クラッシュクラシックの赤い魔法 ◆H5vacvVhok
そこは、大抵の普遍で普通な音楽に飽きたミュージック・マニアが革命的な音楽を求め、彷徨い、そして辿り着く、
聖地といっても過言ではないピアノバー―――クラッシュクラシック。
その神聖なるピアノバーで、グランド・ピアノの調律をしている若い男が一人。
いかにも音楽家らしい、燕尾服を着たその男は、ややウェーブのかかった黒髪を相当に伸ばしていた。
この男こそが、クラッシュクラシックの店主にして『零崎三天皇』の一人である
零崎曲識だった。
調律を終え、「うん、悪くない」と呟くと早速ピアノを弾き始めた曲識。
マイペースな男だった。
この頃、彼の兄弟である『愚神礼賛』こと
零崎軋識は敵に急襲されているのだが、知らないとはいえ暢気なものである。
そもそも、曲識はこの戦いに首を突っ込もうとは思っていなかった。
彼は、普段からあまり戦いを好まない。 いざという時には、自分から戦線を離脱することからついた渾名が『逃げの曲識』なのだ。
一賊の誰かが危険な目に遭っていると知ってしまったときか、ある『例外』を除いては彼は戦わないし、殺さない。
それが、零崎一賊唯一の菜食主義者―――零崎曲識なのだ。
そうして、一人ピアノを弾いていると
「ごめんくださ~い」
といきなりの来客があった。
声のしたほうを振り向く曲識。
そこには、真っ赤で奇妙な服装をして、真っ赤で奇妙なぶかぶかの帽子をかぶった、真っ赤で奇妙な少女が立っていた。
「道に迷ったのが、あたしなの」
奇妙なのは外見だけではなかったらしい。 やはり奇妙な少女は奇妙な言葉を喋るものだ。 喩えるならば、下手なドイツ語の訳といったところか。
だが、曲識にはそんなこと、どうだってよかった。 そんなこと今この状況に比べれば、非常に些事な問題である。
最近、ご無沙汰だった曲識は彼女を見てもう一つのことしか考えられなくなっていた。
(そういえば、最近内臓マフラーをしていなかったな。 悪くない)
クラッシュクラシックに訪れた奇妙な少女、
水倉りすかは曲識に殺される条件を見事に満たしていた。
「零崎を始めるのも、悪くない」
そう呟いた曲識の演奏は、さらに激しさを増していった。
☆ ☆ ☆
『赤き時の魔女』こと水倉りすかは道に迷って途方に暮れていた。
一人で行動するのは、久しぶりのことだった。
だからなのかは分からないが、りすかはこの戦いでの目的というものを持てないでいた。
(いつもは創貴がとなりにいてくれたのにな……)
まずは、(この戦いに参加しているのか分からないけれど)創貴を探してみるのもいいかもしれない。
この戦いでの基本方針を決めるのは、その後でもいいだろう。
まだ、時間はたっぷりある……たぶん。
(それにしても、ここはどこなんだろう?)
と彷徨い続けていると、一軒の店をみつけた。
看板をみると、クラッシュクラシックと書いてあった。
このまま彷徨っていても仕方がないと水倉りすかはその店に這入った。
這入ってしまった。
☆ ☆ ☆
そして、相対する『少女趣味』と『赤き時の魔女』。
先手を切ったのは当然、音使いである零崎曲識であった。
「――――――!!!」
突然、身体の自由を奪われた水倉りすかは、ここで初めて自分が敵陣の真只中に入り込んでしまったことに気づく。
気づくが、もう遅かった……。
全ては、彼女が迂闊にもクラッシュクラシックに這入ってしまった時点で、すでに終了していたのだから。
「心配するな。僕は苦しめるような殺し方は好みじゃあない。直ぐに楽にしてやる」
言って、りすかのホルスターからカッターナイフを取り出す曲識。
「『笑う』」
曲識がそう言うと、りすかはこれ以上ないというほどの満面の笑みを浮かべた。
「そうだ。――――せめて人間らしく、笑って死ね」
そして、首筋にカッターナイフを当て―――躊躇なく少女の華奢な首を切り裂いた。
世界が、赤く、紅く、朱く、染まっていく。
曲識はその情景に酔いしれながら、今度はりすかの腹部をカッターナイフで切り開いた。
そこから内臓を取り出し、それを自分の首に巻きつける。
暖かい生命の熱気が自分の中に染み込んでくるような、なんとも言えない陶酔感を曲識は感じていた。
(ああ、暖かい。やはり、内臓マフラーは悪くない)
だが、曲識は重大な勘違いをしていた。
たった今、彼が殺したのは人間ではなく、魔女だったのだから。
☆ ☆ ☆
曲識がその異変に気が付いたのは、それから数分後のことだった。
(少女の体躯にしては、出血量が多すぎる! これは、いったいどういうことだ?)
