THE IDOLM@STER-06


1

冬の厳しい寒さも和らぎ春の心地良い陽気に移り変わるこの季節新生活に望む若者達で何時もより活気付いた街並み。
そんな中元ザフトレッド特務隊フェイス所属シン・アスカは何処か愁いを帯びた表情でベンチに座り缶珈琲を片手に街並みを静かに見詰めている。幼さを残す容貌に反した浮き世離れした雰囲気を纏い世界から何処か浮いた存在の様にそこにいた。
戦争を経験し最終決戦で願い半ばで嘗ての上司に敗れ何の因果かこの世界に流れ付き慌ただしくも充実した二年が過ぎ新たな起点に立った今現状に思う事があるのだろう。

「はあぁ…………良しっ決めた!」
唐突に溜息を洩らすとまだ肌寒さ残る外気との温度差に吐息白く色付き虚空を漂っては霧散し缶珈琲の中身を一気に飲み干し、決意を籠めた張りのある声を人知れず発す。明日がどうなるか分からず共現実を見つめ自分なりに明日に進もうとするこれがシン・アスカの美点である。



「もういっそ俺がアイドルになる」
訂正、ただの現実逃避であった。

現在はお世辞にも有力プロダクションとも呼べない為売り込みは生命線の一つだ。今日も今日とて売り出してばかりで仕事も少ない為事前に考えていた所属アイドル達のレッスンに混ざったりコミュニケーションを取り交流を深め有り余った時間は宣伝で駆けずり回っていた。自分に出来るか分からないが期待に応える為には全力で仕事に勤めるべきだと思い実行している。
ただ人数は集まって来たとはいえアイドルという物は客観的に視て流行や需要に左右される物である、そして何より一人の人間だ。目標があるからと言って勝手に方向性が決められる訳もなくアイドル達を良く知り能力を最大限生かせる場所を準備するのが大切だろう。多くの需要や流行に引っ掛かる簡単な作戦とは人海戦術である、下手な鉄砲数撃ちゃ当たるとあるが放たれた鉄砲は目標を外れても何かに当たるのだ。つまり今回シンが考え付いた事はアイドル候補延いてはをアイドルを増やそうという事だ、オーディションなり何なりしたら良いと思うがそこまで頭が回らなかったのは許してあげて欲しい、行動で示すタイプなのだ、事務所の知名度も低い為手段は間違えていない。

俺は憂鬱だった、全くと言って言い程掠りもしない事に。
成功しない理由は分かっている、俺が原因だ。冷静に考えれば最初から分かりきっていた。そもそもいきなり知らない男が現れて「君を見た瞬間キラキラバシューンときた!君の様な人材を求めていたんだ!」等と女性に話し掛けたら十中八九不審者に見られるだろう、自慢じゃないが俺はそんなに口は巧くないし思った事を口にしてしまう。この二年間でマシになったとは思うが如何せん性格は簡単には変えられない。
勿論今まで何もしなかった訳じゃない、何人かに話を持ち掛けてみたが全て空振り三振そもそも切り出す事すら出来ずに終わる事もしばしばでナンパだと勘違いされもした。一度上手くいったからと甘くみていた節もあった奇跡は二度も続かない、寒空の下数時間白い眼で見られある時はお茶に誘われ慣れない行為で気疲れもしたら戯言の一つや二つ言いたくもなると言う物だ。


今日は諦めよう皆にお土産にケーキでも持って帰ろう。踵を返し空き缶を缶入れに我ながら中々の投擲で放り込み商店街に足を進ませる、確かこの辺りには有名なケーキ店があると愛梨が言っていたと思い出し周囲の店舗を確認する様に視線を彷徨わせる。

ふと視界に両手一杯に買い物袋を下げ覚束無い足取りの小柄な少女が眼に入る。清涼感ある真っ白なワンピースを纏い鍔の広い帽子を被る姿は何処ぞのお嬢様と言われても違和感はない、もしかしたら見たまんまのお嬢様なのかも知れない。

っと、今更ながら余り人をジロジロ視るのは趣味が悪い。視線を逸らそうとした矢先少女の足元から数歩先に段差を捉えた気付いた気配もなく咄嗟に怒鳴る様な声音で注意を促す。

「危ない!」
「えっ?」
彼女が驚いた表情で視線を此方に向ける、却って足元から注意を逸らせてしまい彼女の足が段差に掛かり身体がスローモーションで倒れる、そう頭が判断する以前に地を蹴り駆け出していた。身体を滑り込ませる様にし彼女の身体を右手で支え左手で地面に落ちる前に買い物袋を掴む。

「大丈夫?」
必然的に互いの身体が接触し鼻先を甘い匂いが擽る柔らかそうな頭髪にきょとんとした瞳が俺を下から覗く。数秒にも満たない沈黙の中見詰め合うと彼女の顔が瞬く間に朱に染まっていく。

「は、離して下さいっ!!」
「ぱるまっ!?」
平手打ちが頬を叩き付ける、小柄な体格ながら小気味良い衝突音が響く。だが音源は俺の頬である。

衝撃で後ろに二歩よろめく折角落とさなかったのに幾つかの買い物袋は地面に落ちていく。頬に熱が集まるのが伝わる、今鏡を見れば季節外れの綺麗な紅葉が見られるだろう、痛い。
以前の自分なら怒りを感じていたかも知れないが伊達に人生経験を積んでいる訳ではない。

「いきなり抱きつくとか貴方何なんですか!?」
羞恥と怒りが混ざり合った表情で此方を怒鳴り付ける彼女を打たれた頬をさすりながら見詰める。

「…怪我は…ないみたいだな。悪かったよ、咄嗟の事でつい…」
明らかに俺が悪い、彼女に声を掛けなければ躓かなかったかも知れない。怪我もしていないみたいだし良かった、自然と笑みが滲み出すが頭を下げ謝意を伝える。

「……」
暫くし反応がない為怖々と顔を上げてみる勝ち気そうな子だったから立腹しても仕方がないだろうと思っていたが無言だ。これは謝っても許さないという事だろうかそれにしては彼女が微動だにしない。

「…ま、まあ良いでしょう。下心があったのならお巡りさんを呼びましたが寛大なボクは許してあげましょう」
どうやら思ったより怒っていないみたいだ、流石にこんな事で警察のお世話になるのは御免被る。

「下心がある訳ないだろ、君はまだ子供みたいだし。ほら、荷物」
肩を竦ませ溜め息混じりに地面に落ちた荷を手に取り埃を手で払い、彼女に差し出した。

「子供ってボクは立腹な女の子ですよ!貴方だって子供じゃ…ありがとうございます…」
地雷を踏んだらしいと言っても子供は子供だ、俺を子供と反論したかったんだろうが買い物袋を受け取ったら御礼を言って来たところからすると矢張り根は良い子何だろう。不意に荷物を受け取る彼女の手が止まる、疑問を抱くと彼女の顔が笑顔を作っている。笑顔といっても警戒心を抱く様な物だ擬音にするとニヤリと聞こえてくる。

「あーあ、さっきのでボク手を痛めちゃって荷物がこれ以上持てませんねぇーどうしましょうかなー」
コイツ!?此方に非があるからといってそこに付け込んで来た。女性は転んでもタダでは起きないと聞くが正にそうだ。
だがさっきみたいに放っておくのも後味が悪い、今度は本当に躓くかも知れない。此処で出逢ったのも何かの縁何だろう。

「困りましたね、こ「分かったよ」はい?」
不本意と言えば不本意だが仕方ない、たかが買い物袋だ。中身は持った感じ服だと思うし大した労力ではない。言うなり彼女に渡した荷物を再び持ち直す。

「ちょ、ちょっと貴方」
「余計なお世話だったか?」
又慌てている、彼女が遠回しで言おうとした事じゃなかったのか?だとしたら俺はまたお巡りさんの世話になる確率が上がる訳だが。

