恋物騙 ◆HC4CdzPdhs


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「子供はっ……何人欲しい?」

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「私は3人欲しいかな。女の子が2人で男の子が1人ね。女、男、女の順番が
良いと思うの。生まれてくる順番を決めるのは私たちには無理かもしれないけ
れど、きっと神様だって言う事聞いてくれるよね、私たちの間に生まれる子供
の為だもの。でもね、わたしネーミングセンスって良くないの、だから貴方に
決めてほしいと思うんだ。どのくらいネーミングセンスが無いかっていうとね、
うぅんと、笑わないで聞いてね、ペットがいたなら貴方大好き之助とか愛子照
雄とか名付けちゃいそうな勢いなの、えへへ。ついやらなきゃいけない事がや
りたい事に上書きされちゃうっていうか、そういうの無いかな。やっぱり義務
より望みよね、やりたい事やらなきゃダメだもんね、人生五十年って言うもの
ねっ。でねでね、子供達ってどっちに似ると思う? どっちに似るかは解らな
いけど、でも私たちの間に生まれる子供だもの、きっと男の子だって女の子だ
ってとってもとっても、うん、とっても可愛い子になると思うの、そう思うよ
ね、そう思うでしょ? それでね、皆で一緒に大きな家に住もうよ。白くて、
お庭があって、大きな犬のいる家よ、もっというなら暖炉があって煙突もある
家が良いと思うの。だってそうならサンタさんの事だって子供達に話し易いで
しょ? 最近の家はダメだと思うの、だってサンタさんが入る煙突が無いんだ
もの。親は子供に何て説明しているのかしら、何て説明するつもりなのかしら。
煙突の無い家にサンタさんが入る方法なんて、煙突以外に考えられないわ、
それ意外じゃ夢が無いもの。本当にダメよね、大人なんて、腐ってるとしか思
えないわ。あ、気を悪くしないでね、貴方の事じゃないのよ、貴方の事は含ま
れないのよ? だって貴方は他の人とは違うもの、貴方だけは特別だもの。
……だって、私が好きになった人だから。きゃっ! 言っちゃった言っちゃった、
私言っちゃったわ! で、でもね、貴方が子供達の名前を決めるのだから、
犬の名前は私が決めたいな、って思うの。だ、大丈夫よ、きっと家族皆に愛
される名前をつけてみせるわ、本当よ? あ、でも、貴方が犬が嫌いだって
言うなら猫でも良いのよ? 私達が飼うんだもの、何を選んでも良いわよね?
私は犬派なんだけど、でも、貴方が猫の方が好きなんだったら、もちろん猫を
飼うよ? だって私、犬派は犬派だけど、動物ならなんでも好きだもの、何で
も愛してるもの。でも一番好きなのは、貴方。貴方が私を一番好きで一番愛し
てるみたいに。あ、そうだ、私、貴方の好きな食べ物を知らないじゃない。何
が好きなの? 大丈夫よ、いくら私でも食べ物に嫉妬なんてしないわ。だって
食べ物なんて、私に切り刻まれて煮るなり焼くなりされて、貴方に見向きもさ
れず噛み砕かれる、そんな程度の物だものね、気にしたりしないもの、ええ、
気にしないわ。だから教えて、あなたの好きな食べ物。教えてくれたら、毎日
お弁当に入れてきてあげる。ていうか、三食間食全て貴方の好きな食べ物を作
ってあげる。え、当たり前でしょう、これから貴方が口にするものは全部私が
用意してあげる。当然よね、私は貴方を愛していて、貴方は私を愛しているん
だもの。貴方の求めるものは私が用意するし、つまりそれって私の用意するも
のは皆貴方が求めているものって事でしょう? だからお礼何て言わないで、
彼女が彼氏のお弁当を作るなんて当たり前の事だもの。でもでも、一つだけお
願いがあるの。恋人同士でお弁当を食べるとき、『あーん』ってやるじゃない?
私あれが憧れだったの。だからね、明日のお昼、ううん、朝昼晩のお食事の時
