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黒の記憶、白の未来 ◆CAP.3FrrY.




「なによこの根暗女ッ! 無口ロリだったらほいほいオタが吊れると思ってんの!」
「そっちこそ、このメンヘラ! ヤンデレブームとかまじで信じてるんのかこのクサレ脳ミソ!」

狭い。それこそ一畳もなく立つこともままらない戦車のコックピットの中で二人の黒い服を着た少女らがキャットファイトに興じていた。
互いの服を引っ張り合い、びんたをかまし、罵詈雑言を浴びせながら爪を立てて引っ掻きあう。

「この綾波のパクリがッ!」

葛原未来が銀(イン)の襟を掴み左右に裂く。ビリビリと音を立てて彼女の服はただの布きれになりその白い肌が露わになった。

「そっちこそデッドマスターのパクリのくせに!」

金切り声をあげ、銀は消化バケツを持ち上げて葛原未来に水をぶっかけた。さらにはずぶ濡れになった彼女をバケツでマッハ叩きする。

「れ、れ、れ、れれれ、れいほうは卑怯だってんだろがッ、がッ、がッ!」
「うっさい死ね! 勝ったもん勝ちの世の中だ!」

ガンガンとバケツで頭を殴る音が戦車の中に木霊する。
とてもあの儚げな銀のすることではない。キャラ崩壊もいいところだ。黒(ヘイ)が見たらどう思うだろうか? 寝込みそうな気がする。


ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン……


しばらく後、コンボカウントはとうに99を超えていたがしかしまだ決着はついていなかった。
銀が非力すぎるからだ。というか、彼女の攻撃にはそもそもとして一切ダメージが設定されていない。

「ちょっと待ってッ!」

葛原未来に腕を掴まれ、繰り返しバケツを叩きつけていた銀のコンボも遂には止められる。
コンボ補正が働いたおかげでくらい時間が短くなりバケツ連打がコンボではなくなった結果だった。
それはともかくとして、バケツでガンガン100回以上叩かれた彼女はいつの間にかにゾウナの洗脳が解けて正気に戻っていた。
葛原未来は銀からバケツをひったくるとそれを捨てて、彼女へとにこりと微笑みかける。

「改心せぇやあああああああああああああああああああああッッッ!」

(ややキャラ崩壊を引きずりながらも)鉄拳一発! とはいえ葛原未来も所詮少女だが――握り締められた拳が銀の顔面にめり込んだ。
銀の身体がぐらりと揺れ、そしておきあがりこぼしのようにまた起き上がってくる。
再び見せた表情はデフォルトの無感情無表情で、違うと言えば鼻血を垂らしていることくらいだ。
ぽたぽたと垂れた鼻血が彼女の露わになった胸元にぽとぽとと落ちているがともかく、どうやら銀の洗脳も今ので解けたらしい。

「正気に戻りましたか」
「ふぁい」

彼女達を乗せていたRウルフ(戦車)もまたその色を元の真紅へと変じていた。ゾウナの洗脳が完全に解けた証明である。
止まっていた戦車はキュラキュラと音を立てて走り出す。
彼女達の目的は『大事な人以外は全て排除する』。洗脳がそのままでも解けてもやることは別に変わらなかった。


 ■


歩いても歩いても変化のない砂丘を織莉子とキャシャーンは声を交わすこともなく歩く。
声をかけようにもなにを言えばいいのか。ただ行く先を失い、なにに迷えばいいかすら掴めない二人に言葉にできるものはなかった。
蒼く光る月を頭上にただ黙々と歩くだけである。

そんな沈黙の時間もほどなくして終わる。織莉子の予知の中に砲撃を受けるビジョンが浮かび上がった。
織莉子は咄嗟にそれを避けようと身体に力を入れる――が、それよりもキャシャーンが織莉子を抱いて跳躍するほうが早かった。
背後で爆音があがり巻き上げられた砂が雨のように降り注ぐ。砂の上に着地するとキャシャーンは織莉子を抱いたまま走り出す。

「キャシャーンさん!」

再び砲撃の予知。織莉子はキャシャーンに声をかけようとするが、やはりキャシャーンはそれよりも早く反応して砲弾をかわす。
彼にも予知が備わっているのか? そうではない。砲弾相手なら対応できる反射神経と運動能力があるのだ。

