新しい世界 ◆hqLsjDR84w
アークを騙った組織が作った格闘ゲーム『バトルロワイアル』のデータは、この世に存在しない。
本物じみた3Dグラフィックも、これまた本物じみた体感システムも、そして――AIも。
『バトルロワイアルというゲームのAI』は、もう、この世界に、存在しない。
だが、例のロケテは全世界同時放送されていた。
配信された映像を見ていた格ゲープレイヤーのなかに、彼らの動作は残っている。
予期せぬ動きをする斬新なAIは、視聴者たちの記憶に刻まれている。
配信されていたがゆえに、音声もすべて残っている。
だから――作れる。
得体の知れない組織のように意識を持たせることはできなくとも、『ああいうときにこういう動作をする』というAIは作成できる。
例のロケテの真相が明かされて数週間後、動画投稿サイトにある動画が投稿された。
配付されたキャラクター同士を戦わせることができる、フリーの2D格闘ゲームエンジンによって作成された動画だ。
その動画のなかに、例のロケテにも参戦していた彼女はいた。
考えることはない。悲しむことはない。
単なる格闘ゲームのキャラクターとして、そこにいた。
彼女はあの彼女ではないが、しかしたしかにあの彼女を模して作られていた。
動画のなかで、彼女が動く。
飛び道具である核爆弾を投げつける。
相手もかなりの強キャラらしくガードで防いだ。
狙い澄ましたかのように、そこに究極奥義(ゲージ消費必殺技)が入る。
『“もう遅いわ、わたしが撃てないとでも思ったの?”』
投げ属性にガードは意味を為さない。
その一撃で、相手の体力ゲージはゼロになった。
『――え? え……え? 杉村くん! 杉村くん! わたし――わたしなんてことを――!』
倒れ伏した相手に駆け寄ると、彼女はさめざめと泣いた。
しかしながら彼女に悲しみがあるワケではなく、あくまでそういう演出なだけである。
その動画に対するコメントが、いくつも流れていく。
『またかよwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww』
『おwwww約wwww束wwwwwwwwwwwwwwww』
『泣きゃ許されると思ってんじゃねーぞwwwwwwwwww』
『それ杉村じゃなきゃ許されねーからwwwwwwwwwww』
例のロケテから数週間しか経っていないというのに、すでにお決まりの展開になっているらしい。
彼女ではない、しかし彼女を模して作られたAIは、これからもいろいろな動画に出演するのだろう。
そしていずれは、彼女以外のキャラクターも作られていくのだろう。
バトルロワイアルは間違いなくクソゲーだったが――それでも、たしかに人々の記憶には残っていた。
【琴弾加代子 新しい世界にて『無限』の可能性を持つ】
最終更新:2013年01月26日 07:43