には、私に『あーん』ってさせてね? 照れじゃダメよ? ううん、照れても
良いけど逃げちゃダメ、だって逃げられたら私悲しくて傷ついちゃうもの。き
っと立ち直れないわ。貴方が私にそんな事する訳ないって解ってるけど、でも
念のためよ? もしショック受けたら、ショックで私貴方の事殺しちゃうかも
しれないわ、なーんて。えへへ、冗談よ冗談、冗談に決まってるじゃない。あ
、あのね、それでね、貴方に、き、聞いてほしい事があるの。怒らないで欲し
いんだけど、私ね、中学生の時に気になる男の子がいたんだ。う、ううん、
そうじゃないのよ、怒らないでね、疑わないでね、浮気じゃないのよっ!?
貴方以外の人を好きになるなんて、太陽が西から昇ったって有り得ないもの。
ただ単にそいつとは貴方と出会う前に知り合ったっていうでけで、ちょっと
気になってただけで、それ以外に全く何もかかわり合いなんて無かったんだから。
でも今から思うと、くだらない男だったわ、低俗で退屈な男だったわ、貴方と
出会ってしまった今となっては、特にそう思うの! 貴方以外の男なんて、本
当に取るに足らない男だわ。あいつとは喋った事も無かったし、喋らなくて良
かったって思うの、だって口を開けたら口臭がしそうな顔してたもの。貴方に
比べちゃうと、本当に不細工でダメな男よね、あいつ。貴方もそう思うでしょ
う? でもね、こういうのは最初から確認しておかないとダメよね、後で誤解
になっちゃったらいやだもの、そういうのってとっても悲しくなっちゃうわ。
愛し合う2人が勘違いで喧嘩になっちゃうなんて、そんなのテレビドラマの中
だけで十分よ。まぁ私と貴方ならその後で絶対に仲直りできるに決まってるけ
れど、運命付けられているけれど、それでも勘違いや仲違いなんて無い方が良
いと思うよ、だってそういうものでしょう? それでね、私の方も聞いておき
たいのだけれど、貴方は今まで好きになった女の子とかいるの? いる訳ない
わよね? だって私がいるのだもの、この世界には。私がこの世にいるのに貴
方が私以外の誰かを好きになるなんて有り得ないわよね? でも多分、そうち
ょっとだけ気になった女の子もいると思うの。良いのよ、いても良いのよ、全
然責めるつもりなんてないわ。確かにちょっと嫌だけれど、でも我慢するわ、
それぐらい。だってそれは私と出会う前の話だものね。いくら私と貴方が結ば
れることが運命付けられているからって、出会う前から余所見をしないなんて
難しいもの。でももう私と貴方は出会っちゃった今となっては、私以外の女の
子なんてその辺の石ころと同じ、ううん、それ以下にしか見えないわよね、
だって私がいるんだもの。私なんかが貴方を独り占めしちゃうなんてちょっと
申し訳ないけれど、それは仕方が無い事よね、だって恋愛だもの。恋愛って
そういうものでしょう。貴方が私を選んでくれたんだもの、もうそれはそうい
う運命で決まり事で因果律で不文律で絶対遵守の力なのよ、この世の物理法則
なのよ天命なのよ。この世界にいる人間の半分を占める他の女の子の分まで、
私は幸せにならなきゃいけないわ。だからね、一緒に幸せになりましょう。死
んだって話さないわ、よく結婚式の時とかに『死が2人を分つまで』とかある
けれど、あれって不条理よね、弱音よね、本当に愛し合ってる2人なら死んだ
って離ればなれにならないもの、だから私達は、これまで結婚式でそういう誓
いをあげた人達にはできなかった、死んでも分つ事が出来ない幸せと絆を作り
上げていきましょうね。幸せにして頂戴ね、私も貴方の事を幸せにするから。
一緒に幸せになっていきましょうね。ああ、でもちょっとぐらいなら他の女の
子の相手をしてあげても良いのよ? だっていくら何でも他の女の子が可哀相
だもの。これから未来を幸せ一色、総量無限大数の幸せを得ていく私達だもの、
ちょっとぐらいなら幸せを分けてあげても良いと思うの、ねぇ、そう思うでしょう?」

