ぱちゅりーとかいだん

(slowlove_uljp00090.pngにインスパイアを受けました)


ぱちゅりーとかいだん


「むきゅうううう……」

 玄関を開けるなり聞こえてきたのは、くぐもったゆっくりぱちゅりのうめき声。
 お留守番をお願いしていたゆっくりぱちゅりーのせっぱつまった鳴き声に、買い物袋も放り投げて書斎へ急ぐ。
 ぱちゅりーが静かに本を読めるようエアコンの効いた締め切った部屋に置いていたというのに何事だろう。
 その答えは、書斎へ通じる扉を開いた瞬間わかった。
 むわっと、こもった8月の暑気が中から吹き付ける。
 締め切ったガラス戸からはレースのカーテン越しに、遠慮のない燦々と輝く陽光。
 中に入るだけでも汗ばみそうな熱の園に、愛しのぱちゅりーがへにょんと横たわっている。

「ぱ、ぱちゅりー!?」
「む、むきゅううう、ぐるじいいのおおお……」

 慌ててかけより助け起こす。
 いつもは弾力に満ちた肌も熱にあたったのかふにゃりと芯がなく、まるで内部が液状になったかのよう。
 出かける前にエアコンで涼しいほどに冷やしていたというのに、なんということだ。今、そのエアコンは職務を放棄して静かに壁際にたたずんでいるばかり。
 とりあえず、一刻も早く冷えた空気をぱちゅりーに届けたいと床に落ちていたリモコンを拾いあげる。
 そして気づいた。設定温度が40度になっていることに。
 これは、まさに今の室温。締め切った真夏の室内の気温。
 なぜこんなことにと小首を傾げたくもなるが、いまはぱちゅりーの身が大切だった。設定温度をどんどん下げていく。
 すぐさまエアコンが震えるように動き始め、むわっとした空気を払いのけるかのような涼風を噴出す。
 汗ばんだ体をぞくりと冷やす風だが、今のぱちゅりーには特効薬だろう。
 そのぜえぜえという聞いているだけで苦しくなりそうな吐息は、穏やかな呼吸に代わりつつあった。
 とはいえ、いつもしっとりしている肌がややカサカサ。
 急いで、熱中症の介抱をしなければならない。


 たらいに氷水。
 そのキンキンに冷えた水で絞ったタオルをぱちゅりの紫の頭にのせる。
 そのまま、抱えて唇に冷蔵庫から出したばかりのオレンジジュースを含ませた。

「むきゅうん、気持ちいいのおお」

 その声に、心からほっとする。
 何度か、その頭のタオルを代えてあげる頃には、ぱちゅりーがうっすらと目を開けていた。

「むきゅうううん、おにいさん……」
「起きなくていいから、ゆっくりねていてね」

 体力のないぱちゅりー種だけに、飼い主を安心させるためだけの無駄な体力を使わせたくはない。
 ぱちゅりーの頬の赤みをなでながら、それでも必要なことだけを静かに語りかける。

「どうして、エアコンのリモコンをいじったんだい?」

 事故の再発を避けるために、どうしても聞かなければならないことだった。
 パチュリー種は賢い。
 だからこそ、こういう道具を半端に使えてしまう。

「むきゅうん……読んでいたご本に、おんだん化ってあったの。あんまり、えあこんさんに頼ったらだめなの」

 なるほど、ぱちゅりーが小学低学年向きの本「よくわかる、おんだんか対策」につっぷして倒れていた理由がようやくわかった。

「それで、せってい温度をあげたらすっごく暑くなってきて……すこしだけならいいかなって、ちきゅうさんに謝った後でさげようとしたんだけど……むきゅう」

 下げ方がわからなかったと。
 上三角で室温が上がれば、下げるときは下三角と連想がきくとは思うのだが、それがゆっくりの理不尽さなのだろう。
 だからこそ愛おしいし、全力で守ってあげたくなる。
 気がつけば、ぱちゅりーのやわらかい体を、そっと抱きしめていた。

「むきゅーん、暑いの」

 ぱちゅりーは他のゆっくりと違って自立心が強いのか、あまりべたべたされるのを嫌う。
 今回も顔だけは真っ赤にしながら、ぶるんと少し嫌がった震え方。
 僕が手を離すと、それでも膝元にぴったりよったまま、そこに体を預けてゆっくりと休む。
 室温もだいぶ落ち着いてきて、ぱちゅりの眼はまどろみの一歩手前。
 やがて、膝枕に安心したような寝息をたてはじめる。僕は買い物袋のアイスをいまさらながらに思い出してもなお、ぱちゅりーを起こさないように身動き一つせず、その寝顔を見守っていた。



