不思議なことがあるものだ ◆DzDv5OMx7c
「ん……?」
僕は、唐突に目を覚ました。
視界いっぱいに入るのは白い、見知らぬ天井。
「……よかった。気がついたみたいね」
そういうのは白衣の天使……といっても二次元のアレコレみたいじゃないザ・看護服のお姉さんだった。
周囲を見渡せば白を基調にした部屋と鼻腔を付く独特のにおい。
つまるところ、病院のベッドの上に僕はいた。
「あのねぇキミ、何考えてるのよ」
「え?」
はて、何か僕は目の前のお姉さんに怒られるようなことをしたのだろうか。
「こんな霧が濃い日に外に出るとか危ないでしょ!」
その言葉で全てを思い出す。
そうだ。僕ははやる気持ちを抑えきれず、一メートル先も見えない濃霧の中、アークシステムワークスのロケテ会場に向かったのだ。
よく覚えていないが、どうやらそこで事故にあってしまったらしい。
「傷事態は大した事なかったんだけどねー
しかしまー、こんな霧の中飛び出すとか何考えてんだか。
レガイア伝説のCMじゃあるまいし……」
「レガイア伝説?」
「あー、まぁそこそこマニアックだったしね。PSのゲームであったの。
好きだったのよー、戦闘だるかったけど」
「あー、僕んちPS2からしかないんで」
その言葉にお姉さんの動きが音を立てて止まる。
『嘘だろ承太郎……』とか呟いてる。僕、承太郎じゃないんですけど。
あ、でもNEOGEOと箱なら何故かあります。趣味で。
と、それよりも僕にはやらなければいけないことがある。
「あー、あの連絡取りたいんで携帯柄ってもいいですか?」
「お、おう……大丈夫、最初にやったゲームがコンボイの謎でも大丈夫よ私。
と、ともかく……つかってもいいけど、休憩室いってね。そこのかど曲がったところにあるから」
お姉さんは家族に連絡を取るものだと思っていたようだが、僕の興味はべつのところにある。
手馴れた操作で電話をかける。
通話までの音と、繋がる音。そして直後スピーカーから押し寄せる大雑音。
『おい、何やってんだよ!』
「いや、それがさ、途中で事故っちゃって……」
『はァ? ばかじゃねーの? っていうか今超ヤバいんだって!
あのQMZジャギとGO1式がタイマンで決勝戦やってる!』
「はぁ!?」
何だよそれ超見たい。
どっちも知らぬ人はいない超有名プレイヤー。
それの対決なんてプラチナチケットものじゃないか!
『あ、くそ! 2R目、GO1式が巻き返してるじゃねーか!
悪いけど切るぞ!』
「あ、ちょっと――」
ツーッ、ツーッ、ツーッ。
切りやがった。
行けないロケテはどうやら最高潮の盛り上がりらしい。
そんな事実にがっくり来ていると――いきなりスマホの画面が一瞬ぶれて、真っ暗になった。
「はぁ!?」
画面に何度も触れるがピクリとも動かない。
もしかして壊れたのか?
クソッ、ロケテには行けない上に事故にあって、最後にケータイも壊れたとか。
最悪だ。ホント最悪だ。
そんな風に茫然自失としていた。
だけど――
『なぁ、こんなところも通るのか?』
『ええ、マスタープログラムが格納されている場所まではいくつかの迂回路を取らないと――』
そのスマホから少年の声と少女の声が聞こえた。
何が起きているのか。
そう思って、食い入るように真っ暗な画面を見ていると赤い髪の少年と黒髪の少女の姿が映った。
「!?」
僕はこのキャラたちを知っている。
どちらも確か今ロケテをやっているアークの新作に出ているキャラだ。
だけどそんなのが何故僕のスマホに映っているのだ。
訳がわからない。頭の中は疑問符で埋め尽くされている。
だがそのとき更なる以上が僕を襲ったのだだった。
なんと、黒髪のキャラクターが"こっち"を見たのだ。
画面越しに、確実に僕のほうを見たのだ。
『ごめんなさい、この端末、少し借りるわ』
「え――」
間違いなく僕に向けてしゃべったのだ。
そして数秒動きを止めたかと思うと、目を見開いた。
『――よし、次の経路を確保。行くわよ』
『ああ!』
そしてそのあと再び画面はブラックアウトする。
そして――馴染みのある軌道音とともに再起動したのだ。
「え――?」
不可思議な出来事に僕の脳みそはパンク寸前だった。
夢? 幻? 白昼夢? 事故った際に頭でも打った?
