亀裂

ちょっと投下 ちと暗めかもしれませんが。
そして、鬱なす(仮)の人さん ありがとう


「師匠!!!」

呼び止められたのは、自宅に着く手間でのこと。寺子屋にて臨時の講師を勤めた帰りだった。
振り返ると、ゆっくりふらんがふよふよと飛んでいる

「私は、弟子をとった覚えは無いが」
「いえ、どうか師匠とよばせてください!!!」

あのれみりゃ等と同じ、 ⌒ ,___, ⌒  ではなく、(◯)____(◯)の目だった

「師匠のてらこやでの、カワラワリ のじっせんをみていて、かんどうしたよ!!!」
「それは、ありがとう」
「ふらんも、おなじようにカワラをこわしたいのです!!! せめて亀裂を走らせたいのです!!!」

そこそこ大きな子だったが、胴が無い。どうやらそこで成長が止まってしまったらしい。珍しくない話だが……

「君は、ゆっくりだろう。そんな、武道や瓦割などに挑まなくても、もっとゆっくりできる道があるはずだ」
「いえ、こわしたいのです!!! いままでそんなことはかんがえず、ゆっくりといきてきいましたが、師匠
 の技をみて、めがさめました!!!」
「まるで、瓦を破壊できれなければゆっくりできないとでも言うようだね」
「そのとおりです!!! こわしたい!!! こわしたくてたまらない!!!亀裂走らせたい!!!」


さて――――ゆっくりふらんの元となった人物は、「あらゆるものを破壊できる程度の能力」を持っていたという。
となると、ゆっくりを人生の至上とするはずの彼女が、何かの破壊衝動に駆られるというのは、性か。
たしかに、そうした暴力衝動を昇華するには適切なことかもしれないが………

「胴がついたらやってきなさい」
「それではおそいのです!!! いますぐ、でしいりしておぼえたい!!!」
「弟子入りしても、時間は掛かるのだよ。それに、私は弟子はとらない主義だ」
「どうしても そうおっしゃるのなら」

背を向けると同時、、グルリン、と凄まじい速さで、ゆっくりふらんは彼の目の前に回った。

「ふらんは、ここを、いっぽも、うごきません!!!」
「そうか」

と、軽く横へ逸れて、そのまま素通りする。
10メートルほど離れた所で振り返ると、こちらも見ずに、その場でまだ浮遊していた。ついてはこなかった

翌日も、翌々日もふらんはそこに浮遊していた。
3日目に会うと、ウォークマンを聞いていた。そんなもの今まで持っていなかったのに……… 考えてみれば、この
道は買い物に同じ時間通るだけなので、そこを見計らってたっていればいいと考え、一応家には帰っていたの
だろう。少し安心した
ふらんは気まずそうにしていたが、聞いている曲が少し気になった。

「何だね?それは」
「ユックリデスペラードです」
「―――――!!!」

アルバム名を聞いてみると。4thアルバム「Cage of metal mouse」だとのこと。しかし、一番好きなのは、2ndアルバム「Box of Spirit」
だそうだ
彼は高まる胸を押さえられなかった

「私もだよ」
「し、師匠も!!!」
「次に好きなのは、5枚目の「rule of a prostitute spider」―――intro と outro の繋ぎとループ感が素晴らしい」
「曲で好きなのは?」

――「「”WAIRA”!!!」」

気付けば、ほいほいと自宅へ呼び、茶を淹れながら談義に花を咲かせていた


そんなこんなで、なし崩し的にふらんは弟子入りに成功した。彼自身、弟子を取ったことがなかったので、扱いには困ったが、昔自分が
師匠から受けた事をそのままやれば良いかと、身の回りの世話をさせた。
半年ほどそんな生活が続いてから、本当はもっと時間をかけるべきだが、ふらんに稽古をつけ始めた。これは、彼がゆっくり用のトレーニ
ングを学んだ時間でもあった
筋は良かった
見る見るうちに、飲み込んでいった

しかし

「やはり瓦は無理よのう……」
「いだだだだだ…………………」

実践で戦えば、そこらのごろつきの人間の子どもにも負けないゆっくりふらんとなったが、まるっこい首だけという形である以上、どうしても
瓦の前に、壊せない壁があった。
せめて、人間と同じ拳を持てば可能性もあるのだが……

「こわしたいこわしたい!!!」
「修行あるのみだ」
「亀裂もいれられないないのおおおおおお………」


―――とは言え、彼には解っていた。
本当に、このふらんは成長が止まってしまい、これ以上待っても胴は付かない事。そして、このまま練習を積んでも、瓦割りは到底無理
だという事
早く教えたほうが、本人も彼もゆっくりできるはずだ。しかし、それはできなかった。傷つかせる事を躊躇っていたのかもしれないし、何より
―――同居人との別れを恐れていたのだろうか?


