ゆっくりと一振りの剣

※個人設定がいっぱい&ジョジョネタです。
※しかも若干の厨二成分が含まれています…
※これらが苦手な方はご注意下さい。






























荒れ狂う砂嵐、果て無き砂丘。
そんな砂漠の中を一人の男がさ迷い歩いていた。見ると手元には一振の抜き身の剣が握られている。
その身なりも普通ではない、砂漠のど真ん中だというのに軽装で荷物も、そして水すらも持ってはいない。

「俺に斬れないものは居ない……コイツさえあれば俺は無敵なんだ……」


そんな事を呟きながら男はさ迷っていた。
どの程度さ迷っただろうか、日は完全に落ち込み、焼き尽くすよう熱風と照りつける日光はナリを潜め、
辺りは闇と極寒の世界に変わっていた。
しかし男はそれすらも気にした様子は無く、夜空の下でただ飢えていた。斬るべき獲物に…

「今日も、獲物にあり付けなかった…。斬り足りん…斬り足りんぞオオォォォッ!!」

と、男が喚き散らしていると。

「ゆっゆっゆ。ゆっくりはこぶよ!!」

ポン!ポン!と軽快な音と共に、頭にサボテンの花を乗せた生首が現れた。

「ゆ!おじさん!そこはれいむたちの縄張りだよ!!ゆっくり出てってね!!」

普通の人間ならここで驚き慄いている所だろう。夜の闇の中、生首が跳ねて、しかも物を言っているのだ。
しかし、男は驚いた様子も無かった。
むしろ、その顔は歓喜に打ち震え、恍惚とも取れる表情をしていた。

「イ…ヒヒ…獲物だ。獲物だああアァァァ!!ヒィ…ヒヒヒヒ…ッ!!!」

男は叫ぶや否やその凶刃を霊夢に振りかざした。
だがその時、ソレは発動した。

「ゆゆ!あすとろん!!」

鈍い音と共にその凶刃は弾かれ、剣は男の手から離れた。
するとどうだろう、男の体は断末魔と共に一気に干からび枯れてしまった。
その亡骸は見る影も無く、悠久の時を生きた老人の様だった。

「おじさんは選択を誤ったんだよ!正解は大人しくそこをどくことだったんだよ!!」

霊夢は亡骸に言い放つ。ふと、男が持っていた剣に眼が行った。
その剣は怪しく輝き、霊夢を誘っているようだった。

「ゆぅ~、きれいなかたなさんだね!おみやげにもっていくよ!!」

と、剣を咥えようとしたその時、霊夢の頭の中に声が響いた。

「霊夢、霊夢、お前は力が欲しくはないか?」

「ゆゆ?だれ!?ゆっくり姿を現してね!!」

「ケケケケ、霊夢、今お前の目の前に見えているだろう。」

声は、剣から直接霊夢の頭に響いているようだ。
当然困惑する霊夢、そんな事はお構いなしに声は続ける。

「この剣を取れ、お前に力をやろう。お前と俺が組めば敵は無い。好きなときに好きな物をぶった斬れるぞ。」

「ゆ?かたなさんが喋ってるんだね!ゆっくりしていってね!!」

「なッ!?挨拶はいい、力が欲しいかと聞いているんだ!」

事態を把握すると霊夢は暢気に挨拶をした。
剣は予想外の反応に困惑しつつ、霊夢への誘惑を続けた。

「ゆ?力?それってゆっくり出来るの??」

「あぁ、敵が居なければゆっくりし放題さ。邪魔する奴が居ないからな。ケケケ…。」

「ゆ~!じゃあ欲しいよ!かたなさん!ゆっくり力をちょうだいね!!」

「あぁ、お前に力をやろう……さぁ、俺の柄を咥えるんだ。」

「ゆ?こぅ?」

と霊夢は器用に舌を使い剣の柄を咥えた。

「あぁ、それでいい、後一つ言い忘れていた事があった。」

「ゆ?なぁに?」

「力の代価の事さ、力を得るには相応の代償が要る、それは……お前の体だよおォォォォッ!!」


どす黒い何かが霊夢の心を包んでいく…霊夢の体は浅黒く変色し、顔は邪悪な笑みを浮かべている。

「ゆぐぐぅぅぅ!!」

「ケキャキャキャ!!お前の意識を頂くぞ!!」

「……ゆふふ、ぜったいに負けないよおぉぉぉぉ!!!!」

霊夢は吼える、その叫びは砂漠の風にかき消されていった。


「ケケケ、貰った…少々不便だが貴様の体ッ!使わせてもらおう…。」

もう一度、欲望のままに殺戮を繰り返せる…その喜びを表すかの様にに刀身は震え、輝きを増していた。
しかし、剣は異変に気付く。体の動きが鈍い、いや、動かないのだ。
剣の意思とは裏腹に霊夢の体は動く事を拒否していた。

「ど、どういう事だ!体も心も完全に支配したハズッ!ありえん…有り得ん事だッ!!」

確かに、有り得ない事だった。
今までにこんな事は無かった、支配した人間はいとも簡単に操る事が出来た。
そう、人間では…

「…くり…る…よ…!」

その時、霊夢の口からある言葉が発せられた。

「ゆっくり…する…よ…!」

「馬鹿なッ!俺の支配に抗うだと!?」

「ゆっくりするのぉぉぉぉ!!!!」

その叫びと共に普段のふてぶてしい表情が彼女に戻っていく。
それと同時に剣の意識がある感覚によって急激に侵されていった。

「なんだ、この感覚は…俺の体から殺意が抜けていく…!」

「ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!!」

意識の中に霊夢のふてぶてしい笑顔が広がっていく。
殺意が削られ、そして「ゆっくり」が意識を侵していく…

「やめろ…やめてくれ…俺に近寄るなぁぁぁぁッッ!!」

「ゆっくりしていってねぇぇぇぇぇ~!!」


霊夢が剣を咥えてから何時間が経っただろうか。
色こそ浅黒いままだが、そこにはいつも通りの霊夢がふてぶてしい笑みを浮かべていた。
そして、口に咥えた剣からはもう邪悪な声は聞こえなくなっていた。
ただ聞こえてくるのは、「ゆっくり~♪ゆっくりしていくよ~♪」という間の抜けた声だけだった。

「ゆっふっふっふ!かたなさん!れいむを支配しようなんて百万年早いよ!!」

剣の声こそ間が抜けているが、力はそのまま霊夢に宿ったままだった。
今度こそ、霊夢は自らの意思で砂漠に響く程の声で叫んだ。

「ゆっくりしていってねえぇぇぇぇ!!」

叫び終わると「すっきり~♪」と呟き、剣を咥えたまま頭にサボテンの花を乗せ、ポンポンと跳ねていってしまった……






数ヵ月後、砂漠の街には一匹の剣を咥えた生首の噂が流れていた。
「ゆっくりしていってね!!」と鳴き、砂漠の巣に住む同族を守り、傷つける者は何人たりとも打ち倒し、それでいて決して殺めはしない。
その代わりに、食料と水を要求し、持ってこなければ何処までも追い掛け回される。
そんな生首の噂が………












「絶対に負けないよおおぉぉぉッッ!!」













fin








  • 霊夢△ -- 名無しさん (2010-11-25 17:44:37)
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最終更新:2010年11月25日 17:44