外物語 ◆mtws1YvfHQ
踊山頂上。壊れ、廃れて、朽ち果てた家々が建ち並ぶ荒廃としたその場所に、一つのかまくらが作られていた。
かまくらっぽい半円形で、出入り口の部分は朽ち果てた家の中でもまだマシだった様子の戸を立て掛けてある上、中央に囲炉裏まである六畳はあろうかと言う本当にかまくらかと疑いたくなるほど大きな物。
その中で、一人の女がいた。
その女の名前は
匂宮出夢。殺戮中毒の、元殺し屋。
そんな彼女は現在、囲炉裏の傍で食事をしていた。
囲炉裏にある鍋の中身は、その辺の壊れた家にあった、雪に埋もれていた物の無事だった樽などの中にあった、味噌などの調味料を勝手に使って作った味噌汁だがその量は一人分ではなく二人分はあるかのように見える。
それをまたしてもその辺にあって無事だった底の深めの器に盛って食べていた。
「…………ふぅ」
かまくらの外は一面雪景色の中で、廃村探しを終えての休憩と言った所だ。
と言っても使えそうなものなんて錆びていなかった包丁と引き摺るぐらい事しか運ぶ事もできない、だがかまくらを作るのに丁度好さそうな場所にあったので中に置いてある、石の刀があるぐらいで収穫はなし。
そしてその包丁も、出夢の両腕に比べればあってないような物に過ぎないので味噌汁の材料を刻んだだけで圧し折ってから元の場所に戻してある。
「うまうま」
現在は何かしらの事が起きるまで今は休憩している真っ最中だった。
良く言えば体力温存、悪く言えば動くのも面倒臭いと言った所だが、膝近くまである雪の中を歩き回ったのだから仕方のない事とも言える。
そうして食事を進めている中、一戸建ての戸が軽く叩かれるような音がした。出夢は箸を止め、じっと耳を欹てる。
が、どっかの屋根の雪が落ちただけだろうと気を取り直して器に口を付けた。
ところで強く戸が叩かれ、思わずむせる。
「誰だよ……こんな時間によぉ……」
外は一面雪景色なのになんで足音一つしなかったのか考えながら、戸を開けた。
「 ッ」
出夢自身が気が付いた時には、戸の前からかまくらの端まで飛びずさっていた。
外には、死人のように青白い肌の色をし触れれば壊れそうな脆さを感じさせる女がただ自然に立っているだけで、それ以上でも以下でもなかった。
しかし、匂宮出夢の殺戮者としての経験が、その女に大して、警戒を警告を警鐘を、ひたすら鳴らしていた。今にも死にそうなその女に、だ。
「失礼しても構いませんか?」
「あ、あ。いいよ」
女のその問い掛けになんとかそう返し、出夢は戸を閉めた女の一挙一動を注視する。
自然体としか感じられない動き。同時に、自然体過ぎる動き。
それだけで、警戒するにあたる。そう思った。
思いながら女の反対の位置に座って、味噌汁を入れた器と箸を渡す。
疑問気な表情を見せた女に、
「間違えて二人分作っちゃって、捨てるのも難だしどーぞ」
「そうですか。では折角ですし」
そう言うと、受け取って食べ始めた。
毒なんかも気にせずに食べ始めた事に気付く。既にあの老人がバトルロワイヤル開催を宣言したにも関わらずあまりにも不用心過ぎやしないか。
考えている内に、器の中身を半分ほど残して女は言った。
「そう言えば、あなたは何か予定はありますか?」
「ん? いや、特にないなぁー……なんで?」
「多分居ると思って、弟を探しているの」
「弟? 名前は?」
間髪いれずに、自分でも気付かない間に出夢は聞き返していた。
そんな出夢は自分に当惑する前に、答えが返ってきていた。
「鑢七花。虚刀流の七代目当主をしている……わたしの弟」
「弟、か――」
「ええ」
出夢は囲炉裏を回って女性の横に座り、それこそ、顔を顔と顔がぶつかりそうなほど近くに寄せた。
「その弟ってのは、あんたにとって大事な存在かい?」
「ええ」
「本当に?」
「ええ」
「本当に本当に本当に本当に本っっっ当に『弟』が大事かぃ?」
「ええ」
女は問いに短く答えた上で頷いただけだった。
しかし出夢は見逃さない。弟、と言う言葉で、ほんの僅かに女の表情が揺らいだのを。
それを見て、気付かぬ内にとびっきり狂暴な笑顔に変わっていた。
「いいねいいねいいねいいねいいねぇえぇええ、最っ高に来るよ! 出夢くんの身体の中身が溶けて蕩けて火照って飛び出て弾けちゃうぅぅぅぅぅぃイヤァッホォウ!
あ、ちょっと死ぬ前の事思い出しちゃった! 恥ずかしーぃいぃいい、震えるぞハート、燃え尽きてもっとヒート、俺の心が真っ赤に燃えるってねぇ!?