「西瓜をどうぞ」
「むきゅーん、みずみずしいのおおお!」

 しゃくしゃくと、おいしそうな咀嚼音。
 ぱちゅりーが半分にきった西瓜に頭からつっこんで、おいしそうにその甘味を楽しんでいる。
 やがて、完全に食べつくして、そのまま西瓜の皮に収まってしまう。
 西瓜のウツワに自らが盛られたようなゆっくりぱちゅりー。
 思わず、その頭に今食べ終えた僕の西瓜を被せたくなるが、ぱちゅりーが嫌うだろう。

「そうだ、ぱちゅりー。すいかと一緒にたべちゃいけないものがあること、知っているかい?」
「むきゅう、知っているわよ。てんぷらでしょ!」

 僕の問いかけに即座に返してくる物知りパチュリー。

「そうだよ、すごいね、さずがぱちゅりー」
「むきゅきゅーん♪ とうぜんよー♪」

 僕が褒め称えると、ぱちゅりーはすいかのウツワの上で身をくねらせる。
 本当は、この質問はもうこの夏だけで5回目だ。答えられて当然の質問かもしれないけど、僕にとって大切なのはゆっくりぱちゅりーの満足そうな表情と、賞賛の一環として頭をナデナデしてあげても自然に受け入れるこの瞬間。
 普段ならこんなことをすると、「むきゅん、こども扱いしないでね!」と嫌がる場面だ。

「さて、そろそろ西瓜の皮を片付けるよ」
「むきゅん、もっていかないで~♪」

 持ち上げて西瓜の皮から離すと、いつもの名残惜しそうな台詞。
 あの灼熱のお留守番の影はすでにない。
 西瓜をのせていた皿を台所まで片付けに行っていると、ぱちゅりーはいつものように書斎にゆっくりと近づいていく。
 僕はすかさずエアコンを稼動させ、ぱちゅりーが寝入るまで管理するためポケットに隠した。

「むきゅん、おにいさん。えあこんはだめだよ! にさんかたんそがふろんで、ちきゅうがたいへんなの!」

 そんな僕の行動もぱちゅりーの非難を受けてしまった。
 思わず、肩をすくめる。

「いいの。おにーさんはちきゅうなんかより、ぱちゅりーが一番大切なんだから」
「む、むきゅうう!?」

 瞬間、湯沸かし器のように湯気を吹き上げて真っ赤になるぱちゅりー。
 ぎこちない動きで書架までかけようると、本の隙間にその顔をつっこんだ。

「むきゅう! きょ、今日のほんは何にしようかしら!?」

 僕はわざとらしく気にしない素振りを見せているものの、真っ赤な体全体がまったく隠しきれていない。
 いつも落ち着いた青紫が、今はなぜか火照った赤紫に見えていた。
 僕はそんなパチュリーを見て、心に優しさがわきあがっていくのを感じる。
 そっと窓を閉めると、あれほど騒がしかった夏の虫の声や、ミンミンと響く蝉の忙しなさも遠くなった。あとはエアコンの作動音と、ぱちゅりーが唇でページをめくる紙ずれの音が響くばかり。
 しばらく、ぱちゅりーにお付き合いして本を読んでいたが、風が心地よくて抗いがたい眠気がわきあがってくる。そして、僕に抗う理由はない。
 目をつぶると、とたんにのしかかってくる眠気に意識を遮られて、僕はうたた寝を始めていた。



 膝が暖かい。
 その感覚に目をさますと、ひざの上にかけられたタオルケットが目についた。
 これは、寝室の僕のベッドの上にあったものだ。そして、僕に夢遊病の気はない。
 寝室まで開いた扉の隙間を見るからに、僕にタオルケットをかけてくれたのは、そ知らぬ顔で読書を続けているゆっくりぱちゅりーだろう。

「ありがとう、ぱちゅりー」

 呼びかけるとぱちゅりーは気づかれないと思っていたのか、取り乱した様子で思わず読みかけの本を閉じた。

「むきゅん、知らないわ! それより、おにいさん。ご本読んでね!」

 あからさまな誤魔化しを口にして、その口に一冊の本をくわえて向かってくる。
 ある程度の文字は読めるぱちゅりー。
 とはいえ、漢字がたくさん混じるとお手上げ。
 でも、どうしても読みたい本があると、こんなふうにして本の朗読を頼まれる。
 今回も興味を引くものに出くわしたのだろう。