「…そんな事はないですけど…むー…」
何処か不満そうだ、いったい俺にどうしろというのか…。

「なら良かった。で、何処に運んだら良いんだ?」
「…通りに出たらタクシーを拾いますのでそこまでお願いします」
「了解」
小柄な彼女が持つと危うげだったが自分が持つと幾何かの余裕がある、歩行の阻害になる程でもない。彼女も身軽になったお陰かさっきとは違い足取りも軽い、俺の隣に並んで歩調を合わせてくれている。

「…こんなに買い込んでるけど全部自分のか?」
先程から彼女が時折視線を此方に向けて来て落ち着かない、話題作りで右手に下げた衣服の入った買い物袋を持ち上げ問い掛けた。

「春服だけですよ、荷物になっちゃいますしそれでも減らした方何ですよ」
「これで減らしたのか…」
思わず苦笑が洩れる自分は服には無頓着で着れたなら良いと思うがルナ然り女性という物は服を必要以上に買い漁るようだ。気持ちは分からないがそういう物何だろう。

「…何か言いたそうですが、まあ良いでしょう…貴方はどう何ですか?」
此方の言動で言われる事は予想が付くんだろう、話を此方に逸らして来た。
「俺?俺は仕事中だ」
仕事中と応えたは良いがこの数時間何も出来ていないと言われたらそこまでだ、だが疲労感は何時もより上だ。

「ははーん……サボリですか?お子様ですね」
鼻で笑われた、カチンと来たが此処は落ち着こう。相手は子供の言う事冷静になろう、熱くなるなとレイにも何時も言われていた事を思い出す。

「サボリじゃないしアンタには関係ないだろ…」
「そう言ってサボリ何でしょう、サボリじゃないなら何してたか言ってみて下さいよ?」
ニヤニヤしながら俺の顔を覗き込む、小悪魔な姿が彼女の雰囲気と合っていると感じた、職業病だろう。更に煽りを受け無意識に語気が強くなっているのが自分でも分かる、だが隠す事でもないしそう言うなら言ってやろうじゃないか。

「…アイドルになってくれる子を探してたんだよ」
「は?」
うっ…言葉にしてみると何だか馬鹿みたいに聞こえてしまうが事実だ、成果は零だったが。彼女も不審がっている、このままでは不名誉な人物と思われ兼ねない。仕方ない。

「ほら、此処に書いてるだろ。俺の名前でシン・アスカって」
胸ポケットに仕舞っている名刺を相手の眼前に突き出してみせた。最初は驚いていた彼女も信じてくれたのだろう、ニヤついた笑顔が……消えない一層濃くなった。

「へープロデューサーさん何ですね、でもでもアイドル見つかってないんですよねー?何もしてないなら実上サボりって言いません?」
あ、うん…この子ウザいわ。こっちの気も知らないで好き勝手言ってくれる、かと言ってそれほど不快に感じないのは彼女の雰囲気のお陰なのだろう、これも才能といった所だろう俺の中で彼女に対する評価は絶賛下降中だが。

「あ、一応名前教えて貰ったんでボクの名前も教えてあげますよボクは輿水幸子って言います」
こんな所ばかり礼儀正しい、彼女からしたらコミュニケーションみたいな物なのだろう、悪意は感じない善意も感じないが。

「じゃあもう輿水の言う通りで良いよ…」
こうなってしまって何方かが折れるしかない、不毛な遣り取りをする体力も無く此処は年長者として譲ってやる。くそぅ。

「苗字じゃなくて名前で良いですよ……でも良かったですねーお陰でボクみたいなアイドル級に可愛い子に会えて」

そう言う幸子の顔は会心のドヤ顔である、清々しいドヤ顔である、此処迄来ると一巡して感心するドヤ顔だ。

「そうだな…なら本当のアイドルになってみないか?」
「はえ?」
予想していなかったんだろう間の抜けた声だ、形の良い唇を魚の様に開閉を繰り返している、面白い。一本取ってやって胸がスッとした。

「えっと…本気ですか?」
「冗談でこんな事言うか、実際幸子は可愛いと思うぞ」
これは正直な感想だ、事務所に居る他のアイドル達とも見劣りしない整った顔立ちをしている。綺麗やそういう物と違い可愛いという表現が一番落ち着くだろう。

「………」
……あれ?反応がない。自分が可愛いと思って無かったらあんな事言えないから集中線や擬音が視覚で捉えられる様なドヤ顔になると予想していたが無反応である。


「……ボク可愛いですか…?」
「う、うん…可愛いと思うよ」
「どれくらい…?」

再起動すると頬を朱に染め照れ臭そうに顔を臥せ上目遣いで此方の様子を伺う殊勝な態度に思わず自分の顔の体温が上昇しているのを感じる、肌寒い空気にはピッタリだと言ってる場合ではない。どれくらいと言われても例え様がない。えーっと…あ、そうだ。

「事務所の子達と同じぐらいかな」
その一言が決定的だった、途端に彼女の身に纏う空気が変わる眉を顰め不機嫌ですと声高に主張せずともありありと伝わる。何かいけなかったんだろうか?季節外れの冷や汗が滲む、唐突に襟元を捕まれ引き寄せられ咄嗟な事に反応出来ず互いの鼻頭がぶつかる寸前視界一杯に彼女の幸子の顔が広がり両腕共荷物で塞がっている為されるがままだ、息を吸うと鼓膜に直接刻み込まんばかりの大声で。

「ボクが一番可愛いに決まってますよ。シンさんはそんな事も分からなかったんですか?失礼ですね!良いです許してあげます!その代わりボクが可愛いって証明するの手伝って下さいね!」
そんな訳で我が事務所に新しいアイドルが誕生したのであった。

2

「今日は良く働いたなぁ」
そう言って伸びをすると張った筋肉が伸ばされ小気味良く骨が鳴る。シン・アスカの本日のお勤めが終了した所である。

時刻は時計の短針も真下を過ぎ薄暗くなり始め街頭が灯り始めた繁華街に来ていた。理由は単純に食事つまり外食だ。
彼の名誉の為に弁解しておくが自炊が出来ない訳じゃない、両親は研究職で家を開ける事も珍しくなく必然的に長男として家事を担った物だ、軍に入り機会は減ったとはいえ一度身に付けた技能だ。現在は男の一人暮らしという事もあり更には給料も天引きされ貧乏生活を余儀無くされている、自然と自炊する回数も増える。お陰で腕前は同年代の男性の中でも上々の物だろう。

だが料理というのは食べてくれる相手がいてやる気が出る物だ、そしてシン・アスカという男は自分に対して無頓着である。故に食事も雑な物、インスタント、外食、作り置き、極稀に凝った物と実に自由だ。
良く身体を壊さなかった物だと思うが彼は健康面を遺伝子的に強化されたコーディネーター、実に燃費が良い。これが無理をする理由の一つでもある為一概に良かったとは言えないが。
彼が努力家の事もありこの二年間でかなり能力を上げている、伊達に同じ二年で難民からアカデミートップ10の赤迄に登り詰めた訳じゃない。だからこそ彼の潜在能力の高さ故にプロデューサーとして白羽の矢が立ったのは有る意味当然と言える。

本日は自らアイドルに混ざりトレーナーと指示をしつつレッスンを行い日々の売り込みが功を成し小さい仕事も幾つか入り張り切って送迎序でに機材を運ぶのを手伝ったり幸子の可愛いアピールを聞き流し全員のスケジュール管理にちひろさんに訳も分からずドリンクを買わされデスクワークを済ませたりと実にハードワークであった、自分から仕事を増やしてるから始末が悪い。

話を戻そう外食の為に街に出た訳だが特に何かと決めていた訳ではない。金銭的に余裕が少ないが本日はまゆがお弁当を作って来てくれた事もあり昼飯代は浮いている。羨ましい限りだ。
最も多い外食はラーメン、四条貴音に付き合わされる為だ。そんな訳で自然と選択肢から除外されるのは仕方ないの事。適当な店に入ろうとした矢先。