クラッシュクラシックは何時の間にか、血の海と化していた。
これは、揶揄ではなく、本当に血の海が出来上がっていたのだ。
「――――――!!」
首に巻いていたはずの水倉りすかの内臓は、何時の間にか消滅し、りすかの死体もどこかに消えうせていた。
『ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!』
そして、響き渡る笑い声は明らかに女性のものだった。
『のんきり・のんきり・まぐなあと ろいきすろいきすろい・きしがぁるきがぁず
のんきり・のんきり・まぐなあと ろいきすろいきすろい・きしがぁるきしがぁず
まるさこる・まるさこり・かいぎりな る・りおち・りおち・りそな・ろいと・まいと・かなぐいる
かがかき・きかがか にゃもま・にゃもなぎ どいかいく・どいかいく・まいるず・まいるす
にゃもむ・にゃもめ―――』
『にゃるら!』
永劫とも思えるような長い詠唱が終わると同時に、血の海から一人の―――成熟し、完成しきった完璧な美貌を持つ―――女がにゅうと現れた。
「じゃんじゃじゃ~ん!!魔法美女りすかちゃん参上!!!」
なんというか、もの凄く気さくなジョセイだった。
この得体の知れない摩訶不思議な現象を前に曲識は完全に沈黙してしまった。
とりあえず、超音波でりすかの精神に干渉を試みているが、まったくうまくいかない。
「――――――!!」
りすかは、そんな曲識をニヤニヤしながら眺めている。
「無駄だよ。今のあたしには、そんなちんけな暗示なんてきかねえよ」
「な―――!!」
「いまのあたしは、あたし自身の時間を完璧に、完全に、絶対に停めてるからな。
何があろうと絶対に、いまのあたしは殺されないし、操れない」
ま、要するにだ、とりすかは続ける。
「おまえの感じてる時の流れとあたしの時の流れじゃあ、全然違うんだよ」
これに曲識は、観念したように目を瞑り、
「そうか」
とだけ呟いた。
「いいだろう、お前に殺されるというのも悪くない。さあ、殺せ」
これにりすかは、にぃと笑い
「へえ、なんだよおまえ。あたしに殺されたいのか。わかったよ」
と言って、カッターナイフを曲識の胸部に突きつけた。
「おまえは変態でサイコな野郎だったが、おまえの音楽は嫌いじゃあなかったよ。じゃあな」
そして、りすかのカッターナイフがその腕ごと曲識の心臓を貫く―――!!
その顔には、苦痛ではなく、清々しいほどの安らかな笑顔が刻まれていた。
「いい顔しやがって」
呟くと、りすかは静かに黙祷を捧げた。
【零崎曲識@人間シリーズ 死亡】
☆ ☆ ☆
クラッシュクラシックを出た水倉りすかは、再び歩き出した。
相棒・
供犠創貴を探すために!
彼女の戦いはまだ、始まったばかりなのだ!!
【一日目/深夜/C-3クラッシュクラシック】
【水倉りすか@りすかシリーズ】
[状態]健康
[装備]カッターナイフ
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(1~3)
[思考]
1、まずは、相棒の供犠創貴を探す。
2、この戦いの基本方針は供犠創貴が見つかってから決める。
[備考]
※新本格魔法少女りすか2からの参戦です。
最終更新:2012年10月02日 07:55