ゆイタニック号。
総トン数 46,328トン
全長 269.1 m
全幅 28.2 m
全高 10.5 m
機関 謎
推進器 アレ
速力 23ノット(42.6km/h)
定員 船客数:1等329ゆっくり(人)、2等285ゆっくり(人)、3等710ゆっくり(人)
乗組員数:899ゆっくり(人)
世界有数の大企業、『ドスマリーサカンパニー』が建造した世界トップレベルの豪華客船。
莫大な資産と年月をかけ完成させたドスマリーサカンパニー誇る最大最高の建築物である。
世界中から選りすぐられた一流のクルー達に、一流のデザイナー達によって作られた内装、
三ツ星ホテルのスイートルームも裸足で逃げ出すほど安らげる1等客室、
1つの都市の歓楽街にも引けを取らない船内レジャー施設、そしてショッピングモール、
世界中から集められた美味・珍味連なる食材を1流のシェフが調理し提供する最高の船内食堂、
その全貌たるや、まさしく世界一の称号に恥をかかせぬ1流の徹底振りであった。
見るものを圧倒させる賢覧豪華、質実剛健、大艦巨砲主義な外装外観概要は、後数世紀の間、人々・ゆっくり達の間で語り種となる。
それらがどのように、崩れて沈んで散ったのか。
歓喜、悲哀、畏怖、羨望、さまざまな形を持って。
世界で最も名高い、最もゆっくりできないゆ劇と共に。
ゆイタニック号のゆ劇
『副船長の航海日誌』
4月10日 快晴 さざなみ
最後の乗船地である日本を発った。この船の世界1週航海その本番が今日ようやく始まった訳だ。
それにしても日本というのはおかしな国だった。
寄航した港の近くで大きな祭りが行われていたようで、休憩がてら少し様子を見に行ってみたのだが、
脇を露出した巫女服を着た成人男性の姿が見えたので3秒で引き返した。
あれが日本が誇るジャパニメーション文化という奴か。言葉でなく心で理解できた。もう2度と行くまい。
何であれ、予定の乗客は欠けることなく全員乗り込めたようだ。
流石に船内にまで妙な服装をした日本人は居なかったみたいだがまだ油断はできない。
船内の秩序を護るためにも、警備員には一層の尽力を要請したい。
「‥‥どの辺が航海日誌。お前の感想しか書いてないじゃん。あと何気に日本の人に凄く失礼」
「本物の航海日誌は船長がつけてるからいいじゃん、こんなんで」
「いいのかなぁ」
「それよりもう寝ようぜ。疲れたよ」
「こーんないい加減な副船長で本当無事目的地まで辿り付けるのかねー?」
「当たり前じゃん、これは世界最高の豪華客船、不沈船ゆイタニック号だぜ」
4月11日 曇り 鏡のような波
日本を発って1日。航海は順調に進んでいる。クルー、乗客共に異常なし。
異常無さ過ぎて返って退屈だな、とか思ってたらちょっとしたアクシデントがあった。
日本に着いた時若干のクルーの入れ替え(もちろん予定の内)があったのだが、
その時何かの手違いで双眼鏡の入ったロッカーの鉤の引継ぎが行われなかったらしい。
つまり、見張り員はこれから望遠鏡無しで進路先の見張りを行わねばならないようだ。大丈夫かよ、おい。
関係ないが、今日は星が綺麗だった。明日も良い日でありますように。
「昨日より悪化してね?ていうか『明日も良い日でありますように』って、今日普通にアクシデントあったじゃん!!
前行書いたこと速攻で無かったことにしやがってる文体だよコレ」
「まぁなんだかんだで平和でした、ってことで」
「それはお前の頭の中だけだよ!!まったく‥この完全平和主義国家(サンクキングダム)め。
お飾りの副船長とはいえ、もうちょっとやる気ってものを見せてもいいんじゃないの?」
「いあいあいあ、頑張ってるぜ?今日も船長にさんざん怒られました。通常業務こなすだけでもマジ重労働ですだよ」
「そうか‥。ならいいんだが‥。毎日疲れているのは本当みたいだしな」
「だからたまには『ゆっくりしってね!!!』て言ってくれ」
「いやだ」
4月12日 雨 波がやや高い
挨拶周りのついでに船内を見回る。
やけに高そうなドレスやタキシードを着用しているオッサンやオバサンの中で、ゆっくりが元気そうに飛び跳ねている姿は心が洗われる。
ていうか人間分いらねぇなぁ。
しかし、こうして見ると本当にたくさんの、色々な人間やゆっくりが乗船しているものだ。
国籍だけではない、格好や雰囲気まで各々が独特なものを持っている。
自分の職務は、こういうたくさんの人と振れあうことが出来る仕事なのだと再認識した。
社長、自分はやり遂げてみせます。
あと、最近私を見るまりさの眼が冷たい。
長い付き合いなので互いに甘えあうような関係ではないのは分かるが、たまには気遣って欲しいものだ。
寂しいよぅ、ぐすん。
「‥ちら」
「何だその期待を込めた瞳は‥?」
「ほら、昔みたいに『ゆっくりしていってね!!』てさ」
「ゆっくり死ね」
「酷い!!」
4月13日 快晴 小波
何てことだ。何てことだ。何をやってるんだ、馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿。
何で気付かなかった。何でどうしてこの無能の役立たずのごく潰しの最低のああ畜生。
糞が。
最悪だ、最悪だ、最悪だ。
この船の脱出ボートは、乗客、クルーのちょうど半数分しかないんだってさ。