「もう良いからはなしテ!」
「まあまあ良いじゃねえか声をかけて来たのはそっちだろう?」
「俺達がもっと面白い場所に連れて行ってやるよ」

何て事はない使い古された、ナンパだ。但し悪質で相手側に選択肢を与えない物に見える。褐色肌の外国人であろう見た目麗しい少女の腕を掴む一人の男を先頭に三人の男達が下卑た笑みを張り付かせ全員今時の流行りの服装を身に付けている。
少女が嫌がり助けを求めようと周囲に視線を向けるが周りもトラブルを避ける為か視界に入れない様に通り過ぎている。薄情かと思うかも知れないが成人男性数人に外国人といった組み合わせだ一般人には荷が重いだろう。

そんな中シン・アスカは真っ直ぐ歩を進ませる人垣も彼の雰囲気に当てられ割れていく。無視をするという選択肢は最初から存在しない、彼の行動原理の一つは誰かを守る事なのだから。

「おいアンタ等止めろ」
凛とした声を上げ少女と男達の間に身体を割り込ませ少女の腕を掴む腕を握る。下卑た笑みを浮かべた相手と背後の少女の視線を一斉に集める、気を良くしていた男達は不快そうに表情を変える。
「何だよ俺達はそっちの子に用があるんだガキはさっさと失せろ」
「失せるのはアンタ達の方だ、合意の上には見えないし周りの迷惑だって分からないのかよ」
先頭の男が敵意を込めて睨み付けてくる、シンも負けじと視線を逸らさず睨み返す。

暫し睨み合いが続く、真紅の瞳の眼力に当てられ先頭の男が溜まらず眼を逸らす。後ろにいる男達もシンの外見に不相応な雰囲気に当てられ怯んだ。彼等からしたら極上の獲物を前に邪魔が入ったのだ、逆恨みに近い怒りを抱き更には集団という構成が態度を大きくさせた。
「うるせえガキが邪魔すんな、つってんだろ!」
「そもそもそっちの女が話し掛けて来たんだよ」
「そうだ、事情も知らないのに良い子面は止めろ!」
一斉に言葉で煽る、背後の少女が怯えてシンの後ろに隠れた。
反論はせず腕を握る指に力を込める、すると先頭の男の顔が苦痛で歪む腕の力は反射的に弱まり少女の身体を離したそれを確認しシンも手を離す。華奢そうに見えるが中身の入った缶珈琲を片手で握り潰す程度の握力はあるのだ。

「テ、テメェ!」
「嫌がってるって分かってるだろ、だから腕掴んで逃げられない様にして。これ以上みっともない真似はするな」
腕を抑え怒気が籠もる声をあげるが憮然とした態度で言い返す。
片方は正論、片方は感情論。怒りで短絡的な思考になっている男も何方の言い分が正しいか少し考えれば解るのだろう、それが解るからこそ脅してで引かないのならば暴力に頼るしかない。

「調子に乗るんじゃねえ!」
先頭の男が顔を真っ赤にし怒りで震え握り拳を作りシンの顔面に向けて拳を振るう。鈍い音が響き少女が息を呑むのが気配で伝わる。

顔の中心を捉え拳が入り男は笑みを作り拳を離すが殴打を受ける以前と同じ表情で微動だにせず真っ赤に燃える瞳を細めた。男の笑みが途端に消える。


避けるというのも出来たが背後の少女の事もある、何よりこれ以上力で解決するという手段は取りたくはなかった。
「止めろ」
短く言葉吐き出す、これが最後の通達という意味を込めた言葉だ。場合によっては少女を抱えて逃げる算段も考える。
周囲の喧噪の中此処だけ緊迫した場違いな空気が漂う、先頭の男は舌打ちをし無言で逃げる様にその場を立ち去る、背後にいた男達も俺と交互に見返し慌てて後を追うそして荒々しい足取りで街並みへと消えて行く。

「ふう…」
ホッと一息を吐く、喧嘩になっても負けるとは思わないがそれはそれだ。
背後の少女の様子が気になり振り返る、第一印象としては矢張り褐色の肌が眼に付く端正な顔立ちはまだ幼いながら何処か色気を感じさせる、あの男達がナンパする理由も分かる程の美少女だ。だがまだ怯えが瞳の奥に見える、仕方無いだろう。

「ごめん、恐がらせたな」
以前ステラが誤って海に落ち怯えている時に怒鳴り付けてしまい、更に怯えさせてしまった事がある。それを踏まえて出来る限り笑みを作り優しく声を掛ける。

「…ぁ……いえ、ワタシの方こそごめんなさイ」
俺の顔を見詰め小さく声を洩らし片言ながら謝意を伝えてくる。彼女が悪い訳じゃないし謝る必要はない。
「いや、良いよ。俺が勝手にやった事何だし何事もなかったんだから」
「でも鼻から…」

鼻から?そう言われ右手を鼻に伸ばす生暖かいヌルッとする感触に鉄臭さ、言われて初めて気付いたが鼻血である。
「うわっ!?ティッシュティッシュ…ああもう!」
慌ててポケットティッシュから数枚取り出し流れ出る血を拭う、先程の殴打が原因なのは考えるまでもない。余り良くはないと聞いたが応急処置としてティッシュを丸め鼻に詰める。鼻呼吸に違和感があるがこれで良し。

「…ぷっ、ふふ…あははははは!」
彼女が突然笑い出す、最初は何が何だか分からなかったが鼻にティッシュを詰めた姿等滑稽に映るだろう。少々恥ずかしかったがさっきみたいな表情よりこうやって笑顔である事が似合うと思い鼻血が治まる迄こうする事にした。

俺の鼻血も止まり彼女も落ち着いたみたいなので話を聞いてみた処彼女の名前はナターリア、ブラジル第二の都市リオ・デ・ジャネイロから来日しているらしい、まだ日本に慣れず道に迷い困り果てたところ道を聞こうとしたが相手がさっきの男達で絡まれた所俺が現れたという事だ。

「あらためましてありがとうネシン!」
満面の笑みで御礼を言われた、どうやらさっきの鼻血騒動で先程の騒動を払拭出来たらしい。無駄に血液を失った訳じゃなかった、災い転じて福と為すとは良く言った物だ。真っ直ぐな気持ちが些か気恥ずかしかったが感謝されるのは悪い気はしない。

「どう致しまして、ナターリア俺で良ければそこ迄道案内するよ」
自分もプラントに移住した際は彼女と同年代ぐらいだった事や周りの環境に戸惑い馴染む事に苦労した為彼女の苦労は分かる、つい自分を重ねて甘くなってしまう。……こんなに純真ではなかったが。

「ホント!シン優しいネ」
「……そんな事ないさ、俺が優しいとしたらナターリアが良い子だからだよ」
こうも純粋な感情を向けられるのは未だに照れ臭く視線を逸らしてしまう。多分これは慣れる事は出来ないだろう、彼女は俺には眩し過ぎる。

不意に聞き慣れた空腹を知らせる音が響く、俺ではないつまり…音源に視線を向けるとナターリアと視線が交わる。褐色の肌で隠れてはいるが仄かに赤みが差していくのが良く視ると分かる。時刻は七時を過ぎているお腹も空く、整理現象だから仕方ないが恥ずかしい物は恥ずかしい様だ。

「あー…その前に俺お腹減ってるからご飯食べてで良いか?ナターリアにもご馳走するから」
流石にフォローにしては露骨過ぎる気がするが俺が空腹なのも事実。忘れ掛けていたが外食する為に繁華街に来てたのだった、意識したら空腹感が強くなった様に感じる油断すると二重奏を奏で兼ねない。

「良いノ!?」
「ああ、構わないよ」
「やったぁ~ゴハン、シン大好き!」
うおっ眩しっ。思わず掌で視界に影を作ってしまう、それほどの笑顔だ。
そうと決まれば手近な店に入ろう、丁度視線の先に回転寿司屋が見える。外人受けはどうか分からないが昨今は寿司以外にも品数が増えている上面白い造りをしているし偏に店を選ぶより良さそうだ。

