閃々響々 ◆mtws1YvfHQ
「ぐっすり眠れると思ったんだがなあ」
横になったまま呟いた。
眠れた。もう起きる事もない位深く眠れた。そう思った。
ところがそう言う訳にはいかないらしい。
宇練銀閣は首輪を撫でた。
あの不知火理事長とか言ったか、が言うバトルロワイヤルに参加してみるのも良いかもしれない。
虚刀流と、一度はついた決着を付け直すのも悪くないかもしれない。
しかし、
「久し振りの熟睡――――邪魔されたは苛付くな」
宇練は眠い頭を無理矢理巡らす。
参加するのは悪くないが、気持ちよく寝てる所を起こすような相手の言いなりになって良い物か。
あの不知火理事長とか言うのを殺して逃げ出す。
なかなか良いかもしれない。
虚刀流を含む全員皆殺しにして願いを叶える。
願い。
――砂に埋もれた藩の復活。
出来る筈がない。出来る筈などありはしない。そう思いながら首を振る。
結局はなるようになる。おれ自身で動くのは何と無くらしくない気がする。
そう考えながら上半身を起こして、目を開けた。
場所を確認すると、白い部屋のベットに横になってたようだ。
ベットから降りている最中に部屋の外から足音が聞こえる。
右手が空を掴む。無意識に斬刀を掴もうとしていたのだ。
苦笑する。ある筈がない。奪われまいと抵抗して、負けたんだから。
扉が開いた。
目を向けると、総白の髪を全て後ろに流し、腰に刀を二本差した男が立っていた。
「家鳴将軍家御側人十一人衆がひとり、浮義待秋」
そう名乗りながら刀の一本を鞘から抜き放った。
宇練は何も持たず、浮義は刀を持っている。
既に命運は決まったに等しい。
しかし、その状況に浮義はにやりと笑いながら腰に差していたもう一本の刀を鞘ごと投げ渡してくる。
空中で受け取る。
「一角の剣士と見た。僕が錆や、あの忌々しい虚刀流を越えるための、踏み台になって貰う」
その浮義の、自信満々の態度を無視して、投げ渡された刀を腰に差して右手をそえる。
浮義は自然な動作で刀を下段に構える。
そして思い出した様に口を開き、
「ああ、先に言っておく」
「…………」
「腕がどの程度かは知らないが、油断しない事だ――!」
言い終わった瞬間、宇練まで軽く数m以上は開いていた筈の距離を一瞬で詰めていた。
速い。まさに一瞬。
瞬き一つすると間合いを寄せられていたと言って過言ではない。
その正体は宇練は知らないが、虚刀流の『杜若』よりも自在とされる足運び。爆縮地。
いつの間にか上段に構え直された刀が頭を真っ二つに斬り分けんと振り下ろされる。
それを咄嗟に横に跳び退いて避けるが、そのまま浮義は横薙ぎに片手で持った刀を振りその後を追う。
しかしそれは、
「秘剣零閃」
しゃりん。
音が一つ鳴った時には腕を半ばで斬り捨てていた。
腕だけで済んだのは何かしらの予感があったのか咄嗟に浮義が下がろうとしたからである。
その咄嗟が無ければどうなっていたかは想像に難くない。
驚愕の表情を一瞬浮かべた浮義だったが、すぐさま己を取り戻すと勢いのままに飛んでいく腕付きの刀に先回りし、刀だけ取った。
「…………驚いたな。最初は手品かと思ったが実際にそんな歩法があるとはな」
感心したように宇練が言ったが、浮義は黙ったまま一旦刀を差し直し、自身の服の一部を片手で千切って斬られた部分を縛り上げ、一応の応急処置だけ済ませた。
そして再び刀を抜き、下段に構える。
ちなみに宇練は浮義が応急処置している最中も刀の柄から手を離してはいなかった。
向かい合ったまましばらく、浮義の額に大量の汗が浮かび始めた頃に思い出したように口を開いた。
「音がした時には既に抜刀と納刀を終えている居合いの技……まさか、奇策士の報告書にあった宇練銀閣か?」
「…………」
「そうか。となると油断していたのは僕の方か…………だが、負けるつもりはない。行くぞ!」
片手で持った刀を浮義は真っ直ぐ宇練に向け、言い放つ。
――来る。
宇練がそう思った瞬間、既に抜刀と納刀を終えていた。
しゃりん。
「零閃」
しかし浮義は倒れない。
幸か不幸か腕が斬られた事により身体のバランスが崩れ、移動を、爆縮地の動きを妨げた。
それによって偶然にも零閃を避ける事に成功したのだ。
「白兎」
そして苦し紛れに近いながら宇練の頭に刀が振り下ろそうとする。
が、既に零閃を避けられた事のある宇練は、その偶然すらも許さない。
しゃりん。しゃりん、しゃりんしゃりん。
「編隊」
「開眼!」
浮義の身体は、
「五機」
一瞬とすら言えぬ間に、音が部屋を響いた時には既に、腕が腹が足が輪切りに斬り分けられていた。
部屋と宇練を血肉で汚し、手から抜けた刀が天井に突き刺さる。
「―――― …………見事だ」
そして、床に倒れ伏した浮義はそう振り絞るように言い終え、力尽きたかのように動かなくなった。
しゃりんしゃりん!
と、更に音が二つ鳴ると浮義の首だけが頭と胴体から斬り離される。
それを見ながら、宇練は不満そうに呟いた。
「斬刀より遅いな……」
そして幾つにも分かれた死体の首から何となく首輪を拾い上げる。
拾った首輪を弄びながら思い付いたように、
「浮義待秋だっけ? あんたの名前、一応覚えとくよ」
そう言い残して自分と浮義の荷物を持って宇練は血肉薫る部屋を後にした。
部屋の外で、幸い血塗れになっていない荷物の中身を探ると地図があった。
広げて見ると、早々に因幡砂漠と言う文字が宇練の目に入った。
目を閉じ、下酷城を思い浮かべる。
砂漠に建つ城。砂に埋もれつつある城。
「……探すか、下酷城」
居場所と言える居場所は、あそこしかない。
殺し合いも結局はなるようになるだろう。
来る者は両断し、来なければ無視する。それでいい。
ぼぅっと歩き始めると宇練は無意識に手を刀の柄にやっていた。
だがそれは掴むつもりだった刀ではなかった。
――斬刀。
黙って抵抗して黙って奪われた。なら、今度会ったら全力で奪い返す。
決着をつけ直す時があるとしたら、その時ぐらいしかないだろう。
しゃりん!
音が一つ、鳴った。
【浮義待秋@刀語シリーズ 死亡】
【1日目/深夜/F-5診療所内】
【宇練銀閣@刀語】
[状態]健康
[装備]刀@不明
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(1~4)、首輪×1
[思考]
基本:因幡砂漠を歩き回って下酷城を探す。
1:流れに身を任せる。
2:斬刀は二人から奪い返す。
[備考]
※鑢七花に殺された後からの参戦です。
※斬刀は七花かとがめのどちらかが持っていると思っています。
最終更新:2012年10月02日 07:53