【作者当て】ゆっくりと雪兎

吸血鬼の住むお屋敷・紅魔館
初雪の降る夜、門番はそれを見上げてため息を一つ


「雪かぁ、そりゃ寒いわけですね」」

「こんな日は咲夜さんのホットココアが飲みたいなぁ」

愚痴をこぼしつつも初雪の中、門番の夜は更けてゆく


「うー☆ おそとがきれいだどぉー☆」

「どうしました? れみりゃ様」


初雪から一夜明けた紅魔館
妖精メイドたちが忙しく館内を走り回っている
暖炉に火を入れる者、少し積もっている雪を掻く者等、様々である
そんなメイド達の忙しさとは対照的な空間が一つ
自称『紅魔館のおぜうさま』ゆっくりれみりゃの部屋である


「うー♪ おそとがきれいだからあそびにいきたいどぉ~♪」

「外は寒いですし、雪だって降ってますよ? それはだめです」

「うー・・・しゃくやのけちー」

「そんな事言っても駄目ですよ、あぶないですし」

「うー・・・わかったどぉ~、れみぃおとなしくしてるどぉ~♪」

「良い子にしていれば『サンタさん』がプレゼントをくれますよ!!」

「う~♪ ぷれぜんと~♪ いいこにしてるどぉ~☆」


初雪がとても気になるれみりゃ
しかし、大好きな咲夜に駄目と言われては逆らう事はできない
そしてなにより『サンタさん』なる人が『プレゼント』をくれるとあっては破るわけには行かなかった
それに勝手に遊びに行ったのが見付かってしまうと夕食後のぷっでぃんが無くなってしまうのだ
前に一度だけお預けを食らったときのひもじさは忘れるまいと心に誓っていた


「それでは、夜のお食事の時間にはお迎えにあがりますね」

「うっうー☆ おしごとがんばってね~♪」


そこでれみりゃは考えた

『ばれなければ良い』と

この作戦は彼女にしてみれば完璧だった
ぷっでぃんも貰えて、外でも遊べる
これ以上ない大作戦の始まりである
時刻は昼を少し回ったくらい気温も上がり、雪もやんでいた


「しゃくやはだめっていってたけど、やっぱりあそびにいきたいどぉ~」

「よるの『でなー』までにもどってくれば、きっとばれないんだどぉ~♪」

「そうときまればしゅっぱつだどぉ~♪ うあうあ~♪」


早速いつも出かけるときに使っている怪獣の頭を模したリュックに、いそいそと物をつめていく
キャンディ、クッキー、グミ等、殆どがお菓子であった
それを背負って準備完了、あとは外に出かけるだけである
ゆっくりと、しかし雄雄しくも歩を進め堂々と正門から表へ出た
おぜうさまらしく門番への労いの一言も忘れない


「めーりんもおしごとがんばるんだどぉ~♪」

「んあ? れみりゃ嬢、どこかへ出かけるんですか?」

「めーりん♪ しゅべすたしてると、しゃくやにおこられるどぉ~♪」

「しゅべすたじゃないです! シエスタですよ!! それより寒くないんですか?」

「うー? べつにへいきだどぉ~♪ れみぃはつよいこだどぉ~♪」

「それなら別にいいですけど・・・怪我には気をつけてくださいね」


一面の雪、何の跡もついていない新雪の中をトコトコと歩いていく
別に目的があるわけではない、目に映るものすべてが新鮮だった
そんな中、一番最初に手をつけたのは『氷柱』である


「う~♪ ぜんぶまっしろだどぉ~♪」

「う~? これなんだどぉ~?」

「うー☆ かっこいいどぉ~♪ ぐんぐにるだどぉ~♪」

「うー☆ うー☆ かりすまだどぉ~♪」


木の枝に出来ていた氷柱の中でも一際大きいのを一つ手に取る
どこで覚えたかは分からないが『ぐんぐにる』と名付た
それを手に持ち颯爽と雪の中を歩く
気分はまさに『お嬢様』といったところだ


