在りし日の

家の外に出ると思いの外朝日が眩しく、思わず私は顔をしかめていた。
出無精という訳でもないが、昔に比べれば少なくなったと思う。

「昔、か。」
光陰矢のごとしとは良く言ったものだ。

たとえそれが半世紀でも、時というものは瞬く間にも過ぎ去っていき、
そして二度と戻ってはこない。


だから彼女も、もう戻ってはこない。


我ながら随分、朝が早いと思う。
森にはまだ葉に露が降りたままで、朝日にそれが輝いている。
こんな光景もたまには悪くはないだろうが、毎日というならやはり年は取りたくないものだ。

……いや、
「違う、か。」

本当は碌に寝れてもいない。
あの日のことばかり思い出して仕方がなかっから。


別に、立ち会った訳ではない。
察していた訳でもない。
……おそらくは考えたことすらなかった。
ただ、人伝てに聞いたまで。
彼女が、
知り合いの魔法使いが、死んだことを。

……泣いたのは、いつ頃ぶりだったろうか。
覚えてはいないが、随分と久し振りだった。
自分でも意外なぐらい、涙は止まらなかった。
自分でも意外なぐらい、自分にとって、彼女は大切な存在だった。
反目ばかりしていたと言うのに、どうしようもなく大事な存在なのだということを、
その日初めて知ったのだ。
あれから、後悔は続いている。長く、ながく。

少しばかり緩んだ涙腺を締め直す為に立ち止まっていると、
少し先から声が聞こえてきた。
もたげた好奇心を隠すことなく、けれども頭と御尻は隠しつつ。
茂みからちらりと覗き見ると、そこにいたのは

「まりさのばか!いなかもの!!」
「ひ、ひどいのぜ、ありす。」
朝も早くから喧嘩を繰り広げる、ゆっくりのまりさとありすだった。
こいつらはあの頃からてんで変わっていない。
「ひどいのはまりさよ!またぱちゅりーのところに行ってたそうじゃないの!」
「い、いや、それは……」
……頭部だけだと言うのに、早朝からまた爛れた会話だ。
「それどころか、ふらんやにとりに、こいしのところまで!」
「そ、それは……その、」
随分とまりさはしどろもどろになっていた。
それにしても、……精力的というかなんと言うか。まったくもって節操がない。
「あと、言うのにことかいて、さくやってどういうことよ!!」
「ま、まさに『やけぼっくりにひがついた』って奴なのぜ?」
目を泳がせながらまりさが言う。和ませようと冗談を言っているつもりなのだろうが
……率直に言うと、油を注いでる様にしか思えない。
「それを言うなら『やけぼっくい』よ!!」
ほら、やっぱり。
「ほんっっと、まりさってばいなかものね!!」
最後には、そっぽを向いてしまった。
「ゆ、ゆぅぅぅ……。」
ありすの後頭部を見ながら、まりさは言葉にならない呻きをあげていた。
「ぅぅぅぅ……うぉぉぉ!!」
と思っていると、もみあげを手の様に使い、円錐帽から何かを引っ張りだした。
「これをみてほしいのぜ!!」
「なによ、うるさ……」
振り向いたまま呆然とするありす。
「これ……。」
「お花さんのわっかなのぜ。……もっとも、つくりもののお花さんだけど。」
「こ、これがどうしたっていうのよ!!」
「これを作るために、みんなのあどばいすをもらいにいったんだぜ。」
ありすは硬直していた。
「ほ、ほんとう……?」
「しんじてほしい。」
2頭は見つめ合い、そして、『すーりすーり!!!』
互いに頬擦りをしあった。
随分と間抜けというか、微笑ましいというか。私の頬はすっかり緩んでいた。
あんな爛れた会話ではなかったが、まるであの頃の私たちを傍から眺めているようで――


私はそこで悪趣味な出歯亀を止めることにした。
……所詮は、饅頭の茶番。自分にはまるで関係がない。
その饅頭が、かつての私たちを象っていたものでも、関係はないのだ。


それでも、思う。
あの頃、もう少しでも素直だったなら、今の様に後悔をし続けなくても、済んだのだろうか。
時たまでも、強がらずにいれば、或いは――


自問に答えは出なかった。
出たとしても、何の意味もないだろう。


私は歩く。
ほんの少し宙を飛べば早いし、楽だろう。
それをしないのは、今だに認め難いからだろうか。
少しでも時間をかけて躊躇していたいからだろうか。


歩を進めるに従って、目的地が見えてきた。
彼女がたった一人きりで住んで居た家。
そこを管理する者達のお陰だろう。流れ去った半世紀という時を感じさせない外観だった。
だが、それが無性に寂しく感じる。
私の心と同じ様に、此処もまた彼女を忘れられないでいるのだ。

