あ、筆者は杏子ちゃんスキーだからその辺誤解すんなよ ◆GOn9rNo1ts
男は、格ゲーが好きだった。
男は、魔法少女まどか☆マギカが好きだった。
男は、美樹さやかのことが――――
☆ ☆ ☆
アーケードゲーム"バトル・ロワイアル(仮)"ロケテスト当日。早朝5時。
彼は自分のアパートで古臭いノートパソコンに噛り付いていた。
「おいおいマジかよ……」
血走った目で彼が見ているのは、とある掲示板サイトのとあるスレだった。
既にパート数は二ケタに上り、更新すれば必ず誰かが書き込んでいるという大盛況なスレッド。
【アークが新作ゲームを出すらしい】
Part1から連なる混沌な流れは今もその勢いを途絶えさせることなく。
「なんだこれは、たまげたなぁ……」
「参戦作品のラインナップおかしくね?」
「なんでや、神作品だらけやろ!」
「バスケしようぜ、お前QBな」
「一撃必殺ってやっぱりテーレッテーなのかな。コノメニウ―とかカワシタヤーもねえかな」
「やっぱりアークって神だわ」
「流石におかしいって。これアーク本社に問い合わせたやついるの?」
「んな野暮な真似するやついるかよwwwww」
困惑、歓喜、考察、感謝、疑惑。草。
様々な感情が渦巻くネット上のキャンパスに、男は興奮の色を付け加えていく。
「美樹さやか参戦作品ってマジ!?」
どこぞから漏れた参戦キャラ一覧にて後光が差す(あくまで男目線の比喩表現である)名前が一つ。
美樹さやか。
彼が世界で最も愛する「嫁」であり、生きている意味でもあった。
今も四方八方の壁に貼られた大量のポスターの中から彼に向ってにっこり笑いかけてくれる、マイエンジェルだ。
まどマギを見すぎて会社に遅刻し上司からの説教を受けた時も、彼女の笑顔さえあれば元気になることが出来た。
連日の徹夜で無理が祟り身体を壊し、さやかちゃんのひっどい結末に精神を壊し、しばらく休めと事実上のクビを言い渡された時も、まどマギスレ、特にさやかちゃんのスレに張り付くことが出来ると思えば、不安を忘れることが出来た。
通販のたびに当然のごとく目減りしていく通帳残高も、彼女の偶像という神様からの贈り物(訳:関連商品のこと)を頂けると思えばもう何も怖くなかった。
男にとって美樹さやかちゃんは、それだけの意味を持った「嫁」なのだ。
F5を連打しながら机の上のねんどろいど、figmaのさやかちゃんを鑑賞しつつ、男のボルテージは最高潮に達しつつあった。
「マジらしいよ、マジ」
「ちゃんとしたソースもあるよ、URLは(ry」
「なんでおりこ出展でさやかなの?杏子は?」
「どうせアプデでゆまと一緒に隠しキャラ扱いで登場するべ」
「さやかちゃんprpr」
「この選出をしたアークには抱かれても良い」
やっぱり本当なんだ!
さやかちゃん情報(訳:参加者情報のこと。男の目にはさやかちゃんしか映っていない)が出た時から一睡もせずにスレに居続けた男は、ここに来て絶頂を迎えた。
うおおおおおおお!!!と近所迷惑も考えずに大声を出し、壁ドンをくらいながらも。
男の興奮は止まらない。何しろあのアークの格闘ゲームに愛しい天使が降臨するのだ。
「…………さて」
しかし、流石のさやかちゃんキッチーなこの男も、所詮は人の枠から外れることのない存在。
スレ張り付きのために連日の徹夜をしたこともあり、流石に疲れが押し寄せてくる。
鉛のように重くなってくる瞼の裏で、男は残り少ない活動キャパシティを今日の予定の確認に当てる。
既に数少ない預金から連コのために10万を下ろした。
アンケを書くためにペンを20本は確保した。
会場である中野TRFは仕事をサボってAC北斗をプレイする常連店だったので、目を瞑っても辿り着くことが出来るだろう。
準備に抜かりはない。
だから、ちょっとだけ。
ちょっとだけなら……。
自作のさやかちゃん目覚ましをロケテの1時間前にセットしながら男はベッドに倒れこみ。
深い深い眠りに落ちた。
寝落ちはよくあることだし別にいいんだけど、大事な場面で寝坊だけは許しちゃいけないんだよなあ。
★ ★ ★
完璧に寝坊した。
というかもう丸一日経ってる。
ロケテなんてとっくの昔に終わっている。
死んだ、はい俺死んだー。
さやかちゃんに触れるどころかその勇姿さえも拝めずぐうすかしてるとか。
馬鹿かと、アホかと。
マジ萎える。くっそ萎えたわーやってらんねーわー。くっそくっそ。
つーかなんなの。過去ログ見たら意味わかんないんだけど。
紅の豚さん即死?