「回転寿司で良いか?」
「スシ!ナターリアスシ好き!」
どうやら好物らしいかと言って安心は出来ないブラジルの寿司と日本の寿司は別物だ、それは国が違う為当然の事であると言えるが少し説明しよう先ず寿司ではなくSUSHIと思って貰おう、理由は日本の寿司とブラジルのSUSHIは一見似ているが相違点がある。一緒にすると職人の親父達に怒鳴られても文句は言えない。その違いとは本格的な寿司屋を除きブラジルのSUSHIの握りにはマグロとサーモン基本この二種類の魚だ、巻き寿司に関しては果物やガムシロップ等を巻いた物等がある。更にブラジルでは寿司は食べ放題が主流になっている、つまりブラジルでは質より量の食品と言えるだろう。
この少女がどう思っているかは知らないが本当の寿司という物を教えてやろう。そう決意を胸に回転寿司屋へと踏み出す。


「わーシン!スシがいっぱい回ってるヨ!?」
「回転寿司だからな、流れて来る皿で好きな物を取るんだ」

運良く席が空いており店員にカウンター席に案内され隣合わせで座る、その間にもナターリアは好奇心で輝く瞳で物珍しそうに店内を見渡す。興奮している為か声音が自然と高まり周囲の視線を集めるが気にした素振りはない。無邪気に楽しむ彼女を見ていると指摘するのも憚られる為放っておく。席に着き湯呑みと小皿を二つ手に取り茶と醤油を入れ自分とナターリアの前に置く。

「エェト…これとあれとこれも美味しそうだナ♪」

ナターリアが次々と皿を手に取っていくのを眺めながら湯呑みを取り熱い茶を啜る、程良い苦味が咥内に広がり喉が潤い心地良い後味が残る釣られて表情も緩む。俺も寿司を取ろうとチェーンコンベアに手を伸ばすが手当たり次第に取っているから俺の所迄流れて来ない。――…ってコラ待て。

「ナターリア別に寿司は逃げないからそれを食べてから取るんだ!な?」
「逃げるヨ!クルクル回ってるから直ぐになくなる!」
「いやいや、時間を空けたら又来る様になってるから。他の人が食べられないし自分が取った分を先ず食べるんだ、そしたら次を取って良いから」
最初は獲物を狙う猫の様だった彼女も俺の言葉でどういうシステムか大凡理解出来たのか動きが止まる、名残惜しそうに流れる寿司を見送ってはいるが納得してくれたみたいだ。

「うー…分かったヨ」
「別に食べるなとは言ってないからゆっくり味わって、な?」
不満そうな表情で項垂れるナターリアの頭に手を伸ばし柔く撫でる。つい765プロ年下を誉める様にしてしまった。最初は驚いていたが直ぐに擽ったそうに瞳を細め笑みを浮かべる、どうやら気にしていないみたいだ。艶のある黒髪を数度撫でては手を離す。

「さ、腹も減ったし好い加減食べようか?」
「ん……わかった、ワタシお腹減った。」
「いただきます、後醤油は好みで付けたら良いから」
「いただきマス!」
手を離す際何処か残念そうに見えたが直ぐに寿司に意識が戻る、俺に習ったのかワンテンポ遅れて軽く頭を下げぎこちない箸遣いで寿司を挟み口に運ぶ、咀嚼を暫し行いパッと表情が明るい物になる。

「美味しい!このスシすごい美味しいヨ!」
「なら良かった、食べた皿は隅に寄せて重ねる様にするんだぞ」
言葉以上に顔が物語っているので分かり易い、次の皿に手をかけるのを尻目に俺もコンベアに手を伸ばし玉子を取る、玉子は寿司屋の質が分かるとかで一番最初に食べるのが通な食べ方らしい、回転寿司な為意味は余り無いがこういう物は気分の問題なのだ。うん、美味い。

「シン!シン!これナニ?」
「ああ、それは注文用のスイッチでって…聞いてる途中で押さない」
「ならワタシこれとこれ食べたい!」
「はいはい、すみませーん」

「良い感じで山葵が利いてるな」
「ワサビ?」
「ん?ああ、この緑ので寿司に付けるんだ」
「ワタシもつける!」
「ん、ほら。ってそんなに付けたら」
「ッ!?~~~~…謀ったナー…」
「えー…俺のせいなのか」

そんなこんなで和やかに食事が進む。ナターリアは既に十皿を超えているが一向に勢いが衰えない、寧ろ更に勢い付いた気がする。余程気に入って貰えたみたいだ、回らない寿司なら問題だが回る寿司を奢る程度なら甲斐性はある。先程から事有る事に頻繁に話し掛けてきて二つの意味で口が止まらない彼女にふと思った疑問を投げ掛ける。

「そう言えばナターリアは何で日本に?」
「ふぇへひで」
「ああごめん、食べてからで良いよ」
寿司を頬張った状態で喋ればそりゃ米粒が飛ぶ斜線上にいる自分の顔に吹きかかるのは当然な事。今回のでそれを覚えた、と顔を拭く。

「――TVで見たアイドルみたいにかわいくなってワタシもミンナにダンス見てほしくテ!」
そう言って子供みたいに夢を語り笑みを浮かべる彼女に自分を一度重ねたせいか本当に眩しく見えた、俺には彼女の様に胸を張れる願いはなかったからだろうか。

「そっか…」
声が沈み表情が曇る。
「シン?」
彼女が心配そうに此方を覗き込む。言葉を返す余裕はない、正確には返せる言葉がない。運命めいた物を感じ驚いていたのもある、彼女をプロダクションに誘えば二つ返事で承諾するだろう。
かと言って今は勤務中ではないし何より後ろめたさがあった。立場を利用しているみたいだしこんな子供だ、家族が居るならそこに帰るべきだ。
でもナターリアは此処で勧誘しなくとも他のプロダクションに行こうとするだろう、態々ブラジルから来ているんだ。簡単にはい、諦めますとはいかないだろう。なら。

「ナターリア…俺にアイドルになるのを手伝わせてくれないか?」
真っ直ぐ瞳を向け真摯な気持ちを込め言葉を告げる。彼女を応援したい、支えたい、エゴかも知れないが何より俺の手でアイドルにしてやりたかった。

最初は突然の言葉にキョトンと瞳を丸くしていた彼女だが次第に今日一番の笑顔を零し。
「―うん!シンが手伝ってくれるならワタシがんばれる!んット…ナターリアのコトかわいがってネ♪」


そして次の日朝から二人で出勤したら何故かいざこざが起きたが我が事務所のアイドルの一員が又一人増えたのは確かであった。

3

貴音「今からあなた達の中に特濃バター味噌らあめんを入れます・・・・。」
シン「・・・・ゴクリ」
貴音「濃ッッ厚ッッッ・・・!」
シン「ウプッ! ・・・・胸やけが!」
貴音「これがイメージです。」

