だどだど病になっちゃった!?

れみりゃ:やわっこい体つきをしていて、動きがもたもたしている。ふらんのおねーさん 妹と共におねーさんの家に居候している。
ふらん:れみりゃの妹で胴無しだけれど、言動や要領はふらんの方がしっかりしている。
おねーさん:緑髪で、プリン好き。二人に慕われている。



「うあ、だどぉ! だど、だどお゛お゛お゛」

「もう、おねーちゃんったらうるさいよ! おねーさんが起きちゃうよ…、…あ」

「だっどぉ♪ だど、だっどぅ!」

「…」

 朝、起きたてで髪の毛がぼさぼさだろう頭部を物ともせず、おちびちゃんたちの元へ向かった結果がこれでした。
 チークでフローリングされた床下が幼い二人を一層引き立てて、…なんとなく、やるせない気持ちを憶えました。

「だどぉ! だど、だどぉ~…」

「…どうしたのですか、れみりゃ」

「そうだよ、おねーちゃん。おかしいよ、まるでミケーネ文明に攻め込まれてるクレタ文明並にどうしようもないよ?」

「だどぅ! だど、ぷんぷん!」

「…?」

 今朝がたから家が妙に騒がしいなと思い、重い瞼をこじ上げながら騒音の発生源へと足を運ぶと、そこには床に転がって手足をじたばたさせているれみりゃとほとほと困り果てているふらんの姿がありました。
 ふらんだけでは無く、れみりゃもれみりゃで戸惑いまごついている様子です。
 何かあったのだろうかと思案を広げながられみりゃに近づき、床に仰向けで横ばっているれみりゃの手を引いて体勢を直し、小柄な脇から背中まで腕を通して抱き締めます。
 ばたついていたれみりゃは途端に静かになり、鼻回りを真っ赤にしてこちらを見上げ、そのまま私の胸に埋まりました。
 …うーん、れみりゃ自体が別の誰かに代わったということは無さそうですね。
 ふらんは気を揉む目付きでれみりゃを心配しています。
 実の姉ですし、案じるなと言う方が酷ですよね。
 昨日、何か悪いものを食べさせたかな?

「れみりゃ、お腹でも痛いのですか? どうしてうーとか、だどといった語尾しか言わないのですか? 悪い事でもしたのですか、れみりゃが昨日ピーマンを残してしまったのだとか」

「う゛ーーーっ! だど、だどお!」

 れみりゃは体を強ばらせ、けたましいほどに大きい難色の叫びを私に示してきます。
 昨日はどこかに遊びに家を飛び出たれみりゃをそのままに、ふらんとデパートへ行ってきたことにへそを曲げているのかな…?
 でも、そんな様子は見えないし。
 やましい事はしていないとの口ぶりですが、どこかもの思わしげな面持ちを見せるれみりゃ。
 目線を私の顔からそっぽへ向かせる所が怪しいです、うむむ、れみりゃは本当に何にもやっていないのか…?

「素直に白状すれば今なら許してあげますよ、ほら、ほら!」

「うあ! あ、だど、だどぅ♪」

 れみりゃを包み込んでいる腕の力をぎゅっと込め、胸に埋めさせている顔をぐりぐりと押し回し、同時に抵抗するれみりゃの頭部に顎を乗せてここもまた撫で繰り回すのです。
 それでも諦めず抵抗するときはやわっこくぷにぷにのほっぺたを自分の頬にまで引き寄せて、擦りに擦って時々唇を合わせたりも。
 おおよそならキスをした段階でノックダウンです。
 おちびちゃんたちが物事を隠している時によくやる行動で大抵は気恥ずかしさに耐えられなくなるのか降参をしてくるのですが、慣れさせてしまったかむしろ受け入れて喜んでいる様子が窺えます。
 一度手を止めて行動を静止すると、れみりゃはもっとやって欲しいといった態度で自身から私の胸にぐりぐりと埋まってきました。
 ううむ、まずい。
 自分がやりたいからといって無理に理由をこじつけさせてハグをしたバチが回ってきたか…。

「…ちょっと、うらやましい! …違う、うるさいよ! おねーさんはいっつもおねーちゃんばかり優遇して、…違う!
 ともかく、おねーちゃんの状態がよくわからないんだから、一旦病院行くなり調べたりするなりしようよ!」

「だ、だどぉ…」

 背後からどす黒くねたみオーラを剥き出しにして威圧するふらんに気圧されて、私たち二人は素直にはいと頷くしかないのでした。
 今のふらんの形相はまさに鬼の面持ちといったもので、どことなく雰囲気として何か嫉妬めいた、うーん、橋の神様の様な…?
 …何を考えているんだろう。