「ああ、いいとも。どれどれ」

 了承の言葉を返しながら、その本のタイトルを見てみる。

「むきゅん、その本を読めばすずしくなるの! おんだん化たいさくもばっちりなの!」

 ぱちゅりーはえらくはしゃいでいるが、果たしてそのとおりだろうか。
 その薄い本の表紙には「背筋がすずしくなる恐怖体験談!」と書いてある。
 明らかに、ぱちゅりーは漢字が読めなかったのだろう。
 大丈夫かな?
 でも、確かに涼しくはなれるかもしれない。
 僕はゆっくりぱちゅりーを膝にのせて、ゆっくりとした調子でその本を読み始める。



「……こうしてコトリバコは、いまも呪いを放ちながらその土地で眠っているのです」
「い、いやあああああ、むきゅうううううううん!」

 だめだった。
 最初のお話だけでパチュリーの体から涙、よだれ、謎の液体が噴出しはじめている。
 ぱちゅりーをのせていた膝の上もぐっちょり。
 というか、僕も怖いよ、これ。もうやめよう。
 本を閉じると少し安心したのか、ぷるぷると震える体で床に下りるぱちゅりー。
 でも、腰が抜けたのか飛び跳ねられない。
 なめくじのように這って本の森に逃げ込もうとしているその様子を見ると、ぱちゅりーに頼まれたこととはいえ罪悪感が芽生えてしまう。

「ごめんね、ぱちゅりー。怖かったよね」
「なななななにをいっているの。ぜぜぜぜんぜんんんこわくなかったわよっ! ムキュキュキュ……」  

 ごめん、ムーンサイドの住人っぽいのでやめてください。
 というか、さすがにこの状態のぱちゅりーを一人にはしておけなかった。 

「いや、僕はすっごく怖かった。だから今日は一緒に寝ないかい?」

 呼びかけると、振り向いたぱちゅりーからぱあと喜びのオーラ。
 表情自体はまるで変わっていないし、その口はあいかわらずの三角だが、長年いっしょにいた僕にはわかる。
 喜びと安堵。
 でも、ぱちゅりーの自立心の強さも僕はよくしっていた。

「むきゅう……ぱちゅりーは一人でも大丈夫だよ!」

 言いながら、開いた本を頭に被って本棚にもぐりこむぱちゅりー。
 甘えてくれたほうが嬉しいのだけど、ぱちゅりーがそういうなら仕方ない。
 本のベッドでぱちゅりーがうつらつらとゆれ始めたのを確認して、寝冷えしないように少しだけ空調の温度をあげる。
 そうして、部屋の明かりを消して隣の僕の寝室へ。
 ぱちゅりーとの穏やかな一日が今日も終わろうとしていた。


 が、寝る前に怖い話というのはどうもよくない。
 読みふけっていたときは話の流れを必死におっていて、怖いというよりドキドキしていた。
 けれど、今、冷静に怖い話を思い出すと目がさえてしまって仕方が無かった。
 部屋のくらがりに誰かの目があるような空想や、眠っている僕の足元の見えない位置に何かいるような妄想。
 ギシッ。
 質量のともなったきしみ音。本当に、何かいる。

「だれだ!」 

 自分の中に生まれた怖さをかきけすために、大きな声を出して室内灯をともす。

「……!?」 

 オレンジの灯りに照らし出されたのは青紫。
 ゆっくりぱちゅりーが、おののいた表情でそこに固まっていた。
 ぼくもきっと同じような顔をしているのだろう。
 お互い、夏の真夜中に緊張した顔で向かいあって何をしているのだろうか。

「むきゅうーーーーーーーーーーーーーん!!!」 

 そんな僕の思考を打ち砕くように、ひときわ甲高いぱちゅりーの絶叫。
 そのまま、へにゃりと芯を失ったようにへたりこむ。
 僕はキンキンと反響する耳を無視して、ぱちゅりーの元へ。
 ぱちゅりーはいつも知的な面影もどこへやら、僕を見上げた瞳からぽろりとこぼれる涙が一筋。

「こ゛わ゛い゛ゆ゛め゛みちゃったのおおおお!」

 縮こまって震えているぱちゅりー。
 僕を前に安心したのか、ついにはえぐえぐと盛大に泣き始める。

「よしよし、もう大丈夫だよ」

 落ち着くよう、その頭をなでてあげるとぱちゅりーも少し落ち着いたのだろう。
 いまだ涙目なものの、穏やかさを取り戻した表情になる。
 ぼくもほっとしていた。
 何を怖がっていたのだろう。我が家にはこんな可愛い同居人がいるというのに。この闇も、ぱちゅりーと一緒にいると思えば穏やかでゆっくりできる空間だ。
 安堵してベッドに戻る。
 すると、ぱちゅりーはその身を屈めて、ぴょんとベッドに飛び乗ってきた。
 ベッドに落ちた衝撃で、べしょっとたわむぱちゅりーの体。
 思わず大丈夫かなと覗き込むと、ぱちゅりーの目に再び浮かび上がっていた涙。
 べそべそと泣きながら、僕の体の上にぴょんと乗ってきた。