核爆弾?
チートAI?
いや、良いよ。百歩譲ってそれは良いよ。
だってこれロケテだもん。アークだもん。調整入ること前提でしょ。
そんでもクソゲーとしか言いようがないっぽいけど、まあそれは今後どうにかなるでしょう。
でもさあ。
さ や か ち ゃ ん だ け は 絶 対 に 許 さ な い
なんだよ白黒って!金カラーとか言ってるけどお前白黒だろ!
スタッフどんだけてーぬいてんだよ、さやかちゃん嫌いなら出さなくても良いよ!
いやごめん言い過ぎたわ、出さなくても良いとか有り得ないです。
出してください、お願いします。できれば良調整の強キャラとして出していただければ百万貢ぎます。
はあああああああああああああああ!!!!!!??????
ロボカイイイイイイイイイイイ!!!!???????????
頭おかしいだろなんだよロボカイってさやかちゃんと何関係あんの色か色だなよーし分かった色なら仕方ない
なわけねえええええええだろおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
10兆歩譲っても地球一周しちゃって許せるわけねえええええええええええええええええ!!!!!!
あかん。あかんわ。
もういい。寝る。明日になればいいことあるさ。
バトルロワイヤルが本稼働した頃にはさやかちゃんがまともになってたらいいな。
☆ ☆ ☆
その後、アーケードゲーム“バトルロワイヤル”が本稼働する日は、二度と来なかった。
★ ★ ★
「ちょっといいかしら」
「……ああ、君か」
「貴方、さっきの試合で本気を出していなかったわね。舐めプ?」
「舐めプで50円投げ捨てる馬鹿がどこにいるんだよ」
「確かに、貴方は私に,蹂躙されたわ。星一つ取れずにストレート負けをした」
「なんだよ、嫌味言いに来たんなら帰ってくれ。俺は忙しいんだ」
「でも分かるわ。動きで分かる。修羅と戦ってきた私にはわかる。貴方は本当はもっと強い」
「お前に俺の何がわかんだよ!!!」
「…………」
「…………」
「……さやか」
「……あ?」
「貴方、試合中にずっとそう呟いてた」
「…………色々あったんだよ」
「話してくれない?」
「は?」
「もしかしたら私にも関係のあることかもしれない」
「いや、これは俺の問題であってだな」
「貴方のことが」
「うん?」
「貴方のことが気になるの」
「…………ただの愚痴だぞ?」
「良いわ」
「……多分すっげえ引くぞ?」
「構わない」
「コミュ障だから、上手く伝えられる気がしない」
「お互い様よ」
その日、俺は溜まっていた何もかもを吐き出した。
彼女は全く上手い聞き手とは言えなかったけど、それでも誠意を持って聞いてくれている気がした。
帰り際、彼女は俺の手に50円玉を握らせながら。
「ごめんなさいとは言わないわ」
「でも、諦めないで。私も諦めなかった結果としてここにいる」
「努力が必ず報われるとは限らないけど、それでも挑み続けなければ何も生まれない」
「頑張って。私も、頑張るから」
そういって、ぎこちない笑顔で励ましてくれた。
何を言っているのかは良く分からなかったけれど。
救われた気がした。憑き物が落ちたように、すっきりした気持ちになれた。
……よし。
復職願い、出してみるかあ。
そう思いながら、俺はかつての職場。
『アークシステムワークス株式会社』へと、電話をかけ始めたのだった。
【さやかちゃんのプレイヤーになるはずだった男 社会復帰】
……さやかちゃん一筋だったけど、ほむほむも良いなあ。
最終更新:2013年01月28日 15:32