番外編です。今まで私の作品を見てくれた方、是非読んでください。
この作品は伊坂幸太郎さんの終末のフールのオマージュです。
この作品はゆっくりと関係ありません。私が書いてきた世界観を使ったものです。
この作品はこの作品だけで終わりではありません。
よろしくお願いします。
「子供は、作らないほうがいいのかな」
私には、彼女の言っている事がわからなかった。
終末フール
☆
地球に、隕石が落ちるらしい。
隕石は宇宙からしてみれば微々たる規模のものだが、地球を滅ぼすには十分な大きさとのことらしい。
落ちてくる時期は、『正確にはわからないらしい』が、大体4年後と前にテレビでニュースキャスターがひっきりなしに放送で伝えていたために嫌でも覚えてしまった。
この発表が行われたのは先月の半ば位の時か。今は、もう下旬を降っている所であるため、1ヶ月過ぎた所だ。
私の何人かの友人たちも、この発表を聞いて財産を使い果たしたり、蒸発してしまった。しかし、私にはそこまで興味が沸かなかった。
だから、何だというのだ?
友人だけではない。勤めている会社でも、4年後の未来に絶望し退社する人が絶たない。…所詮、未来は未来だというのに。わからない事だし、たとえ4年後、確実に地球が滅びる事がわかろうが、生きたいと思っているのなら。別に生活を放棄する理由にはならないと考えているからだ。
4年後、運命を待てばいいじゃないか。ノストラダムスの予言さ、それで死ぬなら、その時だ。
リタイアする人は多いものの、社会は依然今までと変わらぬまま動いている。
☆
今仕事を共にしている同僚に、この様な意見の人がいる。
『私には、家庭がある。生活を守るために、私は生きる』
素晴らしい、しっかりとした考えだと思う。しかし、私主観から見るとちょっと違うというか、疑問に思う。
その言葉通りだと、家庭を第一にして生きていることになる。私には、卑小な考えながら一応理解は出来るつもりだけれども、それは本心かと疑ってしまう。
勝手な考えだが、人はずっと相手に尽すことが出来ないと考えている。家庭が円満で、同僚の趣味同然というのならばそれはずっと幸せなことで、私よりも格段にしっかりした偉い人だなあと思うが、そうは思えない。
昼休み、同僚が自分の小遣いで弁当を買うことが多いからだ。愚痴も、聞く。
自分を大切にできない人は、相手も大切にできないのではないだろうか。ただ流されるまま、責任を押し付けられて、いいように利用されるかお互いに不幸になるだけではないだろうか。
家庭のために、生きる。同僚は自分に嘘を付いているのではないだろうか、そう思った。
私は、自分が生きたいと思っているから生きている。そうでないなら、とっくの昔に死んでいる。
同僚の何人かは陰で私を薄情だと罵るが、知ったことではない。自分に正直で、何が悪いのか。
依存して、相手に頼って、責任を転嫁して。下手に嘘を付くくらいなら、私は正直に生きる。
「あうあ、うあうあ…」
「うー…。どうしたの、おねーさん?」
「…なんでもないですよ、れみりゃ、ふらん」
私はいつまでもこの子たちと一緒にいたい。
だから、生活を守る。
☆
電話があった。友人からだ。何でも、相談があるらしい。
直接会って話したいとの事なので、私は友人の指定した喫茶店へと向かう。店内に入り奥の禁煙席に顔を覗かせると、既に席に座っている友人が居た。
友人の表情を伺うとどうも浮かない表情をしているが、すぐに彼女らしい引き締まった表情に戻る。相談と言われたくらいだし、考え事をしていたのだろう、私は相席失礼と一言声を掛け、友人に挨拶を告げる。
「こんばんは」
「…東風谷さん、久しぶり」
「ええ、れーむの時以来かしら。いきなり、どうしたの?」
友人は、手をお腹にまさぐる。
「…! …」
「子供が、できたの」
友人は、言葉を続けた。
「2ヶ月目。1週間くらい前に、気付いたんだ」
「…へえ。これからが、一番辛い時期ね」
「ええ。つわりの事を考えると、どうも鬱になってね。でも、私は産むつもり!」
「そう、応援するわ。…相談、って?」
「…色んな人。様々な取り巻きの人々に、今の時期に子供を産むだなんて馬鹿げているって」
友人はうつむく。その表情は、先ほどちらと見せた浮かない表情よりもグンと落ち込んだ、悩み事を溜め込んだ表情だった。
「この時期に産むなんて、おかしいって。すぐ死んでしまう、4年も生きられないのに、自己満足にしかならないって。
自我を持たない子供に、幸福を感じることはあるのかって。感じていても、子供は幸せだったと確認することが出来ないのだから、それは幸せではないと」
私は、ただ相槌を打つ。彼女の瞳はくっきりと開き、体が震えている。声も、どもりだしてきている。
机に手を置き、私にのめるように友人は話を続ける。
「だから、だ、子供は、私、わた、あ、怨むだろうって、なんで産んだんだって、怨まないにしても、エゴだって!
