はそれに賭ける。
虚刀流、おぬしにはあるか? 他の全ての人間を殺してでも、叶えたい願いというものが」
「無いと言ったら……正直、嘘になるな」
彼女に、もう一度会える。
考えたことはなかった――否、考えることを無意識に拒絶していたのかもしれない。
それは、絶対にありえないことだと、わかっていたから。
考えたところで、現実は何一つ変わらないし、時が巻き戻るわけでもないと理解していたから。
けれど、今は。
「乗る気であれば、我と手を組まぬか虚刀流」
「手を――組む?」
「この会場は広大で、参加者はあちらこちらに散らばっている。数を減らすのなら、二人で分担した方が効率はいいだろう。
我はおぬしの力を利用したい。おぬしも我の力を利用すればいい。
勿論、目的がともに最後の一人である以上、最終的な破棄を前提とした同盟だが――互いに、悪い話ではないはずだ」
「………………」
おそらくは、これが鳳凰が七花に接触した理由なのだろう。
七花の力を誰よりもよく知るのは、散々その力に翻弄され続けてきた真庭忍軍に他ならない。
故に、七花と敵対するよりは、味方とは言えずとも当面の協力体制をとっておいた方が有意義だと鳳凰は理解していた。
互いに沈黙したまま、時が流れ。
やがて――七花が動く。
傍らに置いてあった自身の背負い袋から、幾つか中身を取り出すと、残りを背負い袋ごと鳳凰に投げ渡す。
「……おれにはさっぱり理解できないものばっかりだからさ。あんたが持っていた方がうまく使えるだろ」
「ふむ。つまり、我と同盟を組むという解釈でいいのだな?」
「そう受け取ってもらって構わねえよ。まさか、またまにわにと同盟なんて考えちゃいなかったがな」
投げ渡された背負い袋を、鳳凰は確認する。
背負い袋は鳳凰にも支給されたものと完全に同一のものだが、中身は少々異なっていた。
鳳凰のものに入っていた道具が入っておらず、逆に鳳凰になかったものが七花の側にはある。
どうやら、人によって背負い袋の中身は異なるようだ、と鳳凰は推測する。
「念のため、何を取り出したか確認させてもらえるか?」
「大半はそのままだぜ、水と食糧、それと書くものと地図を抜いただけだ。おれはそれだけあれば十二分にやっていけるからな。
道具の記録を読み取る――記録辿りだったか? それがあるあんたなら、見たことが無い道具でも用途はわかるんだろうしな」
「成る程、余計な荷物はいらない、か。
……とはいえ、袋が無くては持ち運びに不便だろう。暫し待っていろ」
鳳凰の手で、二つの背負い袋の中身が手際よく移される。
ものの一分で、七花が渡した背負い袋は持ち主の元へと戻っていた。
「……あれ、中身が空じゃねえぞ?」
「おぬしに道具が無用なように、我に食糧は不要なのでな。必要になったとしても、この先いくらでも奪える。
道具の礼だ、それはおぬしが持っていろ」
「そりゃありがたいが、大丈夫なのか?」
「一日二日の絶食程度で参っていては、しのびは務まらぬのでな」
さて、と鳳凰は七花に背を向けると、部屋の扉へと歩き出す。
「行くのか」
「ああ、用件は済んだ。これ以上、ここに留まる理由も無い」
「まずは何処を目指すんだ? 別々の方向に向かった方が、何かと都合がいいだろ」
「ひとまず東へ進もうと思っているが、状況次第では変わるだろうな」
「東か。わかった、覚えておくぜ」
地図によれば、
現在地から北東方面には町が。西南方面には因幡砂漠が広がっている。
砂漠と町であれば、町の方が人は集まるだろうから、鳳凰の選択は妥当だろう。
因幡砂漠がこんな場所にある件については七花はあえて無視する。突っ込んでいたら話が進まない。
「では――さらばだ、虚刀流。
おぬしが死ぬまでに、一人でも多くの参加者を殺すことを祈っているぞ」
「ああ、じゃあな鳳凰。
ただしその頃には、あんたは八つ裂きになっているけどな」
そんな別れの挨拶を交わして、鳳凰の姿は消え。
廃墟には、鑢七花一人が残された。
――これで、よかったのか?
「知るかよ、そんなこと。おれみたいな馬鹿に、何が正しいかなんてわからねえ」
「おれはただ、自分勝手に――好きに生きるだけだよ」
「とがめ」
■ ■
――と、まあ、そんな感じの出だしで。
対戦格刀剣花絵巻!
剣劇活劇時代劇!
刀語の――もとい。
鑢七花の物語の、はじまりはじまり♪
【1日目/深夜/E-3/学習塾跡の廃墟】
【鑢七花@刀語】
[状態]健康
[装備]
[道具]食糧二人分、水、筆記用具、地図
[思考]
基本:優勝し、願いを叶える
1:真庭鳳凰とは違う方面に向かう
[備考]
※時系列は本編終了後です。
【1日目/深夜/E-3】
【真庭鳳凰@刀語】
[状態]健康
[装備]
[道具]支給品一式(食糧なし)、名簿、懐中電灯、コンパス、時計、ランダム支給品2~6個
[思考]
基本:優勝し、真庭の里を復興する
1:東へ向かう
[備考]
※時系列は死亡後です。
最終更新:2012年10月02日 07:51