「お゛に゛い゛さ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん! こ゛わ゛く゛て゛、ひと゛りし゛ゃ、ね゛れない゛の゛お゛お゛お゛!!」

 シャツに涙と鼻水のしみが広がっていく。
 ああ、可愛そうに。ずいぶんと甘えん坊になってくれたものだ。
 愛おしさを感じながら、その髪をそっとでていた。

「今日は、いっしょにゆっくり眠ろうね」
「う゛んっ! き゛ょう゛は、お゛に゛い゛さ゛んと、ゆっぐりずるのおおお」

 言いながら、体をすりつけてくるパチュリー。
 「今日は」じゃなくて「今日も」なら、もっといいのになと思いながら、ぱちゅりーが安らかな寝息をたてはじめるまで、僕はそっとのその髪をなで続ける。

 そんなこんなで終わっていく僕とパチュリーの一日。
 ごくありきたりに、ずっと続いていく幸福の一場面だった。 


  • やばい、ゆっくりパチュリー可愛すぎる! -- 名無しさん (2008-08-04 01:02:35)
  • おにいさんとゆっくりの絵を誰か描いてくれないかな・・・ -- 名無しさん (2008-08-05 03:20:31)
  • 俺もこんな同居人が欲しい -- 名無しさん (2008-08-05 19:12:20)
  • 何この。何この萌えもやし! くそうぱちゅ萌えのツボを突かれすぎる。ていうかゆっくりにコトリバコって拷問だろうと。 -- YT (2008-09-10 02:34:50)
  • 萌えない、萌えないと言い聞かせてたのに!だめだよぉかぁいいよぉ!! -- 名無しさん (2008-11-05 01:24:02)
  • ぱちゅりーさん! 俺もさびしくてひとりじゃねれないのぉぉぉ!!! -- 名無しさん (2009-05-25 03:16:11)
  • ↑www -- 名無しさん (2009-08-17 03:32:28)
  • なんだこの萌えゆちゅりーはw 可愛すぎるぜ・・・ -- ゆっくり愛で派 (2010-03-30 10:49:09)
  • ぱちゅりーかわいいいい -- kyって空気よめる? (2010-04-16 23:11:03)
  • んほぉぉぉぉっ!! とかいはなぱちゅりーねっ!! -- ゆっくりありす (2010-06-02 18:41:06)
  • ちくしょう、ぱちゅりーがかわいくて堪らないや、この頃のゆっくりもかわいいんだな -- 名無しさん (2010-06-02 23:53:48)
  • ダメだ、もともとゆっくりパチュリーは好きだったが、このゆっくりパチュリーは反則すぎる -- 名無しさん (2010-06-07 16:24:42)
  • パチュリーほしいわ!むきゅう〜 -- りせりー (2010-07-11 19:58:39)
  • ぱっちぇさんまじぷりてぃ。温暖化はデマ。 -- 名無しさん (2010-11-27 18:09:16)
  • 鼻血ぐはああああああああああああああ -- ゆっくり愛護団体団員 (2011-03-20 04:06:30)
  • とても、ほのぼのとした話でした
    ゆっくり飼いたいなぁ -- サー (2011-10-08 14:56:37)
  • そんなに萌えてて 大丈夫か?      -- 大丈夫だ、問題nぐはっ (2012-08-12 19:39:11)
  • 可愛すぎて -- 名無しさん (2012-08-15 00:55:12)
  • てんぷらはなぜだめなのだ? -- 名無しさん (2012-12-14 07:18:46)
  • これは可愛い♡ -- 希少種スキー (2013-02-26 18:50:26)
  • スイカ食べたい -- 名無しさん (2013-06-27 14:20:08)
  • 心がきゅんきゅんしました。キュウリとコンニャクも伝承で合食禁らしいです(医学的根拠は無し) -- 名無しさん (2016-11-28 23:01:15)
  • ムーンサイドw マザー2ネタかな?にしてもぱちぇ可愛い! -- 名無しさん (2017-01-29 09:48:46)
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最終更新:2017年01月29日 09:48