山の上の古神社
そこで俺達は出会った
一週間ほどの夏休みを利用しての里帰り
元は何にもない小さな町だったが、なんでも近々再開発が始まるらしく
せめて最後にと、町のあちこちを写真に残すことにした
「先ずはどこに行くかな~?」
しかしいざ写真をとろうとなると、どこから始めて良いのか迷ってしまう
「そうだ、あのオンボロ神社から始めよう」
ガキのころよく遊んだオンボロ神社
先ずはそこから始めることにした
「おお、相変わらずボロッちいな」
苔むす石段、腐りかけた鳥居、そして朽ちながらも存在感のある本殿
昔と同じ姿でそれは残っていた
「さてと、始めるとしますかね」
それらを様々な角度から写真をとっていく
「後は本殿の中か... 入れるかな?」
もし入れるなら、本殿の中も写真に収めておこう
そう思い本殿に入ろうとした時だった
ガタッ
「ん? 賽銭箱が揺れた?」
賽銭箱の横を通ったときに微かに揺れたような気がした
ガタガタッ!!
「やっぱり揺れてる!? ごめんなさい!もう帰りますから!!」
「ゆっくりだしてね!!」
「へ?」
ゆっくり...出してね?何処から?まさか賽銭箱か?
「こっちだよ!!はやくー!!」
やっぱりそうだ
賽銭箱が俺を呼んでいる
恐る恐るボロボロになった賽銭箱の中を覗く
上部は朽ちて無くなっていたため直ぐに中が見えた
「空っぽ...」
そこには何もなかった
動きもしない、声もしない普通の箱
「勘弁してくれよ...早く帰っ!?」
帰ろうと思い振り返って一歩踏み出した瞬間
『ぶにゅっ』っと何かを踏んだ感触がした
ゆっくり視線を足元に移す
「生首っ!?」
「ゆっくりぃ...」
そこには俺に踏まれている生首があった
「あ...うあ...」
「はやく あしをどけてね!! おもいよ!!!」
「はいぃぃぃ!!!」
生首が喋ってる
狸にでも化かされているのだろうか?
祟られたりしたら嫌なので、取りあえず足を退かす
「もう!! ぜんぽうふちゅういだね!!!」
「お願い神様、夢なら覚めて...」
「なにいってるの? ゆっくりしていってね!!!」
腰が抜けてしまって、立てなくなった俺の周りを
生首が跳び跳ねながら色々話しかけてきた
「おにーさんは なにしてたの?」
「れいむは れいむだよ!! よろしくね!!」
「ゆっくりする?ゆっくりしていく?」
ああ、もう駄目だ
あまりの異常事態に頭がクラクラしてきた
「なぁ、お前は何なんだ?狸か、狐か何かなのか?」
「だから れいむは れいむだよ!! おぼえてね!!!」
会話が成り立ってないが、こいつは気にしている様子はない
これは現実なのか
写真に何か現実と証明するものを残すため、れいむにカメラを向ける
「れいむとかいったな?ここ見てろよ」
「ゆゆ?ゆっくりするの?」
俺がれいむを撮った最初の一枚は
不思議そうにレンズを見つめ、体を傾ける姿だった
その日から午前中はボロ神社に通い、午後は町の写真をとるようになった
俺が知ってる町の、唯一知らない存在
そんなれいむに惹かれたのかもしれない
「れいむ~? 西瓜食べるか~?」
「ゆっくりたべるよ!!」
相変わらず声はするが姿が見えない
そのうち来るだろうと思い井戸のポンプを動かし続ける
ギコギコ軋みながら冷えた井戸水が汲み上げられていく
「つめてぇ!! ぱねぇ!!」
「......」
気がつくと西瓜がれいむに変わっていた
「お前なにしてんの?」
「いやん♪ おにーさんのえっち♪」
神出鬼没なのには三日目に慣れれてしまった
常識に囚われていてはいけない、そう思ってしまった
「しかしこの神社はホントにボロ神社だよな~」
「そんなこと ハフッハフッ ないよ!! すてきな これまじうめぇ!!」
喋るか食べるかどっちかにしたら良いだろうに
西瓜をむしゃむしゃ食べる姿を写真に納める
町の方は4日程で大体終わったので今はほとんどボロ神社に居た
「れいむの すてきなじんじゃは ぼろじゃないよ!!」
「素敵ねぇ...」
自信ありげにふんぞり返るれいむを見て少しだけ胸が痛む
こいつはもうすぐこの神社がなくなるのを知っているのだろうか
恐らくは知らないのだろう
「見納めか...」
6日目の夕方、俺は石段に腰掛け街を眺めていた
朱に染まった街並みと、蜩の声が何だか切なかった
「ずっとこのままなら良いのにな...」
こんな夏はもう来ないだろう
次にこの町に帰ってきてもそれは俺の知ってる町ではない
町の学校も、竹林の診療所も、町外れの誰が住んでるか分からないお屋敷も
この夏が終われば全て消えてなくなってしまう
あの神社も...
