※オチなんてないよ
※野生設定なのかもしれません。
庭には二匹ゆっくりが居た ①
5月13日 晴れ
ゆっくりれいむ、と名乗る謎の丸い生物は、神社など神聖な建物に集まる習性を持っているらしい。
という訳で、家の庭の隅に小さな神社の形をした小屋を作らせてみた。
高さ3m、横の長さも奥行きの長さも3mくらいの、その外観以外は単純な木製の小屋。
神社、ということもあるから小屋の入口の前には小さな賽銭箱や、鈴をならすガラガラ(名称なんて知らない)なんかも設置させた。
外観に凝らせてはみたが、見せかけだけのハリボテのようなもの。果たしてこれで目的の生物は集まってくれるのだろうか。
一抹の不安が胸をよぎらないこともないが、まぁいい、所詮は暇つぶし。
取りあえず様子を見てみようじゃないか。
5月14日 晴れ
起きた後、窓から小屋の様子を眺めてみて私は軽く息を飲んだ、もとい、驚いた。
「ゆぴぃ~ゆぴぃ~ゅゆゅゆゅ」
小屋の中には気分良さそうに眠りこける、赤いリボンをつけた人間の生首、のように見える丸い謎の生物が居た。
間違いない、話に聞くゆっくりれいむだ。
うつ伏せになって顔面を床に擦りつけながら、丸い体を上下運動させている。
随分と息苦しそうな体制だが大丈夫なのだろうか。微妙に心配になる。
しかし、まさか本当にたった1日で遭遇できるとは思わなかった。
不覚にも少し感動してしまった。
暫し呆然と眠りこけるゆっくりれいむを眺めていると、更にもう1匹、
「ゆっ、ゆっ、ゆっ」
小屋の近くの茂みから別のゆっくりれいむが顔を出した。
慎重に辺りをきょろきょろと見回し、付近にあった小屋を数秒じっと見つめる。
何やら感心するように2,3回ほど、うんうんと頷いて満足そうにふんぞり返る。
「ここはゆっくりできそうだね!」
その声に、小屋の中に居たゆっくりれいむも眼を覚ます。
眼をしょぼしょぼさせながら、それでも眼の前に現れた同族に対して元気よく声をあげた。
「ゆ? ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしていってね!」
ほほう、これがゆっくりの挨拶として有名な「ゆっくりしていってね!」か‥。
一見アホらしいが、これがなかなか‥、可愛いじゃないか。若干ウザめだが。
挨拶をし終えた二匹は互いに満足そうにふんぞり返ると、
外にいた方の一匹がするすると小屋の中に入っていった。
一匹の大きさはせいぜいバスケットボール程度、二匹いようと小屋には十分に収まる大きさだ。
「ゆっくりぃ」
「まったりぃ」
そんなことを言い合いながら、互いに頬をくっ付け合って体をくっつける。
出会って数秒だろうに、こうも警戒することもなく仲良くなるとは‥、まったく、呆れるほど平和な生物だ。いいぞ、もっとやれ。
取りあえず数十分ほど二匹仲睦まじく戯れる光景を見続けた後、私は遅い夕食をとった。
5月15日 また晴れ
「え‥何あれ‥?」
↑昨日と同じように起きてすぐ窓から小屋の様子を眺めた私の第一声である。
驚いた、というより戸惑った。凄く戸惑った。
小屋は依然と庭の隅に存在し、その中にはゆっくりれいむが居る。
居るには居る、だが、
「ゆゅう」「ゆっ!」「ゆっくりしていってね!」「ゆゆーい!」「ゆぴぃ‥」「まったりぃ」
「ゆっくり!」「ゆゆゆゆゆゆ」「ゆっくりしていってくださいね!」「ゆーん」「ゆー!!」
小屋には溢れんばかりの数のゆっくりれいむが、これでもかという程敷き詰められていた。
少なく見積もって20匹、ここからでは見えない角度に隠れている個体を足すならばそれ以上。
もちろんそんなに多くのゆっくりれいむが小屋の中に入りきるはずもなく、小屋の中はすし詰め状態、
子供が乱暴に詰め込んだおもちゃ箱のような状態を呈していた。
5月中旬とはいえあんなにくっつき合って暑苦しくないのだろうか。
けれど小屋の中から聞こえるゆっくりの声は何とも満足そうである。
それでも神社に入りきれなかった個体も居るようで、そいつらは小屋の脇にすり寄って涼んでいたり、
屋根の上に乗っかって日向ぼっこしたり、神社のガラガラに口で捕まってターザンごっこをしていたりした。
どいつもこいつも無駄に楽しそうだ。
どうやら『ゆっくりれいむは神社に集まる習性を持つ』という話は、思っていた以上に確かだったようだ。
ていうかはりきりすぎだろ、あいつら。
「楽しいですね!」「嬉しいですね!」「ゆっくりしていってくださいね!」
よく見ると何匹か、髪の色が違う個体も紛れ込んでいた。
緑の髪に蛇と蛙の髪飾り。
頬を染め恥ずかしそうに、それでも楽しそうにゆっくりれいむと同じように戯れている。
何だろうあいつら‥ 2Pカラーかな?
