はるですよー

ある日、いい感じに日差しもあったまってきたので庭に出てみると、
縁側にまりさとは違う白いトンガリ帽子に羽を生やしたゆっくりがいた。もしやこれが噂のゆっくりりりーというやつだろうか。
家の庭は暖かい日差しで程よく温まり、正に春といった風である。
野生のりりー種は春の訪れと共に南から北へと渡りを行う習性のある種のようであるから、
この庭に舞い降りたのも庭が春爛漫といった風情であるからだろうか。
基本的に温厚な種らしいので、とりあえずは話しかけてみる。

「よう、ゆっくりしていけよ」

「はい~。それにしても、はるですねぇ……」

昔1度だけ見たりりーは「はるですよー! はるですよー!」とやかましかったものだが、
このりりーは実にのんびりとしていてとてもゆっくりしている。
その辺が気になったので、とりあえず聞いてみた。

「そうだなぁ……しかし、お前はゆっくりしてるな。
 りりーってのはもっと喧しいもんじゃないのか?」

「それはまだはるがきてないところのりりーですねぇ。
 すでにはるがきたところのりりーはこうしてゆっくりするんですよー。
 ……ああ、はるですねぇ……」

成程。そう言う事か。一人頷いているとりりーがこちらを向いて問いかけてきた。

「そういえば、おにーさんはゆっくりしてますか?」

「半年くらい前はゆっくりできてなかったけどな。今はあいつらのお陰でゆっくりさせてもらってるよ」

そういって、家の中を指差す。そこにはゆっくりさなえとゆっくりゆかりが寄り添って昼寝をしていた。
その寝顔はとても幸せそうで、見るからにゆっくりとしている。
それを見てりりーは満足そうに微笑むと、ぴょんと膝の上に乗ってきた。

「それはいいことですねぇ。……わたしもゆっくりさせてもらってもいいですか?
 まいとしとおくまでいくのはつかれちゃったんです」

突然の申し出に少し驚いたが、まあ賑やかなのは良いだろう、と思い了承の意味も込めてりりーの頭を撫でる。
……そういえば、前から少し気になっていたことがあるので聞いてみよう。

「なあ、りりー。聞きたい事があるんだが」

「なんですかー?」

「お前は春になると活発に動き始めるが、やっぱり春になるとゆっくりできるのか?」

その質問にりりーは眉根を寄せて考え込み、少ししてから微笑んで答えた。

「そうですねぇ。はるはいちばんゆっくりできますね。いろんないのちがめぶくきせつですから。
 でも、ほかのきせつもゆっくりできますよ?」

「ほう、夏や冬なんかは過ごし辛そうに思うが」

その言葉にりりーはいいえ、と頭を振って答える。

「まず、なつはたしかにあついですけどはるにめぶいたいのちがすくすくとせいちょうするすがたがとてもゆっくりできます。
 つぎにあきはなつにせいちょうしたしょくぶつさんたちのみのりがとてもゆっくりできます。はるのつぎにすごしやすいですね。
 ふゆはさむくてとてもにがてなんですが、はるをまついのちがじっとたえているすがたがとてもゆっくりできます。
 わかいりりーや他のゆっくりにはあまりわかってもらえませんけど、
 どんなきせつにもゆっくりをみつけられるのがいちにんまえのりりーなんですよ」

成程……俺はりりーの言葉に聞き入っていた。
自然と共に生きる野性のゆっくり、その視点だからこそ見つかる「ゆっくり」。
一見不便で辛い季節でも、よく見てみればどこにでも「ゆっくり」は存在するという事か。

「もう1つ聞いていいか? お前らは春にしか見かけないんだが、他の季節は何処で何をしてるんだ?」

「ああ、それはですね。わたしたちりりーはきせつごとにしゅるいがかわるんです。
 なつはりぐるに、あきはみのりこやしずはに、そしてふゆはれてぃになるんですよ」

「マジか!?」

これには本気で驚いた。まりさつむりなど、環境に適応した種はあるが、
季節ごとに生態も種族も全く違うゆっくりに変化するゆっくりなどと言うのは聞いた事もないからだ。
これは下手したらノーベル賞物なのでは……