町の写真は撮り終えたし、明日からはまた仕事がある
俺はせめて最後にと街全体を見下ろせる神社から写真を撮っていた
「おにーさん...」
気づくとれいむが後ろに居た
「どうした? 元気ないぞ?」
「おにーさんは かわらないよね?」
いきなり何の事だろうか
「このまちが かわっても おにーさんは かわらないよね?」
「知ってたのか?」
こいつは再開発の事を知っていたらしい
そしてこの神社が壊されることも
「これからどうするんだ?」
「どうなるんだろうね わからないよ...」
何時も能天気なあいつにしては珍しく声か震えていた
「ずっとむかしから ここにいたから ほかのところは こわいよ...」
「そうか...」
「このまちも ずっとみまもってたよ おにーさんの ことだって ちいさいときから しってるよ...」
こいつはそんなに永い間ここにいたのか...
もしかしたらこの神社が健在だった遥か昔からこの町を
見ていたのかもしれない
「ゆっくり みまもって いたかったけど もうむりなんだね...」
もう、かける言葉が見つからなかった
誰にも止められない流れに全て流されてしまうのか?
世界から忘れ去られて、消えていってしまうのだろうか
「おにーさん... れいむと やくそくしてね?」
「ああ...なんだ?」
自分でも分かるほどに声が震えている
許されるなら今すぐ逃げ出したかった
いっそ、泣き崩れてしまいたかった
「おにーさんは おにーさんの ままでいてね? どこにいても かわらないでね?」
「ああ、約束するよ」
「れいむも どこにいても どんなになっても れいむのままで いるから... だから...」
「霊夢のこと、忘れないでね.......」
そういったあいつの顔は余りにも哀しげで、綺麗だった
この街で撮った最後の写真はあいつの夕日に照らされた泣き顔だった
こうして俺達の夏が終わった
そして一年後
俺はまたあの町に帰ってきていた
すっかり様変わりした町はさながら知らない土地の様だった
あの神社の跡地には公園ができた
街が見下ろせる眺めの良い公園だ
あの日と同じ石段に腰掛けて街を眺めていた
あれ以来二度とあいつと会うことはなかった
どこでどうしているのかが心配で探したりもしたが見つからなかった
約束通り変わらずにやっているだろうか
「俺は俺のままだぞ、約束だからな...」
『れいむの事を忘れないこと』
それが俺が俺で在り続けるために出来ることだろう
ゆっくりしていってね!!!
蝉の声に混じってそんな声が聞こえた気がして振り返ったが
ただ風が通りすぎていくだけだった
終
- すごく切ない…
お兄さんと、れいむが一緒に暮らせればよかったと思ったんですが…
またお互い会えるといいですね・・・ -- 名無しさん (2009-07-22 02:15:08)
- 最近このWiki見て泣きまくってるな・・・ -- 名無しさん (2009-07-23 16:26:50)
最終更新:2009年07月23日 16:31