美希「なんだかハニー達楽しそうなのー」モミュモミュ
春香「プロデューサーさーん、何しているんですかあ?」ゴキュゴキュ
千早「2人とも食事しながら話さない!」


4

シン「うーん…」

輝子「…親友…?」

愛梨「どうかしたんですか?」

シン「ん?大した事じゃないさ」

愛梨「大した事じゃないって…私じゃ頼りないかも知れませんけどシンさんの力になりますよ?」

輝子「うん…わ、私もなる…ほら…私達親友でしょ…」

シン「いや、本当にそんな大した事じゃないんだ。大事な事には変わりはないけどやっていけてるというか…お前達が気にする事じゃないから」

留美「あら?どうしたの?」

凛「プロデューサーがまた何かやった?」

愛梨「留美さん凛さん…シンさん…プロデューサーさんが悩みがあるみたい何だけど…でも私みたいに抜けてる子じゃ力になれなくて…」グスッ

輝子「…シンは…親友じゃ無かったって…私ぼっち…空気…フヒ…キノコー…キノコー…ボッチノコー…」ボソボソ

シン「いやいや!誰もそんな事言ってないから!凛もまたって何だよ!」

凛「じゃ、何?」

留美「後ろめたい事がないなら言っても構わないでしょ」

シン「分かりましたよ…ほら、俺ってまだ十八歳だろ?だから営業先とか年上の人達から子供扱いとまではいかなくとも軽く扱われたりするんだそれで悩んでて」

凛「確かにプロデューサーにしては若いよね、私も最初は心配だったし」

愛梨「良かったぁー…嫌われてたのかと思って。でもシンさん頑張ってますし今のままで良いんじゃないですか?」

留美「何そんな事、悩むのは分かるけど若いって悪い事だけじゃないわよ」

輝子「…私は…親友と…歳が近くて…嬉しい…キノコと同じで…近くに感じるから…」

シン「皆はそう言ってくれるけど矢っ張り裏方共なるとそれを売りにする事は出来ないんだ、営業が俺のせいで失敗する事もあったしさ」

凛「ふーん…大変何だ、でも年齢何てどうしようもないでしょ?今は周りに何か言われても何れ消えると思うけど…」

シン「まあ結局は凛の言う通りか…今は大人でもないし子供でもないって感じみたいだから」

留美「でも結婚は出来るのよね」

「「「「えっ?」」」」

留美「えっ?」

ちひろ「そんな貴方にお勧めなのは数年歳を取るドリンクです!」

シン「聞いてたんですか?後そんな危ない物要りません!」

ちひろ「プロデューサーであるシンさんが困ったのなら支援するのも私の仕事何です、だから大丈夫ですよ直ちに健康に問題は有りませんから」

シン「でもそれって根本的に駄目なパターンですよね?お金も取られそうですし使いませんよ」

ちひろ「お金は取りませんよー?その変わり写真を沢山撮らせてもらいますが」

シン「…写真何かどうするんですか?」

ちひろ「勿論好事家に売るんですよ!」

凛・留美「」ガタッ

シン「売れないでしょう?それにそんな方法で解決したくないですよ」

凛・留美「」スタッ

ちひろ「ううーん…良い考えだと思ったんですけどねぇ」

シン「どうして良い考えだと思ったのかはあえて聞かないでおきます」

愛梨「そう言えば私と同い年何ですよね、落ち着いてますし仕事も沢山してますから年上だってイメージがありました」

留美「そう?子供っぽいと思うけど、頑張ってくれてくれてるのは分かるわね」

輝子「…私…みたいなボッチとも…お話ししてくれて…優しい…」

凛「偶にセクハラかって事もあるけど何だかんだで頼りになるしね」

ちひろ「事務も早いですし面倒見も良いですからねぇ」

シン「あー…うん、ありがと。…俺の話は良いから」

凛「自分から話振ったのに照れてるなら世話ないでしょ」

シン「う、うるさいな!」

ちひろ「誉められるのに弱い何て可愛い所もありますねぇ」

留美「ふふ…そういう所が子供っぽいのよ」

まゆ「余りシンさんを困らせたら駄目ですよぉ?」ニコッ

凛・留美・ちひろ「」ビクッ

シン「まゆかお疲れ様」

輝子「あ…まゆさん…お疲れ様です…」

まゆ「うふふ、シンさん輝子さんありがとう。それでどうしたんですか?」

愛梨「シンさんが子供っぽいから大人になりたいって」

まゆ「シンさんがですか?十分素敵だと思いますが…そうですねぇ、簡単な所から言えば服装でだいぶイメージは変わりますよ?」

シン「服装と言われてもスーツが基本だからなぁ」

まゆ「スーツにも色々有りますよ?例えば今シンさんが着ている三つ釦のスーツは若い世代に人気がありますがブリティッシュ・モデル、二つ釦のスーツの方がウエストシェイプつまり身体の線が綺麗に見えますので其方の方が良いかと思いますよ」

シン「はー…成る程、今度見てみるよありがとう参考になった」

愛梨「わあっ流石元読書モデルしてただけあるね」

まゆ「うふ、偶然知ってただけですよ何なら一緒に買い物に行きませんかぁ?まゆも丁度今度服を買いに行こうと思ってましたので」


シン「服とか分からないから助かるよ。荷物持ちぐらいだけどまゆのも手伝うから」

まゆ「ふふ…まゆはシンさんと一緒に居られるだけで良いんですよ」

凛「………」ムッ

ちひろ「(何気ない会話からデートの約束まで持っていった…まゆちゃん…恐ろしい子…!?)」

輝子「親友と…買い物…良いなぁ…」

シン「ん?何なら輝子も一緒に行くか?」

凛「!?」

輝子「…良いの…?でも…まゆさんが…」

まゆ「良いのよ?輝子ちゃんも一緒に行きましょう…?シンさんが友達ならまゆも友達でしょ?」

シン「ほら、まゆもそう言ってるしそんな事で遠慮しなくて良いだろ」

輝子「フヒ…ヒャッハーッ!?シンが友達ならまゆさんも友達だぜぇ!一緒に地獄の出店血祭りにしようじゃねぇか!」

まゆ「あらあらうふふ…」

シン「はは、輝子は元気だなぁ」

留美「(これは!?彼の性格から見て一度の展開で進展は難しい…だけど輝子ちゃんの様な子といけば自然と面倒を見る側に回りシン君の中での親愛度が上がり易い…いや、考え過ぎかも知れないけど…まさか…)」

愛梨「良いなぁ、和気藹々って感じで」

ちひろ「愛梨ちゃんも一緒に行ったらどうです?シンさん達も別に断らないと思いますし」

凛「(そうだ、なら私が言っても可笑しくないよね)プロd」
愛梨「んー…それも考えたんですけど輝子ちゃんは人見知りする子だから余り人数が多いのは駄目かなと思っちゃって」

