※お嬢様のカリスマブレイクが苦手な方は見ない方がいいかもしれません。
『お嬢様とおぜうさま』
静まり返った月の下。
昼であれば欠かせない日傘を差すこともなく、私は森を闊歩していた。
人の温もりを持たない吸血鬼ではあるが、それでも夜風は心地良い。
「……これで満月なら言うことは無いのだけれど。」
そう呟いたものの、それは贅沢すぎるだろうとも思う。
「……まぁ、いいわ。文字通り、これも乙というものね。」
十六夜の月も充分に見映えのするものだ。
そんな感慨に耽っていると、少し先から声が聞こえてきた。
「う"あー!かえしてふらんー!!」
「うふふ☆おねーさまったらかわいい!」
見れば、近頃噂に聞く「ゆっくり」のようだ。偶然にも、それぞれ私とフランを模したゆっくりらしい。
「おぼうし返してー!」
と、必死になって帽子を取返そうとしてるのが私に似た「れみりゃ」で、
「やーだ☆」
帽子をくるくると回して手玉に取っているのがフランが元の「ふらん」。
「……見事な力関係ね。」
「うぁーん、かえしてほしいんだどぉー!!」
意を決してふらんに飛び掛かるれみりゃだが、
「ふふッ!」
読まれていたのか、簡単に躱されてしまった。
「うぼぁぁーー!!」
当然、れみりゃはものの見事に、顔から地面に突っ込んでしまった。
軽く溜め息をつきながら、私は頭を押さえた。
仮にも自分を模した、言わば眷属なのだから、無様な姿を見るのは忍びない。
「うふふ、おねーさまったらほんとかわいいわね。……そうだ!」
調子に乗ったらしいふらんは、れみりゃの帽子に一層の回転をかけると、
「へぇあッ!!」
と、高く飛ばした。
「ああ"ーー!!」
勢い良く飛ばされた帽子は、近くにあった木の枝に引っ掛かった。
あまり高い位置とも言えないが、小柄なゆっくりにはまず届かない場所だろう。
「おねーさま☆、返してあげるから、飛んでとってきてね♪」
「う"う"~……。」
肩をわなわなと震わせながら、れみりゃは枝に引っ掛かった帽子を涙目で見ていた。
が、意を決したのか、背中の翼を羽ばたかせ、
「れみりゃの、おぼうしー!」
宙を飛んだ。
ぱたぱたぱた……
どてん。
「……ッ~!」
「……ッw!」
「全く、……見てられないわね。」
私は帽子の掛かった木まで歩いていくと、
「はい。あなたの帽子でしょ。」
引っ掛かっているそれを、れみりゃの頭に軽く押し付ける様に乗せる。
「う……あ……あ、ありがとだどぉ、おねーさん!!」
突然あらわれた私に驚きつつも、れみりゃは笑顔で礼を述べた。
その思いの外可愛らしい笑顔に、私もまた口角を上げ、
「それ程でも。」
と応える。
「……う"ー 、つまんない。」
ふらんの方は不満そうにしていたが。
そんなふらんを尻目に、れみりゃの方綺羅々々とした目で私を見上げていた。
「れみりゃ、おれいさせてほしいんだどぉー!!」
子供の様に……、いや、実際子供なのかもしれないが、れみりゃははしゃぎながら言う。
「そこまでのことをしたとは思わないけど……。」
そう呟いた私の目に
「つまんなーい。」
いじけるふらんが映り、
「……そうね。」
少しだけ、意地悪な悪戯が閃いた。
私はふらんの元まで歩いていくと、
「あ。なにするのよおねーさん!」
帽子を取り上げ、
「ふらんのおぼうしー!」
先程の枝に引っ掛かけた。
「これを取って見せて頂戴?」
鏡を見た訳でもないが
――そもそも映らないだろうが――
私は少し意地悪い顔をしていただろう。
「う"ー……そんなのむりよ……。」
ふらんは涙を目に浮かべつつそう抗議する。
「あら。れみりゃが頼りないなら、あなたが取ってもいいのだけれど?」
ふらんの涙が溢れそうになった。
やはり自分でも届かない高さだったらしい。