それにしては――すさまじくリアルな夢だった。
「何だったんだ、いったい……」
考えはするが答えは出ない。出るはずもない。
大きく息を吸って、ため息を一つ。
顔を上げ、何の気なしに外を見る
「あ――」
窓の外、あれほど濃かった霧は、もう――晴れようとしていた。
* *
数日後、僕は件の友人と一緒に町へ出かけていた。
目的地は某所TRF。まだまだ種籾レベルではあるがたまには行こう、と誘われたのだ。
こいつはこいつで事故った僕を放っておいた罪悪感があるのかもしれない。
長い付き合いだし、熱くなると周りが見えなくなるのは知ってるから、今更気にしてないのだけど。
「しっかしまー、アークの偽者だったとはなー。
気になるよなー、マジでなんなんだろ」
何でもあの新作はアークの名を騙った何者かがやったらしい。
軍事企業の陰謀だとか、宇宙人の野望だとか、コンピュータの氾濫だとかまことしやかに囁かれている。
……と、隣のコイツから聞いた。
「っていうかテストプレイぐらい持たせろよなー。
あんな対決めったに見られるもんじゃねーぞ」
「それは僕も本当に見たかったけど……まぁ仕方ないよね」
勝負も気にならないといえば嘘になる。
だけど僕はどちらかというと、あの霧の日の幻が未だに頭の中に焼きついているのだ。
あの霧の日のことは誰にも言っていない。
事故った僕が見た、ただの夢なんだろうと理屈ではわかっている。
でも画面越しに見えた黒髪の少女と赤い髪の少年。
揺るがない決意を持ったあの眼差しが忘れられない。
「……お前、何かあったか?」
「いや、別に?」
「嘘付け」
断言かよ。
「お前はロケテがあると知った瞬間、最初我慢してたけど一も二もなく霧の中に飛び出していくような奴だぜ?
それが一大決戦見逃したってのにそんなに悔しそうじゃねーんだからそうも疑うっツーの。
……お前、ナースのお姉さんと何かあったんじゃないだろうな?」
「お前は何を言っているんだ」
お前は付き合いが長いのだから、僕の好みを知っているだろうに。
まぁ、そんなこんなを話していると目的地に到着したわけだが。
そこは今日もたくさんの人でごった返していた。
「さぁて北斗はどこかなー」
友人はふらふらとアークの名作を探して店の奥へと入っていく。
僕もそれに従って店の中へ入っていく。
そこには何時も通り人ごみがあった。
何人もの男の人が狂態の周りにいる。
だがそこでゲームをしていたのは意外な人物だった。
北斗台に座ってたのは一人の少女だった。
年齢は中学生ぐらいだろうか。周りの年齢層としては少しどころかだいぶ浮いている。
そしてなにより――
「――コ、コスプレ?」
彼女はあるアニメキャラクターに似ていた。
それはあまりアニメを見ない僕でも知っているぐらいの有名キャラだった。
そしてあの日、僕のスマホに現れたキャラでもあったのだ。
しかしコスプレというには――あまりにもそうであることが自然に見えた。
そして勝負は終わる。
惜しいところまで言ったが黒髪の少女の負けであった。
少女が席を立つー―と、少女と僕の視線がぶつかり合った。
コッチの顔を確認した彼女は少し驚いたような表情を見せ、次の瞬間、こちらにまっすぐに向かって来た。
「――手を出して」
年下の少女にいきなり言われたせいなのか、自然と手のひらを出していた。
少女が僕の手のひらに載せたのは二枚の50円玉。
ここの設定なら2クレ分ゲームが出来る量だ。
「奢ってあげるわ。"あの日"の借りよ」
そういって微笑んだのだ。
「あ――」
僕は驚きで声も出ない。
ただ、あの日画面越しに見た瞳とその瞳は寸分も変わらぬものだった。
ただ悲壮な決意は消えて、"今"を楽しんでいる光が見えたけれど。
「――あの日って何だよ」
だがそんないい雰囲気を友人のドスの聞いた声がぶち壊す。
「ああ、そういえばお前は年下が好みだったなぁ……!
まさかJCとフラグ建ててやがったとは……!
クッソ油断してたぜ……!」
友人の不機嫌ゲージが跳ね上がっていくのがわかる。
これでここ数日こちらに向けられていた罪悪感らしきものは消え去ってしまうだろう。
まぁそれはよかったような悪かったような……
ああ、どうせ機嫌が悪くなるのなら最近富に思っていたことを言っておこう。
「君もそろそろいい年した女の子なんだし、言葉遣いを直したほうがいいと思うよ?」
「うっせバーカ!」
最終更新:2013年01月26日 07:45