凛「」

留美「(まさかここまで考えて!?何という事なの…)」

幸子「可愛いボクが戻りましたよシンさん…って何ですかこの空気」

シン「ああ、幸子お帰り。空気がどうかしたのか?」

ちひろ「幸子ちゃんお疲れ様、ちょっとシンさんの事で、ね」

幸子「またシンさんですか」

シン「お前もまたって何だまたって」

幸子「気付いてないのは本人だけですか…はぁ…まあ良いでしょう、詳しくお願いします」

留美「子供っぽいから大人っぽく見せたいらしいのよ」

幸子「成る程成る程背伸びしたい年頃ですからねぇ、シンさんの悩みは仕方の無い事ですよ」

シン「年下にそんな風に諭されるとは思って無かったよ」

幸子「折角なので可愛いボクがアドバイスをあげましょう、嬉しいでしょう?」

シン「期待はしてないけど手短に頼む」


幸子「ズバリ全体じゃ無くてワンポイントで大人っぽく見せたら良いんです」

凛「ワンポイント?」

幸子「そうです!シンさんの事ですから大掛かりな事は出来ないでしょうしお座なりの自体になってしまっては元も子もないですから」

留美「一理有るわね…シン君は自分の事は雑というか適当だもなのね」

幸子「そうでしょう!その点ワンポイントなのは簡単に出来ますし流石のシンさんでも続けられるでしょう!」ドヤァ

シン「言いたい事は幾つかあるが比較的まともな意見だな…それにしてもそのワンポイントって何だよ?」

幸子「それは……シンさんが考える事でしょう、幾らボクが可愛いからって頼られても困ります!」

シン「駄目じゃないか…でもワンポイントか」

輝子「キノコ…とか?フヒ…」

まゆ「リボンとかですかぁ?」

留美「大人っぽいワンポイント…お酒かしら?」

愛梨「大人っぽさ…裸とかですか?」

シン「キノコで大人っぽいとか危ないから、リボンは女っぽいイメージだし、お酒は未成年です、脱げば良いってもんじゃなくてな」

ちひろ「(お金って言い掛けた…)」

幸子「…シンさんも苦労してますね…」

シン「お前も原因の一つだけどな」

凛「ワンポイントで大人っぽく見える物……眼鏡とか?」

春菜「眼鏡と聞いて」ヒョコ

「「「!?」」」

シン「眼鏡か…確かに知的に見えるから大人っぽく見えるか?」

ちひろ「(突然現れたのに流した!流石この達のプロデューサーなだけはありますね…)」

春菜「ふっふっふー私のお勧めはこれです!こんな事も有ろうかと常備して居ましてね」

シン「準備が良いな…けど眼は悪くないから…」

春菜「大丈夫ですよ、それも事前に踏まえて厳選しましたから、さあ」スッ

シン「そうなのかじゃあ…」ヒョイ カチャ
シン「…どうだ」

一同「」

シン「…似合わない、か?」

凛・春菜「」ピシ ガシ グッ グッ

シン「?」


春菜「私の予想通り似合ってます、プロデューサーは特に眼が印象的ですからね。髪と同じ色の黒縁のフレームです」

凛「……悪くないんじゃない…」

まゆ「………」ポー

留美「うん…心無しか大人っぽく見えるわね」

幸子「……はっ!ふ、ふん!矢っ張りボクの言う通りですね」
愛梨「わあぁ!シンさん格好いいです!新たな一面発見って感じで」

輝子「シン…フフ…フヒヒ!ゴートゥヘブン!」

ちひろ「似合ってますよ!」カシャ カシャ カシャ

シン「何か一部が可笑しいけど其処まで変じゃないみたいだな。それにしても余り付けてる感じがしないけど視界が少し茶色掛かってる気がするんだが」

春菜「それはプロデューサーの為に良くトラブルに巻き込まれる時用に柔軟性と耐久性に優れた超軽量フレームでパソコンと睨めっこする眼の疲れを考えレンズは限り無く度を無くした上でブルーライトカットレンズを使用して居るんです、その上!」

シン「その上?」

春菜「何と私とお揃いの眼鏡何ですよ!勿論プロデューサーに差し上げます!」

凛・留美・まゆ・幸子「!?」ガタッ

シン「眼鏡って結構するだろ…それにお揃いって春菜は嫌じゃないか?俺と一緒で」

春菜「いえいえそんな寧ろ役得ですよ、それに給料は私の方が上何ですし気にしないで下さい!お世話になってるプレゼントです」

シン「うっ…情けないが、じゃあ貰っておくよ。ありがとうな春菜、今度何か御礼をするから」

ちひろ「(今回の水面下での戦いは飛び入りの春菜ちゃんが勝者ですね、時点でまゆちゃん…でもシンさん色々火種が回りに散ってるって早く気付いた方が良いですよ…。まあ面白そうなんで本人には言いませんが)

5


皆さんシンデレラという物語を知っておりますか?
シンデレラ、某鼠のシンデレラが有名なあのシンデレラ。
シンデレラのお話は小さいころお母さんからよく読み聞かせられ、物心ついた時にも読んでいたが後々に読まなくなった。
それでも、私はあこがれていたシンデレラの物語のお姫様と王子様に……



二年前の出来事――

私は、素直になれなく人と話すのが苦手で小さい時から友達は少なかった。自己主張も出来なく人見知りな点もあわさって孤立し
ていた。ただ根は素直でいい子であったため先生受けもよく先生に守られ苛めはなかった。
小学生の上級生のときに素直になれない性格を直そうとして必死に考えた、その時にであった中二病大辞典などの本に夢中になり、
どんどん深みへはまっていった。
最初は、自分の好きな絵が描くことの絵が変化していき、普通の絵からどんどん邪気眼全開の絵に変わった。当時の私の最高傑作
は『私はヴリュンヒルデ第一形態』後に第二形態を書くのですが、当時はこれが傑作でした。それ以外にも服装の好みがゴシック
などを好むようになりや傘のデザインの好みなども変わり口調も今の口調へと変わっていた。
今の口調になって、私は人前で素直になる事がたまにしか出来なくなった代わりに私は人前で話すことができるようになった。
だけど、友達が一気に減った。自分の言っていることがわからないと言われた、頭がおかしいなどと言われた、苛めの対象にもな
った、先生は味方してくれるものの口調を直せという。
この口調を捨てたらまた人前で話せない頃に逆戻りだが今の問題がほとんど解決できる。
私は悩んだ、どっちをとるべきかを何度も何度も考えた。だが、まとまらない。
ふと、私は携帯を取り出した小学6年になったとき買ってもらった携帯だ、私は数少ない友達にメールすることにした。ただ、携
帯のメール機能を使うのは初めてで操作に迷ってしまい、苦戦しつつもメールを送った。

「あの、私の口調は変えたほうがいいですか?今の口調だと友達がいなくなりそうで……、
でも捨てたら人と話せなくなりそうだし……」

素の口調に苦戦しつつも、ようやくできたメールを友達に送ったはずだった。
しかし、よく見るとメアドを間違えてしまった。エラーのメールが来ない以上だれかの携帯に私のメールが届いているはずだ、き
っとそのメールは読んでも読まなくても削除されるだろう。私は急いでメアドを修正してメールを送りなおそうとした。
だけど、携帯の音が鳴った。メールが返ってきたのだ。私はおそるおそるメールを開いた。

「事情がよく分かんないんだけど少し説明してくれないかな?どんな口調かわからないかぎりには相談もしようが無い」

メールが返ってきたのだ、自分のメールが迷惑メールにも関らず自分の話を聞いてくれようとしている。ただ一つ問題があった、
最近出会い系や不審メールで仲良くなって誘拐される事件などがおきており、このメールに返信すべきかしないべきか迷った。
今思えばこのメールの返信するかが運命のいや舞踏会への招待状だったのだと思う。

私は少し迷ったが、返信することにした。

「煩わしい太陽ねとか、ククク、魂が猛るわとかいう口調なんですけど、私、素直になれなく人と話すのが苦手でこの口調使うよ
うになってから人と話すことができるようになったんです。だけど、友達の少なくなり、苛められ、先生や親からもやめた方がい
いと言われて…………。私、どうすればいいですか……?」

私は躊躇うこともせず送信のメールを送った。何分待ったであろうか、諦めかけたときにメールの返信が着た

「ごめん。言葉の理解と調査に時間かかった。えっと煩わしい太陽はおはよう、ククク、魂が猛るわは頑張りますであってる?
ええと、親とかにその口調とか使っている?先生や親には使わないほうがいい。あとは授業中とかなどはやめといたほうがいい。
交友間とかであれば問題ないし休み時間などは使ってもいいと思うよ。あと、口調変えただけで友達やめる奴とは友達でいなく
ていい。助けあい信頼しあい理解しえる存在こそ友達だと思う」

思わず涙が出てしまった、自分のことを理解しようとしてくれた人はいたどろうか、いや、いなかった。友人とかは今の口調で引
いてしまって誰も近寄らず誰も理解しようとしなかった。いじめについてもよく考えてみたら、メールにあったとおりであり自分
は誤って使っていたのでないかと思った。思えば、熱中しぎではなかったか?
このメールでいろいろと反省することになった。このあとメールでの相談やアドバイスは続き。対人関係や学校生活もある程度改
善した。魔法のようだった、この時の私は舞踏会に参加したシンデレラだった。ただし、誰と踊っているのかわからない仮面舞踏
会だった。



以後、その間違いの主とのメールのやり取りが一年間つづいた。
私の中二病メールに対して最初は返信に数日かかったりしたが、三ヶ月たった頃には10分以内に返信が届くようになり。半年し
た頃には直ぐに返信が届くようになった。
逆に相手がたまに、

「天空の光にあふれてるよ(毎日楽しく過ごしている)」

など自分の口調に合わせて返信することもあった。
メールの相手はこの一年間で感情の振り幅がおおきくて、素直で一途な性格な人だとわかった。性別まではわからなかったが、
メールのやり取りは楽しかった。そのおかげか、無事に不登校にならず無事に小学校を卒業出来た。
私はこの日々がずっと続くかと思っていた、続けばいいと思っていた――