少々懲らしめが過ぎたとも思い、私は枝に掛かった帽子を――
無い。
少しばかり、宙を見上げる。
れみりゃは、ふらんの帽子を握りながら、私を冷めた目で見下ろしていた。
「……ふふ。」
思わず笑みが零れる。
十六夜の月と、小さな紅魔に、レミリア・スカーレットは跪く。
「御無礼の程、お許しを。少しばかり戯れが過ぎたようです……。」
「……うー☆ よくわかんないけど、あやまってくれたならいいんだどぉ☆」
れみりゃはそう言って、ふらんの側に降りると、
「はい、ふらん。」
ふらんに帽子を手渡した。
「うぅ……あ、ありがとう、おねーさま……。」
ふらんはそう言ってうつむいた。恐らくは真っ赤な顔をしているだろう。
「でもおねーさん、さっきのぼうしはありがとなんだどぉー。」
れみりゃはそう言ってふらんの肩を叩く。
「それじゃ、いくんだどぉ、ふらん。おねーさん、さようならぁ!!」
「うー☆わかったわ、おねーさま!」
二人はそう言うと、夜の森を歩いていった。
その姿が見えなくなり、私がくるりと踵を返すと、
「何処にお出かけになられたと思えば……お嬢様、こちらにいらしたのですか。」
目の前に見慣れた家令が居た。
「あら、咲」
と、言い終わらぬ内に、私は紅魔館の食堂に連れて来られ、定位置の椅子に座らされていた。
「……夜。」
「さ。残さずお召上がり下さい。」
目の前には、酢豚のピーマンだけが綺麗に選り分けたまま残っていた。
私は抵抗を試みる。
「ねぇ、咲夜。血っていうのは、とても栄養に優れているって話を」
「貴女は蚊ですか。能書き垂れるのはいいですから、早く食べて下さい。ただでさえ好き嫌いが多いのに……。」
「それは種族上の都合、仕方ないでしょう……。」
「ふふふ!お姉様ったら情けない!」
声のする方に目をやると、フランも座っていた。
「ピーマンくらい食べれないのかしら。」
「妹様、それは明らかにブーメランです。人参を食べて下さい。」
「ぶぅー。咲夜のいじわる。」
フランがむくれるのも仕方ない。。
普段なら見逃してくれるというのに、美鈴から教えてもらったせいか、
咲夜は張り切っている様だった。
「うう…。」
相当人参が嫌なのか、フランは皿をジッと見つめていた。
「咲夜、おトイレ……」
「尿瓶、お持ち致しましょうか。」
……いつもに増して冷酷である。仕方がない。
「フラン。その人参貰ってもいいかしら?」
「……え?いいの、お姉様!?」
「お嬢様。」
咲夜が口を挟む。
「いいのよ。私苦いのは嫌いだから、甘めの人参で誤魔化したいの。」
「……ビールとか好きじゃないですか。」
「別腹よ。」
使い方は明らかに間違っているが、問題はない。
「そ。じゃ、ありがと!お姉様!!」
フランはそう言うと、さっさと部屋に戻ってしまった。
「……全く。少し甘やかし過ぎですよ?お嬢様。」
「いいのよ。本当だから。」
私は瞬時に私の皿に移された、人参とピーマンを一緒に口に入れ、
「ねぇ咲夜、美鈴に少し分けてもい」
「大丈夫です。お弁当もたせてますから。」
「でもあの子、結構量を」
「重箱3段です。」
諦めてもくもくと咀嚼する。
(ま、こういう『お姉様』も構わないわよね。)
れみりゃとふらんの事を思い出しつつ、私は口に広がる苦味と甘味を噛み締めていった。
――
ゆっくり怪談の人
- 十分カリスマです‼ -- 名無しさん (2009-06-27 22:56:00)
- エレガントでカリスマなおぜうさまでした -- 名無しさん (2010-11-29 18:22:06)
- お・・・お・・・
おぜうさまあぁぁぁぁぁっ!!! -- 名無しさん (2012-11-08 19:41:34)
最終更新:2012年11月08日 19:41