「キャシャーンさん!」

織莉子はもう一度声をかける。今度は危険を知らせるためではない。自らが彼の錘になっていることに気づいたからだ。

「自分の身は自分で守れます。キャシャーンさんは敵を」
「それは本当か?」

織莉子はキャシャーンの胸の中で彼の目を見つめながら頷く。次の瞬間キャシャーンが高く跳躍した。
彼の腕を離れた織莉子は宙へと放り出され――一瞬の閃きの内にその姿を魔法少女と変える。
彼女がヴェールをはためかせながら砂の上に降りた時、キャシャーンの姿はもう何百メートルも先にあった。


 ■


「一発も当たらないなんてッ!」

戦車の中で葛原未来が悲鳴のような声をあげる。
1キロメートルほど先に見つけたただ歩いているだけの2人。砲撃すれば一発で片がつく――そう思ったのに全くそうなっていない。
この前に戦闘をしたゾウナも異常な存在だったが、今目前にいる敵もまた異常な存在だった。

水を失ったせいでもう銀の観測霊によるサーチができなくなった今、照準は全て葛原未来の腕にかかっているわけだがそれ以前の問題だ。
ただの女子高生でありながら彼女は初めて乗った戦車を十全に使いこなしている。命中率は誤差範囲内において100%である。
それでも一向に砲弾が当たらないのは単純に標的であるキャシャーンが砲弾より早いからだ。

「――――くッ!」

砂丘に砂の波を蹴立てて接近してくるキャシャーンに対し、引きつけて発射した最後の砲弾はあっさりとかわされてしまった。
次の瞬間、戦車が大きな衝撃に揺れ車内が赤いランプの色に染まった。
戦車の中からはすぐ外で何が起こっているのかはわからない。
葛原未来はモニタを頼りに生きている武装を片っ端から発射し、ハンドルを回してキャシャーンを振り下ろそうとする。
だが再び激しい衝撃。
バキバキという大きな音が鳴り響き、モニタの中の主砲のステータスに『使用不可』の文字が浮かんだ。


 ■


それこそ鉄の悪魔を叩いて砕くという風にキャシャーンは戦車を解体してゆく。
けたたましく鳴く機銃を蹴り飛ばし、装甲を手刀で叩き割り、主砲を抱えてもぎ取る。瞬く間に戦車は鉄くずへと変わろうとしていた。
更にはキャタピラの履帯を力任せに剥がし、完全に無力化できたと判じてキャシャーンはいったん戦車から離れる。

おそらくこの中には人が乗っているのだろう。そして降伏するのならば命を取るつもりはないとキャシャーンは考えてた。
動きを止めたことで辺りは静寂に包まれる。そして彼が想像してたよりも早く戦車のハッチは開いた。
中から出てきたのは人――ではなく円筒状のなにかだ。爆弾だと気づいた瞬間、夜を真昼に変えるような光がキャシャーンの目を貫いた。

「くッ――――!」

数秒、キャシャーンの視覚が白に塗りつぶされ聴覚が機能しなくなる。そしてその白い世界の中でキャシャーンに電撃が走った。


 ■


キャシャーンほどの強靭なロボットが、例え改造されているとはいえ女子高生の振るうスタンガンに痺れるというのもおかしいが、
しかし感電やられは感電やられだ。致命的な隙を見せたキャシャーンに葛原未来は拳銃を取り出し、その頭を打ち抜いた。

――が、その光景は現実とはならなかった。予知した織莉子がその銃を魔法の水晶球で弾いたからだ。



「“あなた”はここで一体何をしているの?」

それが織莉子から葛原未来への最初の言葉だった。

「………………?」

織莉子へと顔を向けた葛原未来は怪訝な顔をする。彼女にアニメコスプレを趣味とする友人はいるが、織莉子のことは全く知らない。

「今更こんなことをすることに、あなたにとってどんな意味があるの?」
「…………なぜ、そんなことをあなたに説明しなくちゃいけないんですか?」

聞き捨てならない内容に葛原未来はまなじりを上げる。知らない人間だが、哀れむような表情が彼女の癪にさわった。

「今更……たしかに、今更かもしれません。私には、彼女になにかしてあげらるのか、その資格があるのかすらもわかりません」
「だったらどうして武器を手に取るの? あなたほど力があれば他の道を選べるはずなのに」
「そう、ですね。私は私の道を選びました。それは彼女のおかげです。彼女が私に道を選べることを教えてくれたんです」
「じゃあ――」
「だからこそ、これは私が選んだ道なんです。こんな状況で私のできることは限られている。だったらその全てを彼女のために費やしたい」
「けど、その彼女はもう生きていないじゃないッ!」
「えっ?」
「鹿目まどかは死んだわ。見ていないとは言わせないわよ」

