6年間
人にすれば長くあれどそれでも一時と言える時間
れいむはそれだけの時間を生きた。
顔自体に変化はないが所々に薄いひびのような模様が入っている。
跳ねる勢いやすり動く速度も落ち、今ではあまり動くことが出来なかった。
人間で言うところの老年であるのだろう。
いや、野良の身でここまでゆっくり出来たことがもはや奇跡であったのだろう。
長い時間の中
辛い日々があった。
空腹や裏切りに苦しみ、家族や仲間の死に嘆いた。
無知であったゆえ自身も何度も死に瀕した。
だが、そのたびに学び多くを知ることが出来た。
幸せな日々もあった。
仲間と連れ合い、共にゆっくりしていき、愛する人との子をなす。
子に手を焼かされたこともあったし、辛い死別もあった。
当然ゆっくりな事ばかりではなかったがその忙しさもまた、至宝である。
特に子が自立し、それぞれ旅立っていった姿は私の最大の誇りだ。
人間。不思議な存在だった。
彼らはゆっくりすることを理解しているのに、あまりゆっくりしていなかった。
無為に害意を向けてくる事もあれば、至福のゆっくりを与えてくれたこともあった。
また、いろいろな事を教えてもらえたこともあれば、嘘であることもあった。
しかしそれゆえに、人間にもルールがあり私達と同じように心があるのだと理解できた。
徐々に意識が離れていく・・・。
いろいろなことが思い浮かんでは消えていく。
本当に長く、辛く、厳しく、ゆっくりな時間は多くはなかったが・・・
今ではそれらも全て含めて「しあわせ」であったと言える。
(まりさ・・・もうすぐあえるね。また、いっしょにゆっくりしようね。)
かつて愛した者がすぐそこで微笑んでいる。
光が消えていく。暗い、しかし、怖くはない。
「ゆっくり・・・していってね・・・!!!」
最後にただ、そう一言、誰に言うでもなく
いや、これまで出会えた多くの生命に、心から、その言葉を、捧げた。
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しばらく後、そのゆっくりれいむの亡骸の有った場所は豊穣の土となった。
多くの虫達がそこでは奪い合うことも無くゆっくりと過ごす。
そして
誰も見たことが無い、ヒマワリの様に大きく真っ直ぐで
甘く他のどんな果物よりもすばらしい味を持つ実をつける
白と赤の交じり合うとても美しい花が、そこで風に揺れていた。
完
- こういうのも悪くないな・・・ -- 名無しさん (2008-08-12 20:58:39)
- 生命の円餡(円環)ですね。なむなむ・・・。 -- ゆっけの人 (2008-10-31 19:37:05)
最終更新:2008年10月31日 19:37