【ゆイタニック号のゆ劇】こんな歪んだ退屈な世界で

ゆイタニック号を知ってるか、ですか?

もちろん知ってますよ、乗ってましたから

史上最大の事故にして奇跡、死傷者・行方不明者ゼロ
乗船者リストに載ってた方はみんな生きてますからね
乗っていなかった人でも知っている事件ですよ?

それに、なぜ今更この話を?

搭乗者の体験を一つに纏めて出版?

素敵な考えですね、微力ながら協力します

ええと、何処からお話ししましょう?


―あれは桜舞う暖かい日でした・・・―


「ゆイタニックの乗船チケット、ですか?」
「そうだよ、いくさん!! チケットが手に入ったんだよ!!」

ゆイタニック、世界最大の豪華客船
現在、世界一周の旅の舞台にもなっている船である

「知り合いが『都合が合わない』って言うから貰ったんだんだけど、どうかな?」
「素敵ですね!それで何時行くのですか?」
「ええと・・・二週間後かな?」
「それではゆっくりと準備をしましょう!」

日本に寄港するのは二週間後の事、二人はゆっくりと準備を始めた

そして乗船の日

「でか・・・」
「大きいですね・・・山の様です・・・」

天気は雲一つ無い快晴
港にはゆイタニックを一目見ようと人々が集まっていた

『不沈艦』『竜宮城』『ゆイタニックホテル』
当時、この船は様々に呼ばれていた
集まっていた者は皆その姿に圧倒されていた

「ゆイタニックへようこそ! チケットを拝見します」
「あ・・・はい」
「・・・ありがとうございました。お部屋は三等船室の0193号室です」

皆受付を済ませ次々乗船していく
海の彼方の異国に想いを馳せる者、船上での出会いを期待する者
様々な人の想いを乗せ、また船は洋上へと旅立った

「じゃ、部屋に行こうか!」
「そうですね、行きましょう!」


―そう、あの桜舞う日が始まりでした。最初の印象は・・・そうですね、すごく大きかったです―


「193、193っと」
「あの・・・」
「どうしたの? いくさん」
「名前を連呼されると落ち着かないのですが・・・」
「えっ!? ああ、だって部屋番の『193』って『いくさん』って読めるでしょ?」
「ええ、まあ・・・しかしやはり落ち着かないのです」

長い廊下の突き当たり、そこに二人の部屋はあった

「あっ、あったあった!『193』あったよ、いくさん!」
「もうっ!!本当に怒りますよ!!」
「ごめんごめん。それより早く荷物置いて、船の中を見て回ろうよ!」
「むう・・・まぁ良いでしょう。でも、次は怒りますよ?」
「分かってるって!ほら早く行こうよ!!」

一流の船員、スタッフ、調度品
まさに船内はさながら夢の国だった
二人の目も自然とあちこちへと泳ぐ

「すごかったね・・・いくさん」
「ほんとですね・・・」
自室に戻ってきた二人はいまだ衝撃の余韻の中に居た

「今日の夜のパーティーも楽しみだね!いくさん!!」

この船では毎晩のようにパーティーが行われていた
世界中から集めた食材とシェフによる夢の宴
人々はそこで出会い別れ、料理に舌鼓を打ち
一日の終わりを感じていた

「この魚中々美味しいよ!!」
「あっ! あっちのお肉も美味しそ・・・!?(あれは総領娘様!?)」
「いくさん?どうしたの?」
「あ・・・いえ、知り合いににているゆっくりが居たので」
「そうなの!?どこどこ?」
「もう見えませんよ、それに確証もありませんし(まさかそんなはずは・・・)」