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「ああ、そうだな」

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「ああ奇遇だな、俺も子供は3人が良いと思う。女、男、女の順番か、それも
良いだろうな。一姫二太郎などという言葉もあるが、俺達の愛があれば前人未
到など容易い。生まれてくる順番? そんなものは気にするな、言っただろう
、俺とお前の愛があれば前人未到など容易い、と。古い人間の不可能など気に
するな。俺は神だの悪魔だの怪異だのというオカルトなものは信じない、だか
らこそ奇跡も信じない。俺達が望み行おうとしたものは、奇跡などという不確
定要素の介在する余地もなく実現できるさ。そんな事は無い、お前のネーミン
グセンスはたいしたものだ、俺には逆立ちしたって適いそうも無い、ハイセン
スな名付け方だ。お前を差し置いて子宝を名付けるなどという偉業を達成する
など萎縮の限りなのだが、それでもお前が望むなら叶えない訳にはいくまい。
子供の名前、御前大好輝や慕情丸とかはどうだろうか、お前の中へ溢れ出した
俺の愛から生まれた子供には相応しい名前ではないか、ははは。望みが義務を
凌駕することなど、常の事だ、凡俗な輩はそれがさも悪い事であるかのように
言うが、しかしそれを出来る者こそが本当に偉大な人間なのだと俺は思う。
つまりお前は本当の意味ですばらしい人間だということさ。人生五十年?
何を言う、俺達が愛し合うのに高々五十年で足りると思うか? 俺達が愛し合う
限り、俺達に終焉などありはしない。永遠に愛し合い続けるのさ。子供はお前
似であることを望むな。お前は俺の事も買ってくれているようだが、だがしかし、
お前の月も恥じて沈んでしまいそうな愛らしさを知ってしまえば、もしも子供
が俺に似て生まれてきてしまった時など、あまりの申し訳なさに下げた頭が挙
がらなくなってしまいそうだ。お前のその愛らしさに少しでもあやかって生ま
れてくるのならば、それこそが俺とお前の子供達にとっては祝福となるであろ
うよ。ああ、皆で大きな家に住もう。白い家ならば、屋根は赤い方が良いので
はないか? 白い壁に赤い屋根、長い煙突、広い庭、そこには大きな木が立っ
ていて、俺がそこに自作のブランコを作ろう。俺は膝の上に子供を乗せて一緒
にブランコをこぐ、その横にあるベンチでお前は2人の子供と一緒にサンドイ
ッチを作り、もうすぐ来るランチタイムの準備をするんだ。談笑を響かせなが
らな。それを覗き込む犬がつまみ食いをしようとして、子供の1人がそれに怒
って追いかけ回す、それを見る俺達はより一層大きな笑い声をあげるんだ。す
ばらしい光景だと思わないか? サンタクロースか、なるほどその発想はなか
ったな。確かに近年の建築は子供の夢を砕く無味簡素で退屈でくだらないもの
ばかりだ、それに気づけるお前はさすがだな。子供達を愛する気持ちが、お前
に聡明さを授けてくれるらしい。否、もとよりある聡明さが、母としての愛情
によって強化されたと考えるべきなのかもしれんな。お前以外の親は本当にダ
メだな、子供達の事をまるで考えていない。子供を愛するならば、住む家もま
た、子供のために作られるべきなのだ。ああ解っている、お前が俺を悪く言う
筈が無いからな、俺がお前をおとしめる事が未来永劫あり得ないようにな。
お前は特別だよ、お前にとっての俺が特別なようにな、愛しているよ。
……ふふ、お前に愛していると言ってもらえるのはこんなにも嬉しいのに、俺
からお前に愛しているというのが、こんなにも恥じてしまうものだとはな。も
しお前がこの気持ちに耐えて俺に愛していると言ってくれているならば、感激
のあまり、俺はより一層の愛を持ってお前に接しようではないか。なに、犬の
名前? ああ決めるが良い、ペットの命名権と言わず、お前はもっと多くの事
を望むべきなのだ。これまでどんな人生を歩んできたのか、俺にはまだ知り得
る所ではないが、それでも確かに言えることは、俺以上にお前を自由でいさせ
てやれる奴は他にはいないという事だ。だからお前が望む事は何でも叶えてや
りたいし、叶えてやれると思っている。だからお前が犬が好きだというならば
、俺も犬を好きになろう。別段俺は猫を愛好する趣味など持ち合わせてはいな
いが、もし仮に猫を愛好していたとしても、お前のためならば犬を愛好すると
しよう。何、高々食肉もクへの嗜好程度、お前への愛に比べれば取るに足らな
い瑣事でしかないよ。ああ、解っている、お前の犬や猫に対する好きという感
情は、ライク程度のものでラブにはほど遠いものなのだろう? 俺がそうであ
るように。俺が最も好いているものはお前だけだよ。俺の好きな食べ物か? 
ああ勘違いしないでくれ、さきほどのペットの話とどうように、この好きな食
べ物という一文に用いている好きという単語は、お前への愛とは全く別次元の、
取るに足らない低レベルな好意なのだから。だから敢えて言わせてもらおう、
俺の好きな食べ物はな、お前が作ってくれるお前の手料理だよ。もっというなら、
お前自身と言っても良い。俺はお前とお前の手によって作られる全てのものが
大好物だ。だから何も悩む必要は無い。俺はお前の全てを受け入れるのだから。
故に質問は無意味だ、お前は望むものを全て俺にぶつけてくれればいい。お前の
望みこそが俺の望みなのだから、お前が俺に与えようと思う全てのことを俺は受
け入れよう。お前がこれから先の俺の三食を世話してくれるというならば、この