「行くよ、おねーさんっ!」

「…あ、待ってください~。せめて、髪の毛を整えてから~…」

 考えを行動に移すスピードが早いの何の、ふらんとれみりゃは既に着替えていて玄関前にて靴を履いている有様でした。
 朝食や歯磨きは愚か寝巻き姿からの着替えすら済ませていない状態で本格的に外にでるのはたまったものではないので、少しだけ待つように二人に伝えて自分も準備をするのでした。






「…」

「…う゛」

「…うーむ」

「…どうですか、先生」

 近場にある病院へ出向き、診察室に呼ばれてたった今検査が行われている最中です。
 担当となった先生は初老くらいの歳つきで、首裏にかけてある聴診器がネクタイに重なり何故か頼りなく見えて、…失礼だけれど大丈夫かと不安に感じる先生でした。

「…こりゃ、あれだね。だどだど病だ」

「だどだど病?」

「ああ。安静にすることだね。時間も無いし、次の人呼んで」

 噂にすら聞いた事も無い病名を、さも息を吐くかの様に平然と告げる先生の言葉を聞き返します。
 すると先生は一言呟いたのみで、近くにいた看護婦さんにあろうことか次の診察へ移る旨を伝えたのです!
 満足行くまで話をうかがっていないのに、なんと横柄な!
 …それにしても、だどだど病って何だろう。
 何が原因で、どんな不都合があるのか、説明をして欲しいな…。

「…あの。その病気について私は何も知りません。その病気は何が原因で、どの様に普段の生活に差し支えるのか説明をしていただけませんか」

「ん、別に。その子、あと3日で息を引き取るだろうねぇ~…。一緒に居てあげな」

「…。…、…申されますと?」

「だから、まあ。察することだな」

「…ええええ!? だどだど病って、そこまで深刻な病気なんですか!?」

「疑うなら調べればいいさ。こっちは時間が迫ってるんだ、冷やかしなら帰ってくれ」

「誰が冷やかしなもんか! こっちはあんたしか頼る人がいないと言うのに…! もういいです、ありがとうございました!
 いきますよ、ふらん、れみりゃ!」

「うう!? もう終わったのおねーさん?」

「うあ、うあ♪ だっどぅ!」

「おねーちゃんも踊ってないで、行くよ!」

「だどぉ~…」





「そんなアホな、馬鹿な話があるはずない、そんなわけがない!」


だどだど病 の検索結果 約 1,150,000 件中 1 - 10 件目 (0.21 秒)

「アホな…」

 家にあるパソコンのモニター前で、ただ愕然とすることしか出来ませんでした。
 調べた所、だどだど病は存在したのでした…。

「だど、だど?」

「どうしたの、おねーさん?」

 肩を落としているとおちびちゃん二人が私の足元に寄り添ってきて、心配をかけてくれました。
 当事者のれみりゃは何も気にかけていないあんばいで、ぶかぶかと時折足を滑らせたダンスを踊っている始末です。
 ううん、信じられないけれど、本当なのかなあ…。

「…れみりゃ。食べたい物は、ありますか?」

「…? …だど、うー、だっどぉ♪」

「…え!? いきなりどうして、おねーさん! おねーちゃんばっかりずるいよ、ふらんにも買ってよね!」

「わかってますよ。何がいいですか?」

 普段の私からは考えられない言動を耳にして、二人は少なからず動揺して驚いた素振りを示しました。
 しかし、その後の態度はそれぞれに違い、れみりゃは素直に喜んだ歓喜のもの、ふらんは理不尽さに手をあぐねた嫉妬めいたものの態度を隠し気も無く全面に表していました。
 うんん、ごめんね、ふらん。
 しばらくはれみりゃにべったりになっちゃうけど、なるべく話を持ちかける時はふらんの方から話しかけよう。
 その方が不自然じゃなくなるしふらんにも拗ねられないし。
 けれどこのままじゃあいずれれみりゃは…。

「じゃあ、プリン!」

「うっうー♪ だど、うあうあっ♪」

 大人による邪推など知る由も無く、無邪気に床下を跳ね回る二人。
 たった今食べたいものを私に宣言したばかりだと言うのに、待ちきれないのか部屋中を転がっては心内の躍動を体に表しています。
 …その様子を眺めている事が辛くなって、するりと逃げるように玄関まで進み、…振り向いて二人に出かける旨を伝えてやけに重いドアノブを捻りました。




 行きつけの菓子店で飛び切り美味しいカスタードプリンを3つ買ったのはいいのですが、なんとなく家に足を運びにくく、ぶらぶらと町内をさまようばかりでした…。
 右手にぶらさげたポリ袋が快晴の空より吹かれる風に虚しくなびき、より一層切ないものを引き立たせてきます。
 途中足を動かす事すらままならなくなり、居た堪れなくなり、…目に入った公園のベンチに座り腰を落ち着けました。