でも、シンデレラの中盤の終わりに魔法の効果は夜12時で解けてしまい――
王子様から逃げるシーンがあることを私はすっかり忘れていた。


別れの時は中学生へと上がり、自分にあう部活を見つけ、中学生活がうまくいっている時に突然やってきた。
9月の末日、私はいつもの通りメールの主にメールを送った。
その時の話題はシンデレラの話だった。
「灰被姫の御伽話どう思考せん?(シンデレラのお話どう思いますか?)」

主はどう考えているのかどう思ったのか聞きたくて思わず話題をふってしまったが、返ってきた返事は

「シンデレラか、そういえば俺さ、シンデレラに出てくる魔法使いみたいな仕事してるんだ。シンデレラの老婆の魔法使いと
違って俺は男性でけどなw舞台に人を立たせるために化粧や衣装などの計画や演出など総合的な営業職みたいなものやってる。まだ見
習いだけど、いつかは人を魔法のような演出してみたいなと思ってる」

私はこの時初めてメールの主が男性だと知った。私の話題は無視されたが気にしなかった、
私は今の私へ導いてくれた彼にお礼のメールを送った。

「…………ありがとう。我が盟友よ我に新世界に導いてくれて(あなたのおかげで今の私があります)」

彼からの返事はすぐ返ってきた。

「どういたしまして。明日からしばらく研修なんだ、そう言ってくれると明日からの研修をこなすことが出来そうだ。こちら
こそありがとう。
最後にだけど君は王子様に出会えたか?俺は除外な、俺は魔法使いだからな王子様ではないよ……」

私は答えに迷った。私はこれでも男子からモテている。だけど私の王子様にふさわしい人がいなかったから全て断っていたが、今
の質問でようやく理解した。私は彼を私の王子様だと思っていることを………
けど、彼は自分は王子様ではなく魔法使いだと言っている。私は迷った、王子様で送ればいいか、魔法使いとして送ればいい
かわからなかった。誰にも頼ることも出来ないので悩みに悩み続けた。でも、答えを出すことはできなかった。
私は彼からメールするのを逃げた。シンデレラが12時になり魔法が解ける前に王子から逃げるように逃げた。だが、これ以降
彼からメールが届くことはなかった。私はこのメール以来、胸にぽっかり穴が開いてしまった。いつもの口調にもキレがなく
なり、しばらくの間は心此処にあらずの日々を過ごしていたが、一ヶ月したころには元の私に戻っていた。彼のアドバイスの
ことも気に留めつつも口調は直らないところまで定着してしまったが、それでも中学生活をなにかもの足りなさを感じつつ平
和に送っていった。ガラスの靴は片方忘れたままの事を忘れて。


瞬く間に4月になった、私は中学二年と上がり誕生日を迎え14歳となった。そして親に今年の誕生日プレゼント黒のゴスロリの
服とそれに似合う傘を買買って貰うために私は熊本市内のとあるデパートに来ていた。
買ってもらい私は満足して親と別行動していた時だった、行きつけのゴスロリの服の専門店の前で突然近くにいた黒い人に話
しかけられた。

「君を見た瞬間ティーンときた!君の様な人材を求めていたんだ!」
「えっ……」


思わず間抜けな声を出してしまった。宗教の人かと思って思わず逃げようと思ったが、目の前の黒い人からは不思議とカリス
マを感じて逃げれなかった。それに、何故私のような人事を求めているのか気になってしまった。ふと、久しぶりに彼のこと
を思い出した彼は魔法使いみたいな職業といっていた。もしかしたら彼に会えるかも知れないと思って続きを聞くことにした。

「ククク、私の才能を見抜くとは、アナタも「瞳」の持ち主のようね……(えっと、私があなたの求めている人材ですか?)」

「そうだとも、君のような人材を求めていたんだ!今我が社では君のようなアイドル候補生を募集している。
君も見たことあるだろTVなどで紹介されているシンデレラプロジェクトのことを?今他のプロダクションもアイドル候補生
を集めまわっている。私も全国各地に候補生を求め旅しているのだが、君のような人材は久しぶりに見つけたよ。
まぁ、よければここに連絡してくれ。きっと君をシンデレラガールにしてくれるよ」

と一方的に言った後に、連絡先が書かれた名刺と765プロのパンフレットを渡して去っていった。私は一方的な展開に追いつけ
なかったが、しばらくしてアイドル候補生として誘われたことに気づき困り果てた。

家に帰った後、親に相談したが反対された。当然だ東京に一人で行かなくてはならないし現地の友達や環境とお別れせねばなら
なくて、転校先が今のような環境とは限らない。再び困り果てた。こんなに困ったのは彼の質問に答えを考えた以来だ、今も
悩み続けている。そういえば、彼の研修はどうなったのだろうかメールしようと思って急いで携帯を開いた。そこにあったの
は、自分の見知ったメアドだった。私は逸る心を抑えてメールを開いた。

「美しき月だな(こんばんは)お久しぶりです。あの問からずっとメールしなくてごめん。あのあと、ガラスの靴の主を探す
王子
のように、メールを送る機会をさぐってた。連絡遅れてごめんな、俺さ研修の際に臨時プロデューサーやることになって仕事
に逃げてしまった。でも無事に次の人へとバトンタッチできたし、俺も終わった後に正式なプロデューサーとして昇格した。そ
れでシンデレラプロジェクトに参加することになって初めてアイドルをプロデュースすることになった。俺の尊敬するプロデュ
ーサーみたいなプロデュースできるといいな。そっちはどうだ?」

彼のメールの中で彼はプロデューサーという仕事についていることがわかった。重要なのはアイドルのプロデューサーであるこ
とだ。私は彼の昔のメールの記録をみた、昔彼は魔法使いのような仕事をしていると書いてあった。それはこのことだった。
だが、彼はどのプロダクションにいるかわからない。私は勇気を持って聞くことにした。

「……あのどこのプロ?」

あわてて携帯を使ったものだから作成途中で、しかも本来の口調で送ってしまった。私は恥ずかしくなり顔が真っ赤になったが
彼の返信がくるとすぐに携帯を開いてメールを見た

「あいかわらず元気そうでなにより、俺は765プロに所属している。竜宮小町が最近有名かな。最近はシンデレラプロジェクト
で忙しい。そっちは新学期が始めるころかな?二年生がんばれよ。君は何時もの君の方が好きだからな……」

私はこの時アイドルになる決意を固めた。同時に答えも決めた彼は魔法使いであり、同時に白馬の王子様でもある。
だからガラスの靴を履きに行かないといけない。彼の元に――――
私はこの日から親を説得する日々が始まった、長い長い戦いだった。だけど一ヶ月後、ようやく親説得して私は東京へ一人上京
することになった。もちろんプロダクションとの交渉があった。学業から生活や住居などさまざまな事が親とプロダクションと
の間で行われていたが、私は彼と会うことに夢中だった。なお、私の口調はOKだったので安心した。




五月、厳しい暑さが襲う中、私は765プロダクションの会議室にいた。目の前には熊本で出会った黒い男に似た人が座っており
左右に二人ずつ座っている。ただ、左右の席に空き椅子があるのが気になってしまうが、それよりも彼はいったい誰のだろう?
ここでメールのことを言っても意味が無い。私は緊張しっぱなしだった。

「秋月君とアスカ君はどうしている?時間になっていもこないのだが?」
「秋月さんは今日急に入った営業により参加できないということです」
「あと、シン君はアイドルの指導に混ざっているようなので遅れてくるそうです」
「そうか。水島君、初代君ご苦労。すまない、話を始めよう。ようこそ765プロへ君のアイドル候補生としてプロダクション入
りおめでとう。私が社長の高木順次郎だ。君が熊本に会った会長の高木順一郎のいとこにあたる。これからよろしく」