世における何よりもすばらしい幸福を俺は得たようなものだ。ありがたすぎて言
葉に詰まってしまいそうだ、舌がもつれてしまいそうだよ。ああ、だが礼などと
いう他人行儀な事は言いはしないよ。そんな事をしたらまるで他人のようじゃな
いか。俺達の間には享受しかなく、拒否などないのだから、全ての事には快諾し
かないのだから、感謝の言葉があるのでは、まるで拒絶や罵倒の言葉もあるかの
ようではないか。俺達の間にそんなものはないだろう? だからこそ感謝の言葉
は不要だ。俺はお前の、お前は俺の全てを受け入れて当然なのだから。
『あーん』? ああ、よく架空の恋物語を描く漫画に描かれているあの行為のこ
とか。なるほど、架空でしか人々がしてこなかった事を、俺達の手によって実現
すれば、誰も現実で行えなかった愛情の象徴を具現化できたという事になる訳だ
な。全くすばらしい、お前はなんて聡明なのだろう。いいだろう、お前が望むの
であれば、俺も『あーん』とする事もやぶさかではない。だがしかし、俺として
はもう少し進展した食事における愛情表現を望みたい所ではなるな。何か、だと?
当然決まっているだろう。……口移しさ。お前の唇と手料理の味を同時に確かめ
られるなど、至上の悦楽であろうよ。何、俺がお前から逃げるなどあり得る未来
ではない。むしろお前の方が俺から逃げてしまうのではないかと、俺は戦々恐々
としているよ。まるで1羽の青い小鳥のようなお前なのだから、いつか俺の掌か
ら離れていってしまうのではないか、とな。ああ、解っている、もちろんそんな
事は無いだろう? 俺がお前から離れていってしまうなど、あり得る筈が無い。
だがしかし、お前のこの世のものといは思えない儚さと愛らしさを見ていると、
それを得たという現実が信じられなくて、そんな妄想をしてしまうのさ。ふふ、
済まないな、お前と結ばれたという現実を疑ってしまうなど。そんな事になった
ら、俺はきっと自らの手で自らの首を占めてしまうだろう。お前のいない世界な
ど耐えられない。だからこそ、どうか俺から離れないで欲しい。これから先の千
年万年、限りなく共にいよう。……あぁ、そうか、お前も人間であるからな、あ
あ解っている、全く余所見をしないなど、そんな事が出来るのは人間を止めた聖
人だけだ。聖人ならざるお前だからこそ俺の手が届いたというのならば、ああ、
確かにほんの少し余所見をしてしまうのも仕方が無い事なのだろうよ。だがしか
し、解って欲しい、もう俺とお前は出会ってしまったのだ、からこれから先は、
絶対に俺以外の男の子とは見ないで欲しい。これまでは出会っていなかったのだ
から仕方が無かった、しかし俺達は、俺とお前は、繰返すがもう出会ってしまっ
たのだ。運命付けられた男と女が出会ったのであれば、それ以外の異性を見る事
など、あってはならない。だからどうか、俺以外の男に心を奪われないでくれ。
ほんの一瞬、ほんの僅かであったとしても、だ。お前の心が俺以外の男に傾くな
ど、耐えられない。もちろん女であったとしてもだ。ああ、解っているさ、そん
な事は無いんだろう? 解っている、俺と出会う未来が解っているからこそ、そ
の男とも一切口をきかなかったのだろう? お前は本当に貞淑さ。もちろん、俺
も解っていた。だからこそ、俺の人生において、幾度か女と接する場面があった
としても、俺がその女どもに心奪われることなどなかった。かつて俺に救われる
と思って恋心を寄せつつあった女がいたが、しかしお前と結ばれる運命にあった
俺に取って、そんな女は路傍の石ころだ。手痛い応酬をさせて頂いたよ。少女を
傷つけることは、まるでお前を傷つけるかのようで気が引ける思いもあったが、
しかしお前に対する不義が生じてしまうのであれば、その女を拒絶するのも致し
方が無い事だ。そう思うだろう? そんな俺なのだ、お前と仲違いしてしまうこ
となどあり得はしないよ。だからどうか、そんな俺を疑うような事は今後一切言
わないでくれ。お前に疑われるなどと、ああ、思うだけでも身震いが止まらない。
この世のものとは思えない恐怖だよ、全く。お前は俺の事を疑わずにいてくれれば
良いんだ、それこそがお前にとってお前が最も幸せでいられる、たった一つの冴え
たやり方なのだから。見せつけてやろう、この世界に。俺を独り占めにするお前の
、お前を独り占めにする俺の幸福を、この世に何億いるとも知れない有象無象の輩
に見せつけてやろう。それこそが愛というものだろう? 俺達の愛を世界に見せつ
けてやる事で、世界に愛のオーソドックス・モデルを提示してやるんだ。俺達こそ
が愛し合う恋人同士のあるべき姿勢なのだ、と。俺達のようになることこそが、こ
の世で幸せを得る方法なのだ、という事をな。ああ、幸せになろう。幸せになって
いこう。死などというものに、たかが死などに、俺達の仲を裂かせてなるものか。
俺達の絆は鎖よりも固い赤い糸で確かに結ばれているのだ、例え死神の鎌だって切
り裂けやしないさ。安心しろ、俺を信じろ、俺の言う全ての事はお前を幸せにする
し、俺のする全ての挙動はお前の顔に笑みを浮かばせる、そこに疑問の介在する余
地はない。例えお前が理解できなかったとしても、それはお前が想像しえる範囲を
超えた愛が、お前をより幸せにしようと展開している証明なのだから。だから俺の
ささやきに耳を貸してくれ。恥ずかしくて窄んでしまう声を、どうか聞いてくれ。
それを聞き届け、叶えてくれる事が、俺がお前に出来るたった1つの事で、お前が
幸せになれるこの世でたった1つの方法なのだから」