ひゅうと砂丘に冷たい風が吹いた。

「誰ですかそれは、あなたの“設定”ですか?」

葛原未来は嘆息した。なにか知った風に口を聞く女の子が出てきたかと思えばそれはただの“痛い”思い込みのようだ。
なにを真面目に相手したのかと馬鹿馬鹿しくなってくる。

「でも、あなたは……その、鹿目まどかの傍にいつもいる…………あれ?」

しかしこんな勘違いもしかたない。
織莉子は葛原未来のことを暁美ほむらだと思い込んでいたからであり、それもしかたない。なぜならば葛原未来の姿は『メガほむ』だからだ。
『メガほむ』とは眼鏡をかけている暁美ほむらのことである。だから外見がそれならばそのままそう思ってもしかたない。

なぜこんなことが起きているのかと言えば、実に切ない大人(アーク)の事情がある。
漫画『百舌谷さん逆上する』出展の百舌谷小音、葛原未来、樺島番太郎の3人には実は専用グラフィックがまだ用意されてないのである。
葛原未来の外見は暁美ほむらのアレンジver.であるメガほむで、樺島番太郎の外見はギルティギアのポチョムキンの使いまわし。
そして、百舌谷小音の外見描写があいまいだったのもそのせいで、彼女の外見は金髪カラーの紗夢(同じくGGキャラ)だったのである。


 ■


「えっと……どうしましょう?」
「どうしようと言われても……って、そっちの新造人間ぽい人は大丈夫なんですか?」

なにが? と振り返って織莉子は驚いた。
さっきまで元気に戦車をスクラップにしていたキャシャーンが身体中にキノコをはやして苦しんでいるからだ。

「大丈夫ですか、キャシャーンさん!?」
「……え、エリンギ……マイタケ、……ブナシメジィ~…………」

全然大丈夫じゃない。
キャシャーンの身体は、先ほど戦車に接触した際にナマリタケに感染してしまっていた。
ナマリタケとはメカの上に生えるその名のとおり鉛のように重いキノコである。普通は車や戦車に生えるがロボットにも生えるらしい。
そしてロボットに対してこのナマリタケは非常によろしくない作用をもたらすようであった。
具体的に言えば、コマンド入力が左右逆になってガードできなくなってゲージたまらなくなって体力がモリモリ減る。

そして織莉子の予知が致命的なビジョンを彼女の脳裏に浮かべた。
キャシャーンがボーナスステージよろしくバンバン殴りまくった戦車がこの数秒後に大爆発を起こしてここにいる全員が死ぬのだ。

予知の中で戦車が爆発を起こし織莉子の視界は真っ白に染められる。そして訪れる死の直前に織莉子はまた予知をしていた。
予知の中で予知をして、その予知の中で予知をして、予知をして、予知をして、予知を予知を予知を予知を――……



キリカは死んでいた。その傍らには本物の、しかしどこか様子の変わった暁美ほむらがいて――……



全ては無となる。虚構は全て虚構を生み出す夢もろともに散華する――……



「そう、なのね。これは」



真実を知ってしまえばもう予知を覆す必要はなにもなかった。キリカともう会えないのならそれはなおさらに。
そして予知は予知のままに実現する。


砂丘の真ん中で爆発が起こり、そこにいた全員が死んだ。






【F-9 砂丘/一日目 深夜】

【美国織莉子@魔法少女おりこ☆マギカ 死亡】
【キャシャーン@キャシャーン Sins 死亡】
【葛原未来@百舌谷さん逆上する 死亡】
【銀@DARKER THAN BLACK‐黒の契約者‐ 死亡】


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最終更新:2013年01月24日 04:23