「つぎはおぜうさまのこーまかんをつくるどぉ~♪」

「うー☆ うー☆ りっぱなおやしきをつくるどぉ~♪」

「うっ♪ うっ♪ うあうあ~♪」


次に目をつけたのは木の下に出来ていた雪の山
どうやら気に入ったようで、その山に雪を盛って大きくしている
本人は『こーまかん』と呼んでいるが、所謂『かまくら』と呼ばれるものを作るようだ

「うー☆ これくらいおっきければじゅうぶんだどぉ~♪」

「いりぐちをつくるどぉ~♪ まずここが『もん』だどぉ~♪」

「ここがれみぃのおへやで~♪ こっちがしゃくやの~・・・・!?」


突然れみりゃの手が止まる
しきりに手をこすり合わせて息を吹きかけている


「う~・・・おててがかゆいどぉ~・・・」

「かゆいどぉーー!! さくやーー!!」

「うっ・・・うっ・・・おみみもつめたくなってきたどぉ・・・」

「うっ!? またふってきたんだどぉ!?」


吹雪、大人しくしていた雪が容赦なく吹き付ける
れみりゃはあらかた完成していた『こーまかん』の中に篭り丸くなっている


「う~♪ このなかならあんしんだどぉ♪」

「でもまだおててがかゆいどぉ・・・」

「さくやぁ・・・さみしいんだどぉ・・・」


外の吹き荒れる吹雪の音におびえながら来る筈の無い助けを呼び続ける
『こーまかん』の中に居る限り吹雪に打たれはしないが、帰れない寂しさが募っていった


「・・・・くり・・ってね」

「う?」

「ゆ・・りし・・」

「う~・・こあいどぉ・・・こえがきこえるどぉ・・」

「ゆっぐじじでいっでね!!! さぶいがらなかにいれでね!!!」


突然の来客に驚くれみりゃ
この吹雪の中、一匹のゆっくりが『こーまかん』に飛び込んできた
飛び込んできたのはゆっくりれいむが一匹
どこから来たのか雪にまみれ鼻水が凍っていた


「どこからきたんだどぉ? そとはさむいんだどぉ?」

「あそんでたらまよっちゃって、ここについたよ!!」

「それはたいへんだったんだどぉ・・・もうだいじょうぶだどぉ♪」

「ゆゆ? どうして?」

「ここはおぜうさまのこーまかんだからだどぉ♪ さむくなんかないんだどぉ♪」

「ゆゆー!!すごいんだね!! ゆきがやむまでゆっくりしていくね!!!」


それから二人はゆっくり雪がやむのを待っていた
れみりゃが持ってきていたお菓子を食べながら喋ってすごした
お互いの家の事、主人の事、時間も忘れて話した
それからしばらく話し込んでからのこと


「う?」
「ゆ?」


気がつくと雪の音がやんでいた
「ゆっくりさせてくれてありがとう!!! またあおうね!!!」
とだけ告げてれいむは外に飛び出していってしまった
名残惜しくはあったが『雪がやむまで』と約束したので仕方が無かった
自分もそろそろ帰ろう、もたもたしてるとまた降り出してしまう。そう思ったときだった


「れみりゃ様、お待たせいたしました」


聞きなれた声、自分を包んでくれる暖かな声
振り返るとそこに咲夜が立っていた
雪も、風も、全てが止まった空間
吹雪はやんだのではなく咲夜によって止められていた
空に浮かぶ無数の降ってこない雪が幻想的な光景だ


「お食事の準備が整いましたのでお迎えにあがりましたよ」

「うー・・・さくやー!! ごめんなさいだどぉー!!」

「お怪我はありませんか? ご無事で何よりです」

「けがはしてないどぉ・・・でもおててがかゆいどぉ・・・」

「あらあら、これは霜焼けですね。お屋敷に帰ったらお風呂にしましょう」


それから二人は歩いて帰った
何も動かない空間、動けるのは二人だけ
咲夜の腕の中でれみりゃは考えた



私のサンタさんは咲夜なんだ、と




~おわり~

  • うっうっ♪うあうあ♪ -- 名無しさん (2009-07-16 17:05:30)
  • れいむはどうなったんだぜ? -- 名無しさん (2009-07-21 13:38:52)
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最終更新:2009年07月21日 13:38