「残念 あっ、このお肉もおいし・・・」
「あっ!?私のお肉・・・」

そこから二日はまさに天国に居るようだった
レストラン、カジノ、バーやトイレに至るまで全てが完璧

しかし、日本を発ってから約四日。
その日々が終わりを告げようとしていた


「・・・」
「今日は元気無いね、いくさん」
「ご心配をお掛けしてすみません」
「今日のパーティー行くの止めようか?」
「私は大丈夫ですから、お姉さんだけでも・・・」
「いや、でも心配だし・・・」
「本当に平気ですよ、ちょっと気分が優れないだけです」
「うーん・・・じゃあ行ってるけど、治ったら来てね」
「分かりました、楽しんできてくださいね」

部屋の扉が閉まるのを確認した後、ゴソゴソと一枚の紙切れを出す

『月明かりの下、デッキでダンスは如何ですか?』

その紙を握りしめやや早足に船の後部デッキに向かう

すでに月は昇り、その光で船の上は彩られていた


「ようこそ、いく。久しぶりね?」
「やはり貴女でしたか、総領娘様」

そこに居たのはゆっくりてんこ
ピンと張り詰めた空気が二人の間に流れる

「何故貴女がこの船に?」
「ずいぶんな言い草ね?そんなに知りたいの?」
「その理由次第で私の立ち位置も変わってきますから」
「この船を沈めに来たのよ」
「は・・・?」

思いもしなかった てんこの答えに唖然となる いく

「聞こえなかった?この船沈めることにしたの」
「何故です・・・」
「何故?何故ですって? そうしたいからよ、私がしたいから沈めるのよ」
「そんな理由で・・・」
「十分すぎる理由よ なにもしないで生きるなんて、緩やかに死ぬのと変わらないと思わない?」
「貴女は何を・・・」
「退屈しのぎのお遊び、それだけよ」

「狂ってる・・・」

いくがふと漏らした一言にてんこの眉がピクリと動く

「狂ってるのは私を退屈させる世界の方よ・・・」
「どうやら私は貴女への教育を間違った様ですね・・・」

キッとてんこを睨むいく

「戦いに慈悲はないのよ?生きる者と死ぬ者がいる、それが全てよ
奮い立つの? ならば私を止めてみなさい!」
「そのつもりです、総領娘様 元教育係として最後の授業です!!」

てんこがいくに一振りの刀を放る

「丸腰の相手をなぶる趣味はないの、抜きなさい」

いくは受け取った刀を、てんこは腰に指してある刀を抜き、構える
その刀身は月明かりを受け鈍く光っていた

「ゾクゾクするわね 最高よ」
「おいたが過ぎますよ、総領娘様」

ジリジリと互いに間合いを詰める
互いが間合いに入った瞬間、いくが斬りかかる

「貴方とダンスなんて久しぶりね、いく」
「生憎時間がないもので、洒落込むつもりはありません」

そのまま斬り合いになる二人
月夜の甲板の上、月明かりを写す太刀筋と、刃の風を切る音が織り成す芸術

その姿は踊っているかの様に狂おしいほどに繊細

互いに致命傷ギリギリのところで交わし、相手の隙を見て打ち込んでいく

「もらった!!」
「せっかちさんは嫌われるわよ?」

いくの一撃を要石で防ぐてんこ

「なっ・・・!?」

さらにいくが怯んだ隙に腹部に蹴りを入れる

「あぐっ!!ごほっ!!ごほっ!!」
「ああ、ごめんなさい つい足が出ちゃったわ」
「ごほっ・・・ふー、ふー・・・」
「あらあら、怒っちゃ嫌よ ダンスは楽しまなきゃ」

こうしている間にも船は傾いていく
沈むのも時間の問題だろう


一同時刻、ブリッジ―
「ダメコン急げ!! どうなってる!!」「追い付きません!!船が傾斜していきます!!!」
「ああ、神様・・・」
「糞!!糞!!糞!!」

正に地獄絵図
見張り員がもう少し早く気づいていれば、レーダーから目を離さなければ
しかし起こってしまったこは戻せない
誰もが皆「たら・れば」を口にし、混乱していた