「…れみりゃは、れみりゃは。…うう」

『うっうー! だど、だどぉ!』

「こら、やめなさい! 街中でしょう!?」

「だって俺も優しくして貰いたいんだもーん!」

「…。…!? すみません、その子はどうされたのですか!?」

 しばらくして公園に母親と男の子の一組の親子が入ってきて、その男の子がなんとれみりゃと同じような言葉を叫んだのです!
 男の子が特に思慮もなくふざけているだけの可能性だって十分にありますが、なぜ叫んでいるか理由を尋ねない手はない!
 腰を据えていたベンチからいきり立ち、母親の元へ駆け足で詰め寄りました!

「ああ、ごめんなさい。昨日特番にてだどだど病というものをまとめた番組がありましてね、どうもこの子はそれを見て影響を受けてしまった様でして…」

「…。その、だどだど病というのは?」

「ええと。存在しない、架空の病気らしいですよ。ただでさえ存在しないのにれみりゃ種の病気が人間の子供にかかる筈無いのに、この子ったら病弱したれみりゃが労わって貰うシーンばかり見て真似して自分も配慮してもらおうと…」

「…もしかして。その番組が何時にやっていたか、教えて貰えませんか?」

 れみりゃは昨日、この番組を…?



「…れみりゃ」

「うー!? うあ、だどぅ! プ…、だっどぅ!」

「やったあ、プリンだ! どういう風の吹き回しかわからないけど、ありがとう! …まだ、貰えるとも決まってないか」

「いや、プリンは皆で食べましょう。…少し後にね。
 れみりゃは昨日、どこで何をしていたのですか?」

「う゛!? …う、う~♪」

 家に帰り、リビングで待ち構えていたおちびちゃんたちにただ今の挨拶を告げました。
 そして、私はれみりゃにある種のカマをかけてみたのです。
 れみりゃは明らかに体を狼狽させて、明後日の方向を向き唇を尖らせて口笛を吹いている素振りをしますが、いかんせんかすれた音すら出ていません。
 声で口笛を吹いていると誤魔化しているれみりゃに、容赦なく詰め寄ります。

「れみりゃ。お前の行動が予測できますよ。…昨日の午後2時には誰か友達の家にお邪魔して、テレビを見ていた」

「!? う、う゛あ!?」

 なんでわかるの!? と深底驚いた様子で、れみりゃが表情を強張らせた、加えて羨望を交えたものにします。
 憧れるのは構いませんが、生憎本題は凄い事をした自慢といった事ではありません。
 …本題に、移ります。

「…その時にやっていた番組の名前は、『奇怪!? 伝承されしだどだど病の秘密!』。
 …それを見て、とりあえず行動に移して私に優しくして貰おうと狡い考えを働かせたのでしょう?」

「うあ!? 違うどお! …うあ、だどお?」

「誤魔化しても無駄です。全く、私がその番組を見ているとは限らないのに、どうしてまた…」

「…う、うう」

 ばれた事による恐怖か、やりきれなさに耐えられないのか。
 みるみる内に鼻回りを赤くして、体を震わせて拳を握っているれみりゃ。
 所々にボロがでていて最早ばればれなのですが、それでもれみりゃは諦めずまだよくわからない病気を装って取り繕うとしています。
 うーん、良くない行為だけれど、ちょっといじわるをかけてみようかな。

「…れみりゃ。お前は、昨日私とふらんがデパートに行っていた事、知っていますか?」

「…!? うあ、う゛ああ!?」

「待ってよ、おねーさん! それは、ふらんと二人だけの秘密じゃあ…!?」

「言わない事について、れみりゃが嫉妬しちゃいますからね。もう、守らなくてもいいよ。
 昨日れみりゃにその旨を伝えようとはしたのですが一目散に遊びに行ってしまったので、仕方なく私たち二人で言ってきたんです」

 昨日デパートに行ったという、後々を考えて伝えていなかった秘密をれみりゃに暴露します。
 れみりゃは何で自分に教えなかったのか、連れて行ってくれなかったのか抗議の声をあげて癇癪を起こしますが、元々は三人で行こうと計画していたもの。
 突発的ではありますが、家計を計算してお金に余裕があることが判明し、たまには贅沢をしようと誘いかけたのですがれみりゃが一人でにどこかに消えてしまったため仕方なく二人で楽しんできた訳です。
 私たちが家に帰ってきたのが4時ごろで、れみりゃは5時頃に家に帰ってきました。