「まあ、うそなんですけど。……あいたっ」

「嘘かよ!」

思わず軽くはたいてしまった。ぷくー、と膨らむりりーに謝って、続けてもらう。

「はるいがいのきせつはやまのやもりのずっとずっとおく、
 にんげんさんたちのこないようなところでくらしてるんです。
 でも、ながくくらしてるとそんなせいかつにもあきあきしちゃうんですよ。
 だから、きょうおにいさんにかってもらうことになってとってもうれしいです」

「……そうか。まあ、ゆっくりしていけよ」

「ありがとうございますー。ああ、しゅんみんあかつきをおぼえずですねぇ……くぅ」

そう言って眠り始めたりりーの言うとおり、暖かい日差しを浴びていたら眠くなってきた。寝るか……
俺はりりーを抱えると家の中に入り、テーブルの上にりりーを置いてから戸締りをしてから寝転がった。






そしてその日の夜。

「……所でさ、マイフレンズ」

「どうした探偵もどき」

毎度の如く夕飯をたかりにきた友人が、今でさなえやゆかりんと遊んでいるりりーを見てなんとも微妙な顔をしていた。

「いや、お前んとこのゆっくり増えてないか? ゆっくりりりーなんて久しぶりに見たぞ」

「今日の昼間に縁側に居てな。気が合ったんで飼う事になった」

「……さよけ。それにしてもお前最近ラッキーだよなぁ。
 さなえは俺が連れてきたけど、ゆかりにりりーか。レアってレベルじゃねえぞ?」

確かにそう思う。りりーやゆかりは所謂希少種に分類されるゆっくりで、まともに買えば万単位は硬い。
そんなゆっくりと次々出会うというのは、確かに不思議な事だ。

「はーるでーすよー」

「わぁ、おそらをとんでるみたいです!」

「いやとんでるわよさなえ」

さなえたちのほうに目を向けると、リリーがさなえを載せてよたよたと飛んでいた。
当然ながら、さなえにとって空を飛ぶという経験など今までなかったのだろう。
目を輝かせて喜んでいた。

「……さなえ種には奇跡を起こす力がある、って噂も聞くぞ。確かめられた奴は誰もいないけどな。
 俺をゆっくりさせてくれたのも、俺があいつらと出会ったのも、そんなさなえのお陰だって考えるのも悪くはない。
 それに何より、そういう考えも浪漫が合って良いんじゃないか?」

俺がそう返すと、友人は苦笑して溜息をついた。

「まったく、絵本作家は言う事が違うね。ま、俺もそういうのは嫌いじゃないけどな」

「だろ?」

違いない、と友人は大笑いし、俺も釣られて大笑いする。
その横で、きめぇ丸は頭を振りながらぽつりとつぶやいた。

「……おお、めるへんめるへん」



どっとはらい。



―――――――――――
犬の散歩をしてたらこんなネタを受信しました。
お兄さんの飼いゆっくりがガンガン増えてますが余り気にしないほうがよいかも。

by絵本描き

  • 春を過ぎた(?)のんびりリリーもいいですね。乙でした! -- 名無しさん (2009-04-12 02:30:51)
  • 可愛いですね、ゆっくりりりー。 -- 名無しさん (2009-04-12 23:05:26)
  • 更なる続編に期待しています。 -- 名無しさん (2010-08-09 22:28:28)
  • 今もなお続きをまってます。 -- 殻狼 (2013-05-21 02:05:55)
  • きめぇ丸は友人の飼いゆっくりかな? -- 名無しさん (2013-10-11 23:15:26)
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最終更新:2013年10月11日 23:15