小ネタ204 太公望が二人

さて、私はだれでしょう

 さて、生きることとは大変なことである。食い扶持を稼ぐためには労働にいそしんで、代価を何らかの形で得なくてはならぬということだ。
 と、韜晦してみるが、板切れの上では何をしようでもない。丸っこい体のまりさは、そう考えてあきらめた。
釣り糸をたれているときは、何かを考えていないとやっていられない。特に胃袋の中身がこの釣りざお一本にかかっている時には。

「……腹、減ったぜ」

 それもこれも、れいむが突然海釣りに行こうと言いだし、海が荒れているのにエンジンもない船でこぎだしたのが原因である。
4時に叩き起こされ、眠い目をこする羽目になったまりさからしてみれば、降って湧いた災難に等しい。
 いわく、私は太公望になる! と言いだしていたから、何か変な本でも読んだにちがいない。
結局、れいむは一切釣れなかったから、中国では釣りの下手な奴のことを太公望っていうから、なれてよかったな! と皮肉ったのがケチのつきはじめだったのか、船があえなくひっくり返った。

 くそうと言いたいところであるが、この二日間、まりさは口に加ええた釣りざおの握りの滑り止めであるゴムの味しか体験していない。
れいむを皮肉ったこちらが皮肉の通りになっている。

「……お?!」

 かかった、そう思った瞬間、一気にリールを巻き上げ、竿をぐいぐいしならせる。こいつは大物だ。一気に体を持っていかれそうになるほど、糸がリールから吐き出されていく。
そうは行くかと巻き上げるが、めちゃくちゃな重さだ。
 くそっ、糸を切ろうにも、替えの道具はとっくに水の底だ。
仕切り直しなど考えられない、チャンスはこの一度だけなのである。勝負は疲れさせてからだ。

「う、う……!」

 もう一度ぐいい、と高く竿を持ち上げると、一瞬だけフッと力が抜けた。いまだ!
 ざばあ、と大きな音を立て、水面からまろび出たその姿は、あまりに丸く、あまりに不遜で、ゆっくりのようだった。

 ようするに、釣り上げられたのはゆっくりれいむこと、この状況をつくる原因となったれいむである。

「もういっぺん沈んで来い」

「だが断る」

 というか、なんで抵抗しやがるんだテメー、糸切れるかと思ったじゃねーか。
と、まりさが悪態をつくと、いつの間にか隣に現れたれいむは、笑顔でこう言う。

「様式美!」

「もう良いよ! 沈めてやるからちょっと待ってろ!!!」



 数時間後、ゆかりんに救助された二人には、大量の水を飲んだ痕跡があった。
供述によると、むしゃくしゃしてやった、反省はしている。とのことである。
要は二人して板から転げ落ち、泥試合を展開していたのだった。

Q:オチは?
A:無い

犯人は
ゆっくりと動物の人
でした。

  • カオスwwだがそれが良い -- 名無しさん (2012-07-10 18:02:01)
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最終更新:2012年07月10日 18:02