「う゛、う゛う、…あ゛あ゛あ゛ああああん!!!」

 …自分だけ外されたことが、滅多に無い贅沢に参加できなかったことが歯がゆく嫌になったのでしょう。
 とうとうれみりゃは大声をあげて泣き出してしまいました。
 …やりすぎたな。
 許してもらおうとする訳ではありませんが、ただれみりゃの側へ寄り添い、泣き叫び縮こまるれみりゃを抱き締めて、じっと時間が過ぎるのを待ちます。

「れ゛み゛ぃ、お゛ね゛ー゛さ゛ん゛な゛ん゛て゛、…大゛っ嫌゛い゛だどお゛おおお~!」

「ごめんね、れみりゃ。…でも。
 それだと、今後ハグだとか、…すりすりするのだとか。出来ないですよ?」

 悪いのは私ですが、どうしてもちょっとしたいたずら心がくすぐられてしまい、言葉によってれみりゃに圧力をかけます。
 肩越しに力を強く入れて抱き締め、お互いの頬と頬をぴたりと合わせて、そのまま止まったまま。
 れみりゃは叫び声をやめて嫌々と顔を横に振りますが、何も応えず、じっとしたままです。
 …抱き締めているうちに、れみりゃ特有の、肉まんの香ばしい匂いが漂います。

「…うう」

「暖かいでしょう? それに、こんなことも、こんなことも。それでもよければ、…私は悲しいですが、嫌いになってください」

 手のひらにてれみりゃのお腹回りや髪の毛を掻き揚げてまさぐったり、額に唇をつけたり、持ち上げて抱っこをしたり。
 果てにはれみりゃのほっぺをぷにぷにに弄んだり、あぐらをかいてその上にれみりゃを置いて落ち着かせたり。
 …それはもう、れみりゃを引き止めようとさまざまな行動を移しました。

「…やっぱり、れみぃ、おねーさんが大好きだどぉ…」

 最後には、れみりゃが根折れして好きだと言ってくれました。
 一安心をしながらも、あともう一言言いたいことだけ、いじわるながらにれみりゃに呟きました。

「ふふ、良かった。…口調、治りましたね」

「…う゛。…おねーさんには、敵わないど」

 大人気ないながらにちょっとした勝利を噛み締めて、足元に置いていたプリンのポリ袋をテーブルの上へと置き、食器棚からスプーンを2つ用意します。
 プリンの温度は多少温くなっているもののまだまだひんやりとした冷たさは保たれていて、とても美味しく頂ける事でしょう。
 私はおちびちゃんたちをテーブルの上に呼び、それぞれの目の前に3つ。
 ふらんに1個、れみりゃに2個プリンを置きました。

「…うあ?」

 よくわからないといった表情で、れみりゃが私の顔を見上げてきます。
 きょとんとした瞳をするれみりゃの鼻頭を指で軽くつついてやり、れみりゃに言いました。

「それは私の分です。これくらいの贅沢ならいつでも応えてあげますから、もう心配させないでくださいね。
 ふらん、ごめんね。今度またデパートに行った時、ふらんにはちょっと贔屓してあげるから」

「…別に、プリンに関しては、いいよ」

「…うっうー♪」

 れみりゃは嬉しさを声に表してスプーンを握り、早速プリンに食いつきかかりました。
 もう、お行儀が悪いですね。
 たおやかな女の子になるためには、もっとおとしやかにならないとだめですよ、れみりゃ。
 …ちょっとした疲労だって、口の端にカラメルが付いても気にせず満円の笑みを浮かべるれみりゃを見れば吹き飛ぶというものです。
 れみりゃの下膨れした顎をさらりと撫でて、れみりゃの顔色を窺います。
 れみりゃは、はにかみかけてくれました。









「…折角、お互いの秘密を共有したのに。おねーさんはすぐ破っちゃった。
 おねーさんなんて、嫌いだもん…」

ちょっとだけ続く

  • 普通に喋れてるw一瞬今までキャラ作ってたんかと思っちゃったw -- 名無しさん (2009-06-28 15:34:29)
  • だどだど病ってセンスに惚れた。お姉さんとれみりゃのやりとりが可愛い。 -- 名無しさん (2009-06-28 18:10:11)
  • お医者さんひでぇw後でぜってぇニヤニヤしてそうw -- 名無しさん (2009-07-04 22:36:45)
  • これで医者が金取ってたら詐欺罪だな -- 名無しさん (2009-10-22 01:18:40)
  • れみぃが無事で本当によかった・・・クソ医者○ね。 -- 名無しさん (2010-11-28 21:33:36)
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最終更新:2010年11月28日 21:33