鬱々として考えていると、またしても声が聞こえてきた。

「まりさのばかー!!やっぱりうわきしてたのね!!!」
「ちがうのぜー!」
……またか。
「ゆっくりごかいをといて下さいね!!!」
しかも、相手はゆっくりさなえらしい。
「いくらなんでも、さなまりなんて常識にとらわれなさすぎよ!!」
「そりゃあ、みこがそらを飛ぶげんそうきょうだし……。」
相も変わらず余計な茶々をいれるまりさ。
「じょうしきにとらわれてはいけないのですよ!あ、でもこの件はかんt」
そして間違った方向にフォローするさなえ。
「みとめたわね……!!!」
ありすはそう言うと、どこからともなく札らしきものを銜え出して掲げた。
……驚いたことに、スペルカードの様だ。最近はゆっくりまで弾幕を使うとは。
ゆっくりとはいえ、時は流れて、進んでいくものなのだと感心させられる。
「じゃしん『もっこす』!!!」
……まぁ、ツッコミ所は多いけれど。
弾幕にしては豪く遅いし、何より
「ゆゆっ!安置発見だぜ!!」
「こっちもです!!」
「ゆぅぅ!!やられたぁ!」
安置多数という御覧の有様。
「……やぶられたからにはしかたないわ。一夫多妻どんとこい!!」
挙句には変な方向に吹っ切れる始末。
「いやだからかんちがいなのぜ……。」
「げんそうきょうではおもいきりのよさもひつようですけど……。」
やけくそになったありすに、さなえとまりさは困惑していたようだが、
「「それじゃしつれいします!!!」」
こちらも吹っ切ったのか、2頭でありすを挟み、頬擦りを始めた。
「「すぅーりすぅーり……」」
ありすのへしゃげ具合から、むしろ押し競饅頭に近いが当の本人は満足してるようだ。
「ああ……マニアックなぷれいも、とかいはのたしなみ……。」
何処か安心しつつも、馬鹿みたいに思えて、私は目を逸らす。
その時視界に入ったゆっくり達は、こちらをなんだか酷くニヤついた目で見ていた。

「これで満足か、って?」
ゆっくり達の方はあえて見ず、私は言う。
所詮は、私の苦悩も未練も、短い生涯の茶番にしか過ぎないのだ。
いつまでも死人のことを考えていたとて、どうにかなるものではない。
「そう、満足。」
何度も立ち上がり、何度も挫けてきた。だから、今は立ち上がるときだ。

夭折の彼女と違って、そこまで残された命でもないのだから、そうそう無駄には出来ない。
出来ることなら杖代わりにはしたくない箒を握り閉め、自らの円錐帽をしっかりとかぶり直す。
「ゆ!それでこそ、だぜ!!」
まりさの言葉を背に受けながら、私は大きく息を吸う。
「ありす、1つだけ言わせてもらう。弾幕っていうのは、チマチマするものじゃない。」
幾度となく下らない衝突をしていた私達だったが、一つだけ、譲れなかった信条がある。
それを、うだうだとした自分を振り切るため、あの頃の様に私は言い放つ。
「弾幕は、パワーだぜ。」

――
あとがき
おひさしぶり……でしょうか。ゆっくり怪談です。
今回は少し捻った作品を目指してみました。……なんだか、上手く捻れなくて嫌な音がしてるような気もしますが。
ここ最近はアイディアが浮かばず、絶賛スランプ中でしたが、まだまだ続きそうですorz
とはいえ、もう一つの顔としての保管作業はキチンとしていきますので、ご安心を。
……いえ、その、隠すつもりはなかったんですけどね。
言い出しづらかったというか、この前チル裏で夢饅頭さんが実は携帯の人は……と暴露されてたんですけど、
その時便乗して思わせぶりなこと書いたんですが寝落ちしてしまいましてorz
これを期に明かしてしまおうかなぁ、と。
と言うわけで、暫てゐ管理人こと、ゆっくり怪談でした。

ゆっくり怪談の人

  • 騙されたわw
    こうくるかw -- 名無しさん (2009-04-28 21:41:19)
  • なんかいいなぁこういうの。
    ぷよぷよの裏設定を思い出した
    (ぷよぷよの世界の住人はオリジナルが皆寿命で死んでしまった後、昔を懐かしんだサタン様が創造したもの)。 -- 名無しさん (2009-04-29 20:41:35)
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最終更新:2009年04月29日 20:41