れいむとま りさ1

『れいむとま りさ』

第一話 冷雨の切れ間


風は暴れて草木を揺らし、雨の群れは大地を容赦なく叩きつける。

「嵐まだやまないね…」

数日前から起こった嵐は未だやまず、この集落のゆっくり達は洞窟の中から出れないでいた。

「うー…」
「れみぃ、大丈夫?」

特に雨が苦手なれみりゃをぱちゅりーが気遣う。
妖精や魔法使いと同じく、ゆっくりにとって食料は嗜好品なのでひもじい思いはしていないが、
何日も洞窟にこもりっきりというのはなかなかストレスの溜まることだ。
ゆっくりするのが取り得のゆっくり達もいい加減洞窟でゆっくりするのに飽き始めている。

「…田んぼ、大丈夫かしら…」

ありすが、ぼそっと心配事を口にした。
近くに住む人間から稲の育て方を教わったゆっくり達は、自分達の田んぼを作った。
上手くいけば自分達で育てたお米でむーしゃ、むーしゃ、しあわせーとなるはずなのだが、
この嵐では田んぼがどうなっているか分かったものではない。

「…よし、じゃあれいむがちょっと田んぼの様子を見てくるよ!
れいむ、この嵐がやんだらゆっくりするんだ!」

言うのが早いか、れいむは洞窟を飛び出していった。
他の一同は一瞬呆気に取られたが、すぐ我に返って外に、れいむに呼びかける。

「れいむ待つのぜ!ゆっくりしていってね!」
「その台詞は死亡フラグよ!しかもダブルで!」
「うー!危ないぞぉー!」
「おとなしく待ってないとだめなんだよー!冬のナマズみたいに!」

だがその必死で引き止める声も、吹きすさぶ風と降り注ぐ雨の音にかき消される。
れいむの姿は、もう見えなくなっていた。



(田んぼ!田んぼ!)

嵐の中、れいむは必死に田んぼに向かって飛び跳ねる。

(みんなゆっくり待っててね、れいむが見てくるからね!)

だがぶ厚い雲と降り注ぐ雨のせいで視界は無いに等しく、どこに向かっているかわかったものではない。

(田んぼ!田んぼ!
…田んぼとたんぽぽって似てるね!)

どんな時でも余裕を失わないのがゆっくりのひけつ。
そんなどーでもいい事を考えながらひたすらぴょんぴょん進んでいく。

いつの間にか嵐は止んでいた。

(ゆゆ?ここはどこ?)

だが、同時に周囲の様子も変化していた。
あたり一面、物陰とも、夜の暗がりとも違う怪しい闇。

(まあいいや、ゆっくり進むよ!)

しかしれいむはそんな事はおかまいなしに、てきとうにぴょんこぴょんこ進んでいく。いい度胸してやがる。

(ゆー…疲れたよ)

洞窟を飛び出してからもうだいぶ経つ。れいむはすっかり疲れきっていた。
辺りを見るとさっきまでの闇はどこにも無く、ただ夜の暗がりが世界を包み込んでいた。
ここは、どこだろう?
暗くてよくわからないが、
何か硬そうなものがいっぱい並んだ棚、
つやつやした板がはめこまれている四角い箱、
台の上に載った布団などがぼんやり見える。
れいむのいる場所は卓の上のようだ。下を見ると服や、何かよくわからないものがいっぱい散らかってる。
いつのまにか、誰か人間の家にあがってしまっていたらしい。

(…まぁ、いいか。ゆっくりさせてね…)

すっかり疲れていたれいむは「家の人が来たらその時ごめんなさいすればいいや」と思い、そのままそこで寝入った。

寝て少し経つと、ぽんと頭を叩かれたので家の人が帰ってきたと思い

「ゆっくりしていってね!」

と反射的に返したが、襲い来る睡魔は強力ですぐさま二度寝に突入し、朝まで起きることは無かった。




翌朝、目が覚めたれいむは布団の中に誰かいるのに気が付いた。
よく見るとなんとなく見覚えがある。
あの金髪、あの髪型は…

(…まりさ?)