このあと、延々とアイドルについてや諸注意などの話を終え、面接に移ろうとしたとき一人の少年が入ってきた。

「遅れてすみません社長」
「理由は聞いているから謝らなくてもいい。まずは今から面接をおこなうから、まずは席に座りたまえ」

といって後に、彼は右の空いている椅子に座る。黒い髪で赤目の少年に見えるが、プロデューサーである彼になんか不思議と引か
れたが、私の王子様を見つけるほうが大切だったので気にしないことにした。

「さて、今いるプロデューサーがそろった時点で自己紹介兼面接をはじめる。まずは自己紹介を頼むよ」

いよいよ面接の時が来た、誰がメールの彼なのかわからない上にプロデューサーは誰がつくかわからない、わたしの緊張がしっぱ
なしであった。自己紹介をしなくてはならないが緊張して声がでない。ふと、彼の言葉がよぎった――

「君らしくいけばいいと思うよ」

私らしく行けばいい。単純な事を忘れていた。自分らしさを貫くためにいつもの口調を使ってもいい許可をもらったのでしょ?
私の緊張はもうしていなかった。後はいつもの私らしく振舞うだけだ。私は立ち上がった胸を張って言った。

「我が名は神埼蘭子。14年前に火の国に舞い降りた。今こそ創世の時きたれり我を導きたまえ」

私の自分らしさを貫いた私ながら完璧な自己紹介であった。さて、私は反応を見ることにした。

「ふむ、順一郎から聞いていたよりも個性が強い子だね、名前と年齢はわかったが後の言葉がわからなかった。初代君彼女の
言葉わかったかね?」
「いえ、社長のおっしゃったこと以外はまったく。水島はわかったか」
「正直君の言ってることがまったく理解できない。赤羽根はどうですか」
「古典や外国語ならわかるんですが、泰くんならわかるのでは」
「おい、俺もよくかんねーぞ。こういうときこそアスカお前ならどうだ?」

と年齢と名前以外伝わっていないようだった。そして最後のプロデューサーに目をやる。きっと彼も理解\\\

「え、簡単ですよ。私、神崎蘭子。熊本出身14歳です。よろしくお願いしますで合っているかな?」
「!いかにも」

驚いた、まさか私の言葉を完全に理解した上で訳すことができる人がいるなんて。
しかも彼の次の彼の発言でさらに驚くことになった。

「社長、この言葉ほとんど翻訳できるとおもいます。知り合いにこのような言葉使う人いるので」
「本当かね、それでは翻訳を頼みたいのだが」
「やれるだけやってみます」

この後、彼の翻訳おかげで他のプロデューサーも質問に加わり面接が円滑に進んだ。だが同時に疑問が一つ残った。どうして翻訳
できたのか?もしかしたら彼があのメールの主なのかもしれない。面接が終わったら聞いてみようと思った。

「さて、面接の結果だが君の担当するプロデューサーはシン・アスカ君に決まった。君の言葉をほぼ完全に理解し翻訳できるのは
現時点で彼しかいない。それに君は彼のことを気にっているようだしな」
「なっ」
「わかりました。精一杯やらせてもらいます」
「さて此処からは今後の方針を二人で決めてくれ。それじゃ私たちは去ることにするよ」

といって、社長や他のプロデューサー達は去っていく。そしてシン・アスカプロデューサーは椅子を私の前に動かして私の前に来
た。ここにいるのは彼と私の二人きり、今なら彼がメールの主だったか聞くことができる。私の方から切り出そうとしたら、切り
出す前に彼から話しかけてきた。



「改めて、初めましてシン・アスカと申します、シンと呼んでください。ええと、現在12人のアイドルを担当しています。
これからよろしくお願いします。こんなに多く担当しているのだが、これでも一ヶ月前にプロデューサーになったばかりです」

一ヶ月前、あのメールの主が見習いから正式なプロデューサーになったのもこの時期だった。ますます彼がメールの主だという確
信はますます大きくなるが、まだ確証は得られない。では、確証を得るためにはどうすればいいかを考えた。

「君の言葉を聞いていて訳した時に思ったことなんだけど、半年以上メールしても返信してこないメールの主がいるんだが、その
メールの主の口調にそっくりだな。二年前ぐらい前かなまだ入社したての新人のころ間違いメールが届いて、その時は普通の言葉
遣いだったが、その一件以降ずっとその口調でね、昔は翻訳するのにノートにメモしていろんな本読んで翻訳していたが今はすぐ
に翻訳できるようになったな。懐かしいな本当に」

間違いないメールの主は彼だ。私はやっと出会えた王子様に私がメールの主と伝えたかったが、いざ伝えると恥ずかしい。それで
も私なりに伝えてみることにした。

「それは、その…………我だ!」
「そうだ、久しぶりにメール送ってみるか内容は『お久しぶりです、授業中のところ失礼します。今の事務所に君みたいな子が来
た。楽しくにぎやかになりそうだ』送信と、なんか言った?」

どうやら彼は気がつかなかったようだ。私はショックを受けつつも携帯が鳴るのを待っていた。ふと、大臣がガラスの靴をシンデ
レラに履かせるシーンを思い出した。きっと今私はこのシーンのシンデレラなんだと思った。数秒が長く感じた、今か今かと待っ
た。私の着信音は彼が昔好きだといっていた――

「ignited。あ、メールだごめん。ちょっと出るから」
「あの……その……」

「その鳴動は我だ!」といえなかった。ここぞという時に恥ずかしくなって言えなくなるのは普段はないのだが、彼の前なのか
恥ずかしくて言えなかった。私は鳴っている携帯を取り出すことにした。

「あれ?なってない。ごめん、君の携帯だっんだね…………。あれ?それにしては――」
「ばかぁ…………」

やっと彼は気付き始めたみたいで、私は嬉しかった。彼は鈍感で人の気持ちを察するのが苦手な人みたいで、うできっと他のアイ
ドル候補生の好意も気付いていないのだろう。それでも私は嬉しかった。私の憧れた王子様がここにいることが嬉しかった。私は
彼から送られたガラスの靴を履いちゃうことにした。

「覚醒ラグナロク -暗黒黙示録-ってことは、久しぶりだな。えっと
『お久しぶりです、授業中のところ失礼します。今の事務所に君みたいな子が来た。楽しくに
ぎやかになりそうだ
ばかばか! 我自ら親征してやったのに(私の方から来たのに)何故気付かないの?もぉしらない!
<シンのメアド>』
えっと、もしかして君が間違えメールの主……、ごめんあの時あんなしつもしちゃ――」
「……あの質問の答えは」

彼が言い終わる前に私は立ち上がって、そのまま彼の胸に飛び込んで抱きついてしまった。私ながら大胆な行動をしてしまった。
いつもの口調なんてそっちのけで本当の私の言葉をさらけ出してるが気にしてられない。それぐらい嬉しかった。
彼はいきなり驚きしつつも受けてくれた。
「ばかばか! 私の魔法使いで白馬の王子様なんだからもっと早く気付いてよ!」
「ごめん……気がつけてなくて、………………はは、魔法使いの王子様かこれは予想外だった」

この後、渋谷凜が心配になってお茶を持って様子を見に来るまで私は抱き続いていた。
私はシン・アスカという王子様に会うためにアイドルになったが、正直この後のことは考えてなかった。
さまざまな試練や苦難や現実が待ち構えていることをしらなかった。
でも、シンと一緒ならやってける。乗り越えられる。
そして、彼となら私は頂点を目指せる。私はそう思った。

後に私は、二代目のシンデレラガールの称号を得て、頂点を極めることになるとは、この時の私はまだ知らなかった。
二代目シンデレラガールのトロフィーを得た時、勿論隣には彼シンプロデューサーがいた。
その時、私は私の魔法使いで白馬の王子様の彼にこう感謝の言葉を伝えてあげた

「シンプロデューサー、私の夢を叶えてくれてありがとう…………。私もあなたの夢を再び叶えてあげれたよ…………!」




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最終更新:2014年02月02日 13:05
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