まぁどうでもいいか。これだけ数が揃ってくると見ているだけで何かこう興奮する。
面白すぎる。
私は夕ご飯を食べるのも忘れて数時間その光景に見入っていた。
だが、そんな楽しい時間の終わりは突然やってきた。
「うー!うー!」
太陽も完全に没落した時刻、漆黒の闇となった上空からそんな間抜けな鳴き声がした。
「ゆ?」「ゆゆー?」「何ですか?」
戯れていたゆっくり達はきょとんとした顔で上空を見上げた。
そこには、月に照らされる、ばっさばっさと大きな翼で羽ばたく丸い飛行物体のシルエットが1匹。
「ぎゃおー!」
あれは‥、
アホみたいにニコニコしっぱなしの能天気な笑顔に、それに似つかわしくない鋭く尖る犬歯、蝙蝠のような翼、
どこかの吸血鬼の姿を模したとか模してないとか言われている、ゆっくりゃと呼ばれるゆっくりだ。
「う、うわぁあああああああああああ」
驚愕の表情を浮かべながら、ゆっくり達は声を揃えて叫び声をあげる。
「こわいいいいいいい」「れみりゃだぁああああ」「いやぁあああああああ」
いや、だからゆっくりゃだって。れみりゃなんて呼ばないでお願いだから。
れみりゃよりゆっくりゃの方が幾分かマシだから。
「うー♪うー♪」
大量のゆっくりを見つけられて嬉しいのか、ゆっくりゃは機嫌よく声をあげてゆっくり達が敷き詰められている小屋の前に急降下した。
これに更に驚いたゆっくりれいむ達は更に顔を恐怖で歪ませた。
「もうやだぁああ」「うわあああああん」「もりやじんじゃに帰りますぅ」
蜂の子を散らすとはこういう光景を言うのだろう。
大量に居たゆっくりれいむ達は泣き叫びながらピョンピョン跳ねながら脇の茂みの中へ次々と逃げていった。
途中比較的小さなゆっくりれいむが転んで泣き叫んだりしたが、
それより微妙に大きい個体がそれを口で引きずるように茂みの中へ引っ張り込んだ。
恐怖の中でも仲間を見捨てない気概を持ってるなんて意外と勇敢じゃないか。
まぁ、あれだけの数が居たというのにまとめて逃げている時点で、呆れるほど臆病な種族だとも言えるが。
「うー?うー?」
当事者であるはずのゆっくりゃは混乱したように右に左に羽ばたきながら、その大脱出劇の様子を眺めている。
どうやらこいつには、逃げられる前に1匹でも痛めつけてやろうとか捕まえてやろうとかいう気はないらしい。
だが、そんなゆっくりゃの心情などゆっくりれいむ達が知る由もなく、
「ゆっくりできないれみりゃはとっととあっちに行ってね!」
「とか言いつつ逃げるのはれいむさ!」
遂に小屋周りには1匹のゆっくりれいむも居なくなってしまった。
あーあ、折角あんなに集まったのに。勿体ない。
「うぅー、うぅぅー」
悲しそうな顔をしながら、ぱたぱたと小屋の周りを飛び回るゆっくりゃ。
今にも泣きそうじゃないか、みっともない。
多分、こいつはただ楽しそうにしているゆっくり達が羨ましくて、仲間に入れて欲しくて近づいたのだと思う。
だが、空を自由に飛びまわれる程の、他のゆっくり達には無い強さを持っているゆっくりゃは、
普通のゆっくりにとって恐怖の対象でしかないものらしい。
まぁ、力を持つ者が持たない者に恐れられるのは当然の理。
そんな当然のことを寂しがる方がおかしい。
「うわぁぁんん!うわぁぁんん!」
淋しさに耐え切れなくなったのか、遂にゆっくりゃは大声で泣き始めた。
まったく、貴様のせいであのゆっくりれいむ天国が一瞬でパーになったというのに。
泣きたいのはこっちの方だ。
「うわぁぁああんん!!うわぁぁああんん!!」
一向に泣き止む様子のないゆっくりゃ。いい加減ウザったくなってきた。
ゆっくりれいむを追い出された手前もある、とっちめてやろうかしら。
そんなことを思っていた時、小屋の中からそのゆっくりゃとは別の声が聞こえた。
「ゆゆゆ‥? ゆっくりしていってね!!」
ゆっくりれいむだ。
まだ小屋の中に一匹残っていたらしい。
眼をしょぼしょぼさせているところを見ると、今の今まで寝ていたのだろうか。
あれだけの騒ぎに眼を覚まさないなんて、他のゆっくり以上に警戒レベルの足りないゆっくりだ。
まぁしかし、ゆっくりれいむが全て逃げた訳じゃなかったと分かって、少し安心できた。