見栄えが悪くなるから最初の出向前に取りはずしちまったらしい。
どっかの間抜けな糞オーナーの指図だってよ。
それで本当にはずしちまう船長も船長だ、いかれてやがる。死ね、お前ら海に沈んでしまえ。
ていうか気付かなかった私も私だ。本当に恥ずかしい。
コネと七光りだけでこの役職に就いたんじゃないって証明するって、この日誌の最初の方にも書いたたのに、
1番大事なとこ疎かにしやがって、今日まで気付かなかったなんて、ああもう、最悪だ、私が死ね。
死ね
先日の望遠鏡の件といい、どうも嫌な予感がしやがる。その上頭の中がゴチャゴチャだ。嫌だ、もう。
明日も早い。今日は寝る。
「‥‥‥‥」
「あのさぁ、まだ起きてる?」
「‥‥‥」
「船長もさ。仕方なかったんだよ。多分、本当に断れなかったんだと思う。
あの人技術は確かだけど、その辺頼りないし。そりゃ半分も取りはずしちゃうのは本当に馬鹿だと思うけどさ」
「‥‥‥‥」
「大丈夫だよ。この船が、社長の、ドスのゆイタニック号が沈むはずないじゃん」
「‥‥‥分かってるよ」
「ゆ‥」
「船長には、この数日で本当にたくさんのことを教えてもらったんだ。嫌いじゃない。
でもさ‥この船はさ、社長の、ドスの大切な船なんだ‥。それなのに‥!!」
「それは、まりさも同じ気持ちだよ」
「それも‥分かってるよ」
「ゆん‥」
「ごめんね、心配かけて。‥‥おやすみ‥」
「‥お姉さん、ゆっくりしていってね。おやすみ」
「ありがと‥まりさ」
4月14日 快晴 穏やかな波
今日はずっと気分が晴れなかった。昨日のことを引きずってるのは言うまでも無い。
船内は今日も至って平和だ。本当に、平和そのものだ。
もし、この平和が崩れたら、自分は、私はこの人たちを護れるのだろうか。助けてあげることができるのだろうか。
一昨日までの私なら、精一杯頑張りますと馬鹿正直に答えただろう。
けど、今の私は、
駄目だ、何も書けない。
気分が落ち着かない。
嫌な予感がする。
とても嫌な予感がする。
怖い。
怖いよ、ドス。
「あぁ‥」
私はそこまで書いて、筆を止めた。
何故だろう、何だか今日はずっと背筋が寒い。
ああ、ちくしょうめ。
何て体たらくだろう。ヤバイと思うのなら、その分しっかりと業務を実行しなきゃいけないってのに。
身体の底から湧き出る言い寄れぬ焦燥感を、頭を押さえて何とかなだめる。
「大丈夫か?」
ベッドの上でそんな私の様子を心配そうに見ていたゆっくりまりさが心配そうに声をかけてくれた。
この子には、いつも心配をかけっぱなしだ。
「うん‥、大丈夫。ごめん、心配かけて」
「無理すんな。何もお前が一人で全部しょいこむことはないんだ。そもそも、お前は悪くない」
「だからって、責任が無い訳じゃない。例えお飾りでも、仮でも、私はこの船の副船長なんだか」
「だったらもっと気を楽にしろ。お前がそんなんじゃ、他のクルーにまで余計な不安が蔓延しちまうぜ?」
「うん、そうだね‥」
私はまりさの気遣いに応えるため、今精一杯の笑顔を作ってみた。
「ひきつってる、ひきつってるよー」
「‥そう思ってもそこは言わないのが
お約束でしょ?」
「そんな約束交わした覚えはないね!」
この野郎、そのほっぺ久々につねってやろうか。
軽くこみ上げた怒りに合わせ両手をわきわきしてみる。
「はん、だから大丈夫だって」
話を改めるようにして、まりさが自信気に言った。
「何が大丈夫なんだよ、沈まないから大丈夫だってか?」
「もし沈んでも、お姉さんにはまりさが付いてる」
やっぱりまりさは自信気に、堂々とそんなことを言ってのけた。
よくそんな漫画のプロポーズみたいな台詞を恥ずかしげもなくいえるもんだ。
これだからゆっくりって奴は‥。
「馬鹿ね、私があんたのお守りだってのに」
「護られるだけの人生には飽きたのさ」
生意気な。
まったくもって生意気な。
そんだけ自信満々だと何か逆にむかつくなぁ。
だけど、
ちょっと救われた気がするよ。
「ありがと、まりさ。私も‥まりさと一緒なら‥」
Is anyone there! (だれかいるのか!)
Yes、What you see? (ああ、どうした?)
Iceberg rightahead! (真正面に氷山!)
それは、後に不幸の積み重ねによって起きたと言われる。
もし、ロッカーの鍵の引継ぎが無事行われていたら、
もし、その時少しでも月の光が出ていれば、
もし、もう少しの波があり、その氷山の存在を目立たせていたら、
もし、もっと暖かい時期に航海していたら、
そして、予定通り人数分の救命ボートさえ積み込まれていさえすれば、
このゆ劇は起こらなかった。
だが、それらは飽くまで仮定の話。
これから起こる事実の前では何の意味も無い。
4月14日 23:40
豪華客船ゆイタニック号は前方に聳え立つ巨大な氷山と、
今、衝突した。
↓
ここから先は、各々が思い描く乗客クルーetc達のゆ劇を
ご自由にお書き下さい。
- じゃあ書いてもいいですか? -- ドライカレー人 (2013-01-21 18:28:55)
- OK!このシリーズは終了してからもちょこちょこ出てましたしね -- 名無しさん (2013-01-21 18:31:17)
最終更新:2013年01月21日 18:31