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「……はいっ!」
 と。
 など、と。
 箱庭学園1年-13組所属、新生徒会会計志望、江迎怒江は。
 自称・取るに足らない三流詐欺師、かつて戦場ヶ原ひたぎの家庭を崩壊させ、阿良々木火憐に怪異を取り憑かせ、その兄であるところの阿良々木暦に影縫余弦と対決させた男、貝木泥舟の。
 口車に易々と、揚々と、乗ったのであった。
「では教えてくれ、お前は誰だ?」
「はい、私は江迎怒江、箱庭学園の-13組の1年生、女子です」
「そうか江迎怒江、ではお前は俺にとっての何だ?」
「貴方に愛され、私が愛する恋人ですぅ」
「そうだ江迎怒江、ではお前の持ち物をくれないだろうか。愛する者に荷物を持たせるのは辛い」
「はい、どうぞ」
「そうだ、お前の持ち合わせも預かろう。お前と俺の絆を示すエンゲージリングを買おうじゃないか」
「はい、どうぞ」
「ああ、ありがとう、江迎怒江」
「はい、どういたしまして、貝木泥舟さん」
「では教えてくれ、-13組とは何だ?」
「箱庭学園理事長であり、先ほど私達にこのバトルロワイヤルの説明をした男、不知火袴が国内から集めに集めた過負荷で構成される、新設された14番目のクラスです」
「過負荷とは何だ?」
「マイナス、と読みます。私達の人生に由来する“マイナスの利点”であり、完成させる事が無意味、完成させるほどの自他を害する、欠点過ぎて超能力という長所になった欠点です」
「お前にもそれがある?」
「はい、私の過負荷は『荒廃した腐花』、ラフラフレシアと言います。私がこの手で触れたものは、固体・気体・液体を問わず、腐敗します。強弱の制御は出来ても、オン・オフは出来ませんが」
「なるほど、無差別という訳だな?」
「はい、過負荷はあくまでも欠点ですので」
「お前の知り合いはどれほどここにいる?」
「先ほどの場所で見た範囲では、-13組のリーダーの球磨川禊さん、私達と敵対する生徒会長の黒神めだか、私の心を奪おうとした人吉善吉、破壊臣と呼ばれたかつての球磨川さんの配下、阿久根高貴がいました」
「そいつらは何が出来る?」
「人吉善吉はサバット中心の足技、阿久根高貴は柔道を極みのレベルで使いますが、あくまでも“天才”レベルです。球磨川禊さんは“大憑き”という過負荷で、何でも無かった事に出来なす。そして黒神めだかは……」
「黒神めだかは?」
「“天才”の極地、“異常”の仲の“異常”。私達とは真逆の意味で、化物です」
「具体的には?」
「あの女は“完成”という“異常”を使います。あの女が見た全ての異常性・才能はあの女自身の才能・能力によってより完成された状態となって体現されます」
「なるほど、まさに異常だな」
「はい、ですが“完成”であっても完璧ではないようです」
「具体的には?」
「私達みたいな欠点を武器とする過負荷は、その力が欠点であるために、完成させても欠点にしかなりえません」
「なるほど、まさにお前達の対極、という訳だな?」
「はい、私達の過負荷は常識では計れません。“異常”とはいっても、物理法則という常識の範疇に捕われる“異常”と“天才”にとって、私達過負荷は、天敵です」
「まさしくお前は勝利の女神という訳だ」
「……ありがとうございますぅ」
「愛しているよ、江迎怒江。いやさ、怒江」
「はい……泥舟さん」
「だから戦ってくれ、俺の為に。お前の為に行動する俺の為に、俺の代わりに俺の敵と戦い、俺の代わりに俺の望みを叶えてくれ。安心しろ、俺のやる全ての事はお前の為だ」
「はい、わかりました。
貴方が乾く時は私の血を捧げ、
貴方が飢える時は我の肉を捧げ、
貴方の罪は私が行い、
貴方の咎は私が追手から守り、
貴方の業は私が背負い、
貴方の疫は私が請け負い、
私の誉れの全てを貴方に献上し、
私が持つ全ての財産を貴方に奉納し、
防壁として貴方と一緒に歩き、
貴方の喜びを共に喜び、
貴方の悲しみを私が肩代わりし、
斥候として貴方と共に生き、
貴方の疲弊した折には跪いて椅子となり、
この手は貴方の武器となり盾となり、
この脚は貴方の命令でのみ地を駆け、
この目は貴方を狙う敵を捉え、
この全身で貴方の情欲を満たし、
この全霊をもって貴方に奉仕し、
貴方のために名を捨て、
貴方のために誇りを捨て、
貴方のために理念を捨て、
貴方を愛し、貴方を敬い、貴方以外の何も感じず、
貴方以外の何にも捕らわれず、
貴方以外の何も望まず、
貴方以外の何も欲さず、
貴方が許さないなら眠らず息もせず、
ただ一言、貴方からの言葉にだけ理由を求める、そんな貴方だけを愛する恋人になることをーー誓いますぅ」
「ああ、俺も誓おう、怒江。お前だけを愛するとな」
 もちろん嘘だけど。

