『夜雀春眠眠』
幻想郷と門一つで繋がる死者が住まう世界、冥界。
その中で際立った大きさと雅さを誇る良家の邸、白玉楼。
季節は春上旬。
白玉楼の中庭にはたくさんの桜の木が春爛漫にその花びらを咲かしていた。
「あぁ‥、やっちゃったなぁ」
そんな美しく穏やかな光景を満喫できる春の日差しが一面に降り注ぐ縁側に腰掛けながら、
夜雀、ミスティアローレライは困ったように呟いた。
「どうしたの?ミスティア」
隣に座っていたこの邸の主人、西行寺幽々子が尋ねる。
「動けなくなっちゃった‥」
そう言って困ったように笑うミスティアの膝の上には、バスケットボールくらいの大きさの1匹のゆっくりが鎮座していた。
「むにゃむみゃ‥ちーん‥ちん‥」
ミスティアの友達であるゆっくりみすちーだ。
それが、この陽気な日の下、幸せそうな寝息をたてながら、ミスティアの膝の上で翼を折り畳みうつ伏せの状態で眠りこけていた。
「あらあら、うふふ。可愛いじゃない」
その和やかな光景を見て、幽々子は口元に手を当てて微笑んだ。
「笑い事じゃないよ!これじゃ暫くの間、動くことも遊ぶこともままならないじゃん!」
「それじゃ、今起こしてあげればいいんじゃなくて?」
「それは‥、それで可哀想じゃない。折角気持ち良さそうに寝てんのに」
「ミスティアは本当に良い娘ねぇ」
またうふふ微笑しながら幽々子はミスティアの頭を優しく撫でた。
「にぁぁ、ちょっと、よしてよ。恥ずかしい」
顔を真っ赤にしながらミスティアは両手で頭を覆い幽々子の手を払いのける。
「うふふ、大丈夫」
「何が大丈夫なのよ?」
「その子が起きるまで、私もここで一緒に待っていてあげるわ」
そう言って、幽々子は後ろからミスティアの頭を優しく抱きしめる。
「‥‥幽々子がそう言うなら‥それで‥、いいけど‥」
ミスティアはやっぱり頬を赤く染め、幽々子に顔を見られないようにそっぽを向きながらそう答えた。
数十分後。
「幽々子様ぁ!何処ですかぁ!幽々子様ぁ! あ‥いた」
白玉楼を走りながら主人を捜していた白玉楼の庭師、魂魄妖夢は、
中庭に出たところで自分の主人が縁側に座っているのを見つけた。
「あ、妖夢。ごめんなさいね。捜させちゃって」
「いえ。でもどうしたんですか?こんなところで」
「えっとね」
「ゆぴぃ‥‥ちんちー‥」
そこには依然変わらずミスティアの膝元で眠りこけるゆっくりみすちーがいた。
寝返りを打ったのかそのポーズは若干の変化を見せている。
そして、
「‥にゃむにゃむ‥ にゃつめぇ‥むにゃむにゃ‥」
自分の膝元にゆっくりみすちーを乗せたまま、幽々子の膝を枕にして仰向けになって眠りこけているミスティアがいた。
その寝顔もまたゆっくりみすちーと同じくとても穏やかである。
「動けなくなっちゃった」
幽々子は困ったように、それでも幸せで堪らないといった微笑でその光景を見つめながらそう言った。
- おひさまがぽかぽかしていると、公園のベンチでうたたねをしてしまいます。
さやさやとかぜが肌をくすぐる日などは、なおさらねむくなってしまいます。
ほんとうにゆっくりなんですねー。 -- ゆっけのひと (2009-06-16 23:20:37)
- 幽々子様、下心が丸見えです -- 名無しさん (2009-06-18 20:28:20)
最終更新:2009年06月18日 20:28