幻想郷のどこにでも居るようなれいむと子供たちが畑を眺められる土手で日向ぼっこしていた。
お昼ご飯を食べるために巣からここまでやって来たが、未だにあり付けていない。
いい加減空腹の限界が近づいていたが母れいむには一つの考えがあった。
ニンゲン早く来ないかな。来たらむしさん食べさせてもらうんだ。れいむの子供をお腹一杯にしてあげたいよ。
「おかーちゃん、おなかすいたよぉ。」
「おいもたべてもいい?」
ほら来た。あの畑のいもを自由に食べられたらどんなに幸せなことだろうか。
でもねあかちゃん、ダメだよニンゲンの畑に勝手に入ったら。
「はーい。」
「がまんちゅるよ…。」
さすが、れいむの子供だ。ちゃんとがまんできてお母さんうれしいよ。
彼女、母れいむはかつて勝手に畑に侵入して芋虫を食べていたらこっぴどく叱られた経験があった。
彼女を叱ったおじさんは、作物が荒らされておらず食べられたのは害虫だけと気づいて、れいむに謝った後に助言してくれた。
「畑に君たちが居ると作物を食べられてるんじゃないかと思ってしまうよ。虫を食べるときは畑の人に言ってからにするんだよ。」
「おじさん、ありがとう!いっぱいむしさんたべるよ!」
「ハハ、そうか。虫ならいくらでも食べてくれよ。」
無人の畑を前にして人間を待っているのはそんな理由だった。
そろそろ覚悟を決めて畑に侵入するか、それとも諦めて他所に行くか、選ぶべきだろうと母れいむが考え出したころ、人間が一人やってきた。
待望の食事にありつける!
サッと飛び起き、歩いてきた人間のほうを見てご挨拶。
「こんにちは!ここはお兄さんのはたけ?」
「こんにちは。残念ながら違うんだよ。」
この返答で昼食が更に遠くなったと思い、母も子もうつむく。
「ゆ…ゆゆぅ…」「おなかしゅいた…」
「あー、何か勘違いしてるのかな。この畑は僕のじゃないけど僕の家の畑なんだよ。」
「ほんと!じゃあむしさんたべてもいい?」「むしさんたべたいよぉ」
「ああ本当だ。虫ならいいぞ、ジャンジャン食え。」
どうも昼食は食えそうだと気づいたとたん、パッと顔をあげた母はゆっくりの身体構造が許す限りの速度で畑へと跳ねていった。
畑にたどり着くとあっという間に芋虫を5匹も平らげた彼女は、その段階で自分に近づく人影に気づいた。
「ほら、子供を連れてきたぞ。食事は一家で楽しんだ方が美味いぞ。」
「れいむ、ごはんにむちゅうできづかなかったよ!おにいさんありがとう!」
「ゆー、ありがちょぉー」
地面に置かれた子供たちはそれぞれがおいしい物があると信ずる方向へと散っていったが、
自分の食事を終えた母ゆっくりは、一番小さい子供の為に高いところの餌を取って渡してやりはじめた。
一家でおいしい食事を楽しんだ後、畑の入り口に立っていた人間が一家を呼び集めた。
母はかつて人間に苛められた恐怖を思い出して身構えたが、目の前の人物が呼ぶ理由はどうもそんな事ではないらしいと気づいた為、あっという間に警戒を解いた。
ゆっくりとはいえ、今の自分たちが満腹で動きにくい事ぐらい分かっていたし、その為に彼が悪人ならば直ちに行動に移っているはずだとも考えた。
「君たちに頼みごとがある。聞いてくれるかな?」
「ゆっくりできるの?」
「ある物体がゆっくりできる物かどうか、それを調べて欲しい。」
あるぶったい、ってなんなんだろうなー。そう思いはじめたれいむは己の中の好奇心に支配され始めた。
「もし、ゆっくりできる物だったらそれを君たちにあげるよ。どうだい?」
この言葉でれいむは折れた。
しらべるだけだし、ひょっとするとゆっくりできるものがもらえるなんておとくだよね!
人間についていく事はこの時点で決定された。
彼がゆっくりを抱きかかえたりせず、後ろについてくるよう言ったことがれいむの彼への信用を高めた。
始めは歩いているだけだったのが、いつの間にかゆっくりが歌いながらの行進に変わっていたのはその信用の現われだろう。
彼が畑に行くときは5分掛かったが、帰宅はその3倍掛かってしまった。
子ゆっくりが時々休憩したり、ヒラヒラ飛ぶ蝶に気を取られたりする度に立ち止まるとどの程度時間が掛かるかという例だ。
彼は必要な投資だと思っていたし、想像に花を咲かせる母ゆっくりの話はそれなりに楽しめたから苦とは思っていなかったが。
ニンゲンのおうちってまっすぐじゃないの?そう、れいむが疑問に思いつつ彼に付いていって庭に入ったとき目にした物は木でできた物体だった。
なんだろうこれ?ゆっくりがはいれるおおきさだよね…。もしかして!ゆっくりをとじこめてゆっくりできなくさせるはこかも!やっぱりわるい人だったんだ!