自分の私利と利欲にまみれたエゴの結晶だって!」
「落ち着いて!」
声をあげて、彼女を制止する。彼女は話を止めたものの、まだ気が動転しているのだろう、縮こまり体をがたがたと震わせるばかりだ。
私は彼女の側に駆け寄り抱き締めてあげる。人々は普通の生活なら振り向いてもおかしくないくらいの大声が店内に響いたというのに、さも興味ないと言わんばかりに自分たちの会話をしている。
…やはり、隕石の影響だろうか。
「ああ、うっ、…がひ、あううっ! なんで! なんで、なんで!?」
「…落ち着いて」
私は、ただ友人を胸に抱いて落ち着くのを待つ。
それから、数十分くらいが過ぎただろうか。友人は落ち着きを取り戻し、再び一人で席に着くことができた。
抱き締めている途中、オーダーを受けた店員が来たが、興味なさそうにサッと料理をテーブルに置き、業務に戻っていった。
「…ありがとう」
「感謝される筋合いは、無いわよ」
友人は目を細め下を向き、寂しそうに店内を見回す。賑わってはいる、しかしこの賑わいはどこか無理をした賑わいに聞こえる…。
「…子供を、産みたいのよね」
「もちろん!」
友人は声を張り上げて私の質問に答える。
私は、彼女に告げる。
「いいじゃない、エゴでも」
友人は何を言っているんだと、ハッとした様子で私の話を聞く。
「そもそも、私はどんな時でも子供を持つこと自体がエゴだと思うわ。『こんな子になったらいいな』とか、『こういう子が欲しいな』とか。本当に、子供のことを考えての行動かと思うわね。理解できない、子供を、『欲しい』と言うだなんて。
子供を持つことをいい事に鼻にかける奴もいるわね。なんか、偉そうにして。『私は育児をしているんだ!』って、遠まわしな主張が本当に嫌でね。大変なことはわかるわ。けど、周りに労わって欲しい位大変なら、なんで産んだのかしら。その後の自分を、考えなかったのかしら?
…まあ、そういう人たちにでも労わってあげなければならないと言うのも理解しているつもりだけれどね。思いやり、ねえ」
友人は、ただ聞き入る。
「…まあ、これは他人や、親しくない人に対しての弁明。もちろんこれも本音、でもあなたとは友人じゃない?
もちろん、あなたも子供を産むことに対しての対面、損得勘定が全く無いという訳では無いと思うわ。まあ、それでも。エゴで、いいんじゃない」
間を置く。友人からは特に尋ねてこなかったので、話を続ける。
「端的だけど、たとえ。子供にとって、不幸になってもいいと思うわ。『自分が産みたい!』って思ってるんだから。自分が満足すれば、…悲しい意見だけど、いいんじゃない」
「でも、でもっ!」
友人は立ち上がり叫ぶ。悲痛に、訴えかける様に。
「…恐らく、あなたの周りの人は、デメリットを考えて忠告したのだと思うわ。育児ノイローゼや、様々な困難。大変な時期を乗り越えても、すぐに死んでしまう可能性があるのですもの、あまりに報われないわ。
きっと、『おかしい』と忠告した人はその事を考えて。『自己満足』と忠告した人は、わからないけど自分の顕示? 『怨む』だなんて言った人は頭おかしいわね」
気にせず、話を続ける。友人は、再び席に座り、私に向かい合う。
「…あなたは、いっぺんに忠告を聞きすぎた。それだけよ、だからパニックになったのでは無いかしら。見つめ直す、それが大切よ。旦那も、居るのでしょう?」
「…旦那は、旦那は」
彼女は言葉を詰まらせる。
「…そもそも。私は、その子供が不幸になるとは思わないけどね。たとえ4年後、確実に世界が滅びるとしても。それまでに育てられた子供は間違いなく『幸せ』であることには間違いないわ」
彼女が顔を上げ、私に見入るように目を開く。そして、『な゛ん゛で゛!゛?゛』と、彼女と一緒に居て今までに聞いたことのない大声で何度も叫ばれる。
彼女は体を震わせる。瞳の端には、涙が見える。その後、『あ、あ』と何か声を発せようとするものの、言葉にできないらしく、そのままテーブルに泣き崩れてしまった。
人々は、やはり振り返らなかった。
☆
そのまま、解散となった。友人は最後までおいおいと泣き叫んでいた。なんとか落ち着いたところ、友人から『今日はお流れにしましょう』と言われたのだ。
空を見上げる。喫茶店に入った時は、まだ青かった空。今はなんだか紫と朱色が混ざった、妖しい色の空が広がっている。
…空って、こんな色だったっけ?