そんな中痺れを切らした船長が一喝を入れた

「俺達は何だ!!船に乗らなければ価値のない連中だ!」

船長の一言でブリッジが静まり返る
普段穏やかな船長が声を荒げる事など稀だった
皆、船長の方にに向き直る

「一流の船員として一番に果たす義務は何かな?副長」
「はい! 乗船している皆様の安全と快適な旅の提供です!!」
「そうだ。そのために我々が居るのだ!なのになんだその様は!!
良いか? 我々は栄誉あるゆイタニックのクルーだ!! 世界で一番のクルーなんだ!!
自分がすべき事をスマートにこなせ!! 出来ない奴は捨て置け!! わかったか! さあ行け!」

船長の一言でクルー全員が覚悟を決めていた
自分達が慌てていてはお客さまはさらに慌てるだろう
そんなことは絶対に出来ない

世界一のクルーとして責務を果たす、と

「「「行くぞ行くぞ行くぞ!」」」
「「「俺達はナンバーワン!!!」」」

こうして氷山激突から約一時間後、遂に乗員乗客全ての退艦が命じられ
大脱出の幕が開けた
―再び、後部デッキ―

「はぁ、はぁ・・・」
「ふぅ、ふぅ・・・」

互いに満身創痍といった状態だった
服はあちこちが切れ、肌が露になっていた

「歪んだパズルは次の一撃でリセットします」
「やれるものならやってみなさい」

互いに刀を収め、抜刀術の構えに入る
勝負は一瞬、伸るか反るかワンチャンス

刹那、船上にカキンと鋼のぶつかる音が響く

「なっ、なんで・・・」

てんこの刀が真ん中から無惨に折れていた

「・・・」
「ちょっとまって、いく!! もう終わりにしましょう?ね?」

しかしいくはそのまま上段に構える

「あう・・・嫌よ 死にたくないっ!!」

しかし無情にも降り下ろされる刀
それはてんこを霞め、そのまま甲板を叩く

「あっ・・・あっ・・・」

涙ぐみ呆然とするてんこ
しかし極度の緊張から解放された反動か
腰を抜かしてその場に崩れて失禁してしまい
涙と尿で服はもうグチャグチャになっていた

そしていくがてんこを後ろから抱き抱えるようにして語りかける

「貴女は今、死にたくないと仰いましたね こんな歪んだ退屈な世界で」
「ひぐっ・・・うぐっ」
てんこはしゃくり上げながらも首を縦に振っている

「貴女が生きたいと願うなら私に止める権利はありません」
「いくぅ・・・でも、私」
「大丈夫です、退屈になったら私をお呼びください 二人で分け合えば退屈も半分で済みますから」
「いくぅ・・・いくぅ」

いくに抱きつき大声で泣くてんこ
いくは只てんこを暖かく抱き締めた

「さあ逃げましょう、総領娘様 時間もなくなってきました」
「ええ、そうね ありがとう・・・」



―まあ、大体こんなところですね

逃げるときは本当にダメかと思いましたよ

あの時船員さん達が無線や信号弾で必死に他の船に呼び掛けたんですよ

だからあの奇跡は起きた

あの時の船員さんの誰か一人でも欠けてたら有り得なかったでしょう

皆さんには感謝しています











ところで、このインタビューは彼女も受けるのですか?

もしあったのならこう伝えてください


ご機嫌よう、総領娘様
まだ生きてますか?
ありがとうございました

また、どこかで・・・

終わり




あとがき

皆さんの素晴らしいクロスSSや連携をみていたら
こんなものを出しのが恥ずかしくなってしまったので
落ち着いてきた頃に供養投下

wikiに収録するかどうかは読んでしまった人が決めてください

こんなのを書いた馬鹿が誰か分かっても口に出すのは禁則事項

あとエスコンネタを含んでいます


あとがき 終わり

  • 勇気だけがあいつらのとりえだ

    ダメコンの下りでピンときたと思いきや一喝シーンでいつの間にかエスコン0のBGMが脳内で流れていた、素敵な置き土産をありがとう -- 名無しさん (2009-07-01 20:20:54)
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最終更新:2009年07月01日 20:20