よく知る友人のそれと酷似していた。いや、見知らぬ家に住んでいる以上あのまりさとはまた違うまりさなのだろうが、
とにかくまりさだ。
渡りに船。
このまりさに道を聞いてみんなのところに戻ろう。
そう考えたれいむは布団の上に飛び乗り、『それ』に向かって声を上げた。

「まりさおはよう!ゆっくり起きてね!」

しかし…


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空に闇、街には光。まさに日付が変わろうとする時間帯。
エレベーターのドアが開いて、中から一人の少女がふらふらと出てくる。
おぼつかない足元、落ち着かない視線、紅潮した顔…

「うー…ちょっと飲みすぎたかな…」

彼女は泥酔していた。所属するバンドのメンバーと練習したあと、なんとなく飲むことになって、なんとなく飲みすぎた。

「まぁいいや、明日はバイトも…なくはないけどなんとかなるだろ…」

ふらふらと、自分の部屋の前までたどり着いてドアを開ける。

「ただいまーっと」

返事は無い。一人暮らしなのだから当然だ。返事があったら逆に怖い。
それでも言ってしまうのは身体に染み付いた習慣だからか。

「うーん、何もかもが面倒くさいぜ…」

風呂にも入らず、歯も磨かず、彼女はとにかく寝ることにした。女の子としてそれはどうなんだ。
寝室に入り、テーブルの上をちらりと見ると何か変なものがあった。

(…なんだこりゃ?)

それは、でっかい人の頭だった。こんなぬいぐるみあったっけ?と思って近づくと、ゆーゆー言いながら寝ている。
つまりこれは生き物。
つまりこれは未知との遭遇。
とりあえず頭をぽんと叩いてみる。

「ゆっくりしていってね!」

一瞬起きたそれはそう返し、再び眠りについた。

(…まぁ、いいか)

こんな間抜け面だ、害はあるまいと思った彼女は布団に潜り込む。
今の彼女にはテーブルの上に鎮座している変な生き物よりも何よりも睡眠が優先された。

「言われなくてもゆっくりするぜ。私の家だからな…おやすみ」

それだけ言って、彼女は眠りについた。



そして翌朝…

「まりさおはよう!ゆっくり起きてね!」

こんな目覚ましあったっけ?と思いながら彼女は眼を覚ました。

(…なんだこいつ?)

目を覚ますと、でっかい顔があった。

「まりさおはよう!ゆっくりしていってね!」
「うん、そうする…」

彼女は再び布団をかぶった。

「まりさ寝ないでね!ゆっくり起きてね!」

外で「それ」がなにやら喚いているが放置し、彼女は昨夜の事を思い出していた。

(確かみんなで飲んで…)

(家に帰って…)

(で、こいつがいたんだ)

(…うん、思い出したところでなんにもならなかったな)

彼女は布団を開け、「それ」を見る。

「ゆ!まりさ起きたんだね!」

頭だけだ。一頭身だ。
そしてなんとも間抜けな面だ。
さっぱり何の恐怖も感じない。未知の生物としてそれはどうなんだ。

(…まぁ、とりあえず言葉は通じるみたいだから聞いてみるのが手っ取り早いな。色々と)

だがその前に…彼女は一つだけ言っておきたい事があった。

「さっきからまりさまりさと言ってるが、私はそんな名前じゃないぞ…惜しいけど」
「ゆ!?だって…」

今更ながら、れいむははっと気づいた。
髪の色、髪型はまりさにそっくりだが、顔のつくりがなんか違う。それにれみりゃみたいに胴と手足がある。何より帽子がない。
まるで人間みたいだ。
っていうか人間だ。

「『まりさ』じゃなくて『りさ』。
超人気(になる予定の)バンド『SPARK』の『烏丸 里紗(からすま りさ)』だ。覚えとけ」
「ゆー…………?」

言われてれいむは少し考えてから、パッと顔を輝かせる。

「わかったよ!」
「わかってくれたか」

わかったと言われて一安心したが、里紗の胸中にはひとつの不安があった。
そして、その不安は的中することとなる。

「ま りさ!」
「そこだけ取るんじゃねえよ!」

-つづく-



この物語はフィクションです。
実在する人物、団体、地名その他あれやこれやとは一切関係がありません。

書いた人:えーきさまはヤマカワイイ

  • 生首相手に適応力高いなりささんw -- 名無しさん (2009-04-27 21:58:31)
  • 寝ても覚めてもゆっくりの居る生活が、スタート…ですか? -- ゆっけのひと (2009-04-28 00:25:59)
  • 霧雨から少し字をずらせば烏丸になるか…続きが楽しみです -- 名無しさん (2009-04-28 21:18:04)
  • やっぱ貴方のゆっくりっていいわw
    -- 名無しさん (2009-04-28 22:17:40)
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最終更新:2024年08月03日 21:49