でも、ゆっくりをとじこめるにはちょっとひろいよ…ほんとうはなんだろう?
「それはね、ゆっくりのおうちなんだよ。」
「ゆっ!おうち?」
れいむの疑問に答えたのは彼女をここまで連れてきた人間だった。
「ゆっくりのおうちは最高にゆっくりできなきゃいけないよね?」
「そうだよ!おうちはさいこうのゆっくりポイントだよ!」
「うん、だから君たちにこのおうちがゆっくりできるか調べて欲しいんだ。」
「そうなんだ!れいむがしらべてあげるよ!」
人間の意図をゆっくりなりに理解した彼女はさっそくおうちの奥へと進んだ。
ゆっくりできるかどうかを調べるとき、ゆっくりの思考能力は跳ね上がる。
その思考能力をいかしてれいむは壁、天井、床、広さ高さ奥行きを丹念に見て回った。
まわりはぜんぶ木なんだ…ニンゲンのおうちみたいだなぁ。あかちゃんといっしょにとおれるぐらいひろくてゆっくりできそう。
でもなんかむしあついよ…むしあついとゆっくりふやけちゃうよ。
暫くの間、角柱の中からガサゴソという音や独り言が聞こえてきた後、母ゆっくりが出てきた。
「ちょっとむしあついけどゆっくりできるよ!」
飛び跳ねながら人間に報告するれいむ。
彼女は涼しければこれに住みたいなあと思い始めていた。
「これ、れいむたちのおうちにしたいよ!おねがい!」
「勿論だ。最初にゆっくりできる物だったらあげるって言ったろ?」
れいむの必死のお願いに対する答えは嬉しい物だった。
たしかにそういう約束は行われていたが、悲しいかなゆっくりの記憶能力ではもう薄れかかっていたのだ。
「ほんとう!?じゃあ、これはれいむのおうちにするよ!」
「いいよいいよ。よし、こんな日当たりのいい場所じゃ蒸し暑くなるのも当然だ。木陰へ持って行こうね。」
「ありがとう!おにいさん!」
涼しくて快適なおうちをひとしきり子供と楽しんだ後、れいむはこれを森へ持って行って貰えないだろうかと考え出した。
でも、おにいさんいそがしそうだしむずかしいよね…
れいむの視線の先には木の板に向かって棒で何かを引っかいている人の姿があった。
書き物をする人間を眺める事しばし、彼が握っていた棒を置き立ち上がってれいむたちの方へ向かってきた。
「おにいさん?どうしたの?」
飛び跳ねながら何か用なのかとたずねるれいむ。
「僕はこれから出かけなきゃいけない。君らはどうする?ここでゆっくりしてもいいよ。」
手に丸めた紙を持った人間がしゃがんでれいむたちに聞いてくる。
一度おうちに帰ってもいいしここでのんびりゆっくりしてもいいけど、家族は一緒に行動したほうが良いとアドバイスを付け加えられた。
「ゆ!?おにいさん!このおうちをもりにはこんでほしいよ!」
「あ~、流石にそこまでする時間は無いなぁ…」
チャンスだとばかりにお願いをするれいむだったが聞き入れられなかった。
れいむもそう物事が上手く運ぶとは思っていなかったので素直にあきらめる。
その落胆したような前傾姿勢──というより頭頂部だけ前に出すという器用な落ち込みかたを見た人間がある提案を出した。
「じゃあさ、とりあえずおうちに帰ったらどうだい? もしこれがゆっくりできるなら明日持って行くし。ここが気に入ったなら住んでもいい。」
「ゆゆ!ほんとう?」
「ああ、本当だ。もし住むつもりならおうちから今日の夕飯だけ持って来るといいよ。 引越しは明日にすると良い。」
れいむは彼女の餡子脳でしばし思考した。
はたけがちかいとむしさんたべほうだいだね!
にんげんとなかよくなればゆっくりできるからここにすみたいよ!
「おにいさん!れいむたちここにすむよ!ごはんをゆっくりとってくるね!」
「おお、そうか。じゃあ僕はちょっと出かけてくるからみんなでゆっくり取りに行ってね。」
「ありがとうおにいさん!じゃあれいむたちはいってくるよ! れいむのあかちゃん!ゆっくりついてきてね!」
言葉とは裏腹に赤ちゃんゆっくりの出せるほぼ全速力でれいむたち一家は出て行った。
張り切った様子を眺めていた彼はその光景をほほえましい物と感じ取り、れいむたちの後姿を眺めたのちに歩き去った。
by sdkfz251
- いい話でした -- heu (2008-08-19 15:54:57)
- 共存共栄いい話。 -- 名無しさん (2010-11-27 18:15:09)
最終更新:2010年11月27日 18:15