【1日目/深夜/Gー8】

【江迎怒江@めだかボックス】
[状態]健康 ・貝木泥舟への盲愛
[装備]無し
[道具]無し
[思考]
基本:泥舟さん、愛してますぅ
 1:泥舟さんを守らなきゃ、尽くさなきゃ
[備考]
 ※本編61話~生徒会選挙開始前までの期間から参戦しています
 ※貝木泥舟を盲愛しています。ですが極論的に愛しているので、暴走する可能性があります

[“荒廃した腐花(ラフラフレシア)”について]
 ※江迎怒江が常時発動している過負荷(=特殊能力)
 ※左右を問わず、掌で触れた物は種類を問わず腐り落ちる
 ※オン・オフは効かないが、強弱は制御できる
 ※成長次第では触れずに周囲を腐らせたり、オン・オフの制御も可(初期段階では不可)

【貝木泥舟@化物語】
[状態]健康
[装備]無し
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(2~6)
[思考]
基本:周囲を騙して生き残る
 1:都合の良い情報源兼手駒が手に入ったな
 2:せいぜい生き残るとしよう
[備考]
 ※偽物語(下)以後からの参戦です。
 ※熊川禊、黒神めだか、人吉善吉、阿久根高貴を大まかに把握しました。

[“囲い火鉢(かこいひばち)”について]
 ※貝木泥舟が操る偽物の怪異(=瞬間的な催眠術)
 ※貝木泥舟が使用を意図して指で突いた人間は、行動不能になるほどの高熱を患う
 ※熱の度合い、期間は受けた相手の思い込みの強さに比例する


「それでは零崎を始めよう」 時系列順 全てが0になる
「それでは零崎を始めよう」 投下順 全てが0になる
START 貝木泥舟 雑草とついでに花も摘む
START 江迎怒江 雑草とついでに花も摘む

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最終更新:2012年10月02日 08:00