「うー?うー?」
ゆっくりゃはその声に反応し泣き止み、不安そうな眼差しでゆっくりれいむのことを見つめる。
‥‥、頼むからそいつまで追い出すのはよしてくれよ。
そんな心配をよそに、そのゆっくりれいむは他の同種達のようにれみりゃに恐れる事なく、
能天気そうな笑顔で、もう一度大きな声で言った。
「ゆっくりしていってね!!」
ゆっくりゃの表情が見る見るうちに明るくなっていく。
「うー!ゆっくりー!ゆっくりー!」
羽をばっさばっさと嬉しそうに振り回して、ゆっくりれいむの周りを飛び回り始めた。
「ゆぅ!!ゆっくりー!ゆっくりー!」
ゆっくりれいむもそれにつられるように、ピョンピョン大きく跳ね回ってはしゃぎ始める。
どうやらこいつは、大声だけでなく、力を持つ相手にも警戒レベルが低いらしい。
ゆっくりゃを恐れて逃げ出すどころか、怯みも恐がりもしていない。
それどころかあまつさえ、仲良くなろうとしている。
これじゃあんなに慌てて逃げてた他のゆっくりれいむ達が馬鹿みたいじゃないか。
だが、まぁ、
「うー!うー!」
「ゆっくりー!ゆっくりー!」
別にいいか。
どの道あれだけの数のゆっくりれいむが小屋の中にずっと詰め込まれてたら、
あの小屋がどれだけ持ったか分からないし。
観察できるゆっくりれいむが一匹でも残っただけで行幸と言えよう。
「うー!れいむー!ゆっくりー!」
「れみりゃもゆっくりしていってね!!」
何時の間にかゆっくりゃは地面に降り立っていて、
ゆっくりれいむと頬をくっつけて、じゃれ合っている。
この分だと、あの小屋には一匹のゆっくりれいむと一匹のゆっくりれいむ以外が住むことになりそうだ。
まったく、やれやれだわ。
私はゆっくりれいむの為だけにあの小屋を作らせっていうのに。
あんなに嬉しそうな顔しやがって。
れいむだって満更じゃない顔だな、アレは。
あんな簡単に仲良くなれるなんて‥
「まったく、羨ましい‥?いいえ、妬ましいくらいね」
平和かつ和やかな窓の外の光景を、頬杖ついて見つめながら、
私はひっそり自室で一人呟いた。
「私も、今日は神社にでも行こうかなぁ」
「その前にお召し物の着替えと、夕食を召し上がって下さいね」
その声に反応し振り返る。
何時の間にやら、そこにはうちの瀟洒な従者が立っていた。
「あら、あなた居たの?」
「はい、常に」
「それじゃ、今のとこ見てた? ゆっくりれいむがたくさん、こう、わぁぁ!!ってたくさん逃げてったとこ!」
「見えはしましたが、流石に声までは聞こえませんでしたわ」
「それが人間の限界ね。悲しいことに、ゆっくりの観察すらままならない」
「寝起きで朝食も取らずパジャマのままで一歩も外に出ずに庭の小動物を観察なんて、人間にはできないことですものね」
「やろうとすれば部屋から一歩も出ずに一日を過ごすこともできるわよ」
「それは人間でもできます、それも割かし底辺の者どもでも」
「ククク、今度見せてあげようかしら?」
「取り合えず着替えてくれませんか?そのパジャマ明日洗おうと思ってるんですよ」
「はーい」
気が付けば時計の針は8時を回っている。
流石にグダグダ過ごしすぎたか。太陽だってとっくに沈んでいる。
もうとっくに外は自分達ナイトピープルの時間だ。
「ちょっとのんびりしすぎたわね」
そう呟きながら、私はパジャマのボタンを一つずつはずす。
神社にだって早く行かないと、巫女の就寝時間に間に合わない。
「でもまぁ、たまにはこういうのもアリだわ」
窓の外で未だに嬉しそうにはしゃぎ回る二匹を見つめながら、
私はクスリと微笑んだ。
5月の半ば。
春ももう終盤になる季節。
私の邸の庭には、
楽しそうに飛び回る、
二匹のゆっくりが
居た。
続く→といいなぁ
という訳で長々とお邪魔しました。 かぐ×もこ←ジャスティスの人でした。では
- おもしろかった。 -- 名無しさん (2011-01-09 00:02:23)
- ああ、観察してるのがレミリアだから、れみりゃをゆっくりゃって呼んでほしかったんだなww -- 名無しさん (2013-08-26 09:44:42)
最終更新:2013年08月26日 09:44