家に帰り、おちびちゃん二人に夕食のチキンライスを作ってあげる。料理途中に、電話があった。
火を止めて電話に出ると、電話の主は先ほどの友人だった。
「…さっきは、ありがとう」
「あなたが良くなれば、いいわ。どうしたの?」
「…ありがとう。実は、もう全てわかっていた事なんだ」
「?」
「子供を持つこと自体がエゴであること、慈愛なんてものは一部の人にしか無いってこと。周りの忠告なんて参考にするだけで関係無いこと、子供はきっと幸せなまま生涯を共に終えてくれること。全部独りよがりだけど、なんとなくわかってたんだ」
「…それなら、産むんだね?」
「…いや」
彼女は、いいえと私に答える。
「それをふまえた上で」
「子供は、作らないほうがいいのかな」
無機質な電話音。私には、彼女の言っている事がわからなかった。
☆
私は一人、リビングの窓越しから雲で塗りつぶされた空を見て呟く。
これからの事、日々少なくなってゆく仕事、増加する強盗、国家の放棄。全て、あの隕石が影響するものだろう。
隕石一つで、世界はがらりと変わってしまった。
もう一度窓を覗く。月は、見えない。
「…なんで、明日が」
「明日が、やってくるのっ」
怖い。恐怖、恐ろしくてたまらない。周りがどんどん変わり行くことが怖くもあるが、時間の圧迫感が、どうしても、
…拭えない!
「ああッ! ああ、あああッ!」
机を思い切り叩き、やり場の無い怒りを消化させる。これで何度目だろう、もう数えられない程だ。
…和室から、物音は聞こえない。しかし、きっと起きて私の様子を覗いている事だろう。やるせない気持ちになる、しっかりしないといけない私が、取り乱し、二人に悪い見本となって…。
壁に掛けてある時計を見る。深夜、2時を回っていた。
明日は期末の清算が近いため工業簿記の帳簿記録の整理だ。寝なければならない、しかし、興奮してしまい、寝られない…。
「…くっ、あっ、ああっ」
頬が生暖かい。また、私は泣いているのか。
私は、なんて弱いのだろうか。
人々は、皆偽っている。
言いようにない恐怖から、逃れるために。立ち向かう勇気が無いから、臆病だから、ただひたすらに、逃げている…。
私も、その臆病者の一員だ。必死なのだ、とにかく現実を忘れるために。
強いも弱いも無い、ただ臆病だから、そのままずるずると行動しているだけなのだ…。
「はあっ、はっ、…はあっ、ひっ」
呼吸を調えようとするが、…返って興奮してしまい、震えが止まらなくなる。
明日も、また自分を偽なければならない。もちろん、興味ないという考えも私の意見だが、
…―漠然とした恐怖を、押し込まなければならない!
「お、おねーさん!」
「うああ…。れみぃ、まだおねむだどぅ…」
「…二人ともっ!」
ふと、サアッとふすまが開く音がした。和室から、ふすまを開いて二人が椅子に座る私の足元に駆け寄ってくる。…心配を、してくれているのか。
私はいたたまれなくなり、二人に抱き付いて、そのまま、じっと顔をうずめた。
なんで、明日が来るのだろうか?
本当に隕石が降るとしたら、なんで政府は発表したのか?
パニックに、なるだけなのに?
「くうっ、うう、うあ」
「…おねーさん、なんで泣いているの? 嫌なことがあったの、ねえ、おねーさん、泣かな゛い゛で゛、お゛ね゛ー゛さ゛ん゛…」
不条理だ、理不尽だ。たとえ周りが知っていようと、私は、こんなこと知りたくなかった!
なんで、なんで! …自分の思考が、塗りつぶされていることがわかる。理解できるけど、変えられそうもない。
私の体は、すっかり震え上がってしまっているのだから。
★
明日が、やってきた。正式には既に来ていたが、明日がやってきたことには変わりない。
時間は、深夜5時。…結局、寝れずじまいだった。ふらんとれみりゃは途中で精魂果ててしまい、今は和室でぐっすりと眠っている。
窓から景色を覗く。紫色と朱色がかった、妙な色の空が広がっている。
月は、見えない。
臆病な私たちは、これからを過ごしていけるだろうか。
私たちに、明日はやってくるのだろうか。
終末フール
- 胃にダメージ来たわ・・・
続きを大人しく待ちます
しかし作者さんてば本当に色々な作風で書くなぁ・・・ -- 名無しさん (2009-04-27 22:14:14)
最終更新:2009年04月27日 22:25