足音もなく現れてどこのどなたか何者かって思ってたけど――いい、お姉ちゃんじゃないか……――――うん。手伝ったげるよあんたの『弟』探し」
にんまりと口を広げ、ぎゃはは、と笑い声を上げながらそう言っていた。
その笑顔を見て一瞬呆然とした女だったが、
「これは幸先がいいわ…………いえ、もしかしたら」
ただ、
「悪いのかしら?」
悪そうな笑みを浮かべていた。
「えー、もう出る? まだ残ってるし全然食べてないだろ、あんた?」
「大丈夫です。わたしにはむしろあれぐらいが丁度いいくらいですから」
「そう? ならいいんだけど」
そう会話を交わしながら、出夢は面倒臭そうに立ち上がって首を回し始めた。
鑢七実は眼の端に付いていた、かまくらの隅にあった一本の石の刀を持ち上げ、軽く振ってみる。足軽の効果もあって重さも威力は感じない。
気付くと、はぁ、と溜息が一つ出ていた。
出夢の方に目を向けると、目を細めてじっと見返してきていた。
「……あんた、何者だよ?」
「さあ?」
そう答えて、笑った見せる。
一瞬なぜかたじろいだ風に見えた出夢だったが、首を何度か振ると諦めたように、
「今更断れねーな」
狂暴な笑顔を浮かべながらそう呟き、両腕を広げて見せ、ぎゃはは、と笑った。
出夢の腕は異様に長く、なおかつ恐るべき威力を内包している事も、見て取れていた。
が、同時に、その強さとは不釣り合いの妙な弱さも見て取れていた。
余っていたからと言って鍋の味噌汁をわざわざ取り分けて渡して来たのも、期待はしていなかったが《弟》探しに付き合うなどと言ったくれたのも、その弱さが起因しているのかも知れない。
「あ、そう言えばさ」
「なんですか?」
「ここまで足跡もなくよーく来れたねーって思ってさ。って訳でなんで?」
「……口での説明はなにかと面倒なので…………しゃがんで下さい」
大人しくしゃがんだ出夢にその質問の答えとして、頭の上に乗る。身構え身体を固くした出夢だったが、すぐ何の重みも掛かっていない事に気付き目を瞬かせて、
「…………なるほどねー……重さをなくせる訳、か」
「まあ大体その通りですね。名前は足軽って言う歩法よ」
そう言った。
理解が早くて助かる。と思いながら降りる。
出夢は立ち上がって伸びをし、
「んじゃ行きましょー!」
「そんなに急がなくても大丈夫だと思うんだけど……」
先へ先へと急ぐようにかまくらの外へ出て行った。
後をゆっくり追い掛ける。
味方であれば多少なりとも楽は出来る。七実の出夢に対する認識はその程度に留まっていた。
七実にとって一番大事な事は、もう一度弟と戦って殺し直して貰う。それだけでしかなかった。
生は難しく、死は容易い。それでもせめて、死に方くらいは選びたい。七花が居なければ、あるいは死んでしまっていればそう言う訳にも行かないけれど。
雪の中を進む出夢を追い掛けながら、七実はそっと溜息を付いた。
弱さと強さを分けられできた純然たる強さの塊とも結晶とも言える《匂宮雑技団》最大の失敗作にして功罪の仔、匂宮出夢。
例外的に強過ぎるが故に神からも罰を与えられ虚刀流の跡取りから外された天災としか言い表しようのない天才、鑢七実。
《匂宮雑技団》と虚刀流、どちらとも外れた強過ぎる二人が出会い、その結果何が起こるのか。
あるいは強さの果てに何があるのか。
それとも強さの後に何が残るのか。
■ ■
――と、まあ、こんな感じの出だしで。
殺人殺害殺戮奇術!
刀剣鉄拳殺戮劇!
まさに物語の外側で。
功罪の仔と天災の虐殺劇……じゃなくて物語の、はじまりはじまり♪
【1日目/深夜/A-8】
【匂宮出夢@戯言シリーズ】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3)
[思考]
基本:七実の『弟』探しを手伝う。
1:途中で向かって来る奴が居たら適当に薙ぎ払う。
2:殺戮の時間は残り一時間。
[備考]
※ネコソギラジカルで死んだ後からの参戦です。
【鑢七実@刀語シリーズ】
[状態]健康
[装備]双刀・鎚
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3)
[思考]
基本:七花を探す。
1:七花ととがめさん以外を見付けたら殺しておく。
2:最後の最後の言い間違いを直してから七花ともう一度戦う。
[備考]
※ 刀語第七話で死んだ後からの参戦です。
※ 双刀・鎚は足軽で持っています。
※A-8にでっかいかまくらがあります。
最終更新:2012年12月27日 15:34