そんなある日、夕飯を食べながら、ふと音楽の話になり、そして、「ぽんでせろふぁん」というバンドの話になった。
実は、「ユックリデスペラード」に影響を受けた、彼が2番目に好きなバンド。

「は?」
「いや、あれも良いバンドだと思ったんだが」

もむもむと米を歯を剥き出しにしながら噛み砕き、ふらんはしばらく考えたようにしてから 言った

「けっ」
「ん?」
「ガンダムといえるのは、ファーストだけ。鬼太郎は、2期まで。ウルトラは、帰りマン以降は全部偽者。ライダーはRXまでなら許してやろう。
 ロックマンは、本家とX以外は、ふらんは認めません」
「何が言いたい」
「『ぽんでせろふぁん』なんて、パクリだよ!!! 『ユックリデスペラード』がほんものだよ!!!」

ゲラゲラゲラ
笑い方がおかしい

「そういう言い方は無いだろう」
「なに?あんなのがすきなの?ロックわかってないの?」
「お前が所謂懐古主義だという事は解った」
「あんな糞バンドきいてるなんて、おかしいよ!!! 『ぽんでせろふぁん』なんて、ゆっくりしね!!!」
「やめなさい」
「ゆっくりしね!!!ゆっくりしね!!!ゆっくりしね!!!」

彼は温厚な人間だった。稽古の上で、叱った事はあっても、怒る事は1回も無かった。
だが、どんな事にせよ、自分が好きなものを貶される事ほど、人間にとって腹の立つ事は無い。自分が馬鹿にされる以上に

「どお゛じでぞんなごどいうのおおおおおおおお!!?」
「怒ったね!!!こんな糞バンドがすきなにんげんとはくらしていけないよ!!!」
「うるさいよ!!!とっととでていけよ!!!」
「どうせ、ふらんには、カワラはわれないってわかってたよ!!! ふらんはもうなにもこわせないんだよ!!! 亀裂も走らせられないんだよ!!!
 だったらそういってほしかったよ!!!」

ゲラゲラとそれでも笑いながら、ふらんはそのまま飛んで出て行った

「これでせいせいしたよ!!いくじなし!!!」

本当に帰ってこなかった

何とも整理しがたい気持ちで――――ふらんが暮らしていた部屋へ、何とはなしに行ってみた。
まだ、今起こった事が信じられない

「『ユックリデスペラード』で結ばれたのに………」

ほんの些細なきっかけで

「『ユックリデスペラード』が原因で離れてしまった………」

原理主義者と、そうでないもの
項垂れたまま、ふらんの部屋を覗く


そこで目にしたものは

「何で、ここにこれが……」

先ほど、あれだけ馬鹿にしていた「ぽんでせろふぁん」のCDだった。「ユックリデスペラード」と一緒に、全て揃っている。しかも、シングルまで。
「ぽんでせろふぁん」、実はあまり売れていない上、寡作なので、ベストアルバムという名のシングルの寄せ集めがリリースされており、それでも
曲数が足りないので、カップリング曲も全部収録されている。つまり、これ一枚あればほぼ事足りる有様なのだが、ふらんはシングルを全て
そろえていた。
それだけ、ファンだったという事なのだ
ならば、何故……

その時

「師匠!!!」

振り返ると、月光を背に、ふらんが浮遊しながら此方を見つめていた


「かべをぶちやぶり――」


涙を浮かべ






「師匠との絆に、亀裂を走らせたよ!!!」


                          了


チラ裏――
この後、森での「ユックリデスペラード」のライブ会場できまずい再会を果たした二人でしたが、単なるライブ仲間としてその後も付き合いは
続きましたとさ。「ぽんでせろふぁん(かなこ3人による、ドラムだけの3ピースバンド)」は解散しました


お粗末さまでしたー
鬱なす(仮)の人さん、名前を出させてもらってありがとうございます。既にあのバンドのフォロワーが生まれるほど、成長した後のお話――
ということで
――――って、単なる洒落にするつもりが、あんまり洒落になってない上よく解らない話に……次はもっと頑張ります…・

  • 仲が良くても断ち切らなきゃいけないことあるからな
    ええはなしや -- 名無しさん (2009-05-03 13:29:53)
  • オチが上手い! -- 名無しさん (2009-11-30 22:01:10)
  • 見事に破壊したなw -- 名無しさん (2011-05-25 19:20:16)
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最終